暗殺聖闘士   作:挫梛道

62 / 105

忘れている人も居ますでしょうが、この物語の主人公は聖闘士です。




小宇宙(コスモ)の時間

E組生徒達による、【殺せんせー沖縄暗殺計画】は失敗に終わった。

皆が、防衛省の烏間でさえ、想定の遙か外だった『殺せんせー完全防御形態』。

発動させた後は、暫く身動き出来ないという欠点も計算に入れての、今回の暗殺回避は、まだ中学生である彼等の心を折るには、十分に足りる物だった。

 

彼等の殆どが失意に包まれ、ホテルに戻る中、未だ其の場に残っている2人…否、3人。

                  

「「………………………………。」」

千葉、速水、律であった。

尤も、律に関しては、自身の移動手段はモバイル律としての電子機器内移動しか持ってないだけなのだが。

                  

「…律、今回の記録、録れてる?」

「はい。可能な限りのハイスピード撮影で、今回の暗殺の一部始終を。」

「そ…」

「…………………………………。

俺さ…撃った瞬間、分かっちゃったよ。

『ミスった』『この弾じゃ殺れない』ってさ…。」

「断定は出来ません。

あの形態に移行するのに必要な、正確な時間は不明確です。しかし…」

Pi PiPi…

「千葉さんの射撃が、あと0.5秒早いか、速水さんの射撃が、あと30㌢程、殺せんせーに近かったなら、弾の存在に気付かれる前に殺せていた可能性が、確かに50㌫程存在します。」

律は、高速演算での結果を話す。

 

「「……………。」」 

2人とも自信はあった。

リハーサルは勿論、本番より不安定な足場での練習も欠かさず、そして それでも外す事も無くなっていた。

しかし、『今(ここ)しか無い!!』…という大事な瞬間、絶対に外してはいけないという重圧(プレッシャー)の前に…

「いざ、あの瞬間…て、なった時、指先が一瞬硬直して視界も狭くなった。」

「…私も」

                  

とぼとぼ…

「…はぁ…こんなにも、練習と違うなんてね…」

「全く…だ…」

そして2人も項垂れながら、ホテルを目指し、暗殺の舞台を後にした。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「…いや、しっかし、疲れたわ~…」

「おぅ…もぅ、何もする気力無ぇよ…」

誰からか召集を受けた訳ではない、しかし全員が一度、ホテルの自室に戻り着替えた後にロビーに集まると、テーブル席に腰掛けて ぐったりしていた。               

「ンなんだよテメー等、1回外しただけで凹みやがってよ…

何時もの失敗の内の1つとカウント出来ねーのかよ!?

こんなの、100回1000回の失敗の内の1つに過ぎねーだろうがよ!」

「…寺坂、お前って本当に偶には良い事 言うよな?」

「100年…いや、1000年に1回な。」

「喧しいわ!!」

今日に限って…いや、今日だからこそ、普段以上に悔しいのだが、それを承知で、そして己の中の悔しさも払拭する意味で、声を荒げる寺坂に、響とイトナも、それを察して弄りに走る。

 

「「「「「「「……………。」」」」」」

「ん…無反応…?」

「イトナ、外したな…」

「ケッ、滑ってんじゃねーよ!」

普段ならば、この手の やり取りにはバカ受けはしなくとも、多少なりの苦笑失笑が有るのだが、今回は尚更、静寂を呼び込んでしまう。

                  

「…吉良君、少し、良いかな?」

「…ん?片岡さん?磯貝?」

そんな時、学級委員の2人が、響の前に やってきた。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「おら、お前等!コッチ注目!!

磯貝が お前等に話があるってよ!」

「「「「「「「「??」」」」」」」」

 

ぐったりと項垂れる皆に、寺坂が大声を張り上げ呼び掛ける。

何事だと、寺坂の隣に立っている磯貝に視線を集中させる、E組の面々。

 

 

「…………………………………。

皆、とりあえず、今日は お疲れさん。」

 

 

磯貝が皆に話し出す前、片岡と2人で、寺坂達と話している響に、皆を自分に注目する様に呼び掛けて欲しいと頼んでいた。

自分自身が まだ吹っ切れてない心境で、弱々しく声を掛けた処で、聞き入る者は そう居ないだろう。

ならば、少なくとも、見た感じは落ち込んでいる素振りを見せていない、クラスのムードメーカーの1人である響に、最初に呼び掛けて貰うのがベター、その後は学級委員として、皆をフォローしていこうと云う判断だった。

しかし、その時に響と一緒のテーブル席に居た寺坂が、その役目を買って出る。

その大声も さることながら、何時も通りの荒っぽい口調は結果、皆の注目を集めるのに成功した。

 

「…その、何て言ったら良いか…

兎に角、何時までも引きずってないでさ、気持ち、切り替えて行こう!な?」

「「「「「「……………。」」」」」」

 

 

((((((お前もな…))))))

 

そんな言葉を言う磯貝を見た、クラス全員の心が一致する。

自分自身も最高に凹んでいるのに、それを無理矢理に奮い立たせて明るい表情を作って、皆に元気を出させる様に努める磯貝。

 

E組の全員が知っている。

本人は その発言が、クラスの纏め役である学級委員だから、その使命感、責任感からの行動だと言うだろう。

自分自身が そう思っており、信じて疑ってないだろう。

しかし、それは違う。

元々 磯貝は学級委員とか関係無く、『そーゆーヤツ』なのだ。

そんなヤツだからこそ、皆は、彼に対して こう思うのだ。

『イケメンだ!!』…と。

 

「…確かに、何時までも落ち込んでいても、しゃーないよな?」

「ん…殺れるだけは殺ったんだし、明日は1日中、遊んでやるんだい!!」

「そーそー、明日こそ水着の ちゃんねーをじっくり鑑賞するんだ!

どんなに疲れてても、全力で鼻血出してやるz(ガンッ!!)い、痛いっ!?」

 

その後も続く、不器用ながらも、その皆の為の必死なフォローの言葉は伝わり、前原の一言が きっかけとなり、皆も口々に喋り始める。

 

「とりあえず、明日は泳ぐぜ!!」

「いや、今、脱ぐ必要性は無いからね!!」

(((((ちぃっ!!)))))

ホテル到着早々に、そのデザインを一目気に入って購入、改めて着込んでいたアロハシャツを脱ごうとする響を岡野が慌てて止めに入り、直後に数人の女子の密かな舌打ちが鳴る。

因みに岡野(…と片岡)が何時もの様に響に向けて拳銃(エアガン)を投げつけなかったのは、既に岡島の顔面に炸裂させた後で、手持ちが無かったからである。

 

わいわいギャーギャー…

何時の間にか、お通夜の様な雰囲気は完全に消え失せ、ホテルの屋外ロビーは中学生達の陽気な喋り場へと化していた。        

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

ガタッ…

「さて…と、駄喋(だべ)るのも飽きてきたし、そろそろ部屋に戻りますかねぇ?」

中村が そう言って立ち上がる。

ヨロッ

「え…!?」

だが その次の瞬間、バランスを崩して その場に倒れ込んでしまう。

「おいおい、中村ちゃん、大丈夫かよ?」

「う~、吉良っち~、肩を貸しちゃくれんかねぇ…?

ちぃ~とも体が動かんくなったんよ…」

「中村ちゃん…!?って、ひどい熱…!!」

 

急に顔色が悪くなり、異常とも云える程の高熱を出す中村に、響の顔も険しくなる。

しかし、異変を起こしたのは、中村だけではなかった。

 

「いや、もう想像しただけで、鼻血ぶ…」

ボトボト…

「え…え゙ぇ…?」

「お、岡島ぁ!!」

岡島も突然、決して多少の卑猥な妄想程度で出る訳がない、尋常ではない鼻血を流し始める。

 

中村と岡島だけではない、症状は人それぞれだが、クラスの1/3が、突如として身体に異常を来した様に倒れ、蹲りだした。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「おい、フロント!この島の病院は何処にある?!」

生徒達の異変を見た烏間が、フロントに問い質すが、返ってきた答えは、小さな診療所が在るには有るが、当直医は夜になると余所の島に帰り、翌日に その診療所が開くのは、朝の10時以降になるとの事だった。

 

 

♪♪~♪♪♪ ♪♪♪~♪…

「!!」

そんな時、烏間のスマホに着信が入る。

画面に『非通知設定』と表示されている、その着信に、烏間が応対。

 

『やぁ、こんばんは、先生…

可愛い生徒が、随分と苦しそうだねぇ?』

「…何者だ、貴様?

まさか、これは お前の仕業か?」

スマホの向こう側、此方の状況を判っているかのような、ボイスチェンジャーを使って話してくる人物に、烏間が問い掛ける。

 

『クッククク…最近の先生は、察しが良いねぇ…』

電話の向こうの人物は言う。

生徒達の不調の原因は、人工的に作り出したウィルス。

感染力こそ低いが、一度感染したら最後、潜伏期間や初期症状に個人差はあるが、1週間で全身の細胞がグズグズになって死に至る。

治療薬(ワクチン)も独自開発(オリジナル)の一種のみで、現在は自分達の手元に在る物だけだと言う。

 

『…渡すのが面倒だから、其方が直接、取りに来てくれないか?

場所は…其処から山頂を見てみな…』

烏間が言われた通り、山頂を見る。

「…あの、ホテルか?」

『その通り。手土産を忘れるなよ?

100億の賞金首をな…!!』

「…!!」

『クッククク…その様子じゃあ、クラスの半分近くがウィルスに感染したみたいだねぇ?ククク、結構結構♪』

「もう一度聞く…お前は一体…」

『俺か?俺は、お前等同様、賞金100億を狙っている者だよぉ…

良いか?治療薬(ワクチン)は今、爆弾付きのトランクに入れている。

俺達の機嫌を損ねたりしたら、スイッチ1つでボンッ!!…感染者は助からない。』

「念入りだな…」

『元々、その袋に入っているタコが動ける状態を想定しての計画だ。

動けないなら尚更、此方の思い通りだ。』

「…………………。」

この展開に、烏間が手に持つビニール袋の中の殺せんせーも、慎重な顔になる。     

『山頂に有る、「普久間殿上ホテル」の最上階だ。

今から1時間以内に、その賞金首を…

そうだな…今、動ける生徒の中で、最も背が低い男女2人に持って来させろ。

先生…アンタは腕が立ちそうで、危険だからねぇ…クッククク…』

「「…?」」

電話の向こうの声に、ふと烏間が渚と茅野に目を向けると、倒れていた者達を介抱していた2人と丁度 目が合ってしまう。

当然、電話の会話を知る筈の無い2人は、何か在ったのか?…と不安…と云うよりかは不思議な表情。

 

電話の向こう側の人物は説明を続ける。

既にホテルのフロントには連絡済み。

素直に取引に応じたら、賞金首と薬の交換は直ぐに済む。

しかし、外部と連絡を取ったり、少しでも約束の1時間を遅れたら、即座に治療薬(ワクチン)は爆破、破壊する…と。

 

『クッククク…君達には礼を言うよ。

よくぞ、ソイツを行動不能まで追い込んでくれた…。

どうやら天は、俺達の味方の様だ。』

「おい、ちょっと待t」Pu、ツーツーツーツー…

此処で、烏間と謎の脅迫人物との通話は終了した。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「ふ…巫山戯けやがって…こんな時に第三者の介入かよ…!?」

響は1人、自分達の暗殺計画で殺せんせーをあと一歩まで追い詰めた、ホテルの離れの小屋跡の近くに居た。

顔は生気を失ったかの様に青ざめ、身を抱くように蹲り、ガタガタと身体全体を震わせる響。

中村達が倒れた後、響も自身の体調に違和を感じていた。

 

烏間が誰かとスマホで会話を始めた時、その時の表情から何気に察した響は内なる小宇宙(コスモ)を最大に燃焼、己の聴覚を最大限に高め、通話を聴き盗る事で、他の生徒達より一足先に事態を把握。

 

「ま・さ・か、俺もっかよっ…!」

自分も そのウィルスとやらに感染したのは明らか…

その会話途中、皆に悟らない様にロビーから離れて距離を置いていたのだった。

そして、烏間と謎の脅迫者との会話が終わった後、響は口元を大きく吊り上げる。

 

 

ウィルスだったら…どーにか出来る!!

 

 

そう心の中で呟くと、響は再度、小宇宙(コスモ)を燃焼させ、その小宇宙から創り出した燐気を身体に纏わり憑かせると、

「…積尸気…鬼蒼焔!!」

それを触媒とした蒼い焔(ほのお)を其の身に包ませ、更には其れを自分の体内に取り込んでいく。

                   

「ぅがぁあぁああぁぁ…!!」

積尸気鬼蒼焔…本来ならば、積尸気冥界波で敵の体から引き抜いた魂を燃やし尽くす、蟹座の黄金聖闘士の技。

その蒼い焔が響の身体の中で暴れまわる。

その自分の技を、自ら体内で受ける事で、ウィルスの活性以上に苦しむ響。

「ハァ…ハァ…」

そして暫くすると、呼吸は未だ荒いが、次第に健全な血色を取り戻していく。

響は この蒼い焔を己の体内で燃やす事で自身の体温を、常人ならば命を落としかねないレベルまで、急激に上昇させる事により、その熱でウィルスを完全に消滅させたのだった。

 

「ふぅ…日本の厚生省も、さっさと発熱剤を認可すべきだよな?」

ウィルスは消えたが、それでも自身が己に放ったとは云え、聖闘士の技を受け、多少なりのダメージの残る身体。

一言呟くと、響は そんな身体を奮い立てながらも、クラスメートの集まりに然りげ無く戻って行った。                    

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「……と、云う訳だ。」

ウィルスに感染された者達を、その場で横にさせた上で、皆に事情を包み隠さず烏間は説明する。

「…酷ぇ…一体 誰なんすか、こんな事する奴は!?」

「前原君、じっとしていて!!」

「……………………」

『誰がやった?』の問い掛けにも、烏間は黙る事しか出来ない。

 

「烏間さん!!」

其処に彼の部下の1人、園川雀が駆け付ける。

 

「…やはり駄目でした。

政府として、あのホテルに宿泊者を問い合わせても、『プライバシー』と『個人情報』の一点張りで…」

「…やはり、か。」

「ぬ?やはり…?」

園川の報告に、顔を顰める烏間。

以前から、この島の黒い噂は烏間も多少なりは耳にしていた。

 

普久間島…通称『伏魔島』の名で警視庁からもマークされている島。

島内の殆どのリゾートホテルは真っ当な経営をしているが、件の山頂のホテルだけは、話が違う。

南海の孤島と云う地理も手伝い、国内外のマフィア勢力や、其れ等と繋がる財界人が出入りしていると云う。

ホテルスタッフだけでなく、其れ等の人物が連れて来た私兵の厳重な警備の下に、違法な商談やドラッグパーティーを連夜開いているとの情報も有る。

 

「…政府の お偉いさんともパイプが在り、警察も 迂闊に手が出せんのだ。」

「成~る程、そんなホテルがコッチの味方なんて、する訳ないし。」

冷めた口調で納得するカルマ。

 

「どーすんスか!?

この儘じゃ、皆 死んじまう!!

俺達この島、殺しに来たんであり、殺されに来た訳じゃねーよ!!」

「吉田君、落ち着こ?

そんな簡単に死なない 死なない…。

元気な皆で じっくりと対策 考えてよ。」

「おぅ…悪ぃ、原…」

冷静さを欠いた吉田を原が宥めた。

 

「…でもよ、素直に言う事ぉ聞くのも危険過ぎるぜ。」

「ああ、何しろ一番小っちゃいの2人、御指名だからな。」

「寺坂?吉良…?」

ビシィ!!

「「あ・の、ちんちくりん共だぞ!!

人質増やして どーするよ!?」」

「も、もう少し…」

「ソフトな言い方って無いの?」

寺坂、響の両名に指差された ちんちくr…渚と茅野がジト目で突っ込む。

 

その突っ込みを無視、そして要求を全て無視で、直ぐにヘリコプターを呼び、都会の病院に運ぶ事を推す寺坂に、竹林が異を唱える。

 

「もしも本当に人工的に作った未知のウィルスなら、対応出来るワクチンは、どんな大病院にも置いていない。」

対症療法で応急処置をしている間に、急いで取り引きに行った方が懸命だと、氷を詰めた袋を横になっている狭間の額に乗せながら、竹林は話す。

 

打つ手無し…

殺せんせーが動けるならば、手の打ちようは、まだ有った。

いや、とうの昔にマッハで山頂ホテルに赴き、ワクチンを持って帰って来ていたであろう。

此の度の暗殺が下手に良い処まで行った御陰で、24時間は完全防御形態で身動きが取れない殺せんせー。

脅迫者の目的は殺せんせーなのは違い無いが、仮に渡しに出向いた渚と茅野を人質に取った挙げ句、薬も渡さずに逃げられでもしたら、正に最悪…。

 

良い打開策が浮かばない儘、交渉期限は既に1時間を割っていた…。

                   

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「良い方法があります。」

この時、今まで黙っていた、完全防御形態の殺せんせーが口を開いた。

 

「病院に逃げるより、或いは大人しく、要求に従うよりも、ね。」

「何…だと…?」

元気な者、倒れている者、その場の全ての者が殺せんせーに注目する。

 

「律さんに頼んで、既に下調べは終わっていますので、元気な人は来て下さい。

動きやすい格好でね。」

「「「「「「「???」」」」」」」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「…たっ…高けぇ…」

ウイルスに感染していない生徒、烏間とイリーナ、そして殺せんせーは、脅迫者の指定したホテルの裏手に来ていた。

山頂に建つホテルの裏側は、岩肌が剥き出しになった険しく高い崖。

現場に来た生徒達は、山頂を見上げ、口々に「高い」と呟く。

 

そんな中、ホテルのコンピュータに侵入(アクセス)して、建物の内部図面と警備配置図を入手した律が、某・怪盗美人3姉妹の様な出で立ちで説明を始める。

 

 

正面玄関と敷地一帯には、大量の警備が置かれており、フロントを通らずにホテルに入るのは、まず不可能。

ただし、現在地の崖を登った先に有るホテル裏手の通用口。

普通に考えて侵入不可能な地形の為、警備が配置されていない、この通用口が、唯一侵入可能なホテルへの入口である…と。

 

 

「成る程ね…そーゆー事か…」

「ヌルフフフ…吉良君、判りましたか?

その通り、敵の意の儘になりたくないならば、手段は1つ!

今、此の場に居る動ける生徒全員で此処から侵入し、最上階を奇襲、治療薬(ワクチン)を強奪する!!」

「「「「「「……………っ!!」」」」」」

「「~♪」」

この一言で、生徒達の顔の色が変わる。

だが、それは決して恐怖や不安の顔ではなく、新たな選択肢を得た、殺る気漲る顔。

 

「待ちなさいよ、アンタ達!

揃いも揃って、「おお、その手があったか!(ポンッ!)」…みたいな顔、してんじゃないわよ!!」

そんな生徒達に、馬鹿な考えは止せとばかりに、イリーナが突っ込みを入れる。

「確かに危険過ぎる。

あの手慣れた脅迫手口…敵は明らかにプロの者だぞ。」

烏間も殺せんせーの案には、消極的な姿勢を見せる。

 

「はい、しかも私は皆さんの安全を守れない。

大人しく私を渡すのが、ベストなのかも知れません。」

「「「「「「……………」」」」」」

「どうしますか?全ては君達と…指揮官である、烏間先生次第です。」

「無理に決まってるでしょ!

この崖、御覧なさい!!

こんなの、ホテルに辿り着く前に、転落死確実じゃないの!」

烏間に決断を促す殺せんせーに、代わりとばかりにイリーナが反対的な姿勢を示す。

 

「大体アンタ達、こんな崖、登れる訳?」

この続くイリーナの問い掛けに、

「いや、まぁ…」

「崖だけなら…ねぇ…?」

「ああ、楽勝だけど…」

「そーでしょー?…って、へ…?」

そう言うと、其の場に居る生徒達は皆、涼しい顔で崖を駆け登り始める。

 

「何時もの訓練に比べたら…な?」

「…ですよねー♪」

この光景に、口をあんぐり開けて驚いているイリーナ。

そして烏間にとっても、これは予想の外の出来事だったらしく、唖然としている。

 

「烏間先生、俺達、崖は兎も角、未知のエリアで未知の敵と戦う訓練はしていないから、難しいだろうけど、きっちりと指揮、お願いしますよ。」

「烏間先生…見ての通りです。

彼等は最早、只の生徒ではない。

今のアナタの元には、17人の特殊精鋭部隊が居るのですよ?」

崖の約1/3を登った磯貝が、改めて烏間に指揮を呼び掛け、それに追随する様に殺せんせーが、やはり改めて決断を促す。

 

「巫山戯た真似しやがった奴等に…キッチリと落とし前、着けてやるからよ!!」

更には指揮を急かす様に、寺坂も吼えた。

「さあ…時間は無いですよ?」

殺せんせーの言葉に、烏間は数秒、目を閉じる。

 

「注目!!

目標、山頂ホテル最上階!」

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

そして再び その眼が開いた時、其処には迷いの色は完全に消えていた。

 

「隠密潜入から奇襲への連続ミッション、ハンドサインや連携については、訓練時の物を、其の儘に使用する!!

何時も違うのは、標的(ターゲット)のみ!」

その烏間の顔を見て、生徒達も改めて気を引き締める。

 

「各自、40秒でマップを頭に叩き込め!!

19:50(ヒトキューゴーマル)…

任務開始(ミッションスタート)!!」

「「「「「「「「応っ!!」」」」」」」」 

 




 ※Mission:ウィルスワクチン奪取※
 
※普久間殿上ホテル突入
赤羽 磯貝 木村 吉良 潮田 菅谷 千葉
寺坂 堀部 吉田 岡野 片岡 茅野 速水
不破 矢田 律
烏間 イリーナ タコ
 
※ウィルスでダウン
前原 岡島 杉野 三村 村松 神崎 倉橋
櫻瀬 中村 狭間 原
※看病
竹林 奥田
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。