暗殺聖闘士   作:挫梛道

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今回の予習。
 
【ドクツルダケ(毒鶴茸)】
ハラタケ目テングダケ科テングダケ属の、日本国内では最も危険な部類に入る毒キノコ。
食べた者は死ぬ!
 



学園祭の時間

 

「いや…いや…きゃ…きゃああああああぁあ~~~~っ!!?」

                  

その日、椚ヶ丘学園中等部旧校舎に、絹を引き裂いたかの様な痴女(ビッチ)の悲鳴が響き渡った。

 

 

「ビッチ先生?!」

「大丈夫…かよ?」

「ハァ…ハァ…」

「何だか凄く、エロっぽいんですけど!?」

顔を赤らめ、息絶え絶えなイリーナの顔を、E組の面々が心配気な顔で覗き込む。

そんなイリーナの着いている机の上には、一杯の漬け麺が。

 

「しょ…触手…」

「「「はぃ?」」」

「一口啜った瞬間に、麺が触手の様に蠢いて纏わり憑いて…着ている衣服が全て剥ぎ取られ、その触手(めん)に身体中を蹂躙される様な…そんな幻視(イメージ)に襲われたわ…」

「はぁ?!」「なっ…!?」「ぉゎっふ?!」

その台詞に、ある者は呆れ返り、ある者は顔を赤くして声を詰まらせ、また ある者は、彼女の言葉を脳内で忠実に再現したのか、思わず下腹部を押さえて前屈みとなる。

 

「ケケケ…どーよ、ビッチ先生?

会心の一品だぜぃ?」

「ふ、ふん…!まぁ、ガキのイベントで出す料理ってなら、問題無いレベルじゃないの?」

それを作った村松拓哉シェフが どや顔で感想を求めると、イリーナも素直な表現で無いながらも、認める様な発言を口にした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

椚ヶ丘学園祭。

中等部と高等部が共同して行う、学園でも年内最大級イベントと言って良い、秋の行事の1つ。

学園の外の一般人も相手とする、別名・商業祭とも謳われる、学生が切り盛りするとは思えない そのガチな商売戦の実績は、学園卒業後の就職活動でも立派にアピール出来る程な物。

それ故に、中高問わず生徒達は皆、必死に商売をする。

今年の…特に最近のE組の行動力に、「E組、また何か、やっちまうんでね?」と妙な期待をする者も…特に、蔑む対象から ある意味、畏怖の存在と見る様になった3年生は兎も角、体育祭での活躍を見た1年生2年生は、そう見る者も少なくは無く。

そして そんな期待に応えるべく…か、どうかは知らないが、E組が選んだ出し物は飲食系。

発案・殺せんせー、調理を自宅がラーメン屋を経営している村松が執り行う事となった、『どんぐり漬け麺』なる品を看板メニューとした飲食店だった。

その祭、数人の男子生徒が『メイド喫茶風にしようぜ!』とアイデアを出したのだが、それは女子達により物理的阻止されたのは、別の話。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「食材の殆どが自給自足ってのは、本当に良いよね~。」

「応。あのタコの言われる儘、ドングリ集めて挽いてみた粉も、想像以上に面白い味だったしな。」

「山(ホーム)の強み、でさね~♪」

店の場合、その単品価格の上限が300円と制限されている中で、旧校舎の在る裏山からの材料調達。

それは町(そと)で金を払って仕入れるより、安価なのは勿論、質も良く。

それにより、スープ等の、どうしても外から取り寄せないと為らない材料に、予算を贅沢に回せる事となり、

 

「この麺、ラーメンより漬け麺向きだな。

それに そっちのが、スープも少なく出来て、経費も浮くぜ。」

 

最初の試作品を作った時の、料理長自らの感想で、方向性も確定。

そして肝心な その味も、最初は『所詮はガキの料理』とか『世界中の美食は食べ尽くした』とか言いながら名乗り出た、イリーナの冒頭の反応で察しの通り。

更には…

「「いや~、大漁大漁♪」」

「ただいま~♪」

釣り竿を持った響と杉野が、プールでの戦果である山女魚、岩魚、追河に手長蝦等を、大量に盛った笊を持っている倉橋と共に登場。

そして、

「殺せんせー。言われた通り、適当に木の実とか獲ってきたよー。」

「食べても大丈夫かどうか、チェックしてねー。」

「こっちのキノコも、鑑定よろしく~♪

毒キノコだったら、教えてよね?

責任持って、俺が"処理"するからさ~♪」

「「「「「お前は それを、どうやって処理しようとしている??!」」」」」

渚、茅野、カルマが木の実に果実、山菜等を拾ってきて、メインである漬け麺以外のメニューにも、幅の広がりを見せる。

 

「あ、毒キノコは心配無く。

先生が全責任持って、全て美味しく戴きますから。

例えば この毒鶴茸。

毒キノコとして有名ですが、スライスして胡麻油で炒め、オイスターソースを少しだけ垂らすと、実は凄く美味しいんですよ?

普通の人はアウトですけど、先生、毒なんかは全然平気ですから。」

「「「「「「ちぃいっ!!!」」」」」」

「でも本当に真面目な話、間違っても実践しては駄目ですからね!(切実)」

「誰に向かって言っているんだよ?」

「いや、本当に危ないんだよ!

特に今、本小説(コレ)読んでいる人!

コレ食べても、巨大化なんか しないよ?

血を吐いて死んでも、誰も責任取らないからね?(警告!)」

「「「「「「不破さん?!」」」」」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

トンカントンカン…

「…で、E組って、どーよ?」

「いや、流石に今回は、無理ゲーだろ?」

学園祭の外舞台の準備に、校庭で大工仕事をしている、本校舎の生徒達が話す。

 

「食べ物かイベントか…何を出すかは知らないが、E組(あいつら)は あの山の上で店出さなきゃならねーんだぜ?」

「確かに…あの山を登ってくだけの価値の有る品(モン)、出すのは難いよな。」

「それとA組、あの浅野が何やらデッカい爆弾、仕込んでるらしいぜ?」

「マジ?」

「ああ、A組のヤツが言ってたんだけどよ、何でも浅野が…」

「へ~?♪」

「それ、詳しく教えてくれないかな?」

「「「「なぁ!? きっキッ吉っ…」」」」

山の上に在る旧校舎を見上げながらの会話に、その旧校舎の生徒が、それこそ本校舎勢から危険物(ばくだん)みたいな扱いされている約2名が、何時の間にか混ざっていたのは様式美(おやくそく)。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「「「「「「はぁあ!?」」」」」」

「ちゅ…中学生が…」

「スポンサー契約するかよ!!?」

響とカルマが、本校舎生徒から得た情報。

それは、椚ヶ丘に本社を敷く大手飲食チェーン店からドリンクと軽食を無償(タダ)で提供してもらい、更には芸能プロダクションからも、無償で所属のアイドルや お笑いタレントを呼び寄せての、ミニLive的なイベントを計画しているとか。

 

「いや、確かにウチの学園祭って、全国的にも有名らしいからさ、宣伝の効果は抜群だろうけど…」

「中学生相手に、そんな利益度外視な契約したりする?」

とてもじゃないが、中学生が学校行事でプロデュースするとは思えない そのスケールの大きさに、E組の面々は驚きの顔を隠せない。

 

「よっぽどE組(おれたち)に勝ちたいんだろうね~?あの お坊ちゃまわ…」

「吉良君?」

「片岡さんの言う通り、如何に あの浅野だからって、飲食チェーンや芸能プロの偉いさんと簡単に話が出来る訳が無いさ。」

「そーゆー事♪

その お偉いさん達は、浅野本人でなくて その後ろに見える、父親(りじちょうせんせい)と商談している心算なんだよ。」

「カルマ…」

確かに如何に『椚ヶ丘学園祭』の銘を口にしてスポンサーを呼び掛けたとしても、それが響やカルマだったら、『中学生如きが』の一言で一蹴されているだろう。

名門校理事長の御子息の、七光りが有ればこその芸当であるのは明らかだった。

響とカルマの仮説に、生徒達は納得の顔を浮かべた。

 

「それにしても浅野君、『勝ちたい』って、こんな学園祭でも、勝負事を持ち掛ける心算なの?」

「売上(けっか)発表の後、一方的に俺達にドヤ顔したいんだろうよ。」

「俺達は今回は そんな気、一切無いんだけどな…」

「平和に出来ないモンかねぇ?」

「言ってやるなよ~?♪

浅野も必死なんだよ?解ってやりなよ♪」

「今頃あの お坊ちゃん、したり顔で『死角は無い!』とか、『吉良、今回は負けない!』とか思ってるぜ?www」

今回は本当に本校舎勢…A組との勝負云々は考えに無かった響が、それに必死に、そして得意気になっている浅野の顔を思い浮かべ、やや深みの有る黒い笑みを零す。

 

「しかし、それでも負けは負けとなると、悔しいですよね?

吉良君、やはり此処は…」

「応、やはり最初にアイデアに出ていた、メイド喫茶風の店を、もう一度 真剣に考え直すべk(ベキッ!)「「あじゃぱー!」」

「「「吉良ぁ?竹林ぃいーーっ!??」」」

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「分かっては、いたけど…」

「扱いが、ぞんざいだ…」

各々のクラスが着々と準備を進める中、学園のホームページに記載されている学園祭の知らせのサイトを見た、中村達が呟く。

本校舎のクラスは それぞれ事詳細に、特に浅野率いるA組については【人気アイドル、S・S(他)のミニLIVE!あの お笑いタレントも やってくる!無料の軽食、フリードリンク付き】等と大きく載っているのに対して、E組に関しては【中等部3年E組提供・どんぐり漬け麺】の一行が、ページの一番下に小さく書かれているだけ。

 

「S・Sって誰だよ?」

「さあ?」

「余計な詮索は無用よ。

ネタばらし防止の意味の、イニシャル表記なんだから。」

「不破ちゃん?!」

「ヌルフフフフフ…

その1行だけで、充分ですよ。」

「「「「「殺せんせー?」」」」」

そこへ会話に入ってきたのは殺せんせー。

 

「只の『漬け麺』でなく、【どんぐり漬け麺】と、きちんとした名を載せて貰えたのですから。」

「「「「「へ?」」」」

「この【どんぐり漬け麺】と云う、一風変わったネーミングに、興味を持った人は、少なくは無い筈です。

そうなると、そのワードを検索し、やがては三村君作成の特設ページに辿り着き、その中の菅谷君の料理イラストや岡島君の食品写真、漬け麺以外にも狭間さんや神崎さんによる、メニューの紹介文を読む事で、より一層に興味を持ってくれます。」

頭の上に、無数の疑問符を浮かべる中村達に、担任教師は説明を始めた。

 

「そして その人達が、更に周りの人に呼び掛けてくれたら…

ヌルフフフ…わくわくしてきませんか?」

「素材を現地調達なのは、そういう狙いも有った訳か…」

「…でも、そんなに上手く往くかしら?」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

そして学園祭前日、とある場所にて、

 

「へぇ~?【どんぐり漬け麺】…ねぇ?

お~い※※※※、少しだけ、興味が沸いてこねいかぃ?」

「そうだな…

確かに、『山登りだけの価値は有る』と堂々と言い放っているし、足を運んでみるのも、悪くないかもな。」

「…貴方達は、どれだけラーメンが大好きなのですか?」

「この【山(げんち)で採った栗を使ったモンブラン】てのも、美味しそうですぅ!」

「私は【捕れたて川魚の塩焼き】てゆーのが、何だか凄く、琴線に触れたにゃ!!」

「…我、この【柿と枇杷のゼリー】を所望する。」

 

偶然にも、このE組作成のサイトを見つけ、そのメニューを見て話す若い男女達。

この彼等彼女等が この後、物語に関わるかは定かでは無いが、彼等の様に、不特定多数の者達が、学園祭に於けるE組の店に興味を持ったと云うのは、決して誇張では無かった。

 

そして翌日の、11月中旬の土曜日。

 

ドン!ドドン!

 

盛大な花火が打ち上がる中、翌日の日曜日と2日に渡り繰り広げられる、椚ヶ丘学園祭…の商戦争が幕を開けた。

 

 




 
本当は、名前的に有名な(?)、紅天狗茸を持ち出そうと思ったのですが、調べてみたら、思っていた以上に大した毒性じゃない様でしたので…
 
≫≫≫≫ 次回予告(予定)!! ≪≪≪≪
 
次回:暗殺聖闘士『麺の時間(仮)』
乞う御期待!! コメントよろしくです。
 

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