暗殺聖闘士   作:挫梛道

87 / 105
 


死神の時間

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

あれから3日が過ぎた。

                  

「今日もビッチ先生、来てないみたい。」

「やっぱしカルマのアレか?」

「…だね。」

「…原因はカルマ。」

『カルマ君が悪い』

「ちょ…マジ勘弁。」

 

イリーナは あの日から、学校に顔を見せなくなっていた。

                  

クラスの皆は、先日のカルマの『ぼっち先生』発言が原因だと、冗談混じりに言ってはいるが、それが原因で1日だけ無断欠勤する程度なら有り得なくもないと、そこ迄気にはしないだろうが、流石に3日となると、多少は何か遭ったのかと気に掛かる。

                  

「烏間先生も、連絡が取れないって言ってるし。」

その烏間も、3日間連絡取れずとなると、単なる任務放棄だけでなく、想定外のトラブル等、色んな意味での最悪を想定、彼女の後継候補の暗殺者との面接の為、防衛省に戻っている。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「碌でもない連中しか来なくなった…」

殺せんせーを殺る為の暗殺者の面接は、例外無く、学外で行われる。

学校敷地内で それをすると、その時に其の者の匂いを標的(ターゲット)であるタコに覚えられ、以後その殺し屋は、学校に入る前に"手入れ"されてしまうからだ。

この日も数人、面接を執り行ったが、その質は以前に比べて格段に落ちており、正直な話、現状のE組の生徒達にも実力的に劣っている人材ばかり。

 

烏間は焦っていた。

既に地球救済猶予は半年を割っており、しかしながら、絶対的な超生物抹殺の手立ては掴めない。

最近の一番の収穫も、沖縄での『完全防御体制』という引き出しを1つ開けただけ。

更に言えば、政府に暗殺者を仲介してくれる筈のロヴロ・ブロフスキからも、2学期開始直前から、連絡が取れず、それが有能な暗殺者が政府に送られて来ないのも、焦っている理由の1つであった。

 

ヴィヴィヴィヴィヴィヴィ…

「…!」

そんな風に思っている中、烏間のポケットの中のスマホが震える。

取り出してみると、画面には その連絡不通だった人物の名前が表示されていた。

 

「…烏間だ。

ロヴロさん アンタ、1ヶ月近く連絡もせず、一体 何をしてたんだ?」

『…死にかけていた。』

「っ!?」

 

 

ロヴロが言うには、8月末に某国にて世界最高と謂われる殺し屋、死神と遭遇、その場で仕留められ、それから1ヶ月以上、生死の境を彷徨っていたらしい。

更には その間にも、自身の子飼いや提携を結んでいる暗殺者を次々と同様に仕留められたとの事。

何れも皆、同業者故に思う処が有ったのか、或いは標的(ターゲット)でないから、わざわざ殺す必要は無いと判断したのか…命には別状は無かったらしいが。

 

『カラスマ、殺せんせー暗殺の件からは手を退け。

でないと次は、君達が危険だぞ。』

「…つまりは、ソイツがヤツを殺しに動き出した、我々は差し詰め、商売敵とでも云う訳か?」

『その通りだ。

ヤツは千を軽く越す屍を作り上げた怪物。

必要と判断すれば、誰でも殺し、誰でも利用するぞ。

例え それが、女でも中学生でもな!』

                  

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

キーンコーンカーンコーン…

「それじゃあ先生は、入間市に ちょっと用事が有るので。

イリーナ先生について、何か分かれば連絡して下さい。」

 

キィィィィン…

1日の授業が終わると、そう言って わくわく顔で、教室から飛び出して行った殺せんせー。

 

「入間市(サイタマ)に何が有るんだ?」

「そう言えば結構前に、入間市(アッチ)で茶飲み友達が出来たって言ってた様な…」

「随分と自由奔放な国家機密だな!?」

空の彼方に消えて往く殺せんせーを見ながら、生徒達が呟く中、

ガラ…

「あ、烏間先生。」

「皆、席に着いてくれ。」

教室に入ってきたのは、慎重な顔をした烏間。

 

「…先に言えば、イリーナの所在がハッキリした。」

ガタガタッ…

「え?」「まじ?」「ビッチ先生の?!」

この烏間の言葉に、驚き席から立ち上がる生徒達。

 

♪pikohn!

「はぃ?」

そして その次の瞬間、律の本体画面に、メール着信アイコンが表示された。

 

「律、画像を表示してくれ。」

「………………はい。」

pi…

「はぁ?」「びっ…」「えっ!?」「な…」

律が表示した画像に映し出されたのは、手足を拘束されて身体を畳まれ、体のサイズ ギリギリの箱に詰められた、黒のキャミソール姿のイリーナだった。

生徒達は それを見て、言葉を詰まらせる。

 

「烏間先生、これって…!」

矢田が烏間に問い掛けるが、

「ん?…烏間先生?」

その呼び掛けに、教壇に立っている烏間は一瞬、惚けた表情を浮かべると、

「そうか…まだ名乗ってなかったね。」

烏間らしからぬ、優しい笑顔を浮かべて名乗るのだった。

 

 

「僕は、『死神』と呼ばれる殺し屋です。」

 

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

「……………。」

死神。

それは以前、ロヴロが話していた、世界最高の暗殺者の通称。

その名乗りに、1人を除き、驚きの表情と共に、何も言えなく生徒達。

そして その1人も、別の意味合いの驚きの顔を見せる。

 

「手短に言います。

彼女を救いたいなら、決して先生方には何も言わず、君達全員で、メールに指定した場所に来て下さい。」

カッカッ

普段の烏間を知るE組一同からはイメージ出来ない、優しい笑顔とですます口調の烏間…に化けた、死神を名乗る男が、黒板に人の形を書きながら、話を続ける。

 

「まあ、無理強いは しないよ?

その時は彼女の方を、君達に届けるから。

全員に平等に行き渡る様に、きちんと『小分け』にして…ね?」

「「「「………!!」」」」

書いた人型を区分けする様、等分に線を書き足しながら、死神は言う。

その場の全員(1人除く)が確信した。

目の前の この人物こそ、夏休みにロヴロが言っていた、『死神』だと言う事を。

 

ザッ…ガタガタッ…

「ちょっと待てや、固羅?!」

「調子こいて喋ってるけどよ…」

「世界最高だか何だか知らないが、このアウェイど真ん中、俺等にフルボッコされる展開は想定しなかったのか?」

そんな中、寺坂を始めとした数人の男子生徒が、死神を囲み込む。                          

「クス…」

しかし死神は臆する事無く、僅かに口元を緩めると、

「僕が殺し屋になるに辺り、一番最初に磨いたのは、格闘…即ち、正面戦闘の技術(スキル)だった。

何故だか解るかい?」

「!?」

そう言いながら、自身の正面に立つ寺坂…の、隣に立っていた男子生徒の顔面目掛けて、拳を放った。

 

ガシッ

「…そりゃあ普通に考えりゃ、殺し屋には99パー必要無いスキルだろーが、『コイツ』が無いと、残り1パーを殺り損なう…か?」

「「「「吉良!」」」」「「吉良君!」」

そして死神の問い掛けに答えたのは、その拳を掌で受け止めた響。

 

「…正解だよ。君も覚えておくが良い。

世界一の殺し屋を志すなら、必須の技術(スキル)だ!」

…内心、受け止められた事に少しだけ驚くが、その素振りを見せない死神は、続け様に前蹴りを繰り出すが、それを響はギリギリの間合いで躱す。

 

「せぃやぁっ!」

そして今度は、クラスメートの肉眼が、ギリギリ捉えられるスピードの左の正拳を放ち、それを避けられると、

(レベル修正!迸れ!俺の小宇宙(コスモ)!!)

心の中で叫びながら、僅かに…本当に ほんの僅かだけ小宇宙(コスモ)を燃やすと、

「でぇいいぃやっ!!」

バッキィヰッ!

死神の下顎目掛けて、痛烈な右のアッパーカットを炸裂させ、更には素早く背後に回り込むと羽交い締めからの、

「うっぉりゃああぁっ!!」

どん!!

強烈な投げ技…所謂プロレスで云う、ドラゴンスープレックスを放ったのだった。

 

「…ぅがっ!?」

ガタン…

『死神』と云えども『人間』、顎に真下からの殆ど垂直に近い一撃、そして続けて後頭部喰を痛打、この響の『聖闘士』としての一連の攻撃で、脳味噌を派手に揺らされた死神は脳震盪を起こしてダウン、

「おい、ガムテ、ガムテ持って来い!」

「簀巻きだ、簀巻き!!」

直ぐ様 男子生徒達に拘束される。

 

「凄ぇな、吉良は…」

「世界一の殺し屋に勝ったぞ、おい!?」

「いや、まぐれだよ。

偶々良いヤツが、顎にマトモに入っただけだから…」

死神が寺坂組により、全身布テープの木乃伊にされる中、他の生徒達は響に駆け寄り、その勝利を称えるも、当人は謙遜。

まさか、小宇宙(コスモ)を燃やした一撃だと言える筈は無い。

 

「よっし、吉良君!

君に『殺し屋殺し』の称号を与えよう!」

「ん。不破ちゃん、要らないから。」

そして不破の言葉に、真剣に応える響。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

あの後、響達は担任と副担任に連絡。

それを受け、駆け付けて来た殺せんせーと烏間達により、死神は改めて専用具で拘束され、政府の収容施設に送られる事に。

 

「それにしても、噂をすれば…か…」

まさか数時間前、ロヴロから注意を呼び掛けられた その日に事が動き、そして事が済んでいた事に、烏間は苦笑。

 

「それじゃ、皆、行くぞ。」

「「「「「「はい!!」」」」」」

そして烏間指揮の下、E組&殺せんせーは、死神がメールで指定していた、アジトと思われる場所に向かう事になった。

 

「さて…捕らわれのビッチ姫(笑)を助けに行きます…かね?」

 

 




あっと言う間に決着したのは、作者が、響が死神を逃がす場面が浮かばなかったから(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。