暗殺聖闘士   作:挫梛道

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今回の序盤の片岡さんの件は、単行本を見て浮かびました。




カルマの時間

「…よっと。」

遭遇した殺し屋の退路を防ぐ際に、手にしていた家具(ぶき)を片付けるE組の面々。

烏間と響のコンビネーションにより倒れ、気絶しているスモッグを、寺坂達が持参していた布テープで簀巻き状態に拘束、テーブルの下に隠す。                  

「しっかし片岡さん、いざって時は その壺、本当に鈍器にしてたの?」

「え?」

「その壺、高そうだよね~?

もしもマジに、それを凶器にして割ったりした時は、一体 誰が弁償する事になってたんだろね~?♪」

「え?えぇっ?!」

スモッグの退路を塞いだ際、広間に飾られてあった、如何にも御宝芸術品と云う感のある壺を、手にして構えていた片岡。

その壺を元の場所に戻している時に、その件について響とカルマに不意に弄られ、若干 狼狽えてしまう。

 

「…頭の上、凛とした顔で「こっち来たら殴るわよ」とばかりに高く構えた画面(えづら)、怖い位に似合ってた。

流石はイケメグ。」

更には其処に、速水も便乗。

 

「お願い凜香…言わないで…(泣)」

あの時の勇姿(笑)、片岡本人も多少の自覚はあった様だ。

「「「そこに痺れるぅ!憧れるぅっ!!」」」

「うっさい!!(怒)」

 

 

片岡達が、そんな やり取りをしていた中、

「烏間先生、大丈夫ですか?」

「…駄目だ、普通に歩く振りをするだけで精一杯だ。

まともに戦闘が出来る状態まで、30分で回復出来るかどうか、分からん…」

ガクガクガク…

膝が嗤い、まともに立つ事すら儘ならず、磯貝に肩を借りて体を支えられる烏間が、普段の彼からは想像出来ない様な、『らしくない』弱音を漏らす。

 

「いやいや、象を倒すってゆーガス浴びて歩けるのが、間違ってるって…」

「ん。烏間先生も、充分に人外だよね…」

しかし、その『弱さ』を見ても、生徒達の烏間の評価は墜ちる処か逆に、その非常識振りに敬意を評する。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「「「「「「…………。」」」」」」

無言の儘、先へと歩くE組の面々。

現在地は3F。

目標である10Fは、まだまだ先。

しかし、この時点でイリーナは自分達を先に進める為に1Fで別れ、烏間も実質、戦闘不能(リタイア)。

担任のタコに至っては、今回は最初から戦力外。

 

イリーナ、スモッグ、烏間…

此処までの短い道中に、経験と知識を持ち合わせた大人(プロ)の技量を、敵味方問わずに垣間見てきた生徒達。

 

『自分達の力量だけで、勝てるのか…!?』

 

この先にも、そんな技量(スキル)を持ったプロが必ず待ち構えている筈…。

頼るべき指導者が不在の中、約数名を除いては、この先の展開に不安が勝り、その重圧で心が折れそうになっていた。

 

「大丈夫ですよ。」

「「「「「「殺せんせー…?」」」」」」

そんな心情を察してか、殺せんせーが重苦しい空気の中、口を開いた。

 

「大丈夫、普段の体育で君達が学んだ事を しっかりとやっていれば、そうそう恐れる敵は居ない。

寧ろ これは本当の『夏休み』をする、最高の機会と受け取るべきです。」

「「「「「は?『夏休み』?」」」」」

夏休み…此処で何故、その言葉が出るのか解らず、『?』な顔をする生徒達。                   

「先生と生徒とは、決して馴れ合いの関係では ありません。

そして夏休みとは、その先生の保護が及ばない場所で、自律性を養う舞台でも あるのです。

大丈夫、君達なら、クリア出来ます。

この【暗殺夏休み】を!!」

 

この殺せんせーの教師としての特徴に、体育だけは容赦が無いという一面がある。

英語に数学…一般教科の方は手厚く丁寧に教え指導するが、体を使う授業となると、途端に自分自身…マッハのタコを基準とした、人外な無茶振りを生徒達に課す。

学校での体育の授業の受け持ちを、烏間に交代させられた唯一にして最大の理由が それであり、【暗殺夏休み】と銘打った この課題にも、その一面が何気に顔を出した。

 

しかし彼等に今更、残された制限時間で引き返すという選択肢は既に有る筈も無く、

「…よし、皆、行くぞ!」

「「「「「「「「応っ!!」」」」」」」」

磯貝の一言で、改めて覚悟を硬めた暗殺者の卵達は、引率者不在で不安を全面に出していた顔を引き締め、前に進んで行った。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

5F。

外側の壁が全面ガラス張りの、周囲の光景を見渡せる天望回廊。

 

「!!」

先の反省からか、用心しながら一行の先頭に立って、建物の内側の壁を沿う様に歩いていた寺坂が、その先に居る人影に いち早く気付き歩みを止め、全員で陰から様子を伺う。

 

夏の沖縄でも、其れ程迄の違和を感じさせない薄手のコートを細身の身体に羽織る、セミロングの金髪の、目付きの鋭い男。

ガラスの壁に背中を預け、見た目30歳前後、明らかに外国人である その男は静かに佇んでいた。

 

「…………………………………。」

 

 

「…おいおい、滅っ茶苦茶、堂々と立ってやがるぜ?」

無言で不動の男を見ながら、小声で話す生徒達。

「あ、あの雰囲気ってさ…」

「…ん。いい加減、私達でも見分けが付く様になったわよね。」

「そんな目利き、要らないよ~!」

男が隠す事無く、身体から放つ異様で独特の存在感。

それは どう見ても、「殺る」側の人間の 『それ』だった。

 

狭くて見通しの良い展望通路では、奇襲も出来ず、数の利も活かせない。

 

 

(ちぃ…せめて、実弾の銃が有れば…)

 

 

烏間が、そう考えていた その時…

ビシッ!!

「「「「「「「!!?」」」」」」」

男の手が触れていたガラスが、まるで銃弾を撃ち込まれたかの如く、大きく放射状にヒビ割れた。

 

「…つまらぬ!!」

パラ…

男がガラスから手を離すと、その掌の中から、小さなガラスの破片が零れ落ちる。

 

「足音を聞く限り…『手強い』と感じられる者が1人も居らぬ。

精鋭部隊出身の引率教師も居る筈なのぬ…だ。」

そう言うと男は、通路の陰に隠れている生徒達の方に顔を向け指差し、

「どうやら、スモッグのガスにでも、やられた様だぬ。

半ば相打ちぬと云った処かぬ。

そんな所に隠れていても、仕方無いぬ。

さあ、出て来いぬ。」

姿を見せろとばかり、チョイチョイと指で招く。

 

ぞろっ…

「おぃ…手で窓にヒビ入れたぞ?」

「な…んちゅー握力だよ?」

そのアピールに観念したのか、男の前に姿を見せる、緊張した面持ちのE組の面々。                  

ガラスを掌…握力だけで壊す事で見せ付けられた、男の戦闘力に驚愕する生徒達。

だが、実は今の時点で、彼等は別の事柄で戦慄していた。

心の中で、彼等は一言一句、全く同じ事を考え呟く。

 

 

い、いや、そんな事より…

 

怖くて誰も、言えないけど…

 

つまり、その…何だ…

 

 

「ね、おじさん、゙ぬ゙多くね?」

 

 

……!!!?

い、言ったーーーーーーーーーーっ!!

カルマ、言ったーーーーーーーーっ!!

良かった!カルマが居てくれて、本っ当~に良かった!!

 

 

…そうなのである。

この男、話す語尾に、やたらどぬ゙を附けていたのであった。

そして それを言っている殺し屋に臆する事無く、遠慮無しの平常運転、涼しい顔で指摘するカルマ。

 

「ぬ?」

一瞬、戸惑いの表情を、男は見せる。

「…゙ぬ゙を附けると、サムライっぽくなると小耳に挟んだぬ。

カッコ良さそうだから、試してみたぬのだが…」

どうやら、残念な外国人な様だ。

 

「ん~、それも確かに侍っぽいけどさ…」

「ぬぬ?」

そんな中に、口を出す男が1人。

吉良響である。

「どーせ侍目指すならさ、語尾に゙ぬ゙よりも、『~候(そうろう)』だぜ?」

(((((((き、吉良ぁーーーーーっ!!

嘘、教えてんなーーーっ!!)))))))

この余計過ぎる一言に、カルマを除く、皆が心の中で突っ込んだ。

 

 

「そ、そうなぬか?少年よ。

それは良い事を聞いたぬ…で候。

…ならば、今後は ゙ぬ゙に『~候』を組み込んでいくで候。」

ポッキポキ…

指の関節をポキポキと鳴らしながら、響の出鱈目話?を真に受け、早速 喋り方を変えた男は、不敵に笑いながら話す。

 

「素手…それが、アナタの暗殺の道具ですか…」

「ふ…こう見えて、需要があるで候。

特に身体検査に引っかからぬ利点は、かなり大きいで候。」

男は殺せんせーに、自分の武器である掌を向けて話し続ける。

「獲物に近付き様、擦れ違い様の一瞬に頸椎を一捻りぬ。

その気になれば、頭蓋骨も簡単に握り潰せるで候。」

ぞくり…

掌を ゆっくりと閉じ、何かをグシャリと握り潰すかの様なリアクションと共に言う その台詞に、数人の生徒が鳥肌を立てる。

 

「…成る程、貴方がロヴロさんが連絡が取れなくなったと言っていた殺し屋の1人、【握り(グリップ)】さん…ですね?」

「…如何にもぬ!…で、候!!」

そして殺せんせーの質問に、男…グリップは、あっさりと肯で返した。

 

 

「ふ…皮肉な物で候。」

「「「「「「「???」」」」」」」

そしてグリップは、己の掌を見ながら、更に言葉を続ける。

 

「この人殺しの為の力…鍛えれば鍛える程、暗殺以外にも試してみたくなるで候。

即ち…」

「…?」

そう言って、グリップは烏間に目を向け、

「即ち、闘い(バトル)。

強敵との真剣勝負、殺し合いで候。

…しかし、ガッカリぬ。

お目当てが その様では、試すも何も無いで候。」

磯貝に肩を借りている、とても まともに動ける状態ではない烏間を見たグリップは、心底ガッカリな表情を浮かべる。

                  

「ふぅ…」

そして、グリップは溜め息を1つ吐き、

「雑魚ばかり、1人で殺るのも面倒で候。

ボスと仲間呼んで、皆殺しするで候。」

「「「「「なっ…!?」」」」」

Pipi…

懐からガラケーを取り出しす。

 

しかし、

「ねぇ、おじさんぬ?」

ビキィッ!!

その手にしたガラケーは、発信される前に、何の前振り無しにカルマが振りかざした観葉植物の鉢に弾かれ、外壁のガラスに叩き付けられると そのガラス毎ボロボロに破壊された。

「プロの殺し屋っつっても、意外と普っ通なんだね~?♪

ガラスや頭蓋骨なら、俺だって ほら?

簡単に割れるよ?」

「…………………。」

そう言って、先程グリップが作ったよりも、はるかに大きな放射状のヒビを見せつけるカルマ。

 

「…てゆーか、速攻で仲間呼んじゃうってさ、もしかして厨坊とタイマン張るのも怖い人?♪」

この何時もの人を おちょくっているかの様な笑みを浮かべるカルマの台詞…直訳すれば、「タイマン張ろうぜ♪」である。

「「「「「!!」」」」

クラスメートもカルマの無法っぷりには慣れていた心算の筈だった。

つい先程の゙ぬ゙の指摘なら まだしも、まさかのプロの殺し屋相手に これには、流石に驚いてしまう。

「止せ、赤羽君、無謀d「ストーップ!烏間先生。」

「な、何を…」

そしてカルマを止めようとした烏間を、殺せんせーが更に止めに入る。

 

「顎が引けています。」

「…!?」

「以前の彼なら、余裕全開で顎を突き出して、相手を見下す構えをしていました。

でも、今は違います。

口と性格の悪さは相変わらずですが…」

「…?」

カルマの その目は真っ直ぐ油断無く、正面から相手の姿を観察していた。

期末テスト以来、あまり目立った行動が無かったカルマ。

しかし、その時の惨敗から、しっかりと学ぶべきは学んでいた。

 

「…良いだろうぬ。試してやるで候!!」

その姿勢を見たグリップが、上着を脱ぎ捨て、戦闘…格闘の構えを取る。

カルマも同時に、自己流の喧嘩の構えを取った。

 

「…参るで、候!!」

右手を突き出し、間合いを詰めるべくダッシュするグリップ。

高い大人(プロ)の壁を相手に、カルマの闘いが始まった。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「シャアシャアシャシャッシャシャアシャアシャシャッシャシャア!!」 

「うひゃっ!!」

カルマに迫る、殺意に満ちた掌。

頭蓋骨を握り潰す程の握力。

一度捕まったら、それだけでThe・End。

一見、明らかに無理ゲーだが、立場が逆なだけで、実は普段から、その無理ゲーをしていたカルマ。

グリップの息を吐かせぬ連続攻撃を赤髪の少年は、その何れも冷静に対処し、紙一重で躱すか捌くかをしていた。

 

「すっげ…カルマの野郎、全部避けてやがるぜ…」

「烏間先生…それに、吉良君の防御テクニック…」

「…でっすよね~?」

殺せんせーの解説に、響も頷く。

 

暗殺者にとって、防御技術の優先度は低く、授業で教えられてはいなかった。

しかし そんな中、カルマは授業の中の模擬戦…烏間が生徒のナイフを避ける動き、特に、響と烏間の攻防を、他の生徒が単なる自分達よりレベルの高い手合いとしか観てない中、しっかりと目で視て盗み、身に付けていた。                  

「…吉良君もだが、赤羽君も このE組の中では、やはり戦闘の才能が頭1つ飛び抜けているな…」

「才能って…俺、何年も掛けての練習の上で、漸く得たテクなんだぜ?

見ただけで、あんだけ動けるかぁ?

地味に凹むんですけど…orz」

ぽん…

「吉良っち、どんまい…」

夏休みに入る前辺りから、「君付け」から呼び名を変えた岡野が、少しだけ落ち込んでいる響の肩を軽く ぽんと叩く。

「ぅう…ありがとう、岡野さん…(T_T)

(…てか、カルマのヤロー、マジに同時期同期間に聖闘士の修行してたら、俺より強かったんでね?)」

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「シャア!シャア!シャアッ!!」

「おぉっと!?」

グリップの猛攻の前に、防戦一方のカルマの顔が徐々に、目に見えて遊びが抜け、真剣な面持ちになっていく。

 

 

避けれるけど、こっちから攻め込んだら捕まるからな~…

 

 

ぴたり…

そんなカルマの心情を読み取ったか、グリップの手と足が止まる。

 

「…どうしたぬ?攻撃してこぬば、永久に この先には進めないで候。」

「どうだかな~?♪」

グリップの問い掛けに、カルマは何時もの涼し気な顔で応える。

 

「俺がアンタを足止め、引きつけるだけ引きつけといて、その隙に皆が一気に抜ける一手もアリかと思ったんだけど?」

「ぅ…ぬ…」

一気に顔を険しくするグリップ。

 

ボキボキ…

「…安心してよ。

そんなセコい真似は しない。」

拳を鳴らしながら、カルマは そう言うと

「今度は俺から行くよ。

アンタに合わせて正々堂々…。

素手のタイマンで決着を着けてやるよ。」

「あ・の・ヤ・ロ…」

「吉良、抑えろ!」

響が烏間との模擬戦の際に時折見せる、空手の構えを取る。

 

「皆も…特に吉良っち?手出しは一切、無用だよ?まあ、見てなよ…

この おじさんぬ、「あっ」と言う間に片付けてやるからさ♪」

「「「「「カルマ…」」」」」

「「「カルマ君…」」」

「ま、不味いわ…

カルマ君の、他人を見下す あの態度…

『運気』が激減するフラグだわ…」

「不破ちゃん?」

カルマの余裕な発言に、様々な意味合いで、慎重な顔になるE組の面々。

 

「良い顔で候…少年戦士ぬ。

貴様となら やれそうぬ。

暗殺稼業では決して味わう事が出来ない、フェアな真剣勝負がな!」

「ん…じゃ、闘ろうか…!!」

そう言うと、互いに数歩 後退して一定の距離を空ける両者。

 

ダッ…

先に動いたのはカルマ。

「…!!

カルマ!飛び蹴り系の技はNGだ!!

着地した瞬間に捕まるぞ!!」

「…!OK!!吉良っち!」

その動きから、何を仕掛けるのか先読みした響がアドバイス。

バキッ

「ぐぬぅ…!?」

そして最初は、本当に飛び蹴りを狙っていたカルマが、その助言に従い、ローキックに移行。

やはり飛び蹴りが来ると読んでいたグリップは、反応が やや遅れ、拗ねに下段蹴りのヒットを許してしまう。

ビシィッ!!

そして間髪入れず、同じ箇所を狙った、連続のローキック。

「くっ…」

この攻めが予想以上に効いたのか、グリップは距離を空けると片膝を着き、蹴りを受けた拗ねを庇うかの様に抑える。

 

「チャンス!」

ダッ…

その隙を逃がさない様、カルマはダッシュで距離を縮める。

「烏間先生直伝!!(嘘)

シャイニング・ウィザーd…

(ブッシュッ…)え?」

「な…?」「カルマ!」「カルマ君!?」

片膝を着いているグリップに対し、カルマが狙ったのは、烏間がスモッグを倒した時に繰り出した、強烈な膝蹴り。

だが、その膝がグリップに届く前に、その手に密かに忍ばせていた、小型ガス銃…

スモッグが烏間に使用したのと同種の麻酔ガスが、カルマの身体全体を包み込んだ。

 

ふら…

「一丁上がりで候。」

ガシッ

朦朧とした顔で、床に倒れ伏せようとするカルマの頭を掴み、グリップはダウンを許さない。

 

「長引きそうだったぬでぬ、スモッグの麻酔ガスを試してみる事にしたで候。」

「き…汚ぇ…!んなモン隠し持っといて、何がフェアな真剣勝負なんだよ!?」

グイ…

「俺は一度も、素手だけだとは、言ってはいないで候。」

吉田の台詞にも、グリップは悪びれる事もなく、カルマの頭部を掴み直すと 自分の頭よりも高く持ち上げ、

「良いか、『拘る事に拘り過ぎない』。

それもまた、この仕事を長くやっていく秘訣で候。」

E組の生徒達に勝ち誇った顔を向けて、口説を始める。

「ふっ…至近距離からのガス噴射。

予期していなければ、絶対に防げないでそうr(ブシュッ)…な…に…ぬ…!??」

そう言いながら、再びカルマの方に顔を向けた瞬間、グリップの顔面をガス噴射が襲う。

何が起きたのか解らない顔で、カルマの頭から手を離し、体勢を崩すグリップ。

 

ニョキ…パサ…

「いや~、奇遇だねぇ~?

2人共、同じ事を考えてたなんてさ♪」

口元をハンカチで覆い、【悪魔の笑み(デビルスマイル)】を零すカルマ。

その手には、ガス噴射の小型銃があった。

 

ガクガクガクガク…

「ば…馬鹿ぬ?何故、お前がソイツを持っているで候…?」

身体をガクガクと震わせながら、まるで何か、信じられない物を見た様な顔をするグリップ。

烏間も そうだったが、象すら一瞬で倒す筈の麻酔ガスの直撃を本当に浴びても尚、意識を失う処か、満身創痍ながらグリップは倒れない。

「しかも…何故、お前は俺のガスを吸ってないで候!?」

                  

半ば、パニック状態のグリップは

「ぬぬぬぬぬぅぅぅう!!」

ベルトのバックルに仕込んでいた小型ナイフを取り出し、カルマに飛び掛かるが、麻酔ガスの影響で、既に常人より僅かに早く動ける程度の攻撃は、暗殺教室の生徒には容易く見切られ、

ミシッ

逆に脇固めの体勢に捕らえられてしまう。

                  

「お~い、寺坂ぁ、吉良っちぃ…

何みてんだよ?早く早くぅ♪

ガムテと人数使わないと、こんな化けモンなんか勝てないって!」

「へーへー…」「やれやれだぜ…」

はあ…

名指しされた2人は呆れ顔で溜め息1つ零すと

チョイチョイ…

「そもそも、オメーが素手でのタイマンの約束なんてよ…」

ダダダダッ

「一番無いよな!」

他の皆にもハンドサインで合図し、

ずずんっ

「ふぎゃっ!!」

一斉にグリップの背中に飛び乗り、完全に身動き取れなくする。                  

「おい、ガムテガムテ!」

「ほれよ!!」

「皆、縛る時も、気を緩めるな…

ソイツの怪力は、麻痺してても要注意だ。

特に掌は掴まれるから、絶対に触れない様に!」

「「「「「はーい!!」」」」「うーす!」 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「成る程な…あのオッサンを縛る時、パクっていた訳か…」

「全く、オメーらしいっちゃ、オメーらしいが…」

「まぁ~ね~、未使用だったからね♪…にしてもコレ、1回限りの使い捨てなのが勿体無い位に便利だよね。」

「はぁ…お前ってヤツわ…」

実は中広間の戦闘の後、スモッグを縛る際に、ちゃっかりと未使用だったガス銃を失敬していたカルマに、皆がジト目で呆れかえる。

 

 

「くっ…何故だ…少年戦士よ…」

「ん?」

両肩から両腕、そして両手首に両脚と、布テープで完全に拘束されたグリップが、カルマに話し掛ける。

「俺のガス攻撃…お前は読んでいたから吸わなかったぬ…

俺は、素手しか見せてなかったぬのに、何故…?」

そんなグリップに対してカルマは

「当然っしょ?♪『素手以外』の全部の攻撃を警戒してたよ。」

爽やかな笑顔で答えた。

 

「おじさんぬが素手のバトルをしたかったってのは本心だろうけど、あの状況で素手に固執し続ける様じゃ、それはプロじゃないし。」

「………………………………。」

自分達を止める為なら、手段は選ばない…

自分も同じ立場なら、そうしていた…

カルマはグリップに、自分が考えてたいた事を明かすと、目の前で腰を降ろし、

「アンタのプロフェッショナル意識を信じてたんだよ。

信じたからこそ、警戒出来た。」

暗殺者としては格上であり、先輩である この男に、敬意を持った顔を見せる。

 

「…大した奴で候、少年戦士よ。

負けはしたが、楽しい時間だったぬ。」

その顔を見た暗殺者は、最後に多少の泥が憑いたが、目の前の少年との普段から望んでいた真剣勝負を過ごした瞬間を思い出し、満足の顔を見せるのだった。

 

 

大きな敗北を知らなかった少年は、期末テストで初めて敗者となった時、身を以て知った。

『敗者も自分と同じく、色々と考えて生きている』…と。

それに気付いた者は必然的に、勝負の場で、相手を見くびらない様になる。

敵は一体、何を考えているか、何を狙っているのか…

敵の能力や事情を きちんと見る様になる。

「…そうして敵に対し、敬意を持って警戒出来る人の事を…戦場では『隙が無い』と言うのですよ。

1度の敗北(チャンス)を、見事に受け入れ糧として、実に大きく成長した。

彼は将来、きっと大物になりますよ。」

「ん…。カルマ君、ちょっと変わったと思うよ、良い感じに。」

完全防御形態の殺せんせーの、改められたカルマ評に、その殺ボールを手に持った、渚が頷いた。

                 

グリップと何やら話しているカルマ。

明らかに人として、一回り成長した、そんなカルマを暖かい目で見つめる殺せんせーと渚だったが…

「え?何言っての?

楽しくなるの、これからじゃん?」

ニョキ…パタパタ…

赤髪の少年は、頭から角、背中から羽根を生やすと共に、邪(さわやか)な笑みを浮かべ、懐から2本のチューブを取り出した。                  

「……………………………………。」

『おろし生わさび』と『ねり和からし』…

そう銘が書き込まれた2本のチューブを見て、グリップの顔が固まる。

 

「な…何だぬ?それは?」

何となく、先の未来が見えてきたが、それでも僅かな望みを賭け、カルマに それは何かと問い掛けるグリップだが、

「ん?わさび&からしぃ♪

今からコレ、おじさんぬの鼻ん中に ねじ込むの♪」

「何ぬぅ!?」

「さっきまでは きっちり警戒してたけど、こんだけ拘束してたら警戒もクソも、ありゃしないよね?♪」

「ノォオオォォォォオォ~っ!!」

返って来たのは、予想通りの無慈悲な答えだった。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「寺坂ぁ、鞄の中の鼻フック取って♪」

「応…って、何で こんなの有んだよ?」

ガシッ…

身動きが取れないのを良い事に、フックで鼻の穴を大きく広げられ、固定された処、グリップに辛苦な薬味の詰まったチューブを持って近付く2人の男。

言わずもがな、E組最凶コンビである。

 

「さあ、おじさんぬ…」

「今こそ、プロの意地を見せる時だぜwww…で候!」

「よ、止すぬ!止めるで候ぉっ!!」

必死のグリップの訴えにも、2人の少年は、「あ~、聞こえんな?」とばかりに、左右の鼻の穴に それぞれ、チューブを突き刺すと、

「「せーっの!!」」

ぐっじゅううっ!!

「ぬもがああああああああああぁっ…!!」

ガラス張りの回廊に、阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡った。

その様を見て、ある者はドン引き、ある者は苦笑、ある者は大笑い、そして ある者は、まるで自分が その責め苦を受けているかの如く、鼻を被い隠す。

 

「殺せんせー、カルマ君、特に何も変わってなくない?」

「…ええ。

将来が思いやられますよ、あの2人…」

 

 




≫≫≫≫≫≫次回予告!!≪≪≪≪≪≪
 
「何だか知らんが奴等、怒ってるな?」
「当たり前だ~っ!!」

次回:暗殺聖闘士『怒る時間(仮)』
乞う御期待!!
 

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