「もう一枚お願いしますー!」
「こ、こちらに目線くださ~い!」
リアスに追走されながらも体育館に入ると、カメラを持った男子達が、壇上に立っている誰かを撮影していた。まるで記者会見しているんじゃないかと思われるフラッシュのたかりだ。
「………やっぱり彼女だったか。まぁ、魔法少女って単語を聞いた時点で想像はしてたが」
壇上で撮られている誰かを見てみると、そこにはアニメキャラの格好をした少女がいた。あの格好は確か『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』だったな。俺を神様と崇めている『ミルたん』が着ている服と同じ物だ。
そういや以前、ミルたんから『このアニメを是非とも神様に見て欲しいにょ』と言われてアニメ鑑賞したな。まぁ、内容的には意外と面白かったよ。
それを見たアニメキャラのミルキーと壇上にいる少女はよく似てる。仕草とかスティックの回し方とか完璧に真似てるし。あれは相当練習したようだな。
「やっと追いついたわよリューセー! 早く質問に……なっ!」
体育館に入ったリアスは足を止めている俺を捕まえようとするが、壇上にいるコスプレ少女が視界に入った途端、慌てふためいた。その数秒後にはイッセー達も来てキョトンとしながら壇上を見ている。
おお、珍しいな。リアスがこんな風に驚くとは。ま、相手が相手だから無理もないけど。
「コラァ! 学校で何やってんだお前等!」
そんな事を言いながら、生徒会の匙元四郎が壇上に立ち、撮影してる男子達に向かって怒鳴る。
「ほらほら、解散解散!」
「横暴だぞ生徒会!」
「撮影会くらい良いだろうが!」
『そうだそうだ!』
匙が解散するよう促すも、撮影をしてる男子達が猛抗議する。抗議してる中には当然、松田と元浜も含まれていた。
「公開授業の日に要らん騒ぎを作るな! はやく解散しろ!」
ハハハ、匙はちゃんと仕事しているな。しっかりとソーナの役に立ってるよ。この前コッソリと渡したソーナの水着写真のお蔭かな? 匙がアレを見た瞬間、猛烈に感動して両目から涙を滝のように流してたし。
「ちぇっ!」
「またね~、ミルキーちゃん」
そして撮影していたカメラ男子達は匙の剣幕に負けて渋々と去っていった。
去った男子たちを見た匙は次に問題のコスプレ少女に問いかけようとする。
「あのう、ご家族の方でしょうか?」
「うん☆」
「でしたら、そんな格好で来られると困るんですが」
「えー、だって、これが私の正装だもん☆」
匙が注意を促すも、コスプレ少女は可愛らしくポージングして聞く耳を持たずだった。
「だから真面目に……!」
あ、匙が頬を引き攣ってる。ちょっとフォローしに行くか。
「こらこら、そこの魔法少女さん。ソーナが泣いても知りませんよ」
「む? ソーナちゃんが泣くってどういうことなのかな?」
俺が壇上の手前まで近づきながら言うと、聞いたコスプレ少女は少し顔を顰めながら俺に問う。
「あ、兵藤先輩」
「やあ、匙。お仕事ご苦労さん。あの写真は大事にしてるかな?」
「っ! こ、こんな時に何言ってんですか!?」
「ねぇねぇ、ソーナちゃんが泣くってどういう意味~?」
少しからかうと匙は慌てるように言い返すし、いつの間にか壇上に下りてきたコスプレ少女が俺に詰め寄ってくる。
「それはですね、セラ―」
ガラッ!
俺が彼女の名前を言ってる途中、体育館の扉が開く音で遮られてしまった。そこから駒王学園の生徒会長――ソーナ・シトリーが現れる。
「体育館で騒ぎが起きていると聞きましたが、何事ですか? あら、リューセーくん」
「あ、ソーナ。今の内に退散した方が――」
「ソーナちゃん! 見ぃつけた☆」
「………え?」
退散するように促す俺だったが、コスプレ少女がソーナを見た途端に嬉しそうに笑顔となって声をかける。すると呼ばれたソーナは彼女を見た途端、頬を赤らめながら固まった。
ソーナの様子がおかしい事に匙は何事かと思って尋ねようとする。
「あの、会長……もしかしてこの方は、会長のお知り合いですか?」
「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ?」
匙の問いを無視するかのようにコスプレ少女はソーナに駆け寄って話しかけている。ソーナはさっきと変わらず固まったままだが、それでも彼女は気にせず続けている。
「折角お姉さまとの再会なのだから、もぉ~っと喜んでくれていいと思うの! お姉さま! ソーたん! って! 抱き合いながら、百合百合な展開になってもいいと思うのよ~。お姉ちゃんは!」
問題だらけでツッコミ満載な台詞だな、おい。噂には聞いてたが、本当に超が付くほど妹大好きなシスコン姉だな。我が同志サーゼクスと良い勝負だ。
「お、おい兄貴、会長に駆け寄ってるあの人ってまさか……会長のお姉さん?」
駆け寄りながら訪ねてくるイッセーに俺はすぐに答える。
「ああ。ソーナ・シトリーの姉で冥界の現四大魔王の一人――セラフォルー・レヴィアタンだ。俺も初めて見たが、噂通りのドシスコンで驚いたよ」
「………マジかよ」
イッセーは頬を引き攣らせながらコスプレ少女――セラフォルーを見ている。多分コイツの事だから、想像してたセラフォルーの人物像が一気に崩れてるだろうな。
俺が前にセラフォルー・レヴィアタンの事を調べてた際、イッセーはホルモン漂う魅惑のお姉さま系と想像していたし。それが実はコスプレ衣装を着た可愛らしい少女だったとは思いもしなかっただろう。
「……ま、まぁ美人であることに変わりねぇな。うん」
おお、前向きに考えてるようだ。それはそれで結構だが――
「むぅ~……」
「あ、あーひあ、いたひよ」
ほれ、アーシアが剥れちゃってるじゃないか。それはそれで可愛いけど。
何かアーシアがイッセーの頬を抓ってるシーンを見てると、一昨日にグレイフィアがサーゼクスにやったのとそっくりだな。
そんなやり取りを見てなかったのか、リアスはすぐにセラフォルーに挨拶しようとする。
「セラフォルーさま、お久しぶりです」
「あ、リアスちゃん☆ おひさ~☆ 元気してましたか~?」
何て軽過ぎる口調だよ。仮にも魔王なんだから、少しは威厳のある口調をした方がいいと思うぞ。
「はい、おかげさまで。ところで今日はソーナの公開授業でいらしたのですか?」
「うん☆ ソーナちゃんったら酷いのよ。今日のこと黙ってたんだから! 情報入手したサーゼクスちゃんが教えてくれなかったら、もうお姉ちゃんショックで……天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」
そんな下らない理由で
「ところでリアスちゃん、あの子たちが噂の兄弟くん?」
「はい。イッセーにリューセー、ごあいさつを」
一先ずリアスの言うとおり、俺とイッセーは挨拶をする事にした。
「は、はじめまして、兵藤一誠です。リアス・グレモリーさまの眷族候補です!」
「先程は失礼しました。コイツの兄、兵藤隆誠です」
「はじめまして☆ 魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆ 『レヴィアたん』って呼んでね☆」
ピースサインを横向きでチェキをする現魔王レヴィアタン。これを未だに下らん事を考えてる時代遅れな旧魔王派の連中が見たら怒り狂うだろうな。
「は、はぁ……」
イッセーは余りにも軽すぎる展開に困惑気味の様子だった。
「ではそう呼ばせて頂きます、レヴィアたん。あと俺の事はリューセーで良いですよ」
「ありがと、リューセーくん☆」
「って兄貴! 何か今日はいつもよりノリが良くねぇ!?」
「リューセー! いくらなんでも馴れ馴れしすぎるわよ!」
俺がセラフォルーが望んだ呼び方をすると、イッセーとリアスからツッコミが入った。
「良いじゃないか。本人がそう呼べって言ってるんだからさ」
「そうそう☆ 私は全然OKだよ☆」
「リューセーくん、あまりお姉さまを調子付かせるような事は止めてください。私が困ります」
おやおや、今度は妹のソーナから厳しい指摘をされてしまった。
「それはすまなかった。けどさぁソーナ、そう言ってる割には内心、久しぶりのお姉さんに会えて嬉しく思ってるんだろう?」
「な、な、な、何を言ってるんですか!?」
「え!? それホントなの、ソーナちゃん!?」
ちょびっとだけ仕返しを込めた発言をしたらソーナが慌て、それを見たセラフォルーは嬉しそうな顔をする。
だがソーナは即座に話題を変えようとセラフォルーに何か言おうとする。
「そ、それよりお姉さま。私は
「そんなソーナちゃん! ソーナちゃんにそんなこと言われたら、お姉ちゃん悲しい! お姉ちゃんが、魔法少女に憧れているって知ってるでしょう!?」
さっきまで嬉しい表情とは打って変わり、ショックを受けたように悲しそうな顔をするセラフォルー。
ってか、セラフォルーの台詞は何処かで聞いたことあるな。……ああ、ミルたんが言ってたんだった。もしかしたらミルたんはセラフォルーと仲良くなれそうな気がする。
「煌くスティックで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」
「お姉さま、ご自重下さい。お姉さまが煌かれたら小国が数分で滅びます」
うん、それは確かに勘弁してほしい。大事な
にしても、流石噂通りの魔法少女、じゃなくて魔王少女だな。シスコン振りも半端ないよ。
「なあ、兄貴。先日コカビエルが襲ってきた時、会長がお姉さんを呼ばなかった理由って………後々メンドくさい事になるからってか?」
「そうだな。あの溺愛振りから見て、もしソーナがコカビエルに汚されでもしたら、即戦争になってたかもしれない。下手したら彼女が駒王町を氷漬け、もしくは消滅させるか、どちらにしろ碌な事が起きないのは確かだ」
「……あー、なるほど」
セラフォルーの行動を見て、イッセーは俺が言ってる事が本当だと分かったようで頷いていた。
「リューセー、もしかしてセラフォルーさまのことも調べてたの?」
リアスが確認するように俺に問うてくる。
「一応な。まぁ、あそこまでソーナを溺愛するほどの超シスコンだとは思わなかったが」
「………シスコンに関しちゃ兄貴も人のこと言えねぇだろ」
うっさい。ほっとけ。俺はあそこまで酷くない。
「もう! 耐えられません!」
セラフォルーに絡まれ続けていたソーナは我慢の限界が超えたのか、目元を潤ませて体育館から走り去って行く。冷静沈着なソーナでは考えられない行動だ。
「あ、待ってソーナちゃん!」
「こないでください!」
逃げ去ろうとするソーナを追いかけるセラフォルー。
う~む、魔王姉妹の追いかけっこか。何かの拍子でこの学園を消すような事にならなければ良いんだが。
「そ、それじゃ俺、会長のフォローをしなきゃだから」
「おう、頑張れよ匙」
「気をつけろよ、匙。もし君が持ってる
「絶対しませんから! 俺だって命が惜しいですよ!」
言うまでもなくアレとはソーナの水着写真の事だ。偶々手に入ったとは言え、あの盗撮写真をセラフォルーが見たら、盗撮者や写真を持ってる者たち全員消すかもしれない。下手したら学校ごと消されるかも。
そして匙は去って行った魔王姉妹の後を追走しようと、すぐに体育館から去った。
「匙さんも大変ですね」
アーシアは去って行く匙を見て思ったことを言う。
「サーゼクス様やセラフォルー様を見て分かったが、噂通り現四大魔王はプライベート時が物凄く軽いみたいだな。そうだろ、リアス?」
「………あまり言いたくないのだけど、その通りよ」
嘆息しながら俺の問いに答えるリアス。
「あの様子じゃソーナは姉に対して相当苦労してるみたいだな。今度スイーツでも作ってやるか」
「あなた、この前もそうしてたけど随分とソーナには優しいのね」
俺の発言にリアスは少し気に食わなさそうに軽く睨んでくる。
「お? もしかして嫉妬か?」
「怒るわよ」
「冗談だって」
友人の軽いジョークにちょっとは乗ってくれたっていいじゃないか。
「さて、もう体育館に用はないから俺達もそろそろ退散すっか」
「それもそうね……ってちょっと待ちなさいリューセー! 私の愛称を知った理由はまだ聞いてないわよ!?」
「げっ!」
くそっ、まだ憶えてたか!
セラフォルーと言うインパクトが強いキャラの登場によって忘れてたと思ってたが、そうもいかなかったようだ。
ここは何としても逃げ切ってやる!
「ではさらばだ!」
「ああっ! 誰もいないからって転移を使うなんて卑怯よ!」
一先ずリアスから逃れる為に転移術で一先ず切り抜ける事に成功した。
あ、いけね。後で肖像画を回収しておかないと。
因みにリアスは俺が愛称を知った理由を、後でサーゼクスから聞いたらしい。幼少時のエピソードも含めて。
理由を知ったリアスは放課後、顔が茹蛸のように真っ赤になったまま俺に詰め寄り――
「リューセー! もし誰かに喋ったらどうなるか分かってるわよね!?」
「別に口外しないっての。ってか、お前だって俺たち兄弟のアルバム見たんだからお互い様だ」
「私の恥ずかしい過去を聞かれた時点でもうお互い様じゃないわよ! 女の過去は男より重いのよ!」
「んなもん知るか! 恥ずかしい過去なんて悪魔だろうが人間だろうが男女関係無く平等だ!」
「何ですって!?」
ちょっとした低レベルな言い争いとなってしまった。
滅多にない光景を見ていたイッセー達はひたすら唖然としていたが、すぐに収まる事となった。
あとこれは部活の時に知ったが、サーゼクスやグレモリー卿が兵藤家に伺って公開授業鑑賞会をやるそうだ。是非とも参加しなければ。
☆
兵藤家の夕食後、リビングで公開授業鑑賞会をしていた。参加者は言うまでもなく俺と両親とアーシア、そしてグレモリー卿とサーゼクスだ。
因みにこの場にはイッセーとリアスはいない。サーゼクスがハイテンションで妹の晴れ姿を解説し出した為に、耐え切れなくなったリアスがリビングから出てイッセーが追っているからだ。
そんな中、父さんが『そう言えばリューセーは何の授業をやっていたんだ?』と訊かれたので、俺はすぐにアレを取り出した。
「これが今日の授業で書いた絵です」
「おお! 凄い出来栄えじゃないかリューセー! アーシアちゃんにそっくりだ!」
「まるで写真みたいじゃない! とても絵とは思えないわ!」
「うぅ……恥ずかしいですぅ……」
アーシアの肖像画を見せた途端、父さんと母さんから賞賛の言葉を贈られる。モデルとなったアーシアは昼休みと同様に頬を赤らめているが。
「これは見事な肖像画ではないか」
「恐れ入ったよ、リューセーくん。まさか妹の絵を描くなんてね」
一緒に見ていたグレモリー卿やサーゼクスからも同様に賞賛される。イッセー達だけでなく、両親達も同様の反応だ。
「本当は尊敬する過去の偉人を描く予定だったんですが、思わず頭の中で妹分のアーシアを思い浮かべましてね」
「なるほど、自分の想像通りに描いたと言う事か。大して絵心の無い私から見たら、凄く羨ましいスキルだよ」
本心なのか嫉妬なのかは分からんが、サーゼクスは真剣な顔をしてそう言ってきた。
っと、妹で思い出したがリアスは………あ、今は弟の部屋でイッセーと二人っきりになってる。二人のオーラが凄く密着してるから、これはもしや……。
(おいアーシア、リアスがイッセーと二人っきりになって部屋でイチャ付いてるぞ?)
「っ! お、お父さま、お母さま、すいませんが失礼します!」
俺が小声で呟くと、ビクッと反応したアーシアはすぐにリビングから去っていった。
「? どうしたんだアーシアちゃんは? 急に慌てて」
「リューセー、アーシアちゃんに一体何を言ったの?」
「まぁ、ちょっとした応援ってところ」
「「?」」
俺の言ってる意味が分からない父さんと母さんは揃って首を傾げる。
すると、サーゼクスは去って行ったアーシアを見て何かを思い出したように俺に話しかけた。
「リューセーくん、キミやリアスたちに話したいことがあるから付いて来てくれないか?」
「? ええ、良いですよ」
突然のサーゼクスからの誘いに俺は不可解に思いながらも同行する。
「部長さんばかりずるいです!」
「先手必勝。朱乃との争いで学んだことよ」
「だったら私は後手必勝です!」
「何よそれ?」
サーゼクスと一緒に二階へ上がってイッセーの部屋に着くと、そこからリアスとアーシアの言い争いが聞こえた。
「おやおや、ケンカはよくないぞ」
「二人とも、イッセーの前でそれはダメだろう」
サーゼクスと俺はそう言いながら部屋に入ると、イッセー達は驚いたような顔をする。
「兄貴にサーゼクスさま、鑑賞会は終わりですか?」
「サーゼクス様から話したい事があるって言うから付いてきたんだ。で、一体どんな話ですか?」
俺が問うとサーゼクスはすぐに答えようとする。
「リアスに提案をしようと思ってね。封印してる『
「っ!」
おお、ついにあの引き篭もりハーフヴァンパイア君を解放するのか。
…………あ、やば。俺、リアスにあの子と既に会った事をまだ教えてなかった。それとオカ研に入部して以降、あの子とは全然会ってない。会った途端に一悶着起きなければ良いんだが。