ハイスクールD×D ~復活のG~   作:さすらいの旅人

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第三十三話

 翌日の放課後。

 

 俺たちオカ研一同は旧校舎一階にある「開かずの教室」とされていた部屋の前に立っていた。

 

 警察が現場でよく使う『KEEP OUT』の黄色いテープが幾重にも張られているが、それには呪術的な刻印も刻まれている。もし誰かが入ろうとしたら呪術が発動し、強制的に侵入者を帰らす為の暗示が掛けられる。ついでに侵入した時の記憶も消されるオマケ付きで。尤も、侵入してた俺はソレを無視して何度もあの子と会ってたけど。

 

「部長、昨日サーゼクスさまが言ってた『僧侶(ビショップ)』がここにいるんですか? 何か出るのが無理そうな結界が施されてるんですけど」

 

 イッセーの問いにリアスは感心しながらも答えようとする。

 

「ええ、ここにいるの。一応深夜には結界が解けて旧校舎内だけなら部屋に出れるのだけど、中にいる子自身がそれを拒否しているの」

 

 うんうん。俺も会ってた時にはさり気なく外に出てみないかって誘ってみたんだが、即座に拒否されてしまったんだよな。あの性格をどうにかしないといけないなと考えてた時、リアスやソーナ達に旧校舎侵入の容疑者として疑われてたので中断せざるを得なくなった。

 

 あの子が此処で封印されているのは、神器(セイクリッド・ギア)の能力が危険視されていて、主であるリアスの能力では扱いきれないと言う理由だった。その為、冥界の上層部からあの子を封印するよう言われたらしい。

 

 だが昨夜、イッセーの部屋でサーゼクスが説明したが、フェニックスやコカビエルとの一戦により高評価を得たそうだ。それ等の一戦は俺とイッセーがいたからこその勝利なので、普通に考えれば評価されないと思う。だがリアスや眷属たちの実力自体がかなり上がっていたので、封印していた『僧侶(ビショップ)』を今なら扱えるだろうとサーゼクスや上層部は判断し、そして解放するよう指示した。

 

「要するに、引き篭もりなんですか?」

 

「でもこの子が眷族の中でも一番の稼ぎ頭なんですのよ」

 

「マジですか!?」

 

 呆れたように再度尋ねるイッセーだったが、朱乃からの発言を聞いた途端に驚いた。

 

「パソコンを介して、特殊な契約を人間と執り行ってるんだ」

 

「契約したいと言っても、直接悪魔と会いたくない人間もいるからな。俺も初めに知った時は驚いたけど」

 

 祐斗の台詞を続けるように俺が言うと、リアスが少し目を見開きながら俺を見る。

 

「もしやとは思ってたけど、やっぱりリューセーはソレも知ってたのね」

 

「まあな。しかしまぁ、悪魔がパソコン使って契約だなんて随分と時代を見据えてることで」

 

「そうでもしないと契約が取れないのよ。ずっと古いやり方に拘ってたら、今の人間界の時代に取り残されてしまうわ」

 

 ご尤も。人間界は冥界と違って常に最新の道具や機械や技術や娯楽、そして政策を求めているからな。

 

 冥界もその気になれば人間が想像した百年以上先のハイテク時代を築く事が出来る。だが残念な事に、冥界に住む悪魔は新しい物を求めようとしても、すぐ実行に移そうとはしない。しかし、悪魔の一大事に関わる事となれば、人間界の時代に合わせるよう『パソコンを介しての契約』と言う対策をすぐに立てようとする。

 

 悪魔と言う生き物は人間と違って永遠に近い寿命を持っている為、余程の事がない限りは大抵後回しにしてしまう。すぐに自分のやりたい事を全てやってしまえば、そこから先の事は全くやろうとしない一種の燃え尽きた状態となり、無為な長い余生を過ごす事となる。それは最早生き地獄も同然。だから冥界の悪魔が、躍起になって新しい何かを作ろうと言う姿勢を見せはしない。尤も、それは天使や堕天使にも同じく言える事だが。

 

「さて、扉を開けるわ」

 

 扉に刻まれていた呪術刻印も消え去り、普通の扉となった。そしてリアスが扉を開いた途端――

 

「イヤァァァァァァァアアアアッッ!!」

 

「な、何だぁ!?」

 

 ――とんでもない声量の絶叫が中から発せられてきた。突然の絶叫にイッセーが戸惑っている。

 

 懐かしいなぁ。俺も初めて会った時、あの子が急に絶叫してたよ。まぁその時は防音対策も含めた結界によって、部室にいたリアス達に感づかれる事は無かったけど。

 

「ごきげんよう、元気そうで良かったわ」

 

 懐かしげに思い出しながら部屋に入ると、リアスは目の前にある棺に挨拶する。

 

「な、何事なんですかぁぁぁ?」

 

 その中からは中世的な声がする。相変わらず暗い棺の中に篭るのが好きなんだな。まぁ、ハーフとは言えヴァンパイアだから当然といえば当然だが。

 

「封印が解けたのですよ? さあ、私たちと一緒に出ましょう?」

 

「やですぅぅぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅぅ! 外こわいぃぃぃ!!」

 

 朱乃が優しいそうに言いながら棺を開けると、駒王学園の女子制服を着た子が泣きそうな顔で嫌だと拒否する。

 

「おおっ! 女の子! しかもアーシアに続く金髪美少女!」

 

 イッセーがあの子姿を見た途端、嬉しそうに叫ぶ。

 

 …………まぁ確かに見た目はアーシアと似たような可愛い女の子だ。

 

 だが――

 

「イッセー、この子は男の子よ」

 

「……………………………え?」

 

 実は男なんだよねぇ。

 

 リアスが事実を言うと、イッセーは信じられないように固まってしまった。

 

「………ぶ、部長、もう一回言ってくれません? 今、何と?」

 

 理解出来ない言語だと思ったのか、イッセーは確認するようリアスに問う。

 

「見た目は女の子だけれど、この子は紛れもなく男の子よ」

 

「うふふ、女装趣味があるのですよ」

 

「バカなぁぁぁぁああああああああああああああっ!」

 

 あっさりと答えるリアスと朱乃に、イッセーは余りの衝撃だったのか大声を張り上げていた。五月蝿い奴だ。

 

 弟の反応を予想していたのか、リアスは気にせず涙目となってるあの子を優しく抱きしめようとする。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷族で『僧侶(ビショップ)』。一応駒王学園の一年生で、転生前は人間とヴァンパイアのハーフなの」

 

「ヴァ、ヴァンパイア……?」

 

「こ、コイツがヴァンパイアって……」

 

 リアスがハーフヴァンパイア君――ギャスパーを紹介すると、アーシアとイッセーが意外そうな顔をする。一応あの子にもヴァンパイアの象徴とされる牙はあるぞ。

 

「ちくしょぉぉおおおおおおおっ! 理不尽だ! こんな残酷な話があっていいものかぁ!? 完全に美少女な姿なのにぃ!」

 

 だがイッセーはギャスパーがヴァンパイアより姿が気に入らなかったようだ。

 

「でもよく似合ってますよ?」

 

「だからその分ショックがデカいんだよ、アーシア!」

 

 アーシアのフォローも虚しく悲壮な叫びをあげるイッセー。本当にさっきから五月蝿いな。

 

「て言うかお前! 引き篭もってるくせにそんな女装姿を誰に見せるんだよ!?」

 

「だ、だ、だ、だって、この格好のほうがかわいいもん。あれ? あの人に似てるような気が……」

 

「んなもんどうでもいいわ! もん、とか言うなぁぁ! あああ………一瞬だが俺は、アーシアとお前のダブル金髪美少女を夢見たんだぞ!」

 

「……人の夢と書いて、儚い」

 

「または一炊の夢だな」

 

「小猫ちゃんに兄貴ぃぃぃい! それシャレにならんから止めてくれ!」

 

 小猫と俺による言葉のパンチが聞いたのか、イッセーはもうKO寸前だ。

 

「…………え?」

 

 するとギャスパーは俺の声が聞こえたのか、コッチへと視線を向けてくる。

 

「あ、あ、あ………あなたは……」

 

「よう、ギャスパー君。久しぶりだな」

 

 やっと気付いたか。俺も一緒に入ったのに全然気付いてなかったから、忘れられてるかと思ったよ。

 

 そして――

 

「リューセー先輩ぃぃいいいいっ! 何で急に来なくなったんですか~~~!?」

 

 すぐさま立ち上がって俺に向かって突進し、そのまま詰め寄ってくる。

 

「悪い悪い。色々とあって来れなくなってな。そう言えば、いくつか貸したゲームはクリアしたか?」

 

「もうとっくにクリアしましたよぉ~! 先輩と来るのを楽しみに待ってたんですからぁ~!」

 

「そうか。それは悪か――」

 

「ちょっと待ちなさい、リューセー。どうしてあなたがギャスパーと面識があるのかしら?」

 

 泣き付いてくるギャスパーに謝ってると、リアスが割って入るように言ってくる。しかも頬を引き攣らせながら。朱乃たちも驚愕しながら揃って俺を見ている。

 

 これは流石に教えないと不味いな。っと、その前にギャスパーを少し離さないと。

 

「いや、実は――」

 

 そして俺は諦めるようにギャスパーと知り合った経緯を説明を始める。リアス達に内緒でこの部屋に忍び込んでいた事を含めて。

 

 それが終わると――

 

「やっぱりあの噂は本当だったのね。よくも私の前であんな嘘を……!」

 

 予想通りと言うべきか、リアスは怒気のオーラを放ちながら詰め寄ってくる。

 

「それは悪かったと思ってる。でも、しょうがないだろ。あの時はまだお前と協力関係じゃなかったんだからさ」

 

「だからって、アザゼルみたいに無断で私の可愛い眷族に手を出さないで欲しいのだけど?」

 

「本当に悪かったよ」

 

 不機嫌なリアスをどうにか宥めようと俺は必死に謝り続けた。

 

 でもまぁ、ギャスパーをほったらかし状態にしてたリアスにも問題があるんだよな。俺たち兄弟と会う前まで、ギャスパーを制御する為に主である己自身を鍛えるとか、それ以外の対策を施すみたいな行動を一切してなかったし。

 

 だから俺がリアス達に疑われる覚悟でギャスパーに接触せざるを得なかった。コイツが持つあの神器をどうにかする為に。

 

 まぁ、コッチも人の事は言えない。オカ研に入部以降、ずっとほったらかしにしてた俺も問題だった。余り強く出れないから、何とも言えん。

 

 一先ず謝罪を終えると、何か気になってる様子を見せるギャスパーがリアスに質問しようとする。

 

「あ、あの、部長? リューセー先輩と一緒にいるのってもしかして……」

 

「ええ、まだあなたに教えてなかったのだけど、リューセーは既に私たちオカルト研究部の部員よ」

 

「悪魔に転生してないが、俺とリアスとは協力関係になってるって訳だ」

 

「そ、そうだったんですか~。リューセー先輩、以後よろしくお願いします」

 

 俺がオカ研の部員だと分かった途端、ギャスパーは嬉しそうな顔をしながらお辞儀をする。リアスが少し面白く無さそうな顔をしているが、一先ず見無かった事にしよう。

 

「ああ、よろしく。じゃあ再開した記念として、このまま外に出ようか」

 

「それは嫌ですぅぅぅぅ! お外怖いぃぃ!」

 

 くそっ。さり気なく外に出そうと思ってたが、やっぱりダメだったか。

 

 嫌だと言って来るギャスパーにイッセーが腹が立つように近づき、腕を引こうとする。

 

「おい、ギャスパーって言ったか? 理由は知らねぇが、ちったぁ外に出るのも――」

 

「ヒィィィ!」

 

 ギャスパーの絶叫と共にアレ(・・)が発動した。その直後にイッセーやリアス達がまるで石像みたく、動きが止まっていると言う異質な空間となった。

 

 そんな中、イッセーに腕を掴まれていたギャスパーはすぐに離れて部屋の隅っこに移動するが――

 

「ったく。この力も相変わらず暴走気味か」

 

「イヤァァァ! 毎回思ってることですが何でリューセー先輩だけは動けるんですかぁぁぁ!?」

 

 俺がすぐに襟首を掴んで阻止させた。次の瞬間、イッセー達が元に戻ったように動き出す。

 

「…………あれ? さっき腕を掴んでたのに……何で兄貴がソイツの襟首掴んでんだ?」

 

「おかしいです。いま一瞬」

 

「……何かされたのは確かだね」

 

 状況が掴めていないイッセーとアーシアとゼノヴィアが驚いていたが、他のメンバーはギャスパーを捕まえた俺を注視していた。

 

「ちょ、ちょっとリューセー、あなたまさか……時間停止の力が効いてないの!?」

 

「ああ。俺にギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)――『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の力は通用しないよ」

 

「……リューセー先輩、あなたは一体どこまで規格外なんですか?」

 

 おいおい祐斗、規格外とは失礼だな。

 

 神器(セイクリッド・ギア)を作った聖書の神(わたし)が通用したら色々と問題だぞ。




取り敢えず連日投稿は今日で終わりです。

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