「ヌ~ルフフ~フ~♪」
「キャー!揺れる揺れる!!
ちょっとカラスマ、もっと静かに登れないの!?」
「……(怒)」
「やれやれだな…。
ウチの先生、動けるの3人中、たった1人かよ…」
鼻歌交じりな完全防御形態の殺せんせー。
…が入れられた、手提げ紐の付いたビニール袋を持つイリーナ。
…を背負った烏間が、顰めっ面で崖をよじ登る。
「…てゆーかさあ、ビッチ先生、何で着いて来てる訳?」
「…さあ?」
「しかも、あ~んな格好で…」
「た、確かに…(笑)」
「うがーっ!!」
「茅野ちゃ~ん、少し落ち着なよ~?♪
気持ちは解るけd(ガンッ!)ふぎゃっ!?」
「「「カ、カルマっ!?」」」
場所を選ばない暗殺を可能にする為には、基礎となる筋力とバランス感覚が必要不可欠だと、訓練の一環として、以前から学校の裏山で実施していた崖登り(クライミング)。
その成果なのか、先程迄イリーナが「絶対に無理!」と言っていた崖も、此の場の生徒達は難無く登りきっていた。
その後、崖を登っている烏間に負ぶられ、大きく開いた胸元を これ見よがしと強調するかの様な紅(あか)のワンピースドレスを身に着けたイリーナの事を、上から見下ろしながら話すのだった。
「成る程…フライボードを普通に使いこなしていたのも、そのバランス感覚を養った成果ですか。」
思わず感心な殺せんせー。
「むきーっ!!そんなの どーでも良いから早く登んなさいよ!
いい加減、掴まる腕が疲れてきたわ!
無駄に筋肉が付いたら どーすんのよ?!」
「…………(怒)(怒)」
「「「「「「「……………」」」」」」」
「マジに、何しに来たの?ビッチ先生?」
「留守番とか、仲間外れみたいで、何か嫌なんだとよ…」
「ケッ…足手まといに ならなきゃ良いけどなっ!!」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
ザザッ…
漸く烏間達、教師3人も崖の上に到着。
茂みに隠れるE組チーム。
裏勝手口の電子ロックを律が解鍵し、同時に監視カメラも自分達が映らない様に操作を始める。
「凄いね、律!」
「いえ、渚さん、このホテルの管理システムは多系統に分かれていて、全ての設備を私1人で掌握するのは不可能です。」
そんなコスプレ娘、律's EYEによる、侵入ルートの最終確認、解説が始まった。
曰わく、フロントが宿泊客に渡す、各階毎のエレベーター専用のカードキーを持ってない自分達は、階段を上るしか最上階を目指す術が無い。
そして その階段も、各階毎にバラバラに配置されており、目的の最上階迄は長い距離を歩かなくてはならない。
「テレビ局みたいな構造だな?」
律から送られたデータ…スマホ画面に表示された、ホテルの内部マップを見た千葉が呟く。
「千葉君、どーゆー意味?」
「テレビ局ってさ、テロリストなんかに占拠されにくい様、複雑な設計に なってるらしい。」
「こりゃ、悪い宿泊客が愛用する訳だ…」
その説明に、菅谷も納得。
「よし、時間が無い、行くぞ。
状況に応じて指示をだすから、決して見逃さない様に。」
カチャ…
烏間が扉を開き、建物内部に。
そして生徒達も、足音を殺して後に続く。
ついにE組チームによる侵入ミッション今が、本格的にスタートした。
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裏口からの短い廊下を歩いた先にある扉、それを開けばロビーに繋がる。
僅かに開けたドアから中を伺った烏間の目に映ったのは、多数の一般?客と、それに負けない位の人数の、燕尾服を着たホテルスタッフ、そして黒スーツを着た警備員らしき男達。
「チィ…」
思わず生徒達に気付かれない程の、静かな舌打ちをする烏間。
このロビーを抜けなければ、上には行けない。
当然、警備のチェックも、最も厳しいエリアだろう…。
目的の非常階段は すぐ傍だが、予想以上に警備が多い。
生徒全員が、誰の目にも触れずに通過するのは、まず無理だ。
人数を絞って潜入…いや、駄目だ!
敵も複数の可能性が高い。
例え今の彼等でも、2人3人では、危険過ぎる。
俺1人では、作戦の選択肢が更に狭まれてしまう…どうする?
…侵入早々、最大の難関だ。
「何を悩んでんのよ?
普通に通れば良いじゃない。」
「!?」
((((((( はぁ?! )))))))))
烏間が あれこれ思案している中、イリーナが口を開く。
「ビッチ先生、何言ってんのよ!?」
「状況判断も出来ねーのかよ!」
「あんだけの数の警備、どうやって…」
そんなイリーナに、小声で総突っ込みを入れる生徒達。
そんな生徒を後目に、ロビーの奥に設置されているグランドピアノに目を向けたイリーナは、
「だ・か・ら…普通に…よ♪」
すぅっ…
「「「「「「「「!??」」」」」」」
あくまでも自然体な、軽い足踏みで1人、ロビーに足を踏み入れた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
ふらふら…
ロビーに入った瞬間、千鳥足で歩き始めるイリーナ。
「「「「おぉ…♪」」」」
金の髪と紅のドレス。
その互いを美しく引き立て合う目立つ容姿は、直ぐに一般客やスタッフ達の目に止まる。
どん…
「あんっ?」「うぉっ!?」
そんなスタッフの1人に目を付けると、然り気無く よろめく様に その男の胸元に肩を軽く ぶつけ、
「あ…ご、ごめんなさいぃっ、部屋の お酒で悪酔いしちゃったみたい…」
顔を まるで本当に酒に酔ったかの様に赤らめウィンクしながら微笑みかけ、金髪の美女は黒スーツの男に謝る。
「あ…お…お気にならさず お客様…」
…ずっきゅーん!!
そのイリーナの仕草がクリティカルヒットしたのか、ぶつかられた男は僅かに顔を赤くすると隠す事無く鼻の下を伸ばし、謝られる処か、「寧ろ、ありがとう!」と礼を言いた気な、下卑た顔で応対。
「来週、あのピアノを弾かせて頂くの。
少し早入りして、観光してたの。」
そう言って、イリーナはロビー奥のピアノを指差す。
「あぁ、ピアニストの方でしたか。」
全く疑う気配の無い黒スーツに、イリーナは一瞬、黒い笑みを零し、
「酔い覚ましついでにね、ピアノの調律をチェックしておきたいのだけど、よろしくて?」
そう言うと、答えを聞く前にピアノの前の椅子に座る。
「ちょっとだけ、弾かせて下さいね?」
そして目の前のスタッフだけでなく、その一連の やり取りを見いてて、いや、ロビーに入った時から、何気なく自身に視線を浴びせていた他のスタッフ達も、手招きして呼び寄せたイリーナは、
「貴方達も聴いて欲しいわ。
そして、審査を。」
「審査…ですか?」
「そう…私の事、よく審査して。
そして駄目な処が在ったら、遠慮無く叱って下さい…。」
赤くした頬を更に紅に染め、何かを求める様な悩ましい視線でスタッフに訴えかけると、そっと…指先を鍵盤の上に置いた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
ロビーに響き渡る、ショパン作曲の『幻想即興曲』。
突然 鳴り始めた旋律に、ロビーに居た者全てがピアノに…イリーナに注目する。
「め…滅茶苦茶 上手ぇ…!?」
E組チームも、烏間と殺せんせーを除いては驚きの表情を見せる。
色気の見せ方を熟知した暗殺者が、身体全体を大きく使い、妖しく艶やかに音を奏で魅せ、どんな視線をも惹き付ける。
正しく其れは"音色"と呼ぶに相応しい。
そして完全に其の場の全ての者が、イリーナ以外視界に映らなくなった時、
今の内に、行きなさい…
アイコンタクトで指示、生徒達を非常階段へと導くのだった。
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「ほっ…全員無事に、ロビー突破!」
非常階段に最後の1人、不破が辿り着き、安堵の言葉を吐く。
「それにしても、凄ぇな、ビッチ先生。」「ん。ピアノ弾けるなんて、一言も言ってなかったよね。」
「あの間を駆け抜ける間、私達も、ついつい目を奪われて、アッチに顔、向けちゃってたしね。」
「ああ、不覚にも、『何て綺麗な先生なんだ』って思ってしまったぜ。
ちぃっ、あの痴女相手に…黒歴史だ。」
「吉良ぁ、お前なあ…(笑)」
褒めてるのかディスってるのか分からない響に、磯貝が苦笑する。
「普段の態度から、彼女を甘く見るな。」
「烏間先生?」
そんな生徒達に、烏間がフォロー。
優れた殺し屋程、万(よろず)に通ず。
イリーナ程のクラスとなると、潜入暗殺に役立つ技能なら、何でも身に付けていて当然だと。
「良いか、忘れるな…
普段から君達に会話術(コミュニケーション)を教えているのは、世界でも1、2を競う、トップクラスの色仕掛け(ハニートラップ)の達人だと云う事を…。」
「「「「「「「は、はい!」」」」」」」
生徒達は、改めてプロの大人の技術の威力を知る。
「う…む…悔しいけどカッコ良い…。
巨乳なのに惚れざるを得ない…」
「巨乳を憎む茅野っちが心を開いた!!」
「ヌルフフフ…私が動けなくても、全く心配無いですねぇ。」
「ん~、寧ろ、要らない子?♪」
「にゅやーっ!?」
殺せんせーは動けなくても、プロ揃いのE組の先生は頼もしい。
これならイケる!
其の場に居る生徒達が、素直に思った。
…だが、彼等は此の後 直ぐに、思い知る事となる。
先に待ち構える敵も また、手強いプロの大人だと云う事を…
≫≫≫≫≫≫次回予告!!≪≪≪≪≪≪
次回:暗殺聖闘士『閃光魔術の時間(仮)』
乞う御期待!!