暗殺聖闘士   作:挫梛道

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訓練の時間

「HAHHA-どうだいGirl?

狙いが安定したろ?

人によっては、立て膝より、AGURAで撃つのが向いてるんだZE!」

「はい、流石は本職(プロ)…」

 

暗殺沖縄旅行を1週間後に控え、その日、E組の面々は、その訓練と計画の詰めに集まっていた。

夏休み特別講師としてイリーナの師匠であるロヴロや、修学旅行時に同行したレッドアイを始めとして、他にも数人の(これまで殺せんせー暗殺に失敗した)暗殺者が生徒達を指導していた。

 

「ひぃ…何、で…あた、し、まで…」

「そりゃ、ナイフや射撃は、私達と大差ないからでしょ?」

因みにイリーナはロヴロの指導の下、生徒達と一緒に訓練される側である。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「たりゃ!」

パシッ…

そして響も、1人の男と実戦さながらな組手…模擬戦をしていた。

鋭く突き出した手刀の手首をキャッチされると その腕を極められた儘、背後に周り込まれ、その手を放されたと思えば、脚を払われダウンを奪われる響。

チョン…

「うっ…」

そして次の瞬間には、逆に首筋に、特殊素材製のナイフを当てられていた。

 

「ま、参りました!完敗です!」

「いや、君の動き、凄く良かったぞ!」

高級ブランドのスーツを着崩し、口髭を貯えたイタリア系の男に、響が一礼した。

 

「あ、あのオッサン凄ぇー!」

「吉良が烏間先生以外に負けたの、初めて見たぜ!!」

その様子を見ていた杉野達も、感嘆の声を上げる。

 

「でもよ、あんな強いオッサンでも、結局は あのタコを殺れなかったんだよな?」

「…ああ、残念ながらな…」

「え?いや、その…スンマセン…(な、なんちゅー地獄耳だよ!?)」

そして小声で喋ったつもりだった寺坂の呟きに、スーツの男が応える。

 

「でも、当然、リベンジするんすよね?」

続く吉田の問い掛けには、

「さあ、どうだかな?」

「え?」

「うむ、残念だが、彼が殺センセーを殺れる確率は、敢えて0とは言わんが、極めて低くなっている。」

「ロヴロさん?」

ロヴロと共に、暗殺成功の可能性を否定した。

 

ロヴロが言うには、E組の面々は既に承知の通り、殺せんせーは臭いに敏感…

特にE組関係者以外の部外者の臭いを嗅ぎ分ける。

実は生徒達の知らない所でも、プロの殺し屋を何度か送り込んでいたのだが、その悉くが失敗に終わっていたらしいが…

 

「実は俺も、キミ達の期末テストがあった日に、もう一度ヤツを殺りに、日本に来ていたんだけどNA…」

「レッドアイさん?」

 

≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪

期末テスト2日目の日、レッドアイは殺せんせー暗殺の為、再び日本を訪れていた。

そして その日の夕方、翌日に実行する計画について、烏間と打ち合わせの為に学校に向かおうと、椚ヶ丘駅を出た その時、

ガシッ

「にゅや!久しぶりですね~!」

「あ、暗殺対象(あんた)ぁ?!」

くたびれたサラリーマンみたいな格好をしたタコに肩から抱きつかれ、その儘、最近行き着けになったという居酒屋に無理矢理に連行される。

店を出た後も一晩中、そして翌日も ずっと市内の彼方此方を連れ回され、暗殺処では なくなるのだった。

因みにレッドアイが、その店の女将のファンになったのは、また別の話である。    

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「…しかも あのタコ、その時の代金、全部 俺に払わせやがった!」

「「「「な、何だかスイマセン!!」」」」

その話を聞いていた生徒達が、何故かレッドアイに頭を下げる。

 

ヤツの鼻は尋常ではない…

一度会った暗殺者は、その時にプロ特有の強い殺気を臭い毎覚えられ、次からは教室にすら辿り着かせて貰えない。

…とはロヴロの弁。

 

「つまり、1度使った殺し屋は、2度使うのは難しい上に、困った事態も重なってしまってな…」

「困った事態ですか?」

 

ロヴロが言うには、残りの彼の手持ちで有望だった殺し屋数名が、何故か突然、連絡が着かなくなったらしい。

 

「…という訳で、今現在、斡旋出来る暗殺者は0だ。

慣れ親しんだ君達に実行して貰うのがベストと判断した。

皆、よろしく頼むぞ…!」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

ロヴロの話し掛けに、E組生徒は良い返事で応えた。

 

 

「ところでMr.カラスマ、殺センセーは本当に今、日本には居ないのだな?」

「ああ、ヤツは予告通り、エベレストで避暑中だ。

今も部下が見張ってるから間違いない。」

「エクセレント!

作戦の機密保持こそ、暗殺の要だ。」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「「…………………………………。」」

「にゃや、さーさー、熱い内に どーぞ!

さーさー、遠慮なさらずに!!」

その頃、烏間の指示で殺せんせーを見張っていた烏間の部下の鶴田と鵜飼は、エベレストの斜面に器用に創られたカマクラの中で、監視対象である黄色いタコに鶏鍋を薦められていた。

「ふー、ふーっ、やはり、雪の中では鍋料理が一番ですよねー!ふーふーふー…」

「「…………………………………。」」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓「先に約束である、11本の触手を破壊した後、間髪入れずにグラス全員で攻撃して、殺センセーを仕留める…か…」

磯貝が提出した【殺せんせー暗殺計画書】を、まじまじと読むロヴロ。

 

「ふむ、それは解るのだが、この一番最初の『精神攻撃』というのは、どういう意味かね?」

「まずは動揺させ、動きを落とします。

殺気を伴わない攻撃には、殺せんせー、脆い部分がありますから。」

これを片岡が説明。

 

「弄るネタ、強請るネタって、結構あるんすよ?例えば…

 

 

 

 

 

 

 

 

        (中略)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…とか、他にも色々とね。

先ずはコイツを使って追い込みます。」

「へっ!!グラス全員で、散々にイビリまくってやるぜ!」

更に前原と寺坂が補足。

 

「…なかなかの残酷な暗殺方法だな。」

これには、思わずロヴロも感心する。

 

「…で、要となる、トドメを刺す最後の射撃、正確なタイミングと精密な狙いが必要不可欠なのだが…」

「…不安かな?

ウチのクラスの射撃能力は?」

「いや?寧ろ逆だ…」

烏間の問い掛けに、ロヴロは顎に手を添えて、口を緩める。

 

「特に…特に あの2人は素晴らしい。」

その視線の先には、千葉龍之介と速水凛香がいた。

 

空間計算に優れ、遠距離射撃で他のクラスメートの追随を許さない狙撃手(スナイパー)の千葉。

手先の正確さと抜群の動体視力とのバランスで、動く標的を仕留める能力に特化している兵士(ソルジャー)である速水。

決して主張が強い性格ではなく、結果で語る、謂わば仕事人タイプな2人。

 

「ふーむ、本当に俺の教え子にしたい位の才能だ。」

 

無論、この2人だけでなく、4月からの特訓で、他の者達も、良いレベルに纏まっていた。

約4ヵ月程度で、それまでは全くの素人だった中学生を、この域まで育て上げた烏間に、そして此処まで育った生徒達に、ロヴロは純粋に称賛。

 

「人生の大半を暗殺に費やした者として…この計画、作戦に合格点を与えよう。

彼等なら…彼等なら、充分に成し遂げる可能性がある!」

 

バババババババババババ…!!

パサッ…

クラス全員の一斉射撃で撃ち抜かれた的を見て、ロヴロは確信する。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「ロヴロさん?」

「ちょっと、良いですか?」

「…?」

休憩中、渚と響がロヴロに声を掛ける。

 

「何かね?」

「俺達が知ってるプロの殺し屋って、今のところ、ロヴロさんやビッチ先生に、レッドアイさんマリオさん…」

「今、この場に来てくれている人しか知らないんですが…」

「…で、ロヴロさんが知ってる中で、この世で一番優秀な殺し屋って、一体どんな人物なのかな~?…ってね?」

渚と響の質問に、目を細めるロヴロ。

 

 

ほう?よくよく見れば、素質がある…

オマケに…フッフッフ…

 

 

「ふむ…君達は興味があるのかな?

殺し屋の世界に…」

「い、いや、そんな訳じゃ…」

「た、単なる好奇心っすよ…」

彼方の世界の勧誘とも受け取れるロヴロの言葉に、慌てて否定する2人。

ふっ…

その様に笑みを零しながら、ロヴロは話し始める。

 

「そうだな…俺が斡旋する殺し屋の中に、『ソレ』は居ない。

最高の殺し屋…そう呼べるのは、この地球で たった1人だけだ。

この業界には よくある話だが、ソレの本名は誰も知らない。

いや、本名だけでない、顔も性別も年齢も国籍も、何もかもが不明の人物。

ただ一言の渾名で呼ばれている…

曰わく…゙死神゙と…!!」

「「死神…ですか?」」

「君達からすれば、ベタな渾名だろう?

だが、死を扱う我々の業界で、゙死神゙と言えば、唯一絶対、奴を指すのだよ。」

「……………………。」

殺し屋の中でも、禁忌に近い存在なのだろう、ロヴロが その渾名を出した時点で、ロヴロの隣に居たイリーナの顔も、やや険しくなる。

 

「神出鬼没、冷酷無比…

夥しい数の屍を積み上げ、゙死゙そのものと呼ばれるに至った人物だ。」

 

タラ…

本人は気づいていないだろうが、響と渚の首筋に冷や汗が流れる。

 

「…この儘、君達が殺センセーを殺しあぐねているなら、奴は何時の日か きっと、その姿を現すだろう。

いや、もしかしたら既に、その機会を窺っているかも知れないな…?」

「そ、そんな人が…!!」

「こりゃ、いよいよ以て、沖縄のチャンスは外せないな!」

パシィッ

「あ痛っ!?」

そう言って、渚の後頭部を軽く叩く響。

「吉良君、いきなり何するんだよ?」

「いや、何となく顔が暗かったから?」

「理不尽!!」

 

そんな2人の やり取りにロヴロは笑みを零すと、

「水色の髪の少年…」

「え?僕?」「渚?」

渚に話し掛ける。

 

「君にば必殺技゙を授けてやろう。」

「え?」「ひっさつ?」

「そうだ。殺しのプロが、直接教える…

゙必殺技゙だ。」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓休憩時間終了間際、対峙する渚と響。

「さあ、渚君、教えた通りに やってみたまえ。」

「は、はい!!」

「ボソ…チックショー、何で渚だけ…

ふーん!いーもんいーもーん!

『必』ず『殺』る『技』なんて、今更 他人に教えて貰わなくんたって、沢山持ってるもーん!

冥界波とか鬼蒼焔とか魂葬破とか転霊波とか…ブツブツ…」

やや力みがちな渚と、その場に一緒に居たのに、何故か自分は『必殺技』とやらを教えて貰えなかったと、子供の様に拗ねて、何やら小声でブツブツと言っている響。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数秒後…

「え?」「へ?」

「「えっええぇっ!?」」

其処には、渚の前で腰を落としている響がいた。

「い、今のは、一体…?」

何が起きたのかが理解出来ず、呆然とする響。

そして一番驚いているのは、技を仕掛けた渚である。

 

「どうだ?これが私の『必殺技』だ。」

「「!!」」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

そして一週間後…

 

「「「「「いやっほーぃ!!」」」」」

「「「「「島だぁ~っ!」」」」」

東京からフェリーで6時間。

E組の面々は【殺せんせー沖縄暗殺計画】の舞台である、普久間島に到着した。

 

 




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