ゼノヴィアがイッセーに加勢したか。別に彼女がいなくても、フリード程度はイッセーだけでも充分なんだが……まあいいか。
取りあえずアッチは大丈夫として問題は勝手な行動をしたおバカな祐斗の方だ。
祐斗を見てみると、ダメージを多いながらも何とか立ち上がろうとしていた。
「被験者が一人脱走したままだと聞いていたが……卑しくも悪魔に堕ちてるとは」
そんな中、余裕綽々と祐斗に近づこうとするバルパーがいた。奴の台詞に祐斗がキッと憎しみを込めた目で睨む。
「だが君らには感謝している。お蔭で計画は完成したのだからな」
「完成……?」
………どう言う事だ?
俺は今すぐ祐斗のもとへ駆けつけようと思ったが、バルパーから聞き捨てならない台詞をほざいていたので足を止めた。
「君たち適正者の持つ因子は聖剣を扱えるまでの数値を示さなかった。そこで一つの結論に至った。被験者から因子だけを抜き出せば良い、とな」
「なっ!」
……あの野郎、まさか。
「そして結晶化する事に成功した。これがあの時の因子を結晶化した物だ。最後の一つになってしまったがね!」
俺が結論の先を考えてると、バルパーは懐から光り輝く球体を取り出した。
すると、バルパーの話を聞いていたと思われるフリードが急に笑い出す。
「ヒャハハハハ! 俺以外の奴らは途中で因子に体がついていかなくて、死んじまったんだぜぇ! そう考えると、やっぱ俺ってつくづくスペシャル仕様ざんすねぇ!」
「テメエ!」
「くっ!」
フリードの横薙ぎを避けて距離を取るイッセーとゼノヴィア。
「……成程、そう言う事だったのか」
イッセー達の事を全く心配してない俺は、バルパーが持ってる結晶を見てある事が分かった。紫藤イリナが聖剣を使えた理由が。
俺は兵藤家で彼女と再会した時、妙な違和感を感じた。彼女から発する混じり気のある違和感なオーラを。
幼い頃のイリナは俺が見立てた際、聖剣を扱う事は出来ないと断定していた。だが彼女と再会した事で覆され、俺はすぐに何故だと疑問を抱いた。
バルパーの結論で言うなら、彼女は聖剣を扱う為の因子が不足していた。本来であれば聖剣使いになれる筈がない。しかし彼女は現在、聖剣を扱える適性者となっている。
未だ聖剣に振り回されてる未熟者とは言え、何故使えるのかが全然分からなかった。けれど、バルパーの研究内容を聞いて漸く理解した。あの結晶で身体に入れて、因子の不足分を補っていたのだと。
「偽善者どもが! 私を異端として排除しておきながら、厚かましくも、私の研究だけは利用しよって。どうせあのミカエルのことだ。被験者から因子を抜き出しても、殺していないだろうがな。その分だけは私よりも人道的と言えるな。くくくくく」
……ミカエル。もしお前と会う事があったら、その時は覚悟しとけよ。
それにしても、聖剣使いを人工的に生み出す為には犠牲を払わなければならないとはな。
「……なら、僕らを殺す必要は、なかったはずだ……! どうして……!?」
衝撃の事実を聞いた祐斗は必死に立とうとしながらも殺気が篭っていた。だがバルパーは大して気にせずに理由を話そうとする。
「お前らは極秘計画の実験材料にすぎん。用済みになれば廃棄するしかなかろう」
「そんな……! 僕たちは、主の為と信じて、ずっと耐えてきた……! それを、それを、実験材料……? 廃棄……?」
聞くに堪えない理由に祐斗は拳を握りながら、両目から涙を流していた。
調べたとは言え、いざ本人から聞くと沸々と殺意が湧いてくるな。つくづく許しがたい男だよ、あの
俺はどんなやり方で断罪してやろうか考えてると、バルパーは持ってる結晶を祐斗に向かって放り投げた。
「この結晶が欲しければくれてやる。もはや更に完成度を高めた
ころころと転がった結晶が祐斗の足元に行き着く。
祐斗は静かに屈みこみ、それを手に取ろうとする。
結晶を見てる祐斗は何かを思い出すように、哀しそうに、愛しそうに、懐かしそうに結晶を両手で包み込む。
ピシッ!
「ジジイ……! テメエ、許せねぇ!」
フリードと同様話を聞いていたイッセーは全身から怒りの
イッセーはイケメンの祐斗が嫌いでも大切な仲間だと思っている。だからこそ、廃棄された祐斗の心情を察するように怒りに燃えていた。
「バルパー・ガリレイ……! あなたは自分の研究、自分の欲望の為に、どれだけの命を弄んだ……」
祐斗が立ち上がった途端に異変が起きた。祐斗が両手で持ってる結晶が淡い光りを発し始め、その周囲には人影と思われる蒼いものが形を成して行く。
形を成して現れたのは、青白く淡い光りを放つ少年少女達の霊魂だった。
「恐らくこの戦場に漂う様々な力が、そして祐斗くんの心の震えが結晶から魂を解き放ったのですわ」
と、答える朱乃。正にその通りだ。
そしてあの少年少女達は言うまでもないが、祐斗と同じ聖剣計画に身を投じられた子達。――即ち、処分された子達だ。
「僕は……ずっと……ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていて良いのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。……僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが、平和な暮らしを過ごして良いのかって……!」
霊魂に向かって涙を流しながら語る祐斗。
だが霊魂の少年の一人が微笑みながら、祐斗に何かを訴えていた。
「……『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』、か」
読唇術を使った俺は思わず言葉に出した。
それが伝わったのか、祐斗の相貌から涙が溢れ続ける。
『大丈夫――』
『みんな集まれば――』
『受け入れて。僕たちを――』
『怖くない――』
『たとえ神がいなくても――』
『神さまが見てなくても――』
『僕たちの心はいつだって――』
「――ひとつ」
少年少女達の声が聞こえる。
その声に頷いた木場がそう呟くと、彼等の魂が天にのぼる。一つの大きな光りなって祐斗のもとへ降り、そのまま包み込んだ。
「ああ……」
「ぐっ、くそっ……! 何だ? 涙が、止まらねぇ……!」
暖かく柔らかな光りを感じたアーシアとイッセーは涙を流していた。
アーシアはともかく、イッセーは随分と涙脆くなったな。まぁ、
「祐斗、お前はついに至ったんだな」
そしてもう一つ分かった。
「――
『っ!』
俺の呟きに周囲にいる者たちが驚くも――
「ほう」
宙に浮いてるコカビエルは興味深そうにずっと眺めていた。
包まれた光が消えると、祐斗は何かを決心するようにバルパーを見る。
「同志たちは、僕に復讐を願ってなかった。願ってなかったんだ。でも僕は、目の前の邪悪を打ち倒さなければならない」
「っ!」
近づいてくる祐斗にバルパーは怯えるように下がる。
「第二、第三の僕たちを生み出さない為に!」
「フリード!」
「はいな!」
そう言いながら魔剣を造った祐斗を見たバルパーは危険が迫ると判断し、すぐにフリードを呼んだ。
呼ばれたフリードはすぐに駆けつけ、二人の間に立った。
フリードが来たことにバルパーは安心したのか、また余裕な表情をする。
「ふん。愚か者が。あのまま素直に廃棄されれば良かったものを。それに研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか」
「そうだな。何かを得る為に犠牲はつきものだ。そこは理解出来る」
『っ!』
バルパーの言葉に頷いた俺が信じられなかったのか、全員俺の方を注視する。
「ほう? 確か兵藤隆誠と言ったか。君が私に賛同するとは意外だぞ」
「俺はあくまで犠牲についての賛同をしただけだ。お前のような三流以下の研究までは理解してないよ」
「何?」
三流と呼ばれた事に顔を顰めるバルパー。だが俺は気にせず続ける。
「犠牲とは本来、目的の為に己の大切なものを
「本当なら俺の手で裁きたいところだが、俺以上にお前を許せない奴がいる」
そう言って俺は祐斗に視線を向ける。
「祐斗! この場はお前に譲る! だからここで
「――リューセー先輩」
呆然とするように俺を見る祐斗だったが――
「木場ァァァァァッ! フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けェェェェ!」
今度はイッセーが祐斗に向かって叫んでいた。
「あいつらの想いと魂を無駄にすんな! ここは決めやがれ木場! いや、祐斗!」
「……え? イッセーくん、今、僕のことを……?」
何とイッセーが祐斗を名前で呼んだ。イッセーの呼び方に予想外だったのか、祐斗は驚愕するようにイッセーを見ていた。
「やりなさい、祐斗! リューセーの言うとおり、自分で決着をつけるの! あなたはこのリアス・グレモリーの眷族。私の『
「祐斗くん! 信じてますわよ!」
「……ファイトです!」
「木場さん!」
リアス、朱乃、小猫、アーシアがそれぞれ祐斗にエールを送る。
「あ~あ~。なに感動シーン作ってんですか~? あ~もう聞くだけでお肌がガサついちゃってもうげんか~い! だからとっととテメェ等を切り刻んで、気分爽快になりましょうかねぇ~!」
フリードからしたら聞くに堪えなかったのか、乙女みたいな顔をするも突如狂った笑みを見せる。アイツもアイツで実に不愉快だ。
構えるフリードを見た祐斗は、急に魔剣を天に向かって翳そうとする。
「――僕は剣になる」
そう言いながら瞑目し、何かを集中するように呟く。
「僕の魂と融合した同志たちよ、一緒に超えよう。あのとき果たせなかった想いを、願いを、今!」
その直後、翳している魔剣から聖と魔の力が吹き荒れる。
「そして部長や仲間たちの剣となる!
神々しい輝きと禍々しいオーラが一つとなり、魔剣へと吸収されていく。
「――『
………おいおい祐斗の奴、とんでもない事を仕出かしたな。
聖と魔の融合は本来ありえない事象だ。
「聖魔剣だと!? ありえない! 反発しあう二つの要素が交じり合うなど、そんなことある筈がないのだ!」
外道と言えど、研究者のバルパーも俺と同じ反応だったのか、あり得ないと叫んでいる。あの反応は当然だ。
まあアイツと違って融合出来た理由は分かる。
そんな中、バルパーとフリードに近づこうとしてる祐斗の隣にゼノヴィアがいつのまにか歩いていた。
「リアス・グレモリーの『
「だと思いたいね」
「ならば共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」
「ッ! 良いのかい?」
ゼノヴィアの台詞が予想外だったのか、祐斗は目を見開いて彼女を見る。
「もはやアレは聖剣であって聖剣ではない。異形の剣だ」
ゼノヴィアの言うとおりだ。聖剣は本来フリードのような外道が使える物じゃない。
俺が内心頷いてると、ゼノヴィアは持ってる『
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
ゼノヴィアが右手を真っ直ぐ突き出しながら言霊を発すると、途端に空間が歪んだ。歪みの中心に手を入れて何かを探り、何かを掴むと一気に引き出そうとする。
引き出したものは一本の聖なるオーラを放つ剣。
………おいおい、ゼノヴィアが持ってるあの剣はまさか。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する! 聖剣デュランダル!」
やっぱりデュランダルだったか。あれはエクスカリバーに並ぶ、この世の全てを切り刻むと謂われてる有名な伝説の聖剣だ。
まさかゼノヴィアがデュランダルを持っていたなんて予想外もいいところだ。
「バカな! 私の研究ではデュランダルを扱える領域まで達してないぞ!」
「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!」
これにはバルパーだけでなく、コカビエルも驚きを隠せない様子だ。俺はてっきり、
それにしてもコカビエルがデュランダルを見た途端に驚愕するとは……。ひょっとしたら爺さんと何かあったかもしれないな。
「生憎私は、
うん。イリナと違って混じり気のないオーラだったから、俺はてっきり完全なエクスカリバーの使い手だと思い込んでたよ。
「完全な適正者!? 真の聖剣使いだと言うのか!」
今までの人工的な聖剣使いとは違い、元から聖剣に選ばれた者であった事に驚くバルパー。
「
あ、やっぱり未熟だったか。そりゃそうだ。
いくらデュランダルの使い手と言っても、たった十代の彼女が完全に扱えるわけがない。
加えてあの聖剣はエクスカリバー以上に凄く扱い辛い超じゃじゃ馬だ。どんなに資質があろうとも、デュランダルはそう簡単には扱えない。
「そんなのアリですかぁぁぁ!?」
フリードが叫んで持ってるエクスカリバーを使う。恐らく枝分かれした透明の剣をゼノヴィアに放ったと思う。
しかしゼノヴィアはたった一度の横薙ぎをしただけで、透明化していた聖剣エクスカリバーが砕いて姿を現させた。
「うそっ!? ここにきてのチョー展開!」
「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にはならない!」
再度デュランダルを振るう為に翳し、フリードに斬撃をやろうとするゼノヴィア。
だがフリードは即座に
「クソッタレが! そんな設定いらねぇんだよォォ!」
「そんな剣で!」
跳躍してるフリードの背後から祐斗が現れた。
空中で祐斗の聖魔剣とフリードの聖剣の斬り合いが始まる。両者共にかなりのスピードで斬り合っており――
「僕たちの想いは勝てない!」
バキィィンッ!!
「折れたぁ!?」
ついに聖剣エクスカリバーが聖魔剣によって折れてしまった。
「ぐっ、マジですか……! この俺様が、クソ悪魔如きに! ざけんがっ!」
「――見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」
祐斗は聖剣を砕いた勢いでフリードを斬り払った。見事だよ、祐斗。
さて、お次は――
「何と言うことだ! 聖と魔の融合など理論上は!」
あそこで尻餅をついて怯えてるバルパーの番だ。
奴の処断は祐斗に任せるが、その前にある事をやっておくか。
俺がゼノヴィアとイリナと戦った時、『
自分の研究でしか聖剣を扱う事が出来ないと思いあがってる
「バルパー・ガリレイ! 覚悟を――」
「待て祐斗」
「っ! リューセー先輩!?」
バルパーに剣を向けてる祐斗に俺がすぐに割って入った。突然の俺の登場に祐斗が驚いている。
「勘違いするな。別にコイツを俺が処断する訳じゃない」
「では何故?」
「な~に、コイツにはちょっと――」
「そうか、分かったぞ!」
俺がバルパーの方を見ると、奴は何か判明したような顔をして立ち上がった。
「聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく! つまり、魔王だけではなく、神も――」
不味い! アイツ、祐斗の聖魔剣を見てあの思考に至りやがった!
リアス達に知られては不味いと思った俺は即座に奴の口を――
ドスッ!
塞ごうとしたが突如、バルパーの胸部から手が生えてきた。
「がっ!」
『っ!』
思いもよらぬ展開にリアス達は驚愕して言葉を失っている。
バルパーを突き刺してるあの手は――
「はいはいお爺さ~ん。それを口に出すのはご法度ですよ~」
漸く姿を現したエリーだ。
エリーに手を抜かれたバルパーは口から血の塊を吐きながらうつ伏せに倒れる。
「な、何の、真似だ、エリー……!?」
殺されるのは予想外だったのか、バルパーは首を動かしてエリーを見ている。
「ごめんなさ~い。お爺さんが余計な事を口走ろうとしたから、止めさせてもらいました~」
「き、貴様……!」
ゆったりとした口調で喋るエリーにバルパーは憎らしげに睨むが――
「まあ気付いたご褒美として~……私の正体を教えてあげるわ、バルパー・ガリレイ」
「っ!」
人間から悪魔の姿になったエリーこと、エリガン・アルスランドとなった姿を見た途端に目を見開いた。
「実は私、悪魔でサキュバスのエリガン・アルスランドだったの♪」
「あ、アルスランド、だと……!」
「ウフフフフ。その顔を見ると、私の事は知ってるようね。でも安心して。あなたみたいな
そんな傍迷惑な制約を勝手に決めるな!
「でもあなたって本当に優秀だったのね。まぁ。そこに思考が至ったのも優れている証拠なんでしょうけど。でも口に出した以上消えてもらうわよ、バルパー・ガリレイ」
「ま、待て……! 私を殺せば、コカビエルが黙っては……!」
「残念♪ 今回の計画に元々あなたなんかいなくても良かったの。つまりあなたは初めから――」
「おいエリガン、お前も喋りすぎだ。さっさと始末しろ」
エリーが喋ってる最中、宙に浮いてるコカビエルからの台詞にバルパーは驚愕する。
「こ、コカビエル、貴様……!」
「バルパー。短い間だったが、それなりに楽しかったぞ」
「っ!」
コカビエルの発言にバルパーは完全に斬り捨てられたと絶望する。
「それじゃあ、さよなら。お爺さん♪」
「ま、待て――」
意地汚く命乞いをするバルパーだったが――
ドォン!!
エリーの片手から発した魔力弾が当たって爆散し、影も形も残らず消えてしまった。