暗殺聖闘士   作:挫梛道

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…または『暴露の時間』。
 



命中(ヒット)の時間

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「行くぜ!烏間先生直伝!!」

そう叫びながら、響は左手に巻き付けた鞭を引っ張り、8F到達早々に襲って来た、蜴(カメレオン)と名乗る、鞭使いの殺し屋を自分の間合いに引き寄せ、

「廬山〇龍覇!!」

バキィッ!

「どぴぴぴぴーっ!?」

…と、『別に小宇宙(コスモ)を込めた訳でもない、只単に強烈過ぎる、生身のアッパーカット』を炸裂させた。

尚、一応は拳保護の意味で、対せんせーグローブは着用している。

 

 

「「「よっし!簀巻きだ、簀巻き!!」」」

 

そのアッパーにより失神K.Oとなった男を寺坂達が布テープで雁字搦め、身動きが取れない様にする。

そんな中、

「ちっくしょー、買ったばかりなのに…」

殺し屋との戦闘の途中で、床に脱ぎ捨てていたアロハとTシャツを拾いながら、ボヤく響。

島に到着早々、ホテルのショップに置いてあり、そのデザインを一目見て気に入り、即購入したアロハとTシャツ。

所々が敵の鞭によって、ズタズタに斬り裂かれているアロハとTシャツ。

「ちぃ…やっぱ、今からでも、黄泉比良坂に叩き堕としてやろうか…」

何気に とんでもない台詞を小声でブツブツと言いながら、orzった顔で渋々と、流石に何時迄も上半身真っパな訳にはいかないと、そのボロボロのシャツに響は袖を通す。

チッ…

その際に数名の女子が、普通の人間では聴き取れない程の、小さな舌打ちを洩らすのは、最早 日常。

 

「…いや、俺は今のアッパーも、直接教えた覚えは無いのだが…鷹岡の時のアレを、視て盗んでいたのか?

やはり吉良君の戦闘センスは、このクラスでもNo.1だな…。

…と、言うか、俺は別に、自分の持ち技に名前なんか付けていないのだが…?」

響が口走った「烏間先生直伝」の言葉に対して、そして「廬〇昇龍覇」と云う銘について、真面目に考察する烏間。

 

まあ、「~直伝」云々については、事実、烏間の動きを視て体得した それであり、響が烏間を尊敬してる故の発言。

更に一応、技の名前の元ネタを説明するならば、とある御伽噺に登場する、【脱いだら強い露出狂】が得意とする技である。

 

 

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「くっ…ガキがぁ…」

烏間が本当に どーでも良い事を、真剣に考察している中、布テープでの簀巻き状態で身動きの取れない蜴(カメレオン)が、E組の面々を、響を睨み付ける。

そんな殺し屋に対し、アロハとTシャツの件で、未だ怒り収まらぬ響は

ニョキ…パサパサ…

「カルマぁー、さっきの わさび&からしって、まだある?」

「あるよ~♪」

(((((((あ、悪魔だ!

コイツ等、本当に悪魔だ!!)))))))ドン引くクラスメートの視線を余所に、無慈悲な粛清を執行するのだった。

 

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ホテル8Fは そのフロアが丸ごと、イベント用のコンサートホールになっていた。

9Fに続く階段を目指し、最短ルートとしてホールを中央突破しようとした時、

「…誰か、このホールに やって来ます!!」

自分達が目指していたホール出口の方向から、何者かが近付いてくると言う殺せんせーの言葉に、烏間の指示によって、散り散りに座席の陰に隠れるE組の面々。

そして それから少し後、殺せんせーの言葉通り、ホールのステージ上に、1人の男が姿を現した。                 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「…全部で17人か。

呼吸も若い…殆どが10代半ば…」

「「「「「「…!!」」」」」」

髪の毛を まるで、海胆か剣山かの様に逆立て、ブランド品であろうサマースーツをノーネクタイで着崩し着こなしている男。

そのステージ上に立つ男が、息を殺して客席に潜む心算のE組の面々の人数や特徴を言い当てた。                   

「はっはっは…!こりゃ驚いた!!

ウィルスに やられなかった、動けるヤツ全員で乗り込んで来たってか?」

ばぁん!! ガシャン…

「「「「「!?」」」」」

そう言いながら男は、顔を、身体を前に向けた儘、自分の背後にあるスタンドライトの1つを、拳銃で撃ち抜く。

ホールに木霊する銃声。

殺せんせーや響達の弄りからの、半ギレ状態なイリーナによる、所謂ツッコミ的なソレなら今迄に数度、聞いた事はあった。

しかし、実質、初めて『生』で聴く事になる、本物の殺気混じりの銃声に、一部の生徒が顔を蒼くする。

 

「先、言っとくぞ~?

このホールは完全防音で、この銃はモノホンだ~。

お前等全員、撃ち殺す迄、誰も助けに来ねぇって事だ。」

クルクル…

「お前等、流石に人殺しの準備なんざ、出来てねーだろ?

素直に「参った」して、ボスにゴメンナサイしろや!!」

ばん!!ガシャーン…!!

「…!?」

トリガーガードに指を入れて、クルクルと銃を回しながら降伏を薦める男の後ろ、先程、男が撃ち抜いたライトの隣に設置しているスタンド式のライトが、客席から放たれた銃弾によって、破壊された。

「………!!」

「…外した!? 銃を狙ったのに…!!」

殺せんせーから渡された本物の拳銃。

その銃を撃った速水凛香が、またしてものミスに、無念の表情を浮かべる。

その様を見た、もう1人の(本物の)拳銃を手に持っている千葉龍之介は、この場での追撃はベターとせず、様子見に徹する事となる。

驚いたのはステージに立つ殺し屋である。

 

 

な?実弾…だとぉ!?

しかも、今の発砲音は、ボスの手下の拳銃を奪ってるってか!!

用意してた作戦とは思えんぞ!

俺との遭遇を察知し、急遽、奪った銃での迎撃態勢を整えてたのか!!

…………………………………………。

…最初は超生物を殺る任務だった。

ロヴロの仲介で、政府からのオファーにOKする直前、同内容の仕事を政府以上の額での依頼があったから、そっちに着いた。

…な筈だったのが、何時の間にか、ガキンチョ共の お守りと来たもんだ。

味の悪い仕事になってきたと思っていたが、暗殺の訓練を受けた中学生…ねぇ…

くっくっく…良ーじゃないか…

 

 

「意外と美味しい仕事じゃねぇかよ!!」

カチッ…

口を緩めた男がステージ上の全ての照明のスイッチを入れ、

カッ…

幾多の眩い照明が、ステージ上を照らす。

その光は生徒達が潜む客席側からすれば、逆光となりステージが見辛くなり、

「これじゃあ…」

「…きちんと狙えない!!」

座席の裏から銃を構え、機会を窺っていた千葉と速水が、静かに呟いた。

 

ばぁんっ!! ガィンッ

「へ!?」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

直後、速水の頭の真横を、男が撃った弾丸が通り過ぎた。

 

「うっそ、ウソよっ!…嘘でしょ?」

ステージから、自分を狙い、20㌢にも満たない座席の隙間を正確に射ち抜いてきたプロの技量に、何時ものツンツンとした顔を引き攣らせ、驚きと戸惑いの色を隠せない速水。

 

「あ~、俺は、一度撃ってきた敵の位置は絶対に忘れねぇ。

お前さん、もう 其処から一歩も動かさないぜ~?」

そんな速水に、客席に身を隠しているE組の面々に向け、殺し屋の男が話し出した。

「お前さん達が さっきまで会った奴等は最初(ハナ)からの暗殺専門だがよ、この俺は元傭兵、軍人上がりだ。

この程度の多対一の戦闘なんざ、何度も経験(や)ってんだ。

その経験の中、敵の位置や大まかな情報を把握する術なんかは身に付けてる!

…今時、テメー等 中学生(アマチュア)に遅れを取ってたまるかよおっ!!」

「「「「「…………。」」」」」

威嚇染みた大声で話す殺し屋。

 

「…で・だ、お前さん達、当然、もう一丁の銃も奪ってるんだよなあ?」

2丁の銃を、1人の子供が持つとは思えない…

ならば、もう1人の所持者を特定する為にもと、牽制の意味を込めて、尚更、全員を足止めさせようとする殺し屋だが、

「速水さんは、その儘待機!」

「!」

「な?」

ホールに殺せんせーの声が響いた。

 

「今、君迄撃たなかったのは賢明です、千葉君!

君は まだ、敵に位置を知られていない!

先生が敵を見ながら指揮しますから…此処ぞと言う時まで待つんです!!」

「おいおい…何処から喋っt…

……………………………………………。」

突然の殺せんせーの声に、キョロキョロと辺りを見渡し、声の出所を捜していた殺し屋だが、その所在を知った瞬間、固まってしまう。

ニヤニヤ…

何しろ自分の真正面、客席最前列ど真ん中に、ニヤニヤとドヤ顔を浮かべる、緑と橙の縞模様の球体が、其処に在ったのだから。

 

「…な、何、かぶりつきで見てやがんだ、テメー!!」

ばんばんばんばん!!

余りにも大胆不敵過ぎる殺せんせーに、怒りと驚きの顔で、思わず手にしている拳銃の残りの弾丸を撃ち放つが、その全てをキィンと、金属がぶつかり合う様な甲高い音を立て弾かれてしまう。

 

「ヌルフフフ…無敵無駄無駄無駄ぁっ!!

これこそが、完全無敵形態の本領発揮と言うヤツです。

今の私は、ロンズデーライトよりも硬いですよぉ?」

したり顔の殺せんせー。

…その座席の裏には、この殺ボールを座席に置いた烏間が、凄く複雑な表情を浮かべていた。

 

「本職(プロ)のアナタに、貴方が言う所のアマチュアが挑むんですから、この位の視覚ハンデ位、くれても良いんじゃないですか?…ガストロさん?」

「何だ、俺の事、知ってたのかよ…!?」

ガストロ…

自分の名前を呼ばれた殺し屋…ガストロが殺せんせーに問う。

                  

「ロヴロさんから聴いていた、連絡不通になった、本来なら この沖縄に同行していたかも知れない3人の殺し屋さんの名前は聴いていましたから。

既にグリップさんとスモッグさんが、敵として現れたのだから、最後の1人、ガストロさんも同様にして現れる…

貴方が その殺し屋と想定するのは、当然でしょう?」

「ふぅ…成る程ね。」

殺せんせーの解説に、思わず納得の顔なガストロ。                  

「私としては、さっきの蜴(カメレオン)さんが、最後の1人だったら良かったんですけどねぇ…」

「あんな3流(ザコ)と俺を、間違えてんじゃねぇ!!」

どうやら先程、響が倒した蜴(カメレオン)と云う殺し屋は、ガストロからすれば、大した腕前ではないらしく、自分と間違われた事に、本当に嫌な顔をして怒鳴り散らした。

 

カチャ…

「…でだ、超生物、その状態(ナリ)で、どーやって指揮を執る心算なんだ?あ!?」

回転式(リボルバー)の弾倉に、新たに銃弾を込めながら、新たに問い質すガストロ。

 

「ヌルフフフフフ…

では、木村君、5列左へダッシュ!!」

シュッ…

「!?」

殺せんせーの指示に、木村が素早く動く。

「寺坂君は左、吉田君は右に、それぞれ3列!」

ババッ

続いて寺坂と吉田が動く。

「なっ…?」

まさかの揺さぶりに、戸惑いの顔を見せるガストロ。

 

殺せんせーの指示は、尚も続く。

「死角が出来た!

この隙に茅野さんは2列前進!!」

「カルマ君と不破さん、同時に右8!」

「磯貝君、左に5!!」

ダッ… ヒュッ… バッ… シュッ…

その指示に沿って移動を繰り返すE組の面々。

                  

「シャッフルだとぉ!?

ややこしい真似しやがって!」

生徒達の動きに合わせて、首を左右に振るガストロ。

その顔は、明らかに揺さぶりを嫌がっている。

                  

 

…だが、分かってないな。

指示すればする毎に、ガキ共の名前と位置を、俺に知らせる事に なるんだぜ、超生物?

たった10数人程度、あっと言う間に覚えちまうぜ!!

 

                  

しかしながら、幾多の修羅場を体験したプロの殺し屋は、直ぐに冷静さを取り戻す。

事実、既に動く様に指揮を出した生徒の名前と位置は、完全に頭にインプットされていた。

しかし、

「出席番号14番!右に1つ動いて準備しつつ、その場で待機!」

「え?」

「4番と23番はイスの間から、標的(ターゲット)を撮影!

律さんを通し、ステージの様子を千葉君と速水さんに伝達!」

殺せんせーが、名前以外の本人、或いはE組の生徒でしか、事前に調べてない限りは分からない呼び方で、指示を飛ばす方向にシフトチェンジ。

完全に面食らってしまうガストロ。

 

「ポニーテールは左前列へ前進!!」

「バイク屋さん、左前に2列前進!」

「学級委員の2人、各自1列前進の後、左に4列!」

「バンダナ少年、右斜め前に1列移動!」

「な…な…待てよ、おい…?!」

折角 生徒の名前と位置は覚えたと云うのに、それを活かせない殺せんせーの指示の前に、ガストロは再び冷静さを欠き、少しばかりテンパってしまう。

 

「期末試験ラストの日、竹林君イチオシのメイド喫茶に興味本位で同行してみたら、想像以上に良くて、一緒に行ってた寺坂君共々、ちょっとハマりそうで怖かった人!

3歩進んで2歩下がる!!」

「な、何で知ってんだ、テメー!!」

「このタコ!然り気に俺まで一緒に曝露ってんじゃねー!!」

「てゆーか1列前進で良いだろ!!」

顔を真っ赤にした2人の怒声が響くが、これは序章に過ぎなかった。                 

「本校舎2年の女生徒にラブレターを貰って困った顔をしてた女子!

1列前列の後、右に2列!!」

「な…!?」

「近所のオバチャンに何時も小動物扱いされている人!2列前進!」

「ぅう…」

あの恥ずかしい動画の異種返しの心算か次々と、何故か知ってる生徒達のプライベートの曝露を、指示に盛り込みだしたのだった。

 

「某県の彼女さんと、歯の浮くような甘いトークを毎晩の様に展開している人、2列前進の後に右に4列!」

「放っとけ!!」

「倉橋さんと猫カフェに行って、子猫に頬ずり、思いっきり顔がデレてた普段はツンデレな人!!…は、その場で待機!」

「…待機なら、わざわざ言わなくても良いじゃないの!?」

「街中で、小学生と間違えられて、補導されそうになった人!

2列前進の後、左に5列!」

「うがーっ!!」

「期末テスト、自信満々だったけど、結果散々、涙目で凹んでいた人は3列前進!」

「ちょ…それ、今 言うの?殺すよ?」

「終業式の日、駅前のマ〇ドで、巨乳な店員さんに鼻の下を伸ばしていた3人!

攪乱の為に大きな音を立てて!」

「「や、止めろーっ!!」」

「…後で、殺す!!」

ガンガンガンガン…

多少の…生徒達からすれば とんでもない、おふざけを混ぜながらも、適確な指示を出す殺せんせー。

…尚、響と寺坂に対しての弄りが、他の生徒に比べて、比較的多かったのは、偶然である(?)。

 

「う…うぉお…??」

その指示の前、殺せんせーの思惑通り、ガストロは既に、誰が何処に移動しているのか、何処に誰が居るのか、全く分からなくなってきていた。

 

 

しかも…死角を縫われて、確実にガキ共には距離を詰められている!!

この人数相手に、神風特攻隊宜しくな接近戦にでもなった日にゃ、流石に どうなるか、判ったもんじゃないぞ!?

早く、早く千葉って奴を特定しねーと!!

 

 

緊張からか、じわりと多量の汗が滲み出るガストロの手の中、拳銃が力強く握り締められた。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「…さて、いよいよ狙撃です、千葉君。」

「!!」

「次の先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。」

そして遂に、最後の指揮が、殺せんせーの口から発せられた。

 

「速水さんは状況に合わせ、千葉君の後をフォロー!

敵の行動を封じるのが目標です。」

「!」

ドッドッドッドッ…

2人の心臓が、揃って大型重機のエンジンの如く、高鳴り唸りを揚げる。

未だに、殺せんせー暗殺のミスを引き摺っている2人の緊張とプレッシャーは、既に天元突破していた。

                 

「…と、その前に、表情を表に出さない仕事人な2人に、アドバイスを。」

「「?」」

そんな2人の心境を当然な如く察してか、殺せんせーは話し始める。

「君達2人は今、此の上無く緊張していますね?

先生への狙撃を外した事で、自分達の腕を疑問視している。」

「「……。」」

「…普段から弱音や言い訳を口にしない君達は、「アイツなら大丈夫」「アイツなら何とかしてくれる」と、勝手な信用信頼を押し付けられる事も有ったでしょう。」

「「…………。」」

「…思えば今回の先生暗殺計画、そして今の先生の指示による、トドメ役の抜擢も、そうなのでしょうね。」

「「「「「「!!」」」」」」

この時、この殺せんせーの言葉が、他の生徒達の心にも重く のし掛かる。

確かに、クラスのNo.1、2の銃の遣い手だと云う事で、無意識の内、2人に過剰な期待を込めていた感は否めない。

 

「…大丈夫ですよ、君達2人が全てを背負い込む必要は、全く無い。」

殺せんせーが2人に、そして他の生徒達に話し続ける。

 

「仮に君達2人が外した時は、今度は人も銃もシャッフルして、クラス全員、誰が撃つかも分からない戦術にチェンジします。

…此は、此処に居る皆が、同じ訓練と失敗を経験してるからこそ出来る戦術です。

君達の横には、同じ経験を持った仲間が居ます!

だから…安心して、その引き金を引きなさい。」

「「………!!」」

千葉と速水の脳裏に微笑みながら、或いは其れを照れ隠す様な顰めっ面でエールを送るクラスメートの顔が浮かび上がる。

緊張感の中にも、迷いが消え、覚悟を決めた顔になる2人。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

 

『ハッ!御高説御苦労様ってか!!』

 

 

殺せんせーが千葉と速水の緊張を溶き解してた時間、それは皮肉にも、ガストロにも冷静さを取り戻させる事となっていた。

 

 

あの席…出席番号14番だったか…

アイツだけ、準備待機とやらから1人だけ全然動いてねぇ…

そのクセ、呼吸は…何を企んでやがる?

やたら荒いぜ?

…当然、他の場所も警戒はするが、あの近辺だっきゃ、出た瞬間に仕留められる様、狙いを付けておく!!

 

 

そう考え、ガストロは狙撃手・千葉と思われる人物が潜んでいる席に、特にマークを強める。

「では、行きますよ…!」

「千葉さん、分析の結果、狙うのは『あのポイント』です。」

「OK、律!」

律の指示に、千葉の前髪に隠れた目が鋭く光った時、

「出席番号14番!立って狙撃!!」

殺せんせーの号令の下、客席から1つの銃をステージに向けて構えた人影が現れた。

「ビンゴぉ!!」

ばん!

その瞬間、コンサートホール鳴り響いた銃声。

予感的中!!…と笑みを浮かべたガストロが放った弾丸が、寸分の狂いも無く、事前にマークしていた席から現れた人影の頭部、眉間の部分を撃ち抜いた。

…が、

「に、人形ぅ!?」

ガストロが『千葉』と思っていた其れは、7Fで倒した見張りの男の服やカーテン、対せんせーエアガン等で作られた人形だった。

「ふぅ~、音立てずに作るのって、大変だったぜ!」

人形の影で、『出席番号14番』菅谷創介が小さく呟く。

 

BANG!

「な…!?」

直後、菅谷とは左右逆サイドに忍んでいた千葉が、座席を盾に見立て、ステージに向けて発砲。

完全に虚を突かれ、一瞬、動揺の顔を見せるガストロだったが、

「ひゃは……当たってねーし…」

自分の身が無事なのを認識して、

「残念だったな!

これで2人目も居場所が…」

ガッゴォンッ!!!!

「うげぇっ!?」

千葉に銃口を向けたと同時に、ステージ天井に吊られていた照明のフレームが、勢い良く降りてきて、ガストロの背中を打ち付ける。

「…照明の吊り金具を狙った…だと?」

ガストロの目に写ったのは、千葉が狙ったと思われる、ステージの天井、照明を吊すワイヤーを抑える金具が撃ち抜かれ、破壊された痕。

 

2本のワイヤーによって天井下、ステージ上空で支えられていた照明は、その内1本の抑えが失う事により宙ぶらりん。

その自重に耐えきれず、振り子の様に勢い良くステージに降下、その軌道上に居たガストロに直撃したのだった。

それは、その結果を導いた律の計算、そして確実に指示されたポイントを狙い通りに命中(ヒット)させた、千葉の勝利だった。

 

「が…キぃ…」

推定200㌔オーバーの照明の直撃を、背中から後頭部に受け、意識が飛びそうなガストロ。

それでも最後の抵抗とばかりに、銃口を千葉に向ける。

 

BANG!!

「!?」

しかし、その銃は、また別方向から跳んで来た、銃弾によって弾かれる。

「ふぅ~っ…やっと、当たったぁ…」

そう言っているのは、硝煙が上る銃を構え、安堵の溜め息を零す速水。

 

バタ…

この後、撃つ手を失い、目を虚ろにしたガストロが床に崩れ落ちるのに、時間は掛からなかった。

 

ダダッ…

「よっしゃ!!」

「ソッコー簀巻きだぜ!!」

直後、業務用布テープを手にした寺坂達がステージに駆け上り、ガストロを拘束。

 

「千葉、ナイスだったぞ!」

「あぁ…サンキュ!」

磯貝が千葉を労えば、

「凛香ぁ~っ!!凛香凛香凛香ぁ~!!」

「ちょ…不破っ!?」

速水は大泣きの不破に、思いっきり抱きつかれる。

 

「全く…肝を冷やしたぞ…。

よくも まあ、こんな危険な戦いをやらせたもんだな?」

1つの戦いが終わった後の、安心の笑顔を見せる生徒達を見て、烏間が殺せんせーに話し掛ける。

 

「ヌルフフフフフ…烏間先生、どんな人間にも、殻を破り、大きく成長する機会が何度かあります。」

「………………………。」

殺せんせーは言う。

しかし、1人だけでは決して、そのチャンスを活かし切れない。

集中力を引き出す強敵、経験を分かつ事の出来る仲間に恵まれなければ…と。

 

「だからこそ私は…それを用意出来る教師でありたい。

生徒の成長の瞬間を見逃さず、高い壁を、良い仲間を…その時に直ぐ、揃えてあげたいのです。」

「はぁ…何て教育だ…。」

呆れながらも、生徒達の顔を見て納得してしまう烏間。

特に…互いの勝利を呼んだ健闘を讃え合うかの様に、本物の銃を手にした儘、曲げた腕をガシッと重ねる千葉龍之介と速水凛香の顔を見て。

 

「やったな!」

「…うん!!」

命懸けの撃ち合いをしたばかりだにも係わらず、2人の はにかみながらの笑顔は、戦う前よりも、むしろ中学生だった。

 

 




≫≫≫≫≫≫次回予告!!≪≪≪≪≪≪
 
次回:暗殺聖闘士『黒幕の時間(仮)』
乞う御期待!!
 
※①最初に出てきた蜴(カメレオン)は、原作13巻に出てきた殺し屋と同一です。
※②次回予告のサブタイは あくまでも予定であり、決定ではありません。

コメントよろしくです。
 

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