内容が短いながらもよく続いてます。
それではどうぞ!
ヴァーリが去った後。予定通り授業参観、と言うより「公開授業」が始まった。
父さんや母さんは今頃張り切ってるだろうな。父さんは父さんで有給休暇を取っただけじゃなく、最新のビデオカメラも用意してたからな。
理由は言うまでもなく授業で頑張ってるアーシアの姿を撮る為だ。その気持ちは俺もよく分かるよ。と言うか、俺も父さん達と一緒に参加したい。そしてアーシアを撮りたい。俺の可愛い妹分が頑張ってる姿を撮らないわけがない。
だが残念な事に俺は三年生の為、二年生の教室に行くことは出来ない。だから普通に授業を受けざるを得なかった。こう言う時だけ参加出来ないのが口惜しいよ、ホント。
本当だったら両親にバレないよう『分身拳』を使い、変装しに行こうかと思ってたが――
『兄貴、もし分身拳使って教室に来たらすぐにバラすからな』
と、イッセーに前以て釘を刺されてしまった。
あの愚弟め。何でこう言う時に限って鋭いんだよ。よくも替え玉として利用出来る頼みの『分身拳』を……!
弟よ、そんなに兄が来るのが嫌なのか? 俺は別にお前を気にせずアーシアを撮るだけなんだぞ。全くもって失礼な奴だ。
あ、そう言えばリアスの方はどうしてるかな? アッチもアッチで我が同志サーゼクスやグレモリー卿が教室に来て凄く目立ってると思うから、さぞかしリアスは恥ずかしくて居た堪れない気持ちだろう。端整な顔立ちをした紅髪親子が目立たないと言う事は断じてないし。
それに対して俺の両親はイッセーの教室にいてアーシアにエールを送ってるから、俺自身何の心配も無い。リアスには悪いが、普通に過ごさせてもらうよ。
さて、今日俺のクラスでやる授業は社会。いつもより気合の入った男性教諭が大きめのプリントと鉛筆を生徒に配っていく。
………え? 何だこれ? これはプリントじゃなくて美術で使う画用紙なんだが。あと何故にデッサン用の鉛筆を?
「今日の社会の時間は歴史上の人物を描く事です。日本や海外、どの国の人物でも構いません。自分が尊敬出来る偉人を思い浮かべて描く事により、その人物についてより詳しく知ることが出来ます。歴史の勉強には必要不可欠です」
どこが必要不可欠だよ! 意味分かんないよ、先生! ここは普通に社会の授業しましょうよ! これじゃ普通に美術でしょうが!
「それでは皆さん、始めてください。制限時間はチャイムが鳴るまでです」
始めんなよ! どこの世界に歴史上の人物を描いて授業する社会があるんだよ!
俺が内心最大限のツッコミを入れるも、周囲は何の疑問を抱かずに始めていた。
………あれ? 何でクラスメートたちは先生に一切抗議しないで始めてるの? 普通は何か言う筈なんだが……ひょっとして俺が変なのか?
………う~む……。この状況で俺だけ何か言ったらクラスメートだけじゃなく、親御さん達からおかしな生徒と認識されるかもしれないな。仕方ない。ここは敢えて描くとしよう。だけど本当にそれでいいのか、クラスメート達よ!
一先ず俺は渋々と言う感じで鉛筆を手に持ち、何を描こうかと考え始める。ってか歴史上の人物を描くと言っても、色々と多すぎて全然思い浮かばないんだが。
自分が尊敬出来る偉人ねぇ……。俺が最初に思い浮かぶ人と言ったら……。
『リューセーさん、私は主が死んでも祈りを捧げます』
シスター服で
あの子は
普通の信徒であれば真実を知った途端、教会不審になってもおかしくない。けれどアーシアは今でも
だから俺は決心した。死んだ
あと、アーシアが教会で祈りを捧げてるシーンは鮮明に思い浮かべられるよ。聖女の祈り、と言う感じで。
「ちょ、ちょっと兵藤くん……」
「はい?」
先生が俺に声をかけたので思わず返事をした。何やら凄く驚いてる表情をしているな。
何かと思えば、どうやら俺の画用紙を見て驚いているらしい。俺も画用紙を見ると――そこには優しい笑みで祈りを捧げてるシスター服のアーシアが描かれていた。
『おおっ!』
クラスから歓声が沸く。と言うか、俺自身も思わず感嘆の息を漏らしたよ。どうやら頭の中で思い浮かべてた内容をそのまま描いてしまったようだな。
流れるようなストレートヘアーに、誰もが魅了されるように優しく穢れのない笑顔、清楚と美しさを更に強調されるようなシスター服。何もかも俺が思い描いた完璧な姿だ。
鉛筆で描いたにも拘らず、まるでモノクロ写真のように出来上がってる。我ながら凄い事をやってしまったな。
「こ、この画用紙に描かれている人物は転校してきた二年のアーシア・アルジェントさんですね。まるで聖女のように美しいです。まさか過去の偉人ではなく、将来偉人となるであろう彼女を描くとは……。う、うう……やはりこの授業をやって正解でした。こんな素晴らしい絵を描いた兵藤くんを、私は誇りに思います……」
感動するように涙を流しながら言う先生。
ってか俺、アーシアが将来偉人になると言う感じで描いたんじゃないんだが……。
「おいおい兵藤、何だよこの凄い絵は!」
「お前、芸術家に向いてんじゃねぇか!?」
クラスメートからも驚いてるように賞賛された。
「なぁ兵藤、よかったら俺の絵と交換しないか?」
「そんな紙屑なんかより俺は五千円出す!」
「いえ! 私は七千円出すわ! こんな素晴らしい絵を見てるだけで癒されるわ!」
「兵藤! よかったら八千円出すぞ! 是非とも俺に癒しを!」
人物画を描こうとした社会の授業は一転し、俺が描いたアーシアの肖像画をめぐるオークション会場となってしまった。
☆
昼休み。
「おいおい、これ本当に兄貴が描いたのかよ……モノクロ写真みたいだな」
「な、何か恥ずかしいです……」
と、イッセーは俺が授業で描いた(額縁付きの)肖像画を持ちながら見て驚いていた。アーシアは自分がモデルにされていた事によって恥ずかしそうに頬を赤らめているが。
言うまでもなく、肖像画はクラスメートに売らなかった。と言うか売る訳が無い。俺の大事な可愛い妹分のアーシアだからな。因みに額縁については、『素晴らしい芸術作品を見せてくれたお礼だ!』と先生が言って無償でくれた。
一度アーシアに見せようと二年の教室へ向かってた際、自販機の前でイッセーやアーシアだけでなく、リアスと朱乃とも遭遇した。
俺がここに来る前、イッセーはリアス達に作品を見せていたようだ。英語の授業で作った紙粘土の裸体リアス像を。………こっちも余り人のことを言えないが、どうして英語なのに美術をやってるのかが全く理解出来なかった。この学園の教師は大丈夫かって心配するほどに。
まぁそれはそれとして、イッセーが作ったリアス像は随分と上手く出来ていたよ。リアス本人も褒めていたようだし。
イッセーは家でリアスの裸を毎日見てるから、脳が鮮明に焼き付いてたんだろうな。それを思い浮かべながらリアス像を作ったと言ってたし。
まさか俺と同じ事をやってたとは予想外だった。こう言う所で俺たち兄弟はやる事が似てるなぁって思ったよ。
「よく描けてるわね。あなた、画家になったほうがいいと思うわよ?」
「あらあら、こんなリアルにアーシアちゃんの絵を上手く描くなんて。凄いとだけしか言いようがありませんわ」
そして俺の肖像画を見てるリアスと朱乃は驚きながらも魅入っていた。
「リューセー、よかったらグレモリー家の専属画家にならない? こんなに素晴らしい絵を描けるなら、お兄さまたちも喜ぶと思うわ」
「じゃあ今度お前の絵を描いてやるよ。リアスが幼少時の姿を想像しながら魔女の服を着た『魔女っ子リーアたん』でも――」
「ごめんなさい、今の話はなかったことにして」
サーゼクスが絶対喜ぶであろう絵を描こうと思ったが、リアスはすぐに提案を撤回してしまった。残念。
「何だよリアス。人が折角描いてやろうと思ったのに」
「そんな恥ずかしい絵を描かないで! もしお兄さまが見たら絶対に……ん?」
顔を赤らめながら怒鳴るリアスだったが、急に何か思い出したかのような顔をする。すると今度は引き攣った笑みを浮かべ、両手を俺の両肩の上に置く。
「ちょっと待ってリューセー、どうしてあなたが家族の間でしか知らない私の
「え? それは……あ」
「どうやら心当たりがあるみたいね」
しまった。一昨日にサーゼクスがリアスを愛称で呼んでたから、つい俺も言ってしまった。
やばいと気付くも既に手遅れだった。リアスは怒気のオーラを放ちながらも怖い笑みを浮かべている。
「ぶ、部長が恐ぇ……!」
「部長さんが、凄く怒ってますぅ……」
「あらあら、うふふ」
イッセーとアーシアはリアスの怒気を感じたのか、表情を引き攣らせながら冷や汗を流して後ずさりしている。更に朱乃は余裕そうな笑みを浮かべるも、助ける様子は一切見せなかった。
「そういえば一昨日の夜、お兄さまが大事な話があるといってリューセーの部屋に行ったわよね? そこで一体何を話してたの?」
「そ、それは、その……」
リアスの幼少時代のエピソード傍聴とアルバム観察+妹談議を熱く語ってました。なんて事を今のリアスには口が裂けても言えない!
タジタジになりながらもどうやって誤魔化そうかと必死に考えているが、リアスは俺に再度尋ねようとする。
「ねぇ、リューセー。怒らないから教えてくれる? 私とあなたの仲じゃないの」
…………ダメだ。今のリアスにどう誤魔化してもすぐに嘘だとバレる。と言うか、下手な嘘を吐いたら後々面倒な事になってしまう。
「……ほ、本当に怒らないか? 手をあげる行為も一切無しだぞ?」
「ええ、約束するわ」
「えっと、実は――」
俺が理由を説明しようとすると――
「魔女っ子の撮影会だとぉ~~~!?」
「これは元写真部として、レンズを通し余すことなく記録せねばぁ!」
突如、元浜と松田が叫びながら体育館へと向かっていた。他の男子達も一緒に。
それを聞いた俺はすぐに振り向いてこう言った。
「え? 魔女っ子? リアスはまだ魔女っ子の服を着てない筈だが」
「いつから私はそんな服を着ることになったの!? 勝手に魔女っ子扱いしないで!」
俺のボケにツッコミを入れるリアス。そのお蔭で俺の両肩を掴んでいた手を放してくれた。
「ではちょっと確認しに行こうか。誰が魔女っ子の姿をしているのかを!」
「あ、こら! 待ちなさいリューセー! 話はまだ終わってないわよ!?」
逃げるように体育館へ向かう俺にリアスが追走するのであった。
「おい兄貴! 忘れもんだぞ!」
「りゅ、リューセーさん! 絵を置き忘れてますよ~!?」
「あらあら、うふふ。リアスってばリューセーくんに振り回されてますわね」
元とはいえ、聖書の神が描いた絵を教会もしくは天使が知ったらどうなる事やら……。