「で、結局イリナ達と共同戦線張るのか」
「仕方ないだろう。アイツがコカビエルと組んでる時点で、あの二人に勝てる可能性は万に一つどころか億に一つもない」
エリーと出会った次の休日。俺はイッセーを連れて街を歩いている。
「つーか、部長や生徒会長に言わなくてもいいのか? あの女は
「それはダメだ。もし教えた後にあの二人が警戒するような行動を取ったら、それに感付いたエリーは容赦なく殺すだろう。いかにリアスやソーナが魔王の妹だろうと、エリーにとっては目障りな弱小悪魔しか見てないからな」
あの女は自分より弱い相手は基本的に放置するが、
だからリアス達にはなるべくエリーの存在は伏せておきたい。尤も、エリーがコカビエルと手を組んでる以上、バレるのは時間の問題だが。
「その台詞、部長が聞いたら絶対キレるな」
「だが事実だ。言っちゃ悪いがリアスやソーナは上級悪魔でも、まだまだ『世間知らずなお嬢さま』レベルだし」
この台詞にリアスとソーナが猛抗議しても、『じゃあお前等、コカビエルや指名手配犯のエリーと互角に戦えるのか?』と俺が訊いた途端に言い返せなくなるだろう。
因みに二人に対する罵倒を某シスコン魔王二人が聞いたら、兄の方は納得しても、姉は間違いなく泣きながら強力な魔法を俺にぶっ放してくると思う。後者の魔王は超が付くほど
それを考えた途端に俺は思わず身震いしてしまう。あの魔王少女とガチンコバトルやったら、身体がいくつあっても足りない。
「イッセー、言っとくがリアス達に余計な事は言うなよ? 悪口も含めて」
「分かってるって。さっきのは聞かなかった事に――」
「おいアンタ! どんだけ何様なんだ!? 会長が『世間知らずなお嬢さま』って発言を撤回しやがれ!」
「……リューセー先輩、いかにあなたでも部長に対してその発言はどうかと思います」
「「あ………」」
俺の発言をイッセーだけじゃなく、偶然出くわしたソーナの『
むぅ、まさか二人と遭遇する事になるとは……。すぐに謝罪しても、この二人の事だから根掘り葉掘り訊いてくると思うから……よし。折角だから、少しばかり協力してもらおうか。
――――――――――
「嫌だぁぁぁ! 帰らせてくれぇぇぇぇ!」
悲鳴をあげて逃げようとする匙だが、俺が腕を掴んで離さないでいる。
俺は二人に主の謝罪をした後、聖剣使いの紫藤イリナとゼノヴィアに共同戦線を提案しにいくから同行してくれと話すと、小猫は暫し考え込んで「では一緒にいきます」と言って同行する事になった。
匙は聖剣使いと聞いた途端に顔を青褪めて逃げようとしたので、俺が即座に捕縛したって訳だ。悪魔にとって聖剣は天敵だから、匙の反応は至極当然だ。
「兵藤先輩! なんで俺を巻き込むんですか!? 俺はシトリー眷族の悪魔です! 人間のアンタたちとは関係ねぇ! 関係ねぇぇぇぇ!」
匙は涙を流しながら訴える。
「君の事だ。俺に対する仕返しついでとして、俺達の行動をソーナに報告するつもりだろう? さっき俺が言った悪口も含めて、な。今そんな事をされると不味いから、この際君も俺達と一緒に行動してもらうよ」
「ふざけんなぁぁ! 俺がアンタたちと一緒に行動なんてするわけねぇぇぇぇだろぉぉぉ! そんなことしたら殺される! 俺は会長に殺されるぅぅ!」
おやおや、匙から見たらソーナは余程怖いようだな。
「いくらソーナでもそこまではしないと思うが?」
「アンタは会長と同級生だからそんなこと言えるんだろうよ! 会長はな! 俺ら眷族に対しては厳しくて厳しいんだぞ!」
まぁそうだな。姉が
取り敢えず俺はイッセーの他に、小猫、匙を連れて既にオーラを探知済みであるゼノヴィアと紫藤イリナの下へと向かっている。
「小猫ちゃん。一応訊いておきたいんだけど、木場が聖剣計画の犠牲者で、エクスカリバーに恨みを持ってるのは知ってるよね?」
イッセーの問い掛けに小猫は頷くと、次に俺に質問をしてくる。
「……ですがお二人はどうして急にまた聖剣使いに会おうとするんですか? 昨日は独自に聖剣を破壊すると約束した筈では……?」
「そのつもりだったんだけど、予定変更にした。昨日散歩した時にコカビエルの手下と遭遇して、ソイツが予想外の実力者だったんだよ。あの聖剣使い二人でも太刀打ち出来ないほどにね」
「……そんなに強いんですか?」
「ああ。コカビエルに匹敵する強さだよ」
敢えてエリーの名前は出さずにコカビエル並みの強敵とだけ言っておく。もしエリーが聞いたら端正な顔を顰めながら『あんな奴と一緒にしないで』と抗議すると思うが。
「そんな連中相手じゃイリナとゼノヴィアの死は確定だ。いくら俺が嫌いな教会連中、イリナは幼馴染でもあるから死なせたくはない」
無論イリナだけでなく、教会の信徒であるゼノヴィアも死んで欲しくはない。妹分のアーシアを手に掛けようとしても、一応
「……この事を部長には?」
「絶対反対されるのが目に見えてるから、後で教えるつもりだ」
「……私が知った時点で――」
「隣町のスイーツ店にある限定スイーツ食べ放題券でどうかな?」
「………………」
リアスに報告しようとする小猫だったが、俺が懐から券を出して見せびらかすと思いっきり凝視する。
今の小猫は物凄く欲しい顔をしながら揺れている。俺が出したこの限定スイーツ券は激レアアイテムに等しく簡単に手に入らない物である上に、小猫と同様にスイーツ好きなリアスや朱乃も物凄く欲しがっている代物だ。
何で俺がそんな物を持っているのかと言うと、オカマのローズさんから貰ったからだ。なんでも隣町のスイーツ店はローズさんの知り合いが経営してるらしく、その人がローズさんに定期的に渡してるそうだ。
最初はどう言う知り合いなんだと聞いたが、ローズさん曰く『お菓子作りの基礎を教えた子』らしい。どんな経緯でそうなったのかは知らないけど。
とまあ、ローズさんのお蔭で余った食べ放題券を今回は貰う事が出来たって訳だ。
「どうする小猫? コレが欲しくないかな?」
「……わ、私は部長の眷族で……」
俺の誘惑を何とか耐えようとする小猫はー―
「じゃあ食べ放題券をもう一枚で手を打とうか。これで二回行けるぞ?」
「……交渉成立です」
更なる誘惑でアッサリと敗北し、受け取ってしまった。
「ちょ、ちょっと塔城さん! 悪魔が人間に買収されてどうすんの!?」
「流石は兄貴だ。小猫ちゃんの弱点を知り尽くしてるぜ」
突っ込む匙と感心するイッセー。
知り尽くしてるも何も、小猫がスイーツ好きである事は前に知ったからな。
「じゃあ小猫。それを受け取ってしまった以上、暫くの間は黙ってような」
「……分かりました」
了承する小猫を見た俺は次に匙の方を見る。
「そして匙、君も黙ってもらう代わりに――」
「お、俺は買収なんてされませんからね! 俺は誇り高いシトリー眷族で――」
「偶々入手したソーナの水着写真を後ほどあげるよ」
「兵藤先輩! 俺は会長に何も喋りません!」
報酬が自分の想い人、じゃなくて想い悪魔の写真が手に入ると分かった瞬間、匙はあっさりと陥落した。
因みにソーナの水着写真については、写真部の誰かが水泳授業をしてるソーナを隠し撮りした後、密かに駒王学園に売られていた物だ。尤も、その写真はソーナが即座に没収後に処分し、写真部の部員は停学処分をくらったが。
写真騒動が収まった後、俺は先生の手伝いで視聴覚室に教材の持ち運びをした際、偶然にもソーナが回収した筈の水着写真が一枚見つけた。その時は後でソーナに渡しておこうと思っていたが、先生の手伝いや行事やイッセーの修行等で色々あり過ぎた為、完全に忘れてしまって今に至る。
今更俺が返したところでソーナに何言われるか分からないし、この際だから何かあった時に使おうと思って保管していた。
んで、匙がソーナに惚れてるのをこの前生徒会室へ伺った時に知ったから、どのタイミングでやろうかと考えていたので、この機会に報酬として渡す事にした訳だ。
「何だよ匙、小猫ちゃんの事をどうこう言える立場じゃねぇだろ」
「ほ、ほっとけ! 悪魔は欲望に忠実なんだよ!」
匙の言い分に小猫がうんうんと頷いてる。
確かに二人は悪魔だから、欲は人間以上に忠実だ。
取り敢えず小猫と匙を自分の主に報告しない約束をさせたから、これで少しばかり時間を稼げる。
そうこうしてる内に対象のオーラ二つが近くに止まっていたので、俺達は交差点を曲がると――
「えー、迷える子羊にお恵みを~」
「天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉ~~」
路頭で祈りを捧げて物乞い行為をしてると言う、何とも情けない姿を見せてるイリナとゼノヴィアがいたのであった。
あの光景に通り過ぎる人々も奇異な視線を向けている始末だ。
「………なぁ兄貴。何か思ったより簡単に交渉出来そうじゃねぇか?」
「………みたいだな。ちょっと俺一人で行ってくるから、イッセー達はここで待っててくれ」
呆れてるイッセーと呆然としてる小猫と匙に言った俺は、物乞いをしてる二人の前を通ろうとする。
「「っ!」」
俺がチラッと見て目が会った瞬間、イリナとゼノヴィアは揃ってひもじそうな視線を送っていた。
これが昨日俺と戦った二人とは思えないほどの変わりようだ。見てて段々哀れに思うよ。
「………はぁっ。ご飯を食べたかったら俺に付いてこい。俺の知り合いの店でも良いならな」
そう言った直後、二人はあっさり了承し俺に付いてくるのであった。
教会の上層部は完全に人選を誤ったな。
知らないとは言え、イリナとゼノヴィアは再び畏れ多い事をやらかしちゃってます。