暗殺聖闘士   作:挫梛道

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決行の時間

 

~1時間後…

 

「…死んだ…もう先生、死にました…。

あんなの知られたら、もう生きていけません…」

 

自身の恥ずかしい動画の前に、精神的に滅入ってしまい、完全にグロッキーな殺せんせー。

その、岡島と律を中心に、多数の協力者の撮影(盗撮)から編集された、殺せんせーの恥ずかしい場面を纏められた動画も、佳境に入っていく。

 

『…でもぉ、殺せんせーって、恥ずかしい姿だけでなく、偶にはカッコ良く決める時もありますよね?』

「…にゅ!!」

ガバッ…

カッコ良く決める時もある…

このテレビ画面の中の、律のナレーションに素早く反応した殺せんは気力を振り絞り、姿勢を正して画面に注目する。

そして画面には黒いタコが映り、

 

『何処で其れを手に入れたっ?

その触手を!?』

 

それは、イトナと初めて戦った時の教室の場面。

イトナの触手を初めて目の当たりにした時の、怒りを露わにした時の映像だった。

 

「にゅやー!?止ーめーてー!!」

普段からギャグキャラを自称している黄色いタコにとって このシリアス場面は、先程迄のエロダコっぷりを暴露された時以上の精神的ダメージを受けてしまう。

そのナレーションから、多少はフォローしてくれるのかと期待していた油断から、尚更のダメージだ。

このダメ押しの一撃によって、殺せんせーのMP(メンタルポイント)は殆ど0(ゼロ)になってしまう。

 

そして、画面には『Fin』の文字が映ると同時に

『さ~て、約1時間に渡って、秘蔵映像に お付き合い頂きましたが…何か お気づきでないですか、殺せんせー?♪』

 

「…???」

殺せんせーの凄く恥ずかしい動画…その映像の中の律の最後の言葉に、朦朧としていた意識を僅かに立ち直らせた時、殺せんせーは漸く気が付いた。

チャプン…チャプン…

何時の間にか床が浸水、脚に該当する触手が ぷっくりと膨らんでいる事に。

 

 

な…?何時の間に床全体に海水が…!?

そんな馬鹿な?

誰も水なんか流す気配は無かったのに…

…ま、まさか、満潮!!?

 

ガタガタッ…

「俺達、まだ何もしてないぜ?」

「誰かが昼間に、この小屋の支柱、短くしてたんじゃね?」

明らかに動揺を隠せない殺せんせーを前に、一緒に動画鑑賞をしていた、触手破壊の権利を得た11人を含めた、室内に居る生徒全員…総勢14人が立ち上がる。

                   

「船に酔って…」

「恥ずかしい映像でテンパって…」

「そして海水たっぷり吸って!」

「かーなーり、動きが鈍ってるよね?」

                   

ジャキッ…

「さあて、此っからが本番だ。」

「約束だ、避けんなよ、タコ!」

11人が殺せんせーを囲み、銃口を向ける。

                   

 

…本っ当に、やりますね、皆さん。

だが、今回の暗殺の要な筈の、千葉君と速水さんの居る方向は分かっています。

其方の向きさえ、注意していれば…!!

 

                   

本気の冷や汗を垂らしながらも、それでも冷静に現状分析からの余裕と自信を持つ殺せんせー。                  

「皆、行くぞ…3、2、1…Fire!!」

パパパパンッ…!!

「く…っ」

磯貝の合図の下、11人が11本の触手を破壊し、それと同時に

パカァッ!

小屋の4面の壁が、藁葺きの屋根毎、四方に倒散。

 

ザザンッ!

更に事前に海中に忍んでいたカルマ他9人が、水圧で空を飛ぶマリンスポーツ器具、フライボードを着用で現れた。

彼等は標的(ターゲット)の頭上…真上で円陣を組む事で、水圧の檻を作り出す。

しかしE組の策略は、まだ終わらない。

渚、茅野、倉橋、櫻瀬がモーターポンプで吸引している海水をパワーホースで放水、フライボードによる水圧の檻の更に外側に、巨大な水のアーチを展開。

 

ザパァッ!!

そして、完全防水加工処理が施された律…自律思考固定砲台の本体が海中から、2連ショットガンを左右の側面パネルから3門ずつ、計12の銃口を構えた状態で現れた。

 

「これより射撃を開始します。

標準…殺せんせーの周囲全周1㍍!」

このシュノーケルを装備した海女さんスタイルの少女の言葉を合図に、

パパパパパパパパパパパパパパパパパパ…

最初から小屋に残っていた生徒達と律による、一斉射撃が始まった。

触手破壊役の11人と、片岡が、竹林が、不破も訓練時のレッドアイのアドバイスに従い、あぐらからの体勢でM-4ライフルを、この4月からの訓練で、各々が最も相性が良いとした、得意の銃を射ち放つ。

 

 

 

殺せんせーは急激な環境の変化に弱い。

木の小屋から水の檻へ!!

弱った触手を混乱させる事で、反応速度を更に落とす!

そして、殺せんせーは『当たる』攻撃には凄く敏感だ。

…だ・か・ら、一斉射撃では、敢えて先生は狙わない。

弾幕を張る事で退路を塞いでからの…

トドメの2人!!

 

 

ザパ…

そして最後に、銃を携えた千葉と速水が、海の中から姿を現す。

 

殺せんせーが、この暗殺開始から注意を向けていた方向…

その先の陸の上に在るのは、2人が日中に着用する事により、当人の匂いを染み込ませた衣服を着せた人形(ダミー)。

実は本物の2人は、ずっと水中で、その時を伺っていた。

最初に小屋の中で、陸上を警戒させておき、現場(フィールド)を水の檻へと変える事により、殺せんせーノーマークの、全く別の狙撃点を創り出された。

2人の匂いや発砲音は、水が全て掻き消していく。

 

「ゲームオーバー…ですっ!!♪」

液晶ディスプレイの中の少女が、笑みを浮かべながら言葉を発したと同時に、

((もらった!!))

ドクン…

普段は殆ど感情を表に出す事が無い、2人の少年少女は顔を僅かに綻ばせ、鼓動が、心音が高まる中、各々が手にしているコルトM-4ライフルとコルトガバメントの引き金を弾いた。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

放たれた2つの対せんせーBB弾。

その「音」には気付けなかったが、その後の微妙な「空気の流れの変化」を敏感に察知し、己の背後に迫る、自身にとっては正しく凶弾となるであろう、この2つの弾に対し、感嘆と笑みと驚愕を混ぜた顔を向ける殺せんせー。

 

 

よくぞ…此処まで…!!

 

 

その次の瞬間、殺せんせーの全身が、眩い閃光と共に弾け飛んだ。           

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「おわ~っ!!」「うぷっ…?!」

弾幕の射撃を撃ち続けていた響達が、

「うはぁっ…!?」「きゃっ…!!」

水圧の檻を形成していたカルマ達が、爆発の衝撃に吹き飛ばされ、海面に投げ出された。

 

「や…」

「殺ったか?」

「殺ったのか!?」

シュウウ…

つい先程迄、殺せんせーが「居た」場所から僅かに起つ煙を見ながら、生徒達は口々に呟く。

 

今迄の暗殺とは、明らかに違っていた。

殺せんせーが爆発し、その後には何も残って無い。

ぞく…

確かに殺った手応えを、全員が身体全体に鳥肌と共に感じている。

 

 

「油断するな!

奴には再生能力もあるのを忘れるな!!」

「メグ、アンタが中心になって、水面を見張りなさい!」

「は、はい!!」

その状況下、直ぐに烏間とイリーナが次の指示を出し、

「皆、最後、殺せんせーが立っていた場所を中心に周囲を見渡して!」

「「「「「「「応っ!!」」」」」」」

即座に対応するE組の面々。

 

 

対せんせー弾の弾幕の檻と水圧の檻。

この2つの檻で、逃げ場は何処にも無かった筈…

そう思っている生徒達は水面に何か…例えば、死体が浮かび上がって来ないか等、何らかの異変の有無に注意を向ける。

 

 

ブク…

「あっ…」

 

ブクブク…

「…お?」

その異変が起きたのは、そんな直後の事。

 

ブクブクブクブクブク…

周囲を警戒していた渚の目の前で、突如として浮かび上がった泡。

 

チャキ…

銃を持っていた者は其れを構え、全員が、その泡に注目する。

 

プカァ

「ふぅ…」

「「「「「「「…………。」」」」」」」

その瞬間、浮かび上がって来た其れ…

彼等が見たのは、殺せんせーの顔が入ったオレンジ色の球を、透明な球体で包んでいる…

「「「「「「「何アレ…!?」」」」」」」

名状し難きボールの様な物だった。

 

 

カィンカィン!!

「!!?」

生徒達が其れを見て固まっている時、対せんせーBB弾が陸の方向から飛んできた。

しかし、そのオレンジと透明の球体は、その弾を弾き返す。

 

「チィ…ッ!!」

撃ったのはイリーナ。

この後、誰もが何が何だか理解出来ない状況の中、謎の?球体が喋り出した。

 

「ヌルッフフフフフ…

これぞ!先生の奥の手中の奥の手!!

『殺せんせー完全防御形態』でーっす!!」

「「「「「完全防御形態ぃ!?」」」」」

何ソレ…?顔を引き攣らしながらも、ハモらせるE組生徒。

 

「説明しよう!『殺せんせー完全防御形態』とは!」

更に状況理解が追いつけなくなった生徒達に対し、オレンジ色の球体は語り出す。

 

「この外側の透明な部分はぁ、高密度凝縮された、エネルギー結晶体です。

先生の肉体を思いっ切り小さく縮め、それによって生じた余分となったエネルギーで、肉体の周囲をガッチリと固めます。

この形態になった先生は、ま・さ・に・無敵!!

水も!先程の様に、対せんせー物質も!!

無~駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!

あらゆる全ての攻撃を、この結晶の壁が跳ね返してしまいます!!」

「そ、そんな…じゃ、ずっと その形態でいたら、殺せないじゃない?」

「ところが そう上手くはいきません。

このエネルギー結晶は、24時間経てば自然崩壊します。

その瞬間、先生は身体を膨らませ、エネルギーを吸収して元の身体に戻る訳です。

裏を返せば…結晶崩壊するまでの丸1日、先生は全く身動きが取れません。」

「「……………………………。」」

「最も恐るべきは、その間に高速ロケットに詰め込まれ…遙か宇宙の彼方にでも棄てられる事ですがぁ、その辺りは抜かりなく調査済みです。

24時間以内に、それが可能なロケットは現在、この地球の何処にも存在しない!」

縞模様の球体が、ドヤ顔で言い切った。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「巫山戯んなよ…」

寺坂が この直径約20㌢弱のボールとなった殺せんせーを鷲掴みにすると、

ガン!ガン!

「何が無敵だ、コラ!

何とかすりゃ、壊せんだろ、んなモン!!」

そう言いながら、スパナで何度も殴打するが、

「ヌルフフフフ…

だ~か~ら、無駄無駄無駄ですぅ~♪

核兵器でも、傷1つ付きませんよ~?」

「この、腐れタコがぁっ!!」

全くと言って良い程、効果は無い。

 

「へ~?そっか~、弱点無しじゃ、打つ手無いよね~♪」

そう言うとカルマは、寺坂から受け取った殺ボールを小屋の床だった部分に置いて固定すると、スマホの画面を殺せんせーに向ける。

                   

「にゅややーッ!!?」

その画面には、先程迄 上映されていた、殺せんせーの恥ずかしい動画の1カット、地面一面に敷かれたエロ本の山の上で正座して、ニヤニヤしながら一心不乱にエロ本を読みふけっている、ピンク色のタコの画像が表示されていた。

                   

「止めてーッ!!先生 今、触手(て)が無いから顔も覆えないんですよ!?」

「あははは、ごめんごめん、じゃスマホも固定してと…吉良っち~?」「応よ!」

「全く聞いていない!?」

「今、そこで見つけたウミウシも、引っ付けとくよ。」

「ふんにゅあああッ!吉良くぅーん!?」

「あ、誰か、不潔っぽいオッサン見つけて来てくれよー」。

「コレ、パンツん中に螺旋込むから~♪」

「助けてーっ!!」

 

…ある意味、この完全防御形態は悪手だったのかも知れない。

弄り放題。

こういうシチュエーションの時のカルマと響は最凶に天才的だった。

                   

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「ハァ…とりあえず皆、今夜は解散だ。

お疲れだったな。

コイツの処分は、上層部と検討する。」

烏間が小さく溜め息を零し、生徒達を労いながら、完全防御形態の殺せんせーをビニール袋に入れる。

「ヌルフフフフ…

対せんせー物質のプールの中にでも、封じてみますか?それも無駄ですよぉ?

その場合、エネルギーの一部を爆散させ…さっきみたいに爆風で周囲を吹き飛ばしてしまいますから。」

「……!!」

「…ですが、皆さんは誇って良い。」

「「「「「「「「??」」」」」」」」

殺せんせーは烏間に自分の絶対的な自信を見せると、次は生徒に話し掛ける。

                   

「今迄、世界の軍隊でも、先生を此程にまで追い込めなかった…。

偏に皆さんの計画の素晴らしさです。」

「「「「「「「……………」」」」」」」

 

月を破壊したと自称する超生物は、何時もの様に、自分の教え子達を褒め称えたが、彼等は、その落胆の色を隠せなかった。

嘗て無く大掛かりな…全員での渾身の一撃を外したショックは計り知れない。

完敗。

尋常でない疲労感と共に、彼等はホテルの帰途に着くのだった。

 

 




殺せんせー沖縄暗殺計画・役割分担表

※触手破壊&弾幕射撃
 磯貝悠馬
 奥田愛美
 神崎有希子
 吉良響
 寺坂竜馬
 中村莉桜
 狭間綺羅々
 原寿美鈴
 堀部糸成
 村松拓哉
 吉田大成
 
※弾幕射撃
 自律思考固定砲台
 片岡メグ
 竹林考太郎
 不破優月
 
※水の檻(フライボード)
 赤羽業
 岡島大河
 岡野ひなた
 木村正義
 菅谷創介
 杉野友人
 前原陽斗
 三村航輝
 矢田桃花
 
※水の檻(パワーホース)
 茅野カエデ
 倉橋陽菜乃
 潮田渚
 櫻瀬園美
 
※ラスト狙撃(スナイプ)
 千葉龍之介
 速水凜香
 
≫≫≫≫≫≫次回予告!!≪≪≪≪≪≪
 
次回:暗殺聖闘士『小宇宙(コスモ)の時間』
乞う御期待!!
コメントよろしくです。
 

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