この小説の原作は『暗殺教室』です。
「…!?」
7月末日の夜、椚ヶ丘市に帰り、自室で残った宿題と格闘していた響は、その尋常ではない『魔力』を感じ取った。
今の世に【吉良響】として生を受けて15年、初めての事である。
いや、正確には今迄も…というか、つい最近に何度か、ほんの一瞬だけ巨大な魔力が溢れたと思っては、直ぐに消えるのを感じる事はあったが、今回みたいに長時間、その存在を明ら様にするが如く、魔力が湧き上がるのを感じるのは、紛れもなく初めての事だった。
何だ…?何か、凄ぇヤバい予感がする…!!
「ちょっと響、こんな時間、何処に行くつもりなの?!」
「ゴメン、急用が出来た!!」
「響!?」
母親の呼び掛けも そこそこに、家を飛び出す響。
周囲の己に対する視線の有無を確認すると、その身を一筋の光と変え、その魔力が現れた場を目指し、飛んで行った。
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魔力が溢れ出る場所…その場は都内の中心、都庁の屋上。
ドンっ!!
「あ痛たたた…魔力結界か?
俺の瞬間移動を弾くって、かなりの存在だな…一体、何者なんだ!?」
ぴた…
見えない壁に手を当て呟く響。
本当は魔力が沸き立つ その場まで直接 飛ぶ心算だったが、遥か手前で何人をも阻むかの様に敷かれた魔法障壁に、某テレビ局の正面玄関に、強行突撃するワゴン車の様に派手に激突、跳ね返されてしまったのだった。
「仕方ないね…」
そう言って、右拳に小宇宙を溜めた響は結界に向かって拳一閃、その衝撃により、一瞬 生じた『隙間』を潜り、
「…さて、急ぎますか。」
結界を通り抜け、目的の魔力が湧き出てると思われるツインタワーの屋上を見上げると、其処を目指し、走って行った。
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「わぁ、危なっ?!」「え゙ぇ!?」
キキィッ…!!どーん!
「「ギャーッス!!」」
都庁を目指して走っていた曲がり角、出会い頭に反対方向から走ってきた自転車と衝突する響。
「痛てて…あれ?」「あ痛たた…ん?」
「な、何故、あんたが?!」
「いや、君こそ…?」
その人物は、響が学校帰り、偶に顔を出す、ハンバーガーショップのアルバイト店員だった。
服装から察するに、バイトを抜け出して来たみたいだ。
「はぁ…とりあえず、この中に居るって事は、君も只人じゃないって事だよね?」
「そーですねー。お互い様ですねー。」
「軽っ?!」
既に それなりに顔馴染みな2人、魔力結界内に居るという事で、互いに互いを只者ではないと察する両者。
しかし、やはり互いに その素性は知られたくないのを察したのだろう、必要以上の詮索は、この場ではしない両者。
とりあえず、今尚、目の前のビルの屋上で溢れかえっている、強大な魔力を感じ、何事かと思い、この場に来た事を話す響。
そして、このマ〇ド店員…真奧貞夫が言うには、魔力も そうだが、件のビルの屋上に、バイト先の後輩が何者かに捕らえられたらしいと言う。
「えっ?もしかして、おっp…でなくて、佐々木さんっすか?」
コクン…
響の問いに、無言で首を縦に振る真奥。
マク○アルバイト店員・佐々木千穂(16)…
彼女は その、尋常ではない其れ(byイトナ)故に、E組男子の間にも、かなりのファンが居たりした。
「とりあえず、急ぎましょう。」
「ああ…」
改めて2人で魔力の元を目指そうとした、その時、
「この先には進ませんぞ、魔王!!」
「「!?」」
空から女の声が聞こえたかと思えば、その声の主と思われる黒髪和服の大和撫子な外見の少女が、巨大なハンマーを振り翳し、空から降ってきた。
どっごお~ん!!
「「うわっとぉ!!?」」
その天空からの強力過ぎる…地面に巨大なクレーターを作る程の強力なハンマーの一撃は2人には躱され、真奧の自転車を破壊するだけに留まった。
しかし、
「あ゙ぁ~っ?!俺のデュラハン号~っ!?」
「ま、まおーさん?」
その一撃は、真奥に精神的ダメージを与えるには十分だった様で、
「鈴乃ぉ~!?
お前、何て事してくれちゃってんのお?
デュラハン号に何か、怨みでも有るのお?
新しい自転車と防犯登録料と、粗大ゴミに出す有料チケット代、弁償しなさいよぉ!?」
「まおーさん、落ち着いて!」
子供の様に大泣き…正しく号泣という表現がピッタリな泣き顔で、知り合いなのか、鈴乃という その女の名前を呼びながら、完全に大破、再起不能となった己の愛車について問い詰める。
響は、本当は自分の自転車にデュラハン号とネーミングする事に対し、「何それ?何処の厨2?」…と突っ込みたいのだが、とりあえず そういう空気じゃないのを察知、子供をあやす様に真奥を宥める。
その後、真奥と鈴乃は響そっちのけで言い争いを始める。
響からすれば、聞き覚えの無い、知らない地名や組織名らしき単語が次々と出てくる会話の内容から察するに、どうやら この2人は遠い地で組織レベルの殺し合い…戦争を繰り広げていたが、この椚ヶ丘市では良き隣人という、何とも微妙な間柄らしい。
そして、2人の間に何があったかは知る処では無いが、兎に角 再び合間見える運びとなったらしい。
どうやら、例の巨大な魔力にも関係がある様だ。
そして真奥としては極力、衝突は避けたかった様だが、ついに観念し、覚悟を決めたた顔をする。
「仕方無い…。少し、待ってろ。」
「な…何をしているのだ?貴様は?!」
そう言うと真奥は着ている服を脱ぎだし、鈴乃は顔中を真っ赤に染め、顔を背ける。
「莫迦者、は、早く服を着ろぉ!!
一体、何を考えているのだ?!」
赤面全開で目を閉じ、そして着物の袖で顔を覆い、本気で恥ずかしがっている鈴乃。
「ふ…働いてない貴様には解るまい…」
脱いだ服を丁寧に畳み、歩道に置いた真奥は、未だ顔を背けている鈴乃に話す。
「いーかぁ、よく聞け?
マ〇〇〇ルドの制服は貸与制でなあ、通常業務に関係ない理由で破損させてしまった場合、買取弁償しないといけないんだよ!!
魔王城(わがや)には、そんな経済的余裕は無い!!」
「…まおーさーん、セコいよ~?」
真顔で力説する真奥に、響がジト目で突っ込む。
「いや、セコくない!
吉良君!君も、社会人になれば判る!!」
「あ~、さよですか…」
「え?何?何なの?その顔!!?」
「いや、…にしても、パンツ一丁にソックスにスニーカーは無いですよ、せめて、ズボンは履きましょうよ?
それじゃ、変質者ですよ?露出狂ですよ?
そうですよねぇ、お姉さん…えと…鈴乃さん…でしたっけ?」
そう言って、鈴乃に同意を求める響。
「全くだ、その少年の言う通r…い、いやぁあああああああああああああ~っ!!!!」
ガク…
それに応えようと、鈴乃は声を掛けられた響の方に顔を向けたが その瞬間、その鍛え絞られた上半身(おとこのはだか)が視界に入り、絹を引き裂いたような乙女の悲鳴を上げると同時に倒れ込み、その儘 気絶してしまう。
「鈴乃?」「お姉さん!?」
パンツ一丁の真奥と、ズボンは履いているが、やはり上半身真ッパの響が、気を失った鈴乃に駆け寄る。
真奥との やり取りの間に、何時の間にか着ていたTシャツを脱いでいた響。
その上半身露わになった響の、某・哲学する柔術家を目指しているかの様な肉体を目にした鈴乃。
それは男の身体に免疫の無い、初(うぶ)な鈴乃にとって、己の耐性を遥かに凌駕、オーバーキルとなっていた様だった。
「さあ、吉良君、先を急ごう!」
「え?良いんですか?この人?」
「大丈夫だ!死にはしない!!」
「……………………………。」
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タンタンタンタンタンタン…
「くっそ!何でエレベーターが使えないんだよ!?」
「ん~、夜間節電?」
「経費節減か!それなら仕方無い!!」
「納得するんですかっ?」
都庁内部に侵入、非常階段を登り、屋上を目指す2人。
「なあ、吉良君…」
「はい?」
「さっきの鈴乃との会話、聞いてたろ?
君なら あれだけで、俺が只者では無いのを通り越して、人間では無いのも気付いてると思うのだが…」
「あー、今更まおーさんが、別世界の魔王って言われてもねー、マク〇の店内で、元カノさんと修羅場ってるイメージしか無いですからねー。ピンと来ないすね。」
「もしかして、恵美の事を言ってるのか?
アレは元カノじゃない!!」
「それに俺、その人の正邪の見極めには、それなりに自信がありますからねー。
まおーさんは悪人には見えないすよ?
さっきの お姉さんもだけど。
寧ろ、あの魔力の方に、悪意を感じますけどね?」
「スルー?…てか、良い笑顔で そーゆー事 言うの、止めてくれる?」
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「ちょ…アンタ、何しようとしてんのよ!?」
「恵美さんに何するんですかー!?」
「この変態!」「痴漢!!」
「腐れ外道!!」「下種!」
「覗き魔!!」「ストーカー!」
「セクハラ!」「下着ドロ!!」
「…なっ?!そんな事は やっていなーい!!」
「「!???」」
響と真奥が、もう少しで屋上に到着すると思った時、階段の先にある扉の向こうから、真奥からすれば、聞き覚えのある女達の声と、知らない男の声が聞こえてきた。
「今の声は、ちーちゃんと恵美?
吉良君、何だか とんでもない単語が連発してるぞ、急ごう!!」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
バタン…
「ちーちゃん!恵美、無事か!?」
「なっ?!…これは?」
扉を開け、屋上に付いた時に2人の目に写ったのは、魔力の枷で、十字架状に拘束されているOL風の若い女性と、やはり魔法のロープみたいな物で、手足を縛られている佐々木千穂、そして もう1人、背中に1対の白い翼を生やし、白い衣を着た少年。
そして…夜空に神々しくも妖しく輝く、巨大な満月だった。
「真奥さん!」「真奥?」
捕らわれていた2人の少女達は、この場に駆け付けると信じていた人物の登場に、喜びと驚きの表情を浮かべ、
「「きゃあああああああああああっ?!」」
その救世主の出で立ちに、まるで夜道で露出狂の変質者にでも出くわした様な、乙女の悲鳴を上げる。
「な、何て格好してるんですかぁ!?」
「よ、寄るな、この、変質者!!」
「ちょ…助けにきたのに、その言い方は ちょっと酷くない?」
千穂と、マ〇ド店内で何時も真奥と修羅場ってる?OL…遊佐恵美の言葉に軽く凹む真奥。
「まおーさーん…だーかーら、下着姿はアウトって言ったじゃないですかぁ?」
「え?吉良君も?」
「ども~♪」
因みに響は、先程 脱いだTシャツを、きちんと着直している。
「ふぅん?本当に来たんだ、魔王?」
背に翼を持つ、天使の様な姿をした少年が まるで、この展開を初めから予想していたかの様に話し掛けてきた。
「悪いかよ?サリエル?」
「クス…それに そっちは…聖闘士だね?」
「!?」
真奥にサリエルと呼ばれた少年…天使の続く言葉に、響は驚きの表情を隠せない。
「あっはっはっは!これは傑作だ!!
魔王は勇者だけでなく、聖闘士とも仲良しなのかい?」
「聖闘士…だと…?」「聖闘士って…?」
「その事は後で話しますよ。
…って、勇者!?元カノさんが?」
「「違う!!」」
「…てゆーか、お前、どっかで見た事あると思ったら、駅前の〇ンタの お子ちゃま店長じゃねーか!」
「なっ?!お子ちゃまとは、失礼なっ?!」
そう、天使サリエルは真奥が勤める、マ〇〇ナルド椚ヶ丘駅前通り店の、道路を挟んで正面に先日 店舗をオープンした、〇ンタッキー・〇ライドチキンの店長として、街に潜んでいたのだった。
「知ってるか お前、ウチのクラスの女子に評判、凄く悪りーぞ?
グラサン趣味悪いし、香水キツイし、喋り方もキザったらしくてキモいし(…中略…)やたらと手を握ってきて鳥肌物でキモいしとか、そりゃ もう色々と…な。
あ、グラサンは、そのオレンジパンダを隠す為か?」
「うるさいうるさいうるさい!!」
「「「釘〇さん?」」」
「違う!!」
「??」
まるでコンビニに設置してある、防犯カラーボールの直撃を受けたかの様に、右目の周りを大きくオレンジ色にペイントしているサリエルの台詞に、響、真奥、千穂が とある人物の名を思い浮かべハモらせ、それを見た恵美は『?』な表情を浮かべる。
「…処で吉良君、聞き捨てならない事が1つ あるのだが?」
「はい?」
「どーして あの人が、〇ンタの店長だって知ってるんですかぁ~?!」
「う…」
響に、真奥と千穂が問い詰める。
「いや、この前のオープンの時、クラスメートに一緒にって誘われて…
でも、それ以来、クラスの皆も行ってないすよ、だって あの店長、キモいから…」
まるで裏切り者、或いは浮気者と言いた気な顔の2人に、必死に言い訳する響。
「え~い貴様等!僕を無視するな~っ!!
それから僕は、断じてキモくな~い!」
ドドドドドッ
完全に蚊帳の外にされていたサリエルが、響達に向かって無数の魔力の光弾を放つ。
「うおっ?!」「ちーちゃん!!」
「きゃっ!?真奥さん?!」
それを響は左側に、真奥は千穂を抱きかかえ、右方向に それぞれ跳んで避ける。
更に響は その儘、恵美に向かって走り、
「大丈夫すっか、元カノさん?
助けるのが まおーさんじゃなくって、すいませんねー…て、と…!」
パキィ…
彼女を拘束していた魔力の枷を、自らの小宇宙で破壊。
「「だから、元カノじゃないっ!!」」
その際、真奥と恵美が、とある『竜を探す物語な超有名ゲームシリーズ第4弾』を元にした二次小説の、赤毛で槍使いな転生系主人公と その恋人ポジションの踊り子の様な、息ピッタリなハモリで否定したのは、余談である。
〓〓〓〓〓〓〓次回予告!〓〓〓〓〓〓〓
「天使?知らねーよ、
今の この世界に生きる聖闘士として言うぜ。お前…邪悪認定だ。」
「な…?」
「迸れ!俺の小宇宙!!
逝ってこい!黄泉比良坂!!」
次回、暗殺聖闘士:「魔王の時間(仮)」
乞う御期待!!