暗殺聖闘士   作:挫梛道

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連載中、殺せんせーの本名を『吉良』と予想していた人は、決して少なくないと思います。
作者も その1人です。


E組メンバーの前に五英傑登場。
ルビ編成が面倒くなってきたので、作者的に『【暗殺聖闘士】なタイトルを踏まえて、コイツは()()()読んでくれるだろう(願望&笑)』なワードは、ルビ打ち無しで行っちゃいます。
m(_ _)m
 




編入の時間

ギリシャ人である蟹座の黄金聖闘士アセルスは、聖域での冥闘士との戦いで、9年の生涯を閉じた。

そして、その記憶を宿した儘、日本の ごく普通の家庭、吉良家の次男、響として生まれ変った。

前世の殆どを修行と戦いの日々だけで過ごした彼にとっては、この平和な、平和過ぎる環境に、若干の戸惑いの色を見せながらも、子供らしく、色んな遊びにスポーツやゲーム、コミック、そして勉強と、聖闘士としては決して触れる事がなかった様々な事柄に触れながら、自身が前の「生」を終わらせた、9歳にまで成長した。

勿論、今の生活に不安がない訳ではなかった。

 

何故、自分は今、この時この場に記憶と小宇宙(コスモ)を宿した儘に生まれ変わったのか?

冥王軍との戦いは、どうなったのか?

自分以外にも、生まれ変わった聖闘士はいないのか?

 

…考え始めたらキリがなかった。

 

記憶と小宇宙を持った儘で生まれ変わったのは、女神(アテナ)に何らかの考えがある物と無理に納得した。

冥王軍との聖戦は、今の平和な世界から考え、自分達の勝利と思って良しとした。

だが、何よりも不安なのは、今の地上からは、誰1人として、他人の小宇宙を 僅かですら感じる事が出来ないという事だった。

そう、聖闘士、海闘士、冥闘士を始め、他の神々や勢力の闘士や眷族の気配が何一つとして感じられない。

 

5歳の頃、一度だけ、自身の小宇宙を最大限にまで燃焼させてみた事もあった。

小宇宙を身に宿す者なら、これで自分の存在に気づき、味方であれ敵であれ、何らかの接触がある筈との考えだった。

しかし、結果から言えば、誰1人として、聖闘士としての響の存在に気づき、近づく者は現れなかった。

 

小学生になった頃から、家族に子供として不気味に思われない程度に、さり気なく新聞やニュースを観て、世界の情報に目を向けていたが、聖域を含む、所謂「裏」の存在の確認は出来なかった。

 

そして9歳のある日、何気なく父親のパソコンで「聖闘士」という単語を検索してみると、今の自分が生まれる前に、週刊漫画誌に連載されていたという、1つのコミック作品を見つける。

既に連載終了してから、かなりの年月が経っているにも拘わらず、未だに根強い人気を博し、多くの外伝、スピンオフ等の派生作品が出ている事も知った。

学校が休みのある日、ブッ〇オフに足を運んでみると、件のコミックを見つけたので、響は その場で本を手に取り読み始める。

もしも作品として面白かったら、後日、親から小遣いを貰って買うのもアリかなとか考えていた。

 

 

はは…聖域の設定、結構そのままじゃん。もしかしたら、作者も僕と同じ転生者じゃないのかな?

 

いやいやいや、聖闘士同士が戦ったらダメっしょ?

てゆーかフェニックスが、こんな堅物な訳がないし。

 

 

…等と苦笑失笑しながらもページを進めて行き、そして蟹座の聖闘士に対する扱いの余りの ぞんざいさに9歳の少年は、今の世に新たに生を受けて以来、最高にorzったのであった。

 

そして響は1つの仮説を立てた。

聖域を始めとする、一般人的に見た上で、所謂「裏」の存在が全く確認出来ないこの世界…自分が前に生を受けた世界とは似て非なる、俗に言う所のパラレルワールド、並行世界というヤツではないか?…と。

 

▼▼▼

そして中学2年生の3月、父親の仕事の都合で某県から東京に引っ越し、現地で名門と謳われる私立中学校に編入する…。    

 

「えーと、今、先生が言われた通り、某県から来た吉良です。

よろしくお願いしまーす。」

担任教師に紹介された後、教室内の皆が注目する中、僅かに軽く?挨拶する響。

「あー、吉良の席は後ろの空いた机だ。

浅野、休み時間にでも彼に、この学校について色々と教えてやってくれ。」

「はい、分かりました。」

担任が教室後方の誰も座ってない机を指差し、その後にクラス委員だろうか?1人の生徒に指示を促す。

そして名指しされた生徒は、それに対して了解の意を示した。

 

▼▼▼

「E組?」

「ああ、あそこに行きたくないなら、成績は勿論、素行にもだね…」

1時限目の終了後、響はクラス委員である浅野(他4名)から、特別強化クラス、E組について説明を受けたのだが…

 

「くだらねー。」

「え?」

「聞こえなかったか?

くだらねーって言った。」

「おいコラ、くだらねーって、一体どういう意味だ?」

響の言葉に、やや目つきが悪く、唇が若干厚い男子生徒が喧嘩腰に噛み付てきた。

 

「言わなきゃ解らねーか?

そういう下がいなきゃ、しかも その為だけに わざわざ造られた様な存在に依存しなくちゃ自分を保てないってさ、それって くだらなくね?

そういう人間をディスって、俺凄ぇーて、悦に浸って満足する訳?

うっわー、ここのエリート、小っさー。

昨日までは外の人間として言うぜ?

最初(ハナ)から内からでしか見てないから気づいてないかもしれんがな、お前等、カッコ悪いってか、(笑)(カッコワライ)…だぜ?」

…響からすれば、学力が低い者を1つのクラスに纏め、集中的に教鞭を取るのは別に構わない。

それはアリと言えばアリかも知れない。

しかしながら、最初から他者の当て馬目的で設ける、というのは理解出来なかった。

そして、その制度に疑う事なく、件の教室

の生徒達を蔑む輩も同様だった。

前世が前世だけに、しかも当時の記憶を その儘に持ち合わせ生まれ育ち、良くも悪くも内面は正義の聖闘士な響にとっては、このシステムは少なくとも正しくは見えなかった。

 

「んだとコラ!?」

「転校早々その態度はどうかと思うよ?」

「少し生意気だぞ!」

「どうなっても知らないぞぉ?」

「止めろ。」

「「「「……………………。」」」」

浅野の一声でピシャリと黙る取り巻き達。

 

「…吉良君、キミが この椚ヶ丘に編入生として入れたという事は、それなりの学力があるという事だ。

だからこそ、この学校のシステムは素直に受け入れた方がキミの為にも…」

「あー、はいはい。

別にお前等と事を構えるつもりはないよ。

勉強サボって成績落とすつもりも、何かしら問題起こすつもりもない。

これでオケ?

それとも、それを強いる権利がお前等にあるとでも言う訳?」

「「「「「……………………!!」」」」」

 

▼▼▼

「お前、いい加減にしろ!」

「えー、なにがー(棒)」

転向初日からクラスの頭とでも言うべき、浅野他4名…通称五英傑と呼ばれる面々と軽くぶつかったからか、響は事ある毎に彼等と、特にE組絡みで衝突していた。

響的には、特に『目つきが悪いタラコ』と『まんま狂科学者みたいなワカメ眼鏡』がウザく感じていた。(響イメージ)

 

 

今日も彼等がE組について蔑んだ会話してるのを、まるで可哀想な者を見る様な目をしていただけなのに。(響:談)

 

 

「気に入らないなら、手ぇ出したら?

正当防衛成立と同時に瞬殺してやるから。

あ、怖い?悪い悪い、ビビらせちゃって、ごめんねー(棒)」

「んだとコラぁ!?」

「止めないか…!」

「浅野…」

タラコ…瀬尾を制する浅野。

 

「吉良、お前もだ。

必要以上に挑発するのは止めておけ。」

「はあ?俺は何もしてないぜ?

いっつもコイツ等の方から、正体不明意味不明の因縁つけてくるんだけどな?

例外なく100パー…な?

浅野、お前もコイツ等の保護者なら その辺り、手綱しっかり握って言う事よく利かせてくれよ。

お前の言う事なら、きちんと聞くんだろ?

『わおーん、御主人様ー!』ってな?」 

「…テメェっ!」

「よ、止せ!瀬尾!」

 

バキィ!

 

五英傑の1人、榊原が止めに入るが、それよりも早く、瀬尾の拳が響の左頬を打ち抜いた。

 

ガターン!

 

それにより、椅子から転げ落ちる響。

 

「「「「キャーッ!」」」」

その教室内の異変に女生徒達が悲鳴を上げる。

 

「はっ…俺は…

すまない、吉良、大丈夫か?」

 

スク…

 

「………………………………………」

冷静になった瀬尾が声を掛け、何事もなかったかの様に無言で立ち上がった響は、制服に付いた埃をササっと手で払うと、ゆっくりと瀬尾の前に歩み寄り、

 

ドゴッ!

 

「うぅ…」

強烈な右拳を鳩尾に放ち、更には

 

バゴォ!

 

首相撲から顔面に膝蹴りを見舞い、

 

バチバチバチバチバチィ!!

 

左右の拳の連打を体中に浴びせていった。

 

「止めろ!やり過ぎだ!」

 

…ぶぅん!

 

五英傑の1人、荒木が止めに入るが、次の瞬間、響の拳が彼の顔目掛けて放たれ、そしてそれは、寸止め等という生易しい距離でなく、顔面直撃直前、㍉単位でピタリと止まる。

 

「ヒィッ…」

「次は止めんぞ?」

腰から倒れ落ち、尻餅を搗いた荒木を一睨みすると、視線を既に床に うつ伏せに倒れている瀬尾の方に向け直し、襟首を掴んで無理矢理に引き起こす。

そして、頭部目掛けて拳を振りきろうとした瞬間…

 

ガシィ…

 

「もう、止めておけ…!」

浅野が響の手首を掴んで止めたのだった。

 

「浅野…邪魔するなら、お前も討つぞ?」

「もう、いいだろ?やり過ぎだ!」

「身に懸かる火の粉は…」

「何?」

「身に懸かる火の粉は、少しばかり手で振り払う程度では、また舞い戻ってくる…

だからこそ、再び戻って来ない様に彼方まで吹き飛ばすか、二度と舞わない様に完全に滅却しておく必要がある。…違うか?」

「確かに、お前の言う事は間違ってないかも知れん…。

だが、この瀬尾は既に、そのレベルまで達している!

それでもまだ、どうしても納得いかないと言うのなら、この僕を殴れ!

1発だけなら、甘んじて受けてやる!」

 

バキィ!

 

その台詞を言い終えた瞬間、響の迷い無き裏拳が唸りを上げ、浅野は机や椅子を倒しながら吹き飛ばされた。

 

「「「「キャーーーーーッ!?」」」」

更に大きくなる女生徒達の悲鳴の中、響はガタガタと震える瀬尾の前に立ち、

「今日は浅野の『漢』に免じて、これで退いてやる。次は…解るよな?」

響の言葉に瀬尾が、怯えた顔でカクカクと無言で首を縦に振った その時、

 

ガラガラ…

 

「お前等、やかましいぞ!静かにしろ!

…って、何をやっているか、貴様等ー?!」

教室に入ってきたのは、このクラスの担任の大野だった。

 

▼▼▼

「E組…ですか?

いやいや、自分を弁護する気は無いですけど、先に手を出したのは、瀬尾なんですけどねぇ?

色んな意味で。

奴には何のペナルティも無い訳ですか?

…てゆーか、理事長先生、自分の息子が殴られたからって、私情挟んでキレてないですか?」

今、理事長室には椚ヶ丘学園の理事長である浅野學峯、2-A担任教師の大野、そして吉良響の3人がいる。

 

「吉良ぁ!貴様、誰に向かって物を喋っているんだ?!

その口の利き方は何だ?」

「反省してまーす。チッ、ウッセーナ…」

「まあまあ、大野先生…。」

響の全く悪びれてない態度に、担任の大野が怒鳴り散らすが、理事長である浅野學峯が それを窘める。

 

「吉良、瀬尾は常に、試験で学年5位以内に入る優秀な生徒だぞ!

そんな生徒を痛めつけるオマエが悪いに決まってるだろ?」

「うっわ!成績が良きゃ、やりたい放題かよ、このガッコ?

だいたい俺、期末が終わった後に編入してんだぜ?

期末テスト受けてりゃ、瀬尾より上だったかも知れないぜ?」

「ふん、そこまで言うなら、3年最初の中間試験で瀬尾より上位になってみろ!

その時はA組に復学させてやる!」

「…で、瀬尾には改めて、今回のペナ与える訳ね?」

「ああ、良いだろう!」

「で、それだけ?」

「あ?どういう意味だ?」

「その場合、俺は不当にE組み行きにされていた事になるんですよ?

その賠償みたいなのを学校が俺個人に差し出すべきじゃないですか?」

「貴様…」

「良いでしょう。

その点は、その時が来たら、また話し合いましょう。」

「り、理事長…」

ここで、ずっと沈黙し続けていた浅野學峯が口を開いた。

 

「吉良君、仮に その時が来たら、具体的に君は何を望むつもりかい?」

「…その時までには考えておきますよ。

時間はたっぷりありますから。」

「ふむ。では、とりあえず君は明日から、E組に組替えで良いんだね?」

「まあ、最初に言った通り、自分のやらかした事を弁解する気は無いですから。

それよりも、次の中間の結果如何で、俺のA組復学と不当降格の賠償、それと瀬尾のペナルティ、忘れないで下さいよ?」

「分かった、約束しよう。

それで良いですね、大野先生?」

「は、はぁ。理事長が そう言われるなら、その様に…」

「言質は取りましたよ?

では、失礼します…。」

響は理事長室を退室した。

 

▼▼▼

明日から特別強化クラス、E組に編入が決定した響は、今の教室にある自分の荷物を纏めていた。

響以外は誰もいない教室、そこに1人の生徒が現れた。

 

「吉良…」

「浅野か…」

「吉良、すまない、僕は…」

「『パパ、殴られたよ~!パパにも殴られた事ないのに!(泣)』って学校の最高権利者に泣きついたんだよな?

まあ、退学(クビ)にならなかっただけラッキーと思ってやるよ。じゃあな…。」

そう言い放ち、荷物を纏めた響は教室を出て行った。

 

「ま、待て、吉良、僕は…」

理事長の息子、浅野学秀の呼び掛けは、既に響には聞こえず、振り向かず応じる事なく、響は校舎を後にした。

 

▼▼▼

吉良響、3月〇日付けで2年A組からE組に編入が決定。

…その夜、響は両親から こっぴどく説教されたのであった。

 




吉良君は聖人君子でもなければ無抵抗主義でもありません。
小宇宙を使わない限りは、多少なり鍛えているだけの、只の中学生と代わらないです。

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