「いや~、まさかリューセーとご友人だったとは驚きましたよ! 念の為に父親として伺いたいのですが、息子に何か失礼な事はされませんでしたか?」
「ちょっと父さん、それはどう言う意味かな?」
「とんでもない。隆誠くんには色々と助けられてることもありますし、彼と友人である事を嬉しく思っていますよ。私から言わせれば、妹が皆さまにご迷惑をおかけしていないかと心配していました」
「そんなお兄さん! リアスさんはとてもいい子ですわよ」
「ええ、リアスさんは息子たちにはもったいないぐらい素敵なお嬢さんです」
兵藤家のリビングで、サーゼクスは俺と一緒にいる両親と談笑していた。サーゼクスの隣にはリアス。その後方にはグレイフィアが待機している。
部室でサーゼクスが言った報酬については、コカビエルの一件による俺が支払う依頼料の事を指している。その報酬は――『サーゼクスが兵藤家で宿泊する権利』のことだ。
電話の時に報酬の内容を聞いたサーゼクスは最初素っ頓狂な声を出していたが、リアスが俺とイッセーの家に住んでいる事を思い出して、「それは願ってもない。ぜひとも下宿先のご夫婦にあいさつをしたいと思っていたところだ」と、すぐに快諾した。
報酬の事が全く分からなかったオカ研の部員達に俺が説明した直後、リアスは再度俺に詰め寄って「ダメよリューセー! 今すぐに報酬の内容を変えなさい!」と可愛く抵抗していたよ。だが今更報酬の内容を変える事は出来ないので、リアスの抵抗も虚しく、こうして兵藤家に着いてしまった。
因みにイッセーとアーシアは俺達から少し離れた所から様子を伺っている。イッセーなんかずっとリアスを観察するように見ているし。
んで、そのリアスだが顔を真っ赤にしていた。兄であるサーゼクスが何を言い出すのか怖くて仕方ないんだろう。部室では勘違いして理不尽に俺を叱っていた時とは大違いだよ。ちょっとした仕返しが出来たので、叱った件はもう許す事にした。
それにしても、サーゼクスは随分と楽しげだな。冥界では魔王として振舞っていたが、今はそんな素振りを微塵も見せずにリアスの兄として両親と接している。嘗て捨てたサーゼクス・グレモリーと言う名前を再び使え、一個人として楽しんでいるんだろう。その気持ちは
「ところでグレイフィアさん、座らないんですか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが私はグレモリー家のメイドですので、お気になさらず」
俺が座るよう言っても、グレイフィアは首を横に振って断る。
「いやいや、今はプライベートなんですから、サーゼクス……さんの“奥さん”として振舞ったらどうですか?」
危うく“様”付けするところだったが、何とか“さん”付けで言え――
『えええええええええええええええええええええええっっ!?』
突然リアスとサーゼクスとグレイフィアを除く全員が驚きの声を出した。グレイフィアだけは目を見開いているが。
そう言えば両親はともかく、イッセーとアーシアには教えてなかったな。驚くのは当然か。
「……その情報は何処で知り得たのですか?」
「知り得たも何も前の電話の時に、サーゼクスさんが『是非とも妻のグレイフィアと一緒にお邪魔させてもらうよ』って言ってましたけど……」
俺が理由を言った直後、グレイフィアは無表情のまま、サーゼクスの頬を抓った。
「隆誠さま、我が主がつまらない冗談を口にして申し訳ございません。私はグレモリー家のメイドにすぎませんので」
「い、いたひ、いたひいひょ、ぐれいふぃあ」
無表情ながらも静かに怒っているグレイフィアと、涙目でありながらも朗らかに笑っているサーゼクス。隣でリアスが恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。
おいおいグレイフィアさん。サーゼクスが俺に個人情報を公開したからと言って、それはないでしょうが。別に怒る事じゃないだろうに。
ミリキャス君が知ったら悲しむよ? などと言ったら、グレイフィアは次に俺を問い質すだろうな。更にはサーゼクスやリアスも含めて。
「それでは、グレモリーさんも授業参観に?」
母さんが若干頬を赤く染めながらサーゼクスに話しかける。サーゼクスの端整な顔立ちに魅了されたかな? リアスの男性バージョンでイケメンだから、魅了されるのは当然かもしれない。その当人は抓られた頬を擦る姿を見せて少し情けないが。
「ええ、仕事が一段落して、隆誠くんからのお誘いを機会に一度妹の学び舎を見つつ、授業の風景を拝見できたらと思いましてね。その当日には父も顔を出す予定です」
「まあ、リアスさんのお父さんも」
「私同様、良い機会だからと顔を出すようです。本当はリアスの顔を見たいだけだと思いますが。まぁ他にも会いたい人がいるようで」
サーゼクスが途中からイッセーの方を見ながら言う。つまりグレモリー卿が会いたい人はイッセーか。会ったついでに縁談話を持ち込まなければ良いんだけど。
「グレモリーさん! 日本酒は飲めますか? 折角いらしたんですから、美味しいお酒を味わってみませんか?」
父さんがキッチンから秘蔵の酒を取り出してきた。
確かあの酒は以前俺が商店街の福引きで当てた十万円相当の高級日本酒だったな。未成年の俺は飲めないから父さんにあげたけど、まだ飲んでなかったのか。
日本酒と聞いたサーゼクスは笑みを浮かべる。
「それは素晴らしいですね! 是非ともいただきます! こう見えて日本酒はいける口なので!」
日本の文化を好むサーゼクスにとっては大変嬉しいお誘いのようだった。
☆
リビングで談笑を終えた後、サーゼクスから大事な話があると言ったので、俺は自分の部屋へ案内して招きいれた。
その話とは――
「これが三歳の頃のリーアたんだよ。可愛いだろう?」
「ほほ~う。これは中々……。今とは大違いですなぁ」
可愛い妹自慢をする為だった。今はサーゼクスが密かに持ってきたアルバムの写真を見ている。それにはぬいぐるみと戯れているミニリアスが写っていた。
小さい頃のリアスは随分と可愛いじゃないか。今とは全然大違いだ。
どうしてサーゼクスが俺に
イッセーがライザーの眷属達相手に
それによってサーゼクスは今回兵藤家に泊まるのを絶好の機会として、今もこうして俺に長々と
この前、母さんの所為でリアス達に俺とイッセーのアルバムを見せて恥ずかしい目に遭ったからな。リアスの過去を見る事が出来るなら、俺としては実に好都合だ。
「こっちのリアスは何で泣いてるんですか?」
「これかい? リアスが五歳の頃に、私に紅茶を運ぼうとしてたんだけど、途中で転んでしまってね。その時は『おにいさま、カップを割ってごめんなさい』と泣きながら何度も謝ってね」
「ああ、それで割れたカップがあるんですね」
リアスは昔のガブリエルと似たような事をしてたのか。
確かあの時のガブリエルを見て、
「あなたの事ですから、泣きながら謝るリアスを見て『可愛いなぁ』って思ったでしょう?」
「よく分かったね。その通りだ」
やっぱりな。何かサーゼクスってリアスの兄と言うより父親の方がしっくりとくるんだが。もしグレモリー卿が聞いたら抗議するかな?
「さて、次にリーアたんが――」
「ちょっと待ってください、サーゼクス様。小さい頃のリアスも良いですが、今のリアスの写真とか見たくないですか?」
「何だと!? キミはリアスの写真を持っているのかい!?」
物凄い勢いで食いつくサーゼクス。俺が持ってることに予想外なのか、それとも今のリアスの写真を見たいのか……多分両方だろう。
「ええ、まあ。ウチの可愛い妹分のアーシアを撮ったついでですが……これがその写真です」
俺が机の引き出しから写真をサーゼクスに見せようとする。
アーシアと一緒に調理しているリアス、読書をしているリアス、イッセーに勉強を教えているリアス……等々の写真を並べた。
因みにこれ等の写真は向こうの了承を貰って撮ったやつだ。決して盗撮なんかじゃない。
「ほう、今のリアスはこう言うことをしていたのか。何とも素晴らしい写真ではないか。隆誠くん、もし良かったら――」
「その写真は差し上げますよ」
「ではありがたく」
シュバッ!
俺の返答を聞いた瞬間、サーゼクスはすぐに広げた写真を回収して懐に入れた。しかも物凄い速さで。
そんなに欲しかったんかいって思わず突っ込みそうになったよ。
さて、俺としてはいつまでもサーゼクスのターンをさせる気はない。そろそろこちらも反撃と行こうか。
「サーゼクス様、リアスを語るのは結構ですが、ウチのアーシアも負けてませんよ。この写真をご覧下さい」
「どれどれ……おお! キミも中々やるじゃないか!」
今度は俺が妹分のアーシア自慢をさせる為、サーゼクスに別の写真を見せる。
そしてグレイフィアが就寝時間の知らせが来るまで、妹自慢の熱い語り合いは何時間も続く事となった。
この語り合いによって、俺とサーゼクスは同志となった。人間や悪魔とか一切関係の無い、妹を大切にしている同志としてだ。
妹を愛する同志となった