「狙え! 兵藤兄弟を狙うんだ!」
「いや! 先ずはエロ弟の方を狙え!」
「おい兄貴、噂はデマだって流したはずじゃなかったのか? ってか何で兄貴まで狙ってるんだ?」
「アイツ等は噂云々とかより、俺達がオカ研に入部してること自体気に食わないんだ。俺も俺でリアス達と仲が良い事に嫉妬してる連中もいるし」
「「ってか何でさっきから当たんねぇんだよ!?」」
球技大会当日。
俺たちオカルト研究部は現在、部活対抗戦の初戦相手として野球部とドッジボールをやっている。
文科系であるオカルト研究部が球技大会に出るのはおかしいと思われるだろうが、この駒王学園には文科系や運動系は一切関係無く、部があるところは必須で参加しなければならない。
ついでにこの部活対抗戦の種目については当日発表によって決まったものだ。リアスが種目発表を確認してドッジボールをすると分かった瞬間、俺とイッセーは揃って嘆息してしまった。
理由はさっきの俺とイッセーの会話で大体分かってるだろうが、目の前にいる野球部全員が俺達を狙っているからだ。しかも一方的な敵意と殺意も含まれている。
野球部の連中が嫉妬目的で俺達を狙っているのには他にも訳がある。それは俺たち兄弟以外の部員以外に当てるわけにはいかないからだ。
オカ研部長のリアスは駒王学園の二大お姉さまの一人で大人気の学園アイドルだから当てられない。
オカ研副部長の朱乃もリアスと同じく二大お姉さまの一人で学園のアイドルだから当てられない。
アーシアは二年生ナンバー1の癒し系天然金髪美少女だから当てられない。まぁアーシアに当てる奴がいたら、俺とイッセーが即行でソイツの顔と股間に豪速球で当ててやるがな。
小猫は学園のマスコットキャラでロリ系美少女だから可愛そうなので当てられない。
祐斗は学園一のイケメンで全男子の敵だが、当てたら全学年の女子達に恨まれるから当てられない。
そして俺ことリューセーと弟のイッセーは何故コイツ等が美男美女揃いのオカ研にいるのかが分からないが、当てても問題ないだろう。寧ろ当てるべきだ。特に野獣のエロ弟の方は死ぬべきだ。
と言うような心の声が、あの連中から聞こえるんだよな。まぁ、奴等の顔を見るだけでも充分に伝わっているが。
ってな訳で、俺たち兄弟に対する悪意が集中してるんだ。それも全校生徒から。尤も、対象の殆どはイッセーだが。まぁ俺も俺でリアスたちオカ研だけじゃなく、生徒会長のソーナとも仲が良い事にソーナファンの女子達から睨まれてるけど。
「イッセーを殺せぇぇぇ!!」
「ついでにリアスさま達と仲が良い兄のリューセーもだぁぁぁあ!」
「何でお前等が揃いも揃ってオカルト研究部に入部してやがんだぁぁ! 羨ましいぞゴラァ!」
「お願い! 特にエロ弟の兵藤は絶対倒して! リアスお姉さまの為に! 朱乃お姉さまの為に!」
「そうだ! 何としてもアーシアさんを正常な世界へ取り戻すんだ!」
ギャラリー共からの罵倒に俺は呆れて物が言えなかった。アイツ等はこう言うイベントに限って強気になるんだよなぁ。まぁそれだけイッセーに対する恨みが強いって証拠だが。
けれど、俺とイッセーはそんなのをどうでも良いように聞き流していた。向かってくる豪速球をヒョイヒョイと避けながら。
「何なんだよあの兄弟は!?」
「左右や後ろから来るボールを一切見ないで避けてるぞ!」
「アイツら体全体に目でも付いてんのか!?」
ハッハッハ。そんな殺気丸出しでボールを投げても当たらんよ。俺とイッセーは空気のちょっとした流れさえ読めば、ボールを見なくても躱せるんだ。
「さてイッセー。避けるのも飽きてきたから、リアス達に勝利を捧げる為にさっさと勝つとしよう」
「おう。俺もそろそろ反撃したかったところだ」
そして俺とイッセーは避けるのを止めて、向かってくるボールを片手で簡単にキャッチするイッセー。
「ば、バカな! 俺の豪速球をあんな簡単に!?」
投げたと思われる野球部の主将がアッサリ取られた事に少しショックを受けたような顔をする。
「殺意? ハハハハ、笑わせないで下さいよ。豪速球ってのは……こうするんですよ!」
イッセーが片手に持ってるボールを投げると――
ドンッ! ゴンッ! ドンッ!
「おぐっ!」
「ぐへっ!」
「あぶっ!」
野球部主将の次に他の部員に当たるという一種のピンボール状態となった。それによりイッセーは一気に複数の部員達をアウトにする。
この光景に殺気立っていた野球部員達やギャラリー達が一斉に静まる。イッセーが一度に複数の部員達を倒すなど考えもしなかっただろう。
「はい、次は俺だよ。あ~らよっと!」
続いて俺が自分側のコートに戻ってきたボールを持ち、スピンをかけて投げると――
「いでっ!」
「あだっ!」
「げっ!」
三日月を描くようなカーブボールとなり、イッセーと同じく複数の野球部員達をアウトにさせる。これで残りの野球部員は二名となった。
「おいおい何だよあの兄弟は!?」
「兄弟揃って連続当てって普通ありえねぇぞ!」
ギャラリー達が息を吹き返したかのように驚愕しながら叫んでいる。
「ちょっとイッセーにリューセー! 貴方たちが殆ど斃しちゃうから、私たちの出番がないじゃない!」
これには部長のリアスが抗議してきた。良いじゃんか、まだまだ初戦なんだから。まぁ取り敢えず二回戦以降はちゃんとリアス達に活躍させるとしよう。
そう思いながら俺はイッセーと一緒に揃ってリアスに謝っていると、一人の豪胆な野球少年がボールの照準を祐斗に定め始めていた。
「クソォッ! もういっそ恨まれてもいい! くたばれイケメンめぇぇ!」
俺たちとは違う憎悪で投げる野球少年に木場は全然気付いてないのか、未だ遠い目をして上の空状態だった。
アイツ何やってんだよっ……! 少しは目の前の事に集中しろっての!
「おい木場! お前何ボーっとしてやがるんだ!」
俺が駆けつけようとするも、何とイッセーが祐斗の元へ駆け寄っていた。珍しいな。あのイッセーが祐斗を庇うように前へ出るとは。
そしてイッセーは向かってくるボールがフォークボールのように降下するも、自分の股間を守るように難なく片手でキャッチする。
「……あ、イッセーくん?」
「あ、イッセーくん? じゃねぇだろう! 何やってんだ、お前は!」
「へぶっ!」
イッセーがそう言いながらボールと投げると、祐斗を狙っていた野球少年は受け止める事が出来ずアウトとなった。
ナイスだイッセーと言おうとした俺は――
「ね、ねぇ。あのエロ兵藤が木場くんを守るなんて……」
「あの二人、やっぱりデキてる……?」
「だ、だとしたらやっぱり木場くん×エロ兵藤のカップリングが……!」
ギャラリー側にいる女子達の会話に思わずイッセーに近づくのを躊躇ってしまった。
ってか、何でイッセーが祐斗を助けただけであんな会話になるんだ? やっぱり今時の女子って、思考が変な方向に進んでるよな。コレも時代の流れってやつなのか? だとしたらすっごく嫌な流れなんですけど。
そしてその後は、やっとリアスの出番が来たかのように残り一人の部員に当てた後――
『オカルト研究部の勝利です!』
俺達の初戦突破が決まった。
――――――――――
球技大会が終わって少し時間が経った後、外はもう完全に雨模様となっていた。もし延長になってたら大変な事になっていたな。
パンッ!
すると突然、雨音に混じって乾いた音が響く。音の発生源は分かってる。それはリアスが祐斗の頬を叩いた音だ。
「どう? これで少しは目が覚めたかしら?」
今のリアスは完全に怒ってる。それは当然だろう。
今回の競技で祐斗は終始上の空状態でリアスが何度も怒っていたにも拘らず、どうでも良いようにずっと聞き流していた。
これには流石に俺も何か言おうと思ったが、部長であるリアスが窘めているから敢えて口は出さなかった。
もしリアスが怒っていなければイッセーが絶対にキレていただろう。アイツは祐斗の行動に何度も不満を漏らしていたからな。
因みに競技は俺たちオカルト研究部が優勝した。俺やイッセーだけじゃなく、リアス達もかなり活躍していたし。
と、それはさておき問題は祐斗だ。
祐斗はリアスに頬を叩かれても無表情、そして無言だった。
とても俺達が知ってる祐斗とは思えないほどの変貌ぶりだ。いつもは爽やかな笑顔を見せてる筈が、今は全くの別人と言っても過言じゃない。
けれど、祐斗は唐突にいつもの笑顔となる。
「もういいですか? 球技大会も終わりましたし、夜の時間まで休ませて貰ってもいいですよね? すいません、先に帰らせて頂きます」
「おい待てよ、木場。おまえマジで最近変だぞ?」
「キミには関係ないよ」
イッセーが問うも、祐斗は作り笑顔で冷たく返す。
「祐斗、イッセーが心配してるってのにその言い草は何だ?」
「心配? 誰が誰をですか? リューセー先輩も知ってる筈です。悪魔は基本、利己的に生きるものだと」
「だからと言って主のリアスに従わないのはどうかと思うが?」
「そうですね。確かに今回は僕が悪かったと思っています」
指摘しても祐斗は全く反省してないような感じで謝ってくる。
「何かあるなら俺が相談に乗るぞ。一応俺はお前の先輩でもあり、協力関係と言えども今は仲間だからな」
俺の言葉に祐斗は表情を翳らせる。
「仲間、ですか。悪魔と人間が仲間なんて、傍から聞いたらちょっとおかしいですね」
「それは今更だぞ」
「確かに。けれど僕も、ここのところ、基本的なことを思い出していたんですよ」
「…………それはつまり、聖剣に関する事か?」
『っ!?』
俺の言葉に祐斗だけでなく、イッセーとアーシアを除くリアス達も驚愕する。
「ど、どうして、リューセー先輩がそれを……? 何処で知ったんですか!?」
「……あのさぁ。お前がこの前イッセーの部屋で、俺に聖剣について散々問い詰めてたじゃないか。あんだけしつこく訊かれたら、お前が聖剣に何かしらの恨みを抱いているだろうって容易に想像出来るよ」
爆発するように叫ぶ祐斗に対し、俺は呆れ顔で理由を言う。
「祐斗、一体お前はどう言う理由で聖剣を恨んで――」
「人間のリューセー先輩には関係ありません!!!」
尋ねようにも、祐斗は俺を突き飛ばすように吐き捨てた後、そのまま去って行った。
「あれま。ひょっとして俺、嫌われたか?」
「ってかすげぇ珍しいな。あの木場が兄貴に対してあんなこと言うなんて」
確かにイッセーの言うとおり、祐斗が俺にあそこまで反抗的な態度を取るのは思ってもいなかっただろう。
う~ん……。分かってはいたが、祐斗は『人間の俺に関係ない』と強く拒絶するほど聖剣に途轍もない憎悪を抱いてる、か。これはそろそろ祐斗の過去について調べたほうが良さそうだな。
まだ何も事件は起きていないけど、何故か凄く嫌な予感がするし。
「…………なぁリアス、この際だから訊きたいんだが」
「……何をかしら?」
俺からの問いにリアスは分かっているかのように問い返す。
「祐斗が聖剣を恨んでいるのは悪魔としての理由か? それともアイツが人間時代、聖剣に関わった不幸な出来事でも遭ったか?」
「……悪いけど、その質問には答えられないわ」
「じゃあ質問を変えよう。例えば教会が極秘にやってた悪行――『聖剣計画』に祐斗は関わっていたか?」
『っ!?』
なるべくダラダラ感を出さないようにしてるんですが……大丈夫かな?