教室には、2台の木製学童机を向かい合わせに置き、その席に着いている、バンダナを巻いた少年と黄色いタコがいた。
シュパッ
突然、少年の手にした特殊素材のナイフが黄色いタコに向けて放たれる。
「あ、そういうのは、まだ良いですから。
はい これ、次のテストね。」
「ぐぬぬぬ…」
堀部イトナが本当の意味で、E組の生徒として登校してきた。
この日の放課後、彼は殺せんせーとのマンツーマンで、現時点での学力確認の意味を含めた、特別補修を受けていた。
暗殺対象(ターゲット)が手を伸ばせばナイフが届く位置にいる…。隙あらば、そして あわよくば殺ってしまおうと機会を窺っていた…という訳でなく、単に補修が嫌で、さっさと教室から逃げ出したいという思考故の暗殺行為だが、このイトナがナイフを持った手首は、あっさりと黄色い触手に絡め止められてしまう。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
そして翌日の放課後。
「ん?イトナ君、何それ?」
「戦車?」
放課後訓練を終えて、教室に帰り仕度に入ってきた男子生徒が、何やら作っているイトナに話し掛ける。
「ああ、ラジコンの戦闘車だ。
昨日今日と、放課後は あのタコの補修で勉強漬けにされて、ストレスが溜まった。
だから…こいつで…殺す!!」
「イトナ~?目、目が怖いよ~?」
殺意で目を血走らせているイトナに、カルマが軽く突っ込みを入れる。
「でも、殺すって…」
「何か これ…」
((((すっげーハイテクなんですけど!?))))
それは、其処い等に市販されているキットを付属説明書通りに作った様な物ではなく、電子電機科に通う学生が共同開発したかの様な…とてもじゃないが、一介の中学生が1人で作れる様な代物ではなかった。
「凄いなイトナ…これって自分で考えて改造してんだよな?」
「まあな…。実家の工場で、基本的な電子工作は大体覚えた。
こんなの、寺坂以外は誰でも出来る。」
「あ゙ぁ!?」
そう言いながら、はんだごてを片手に基盤を作る、毒舌イトナ。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「よし、完成だ。」
「「「「「「「おぉ~!!」」」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…
暫くして、後に【糸成壱號】と名付けられる、ラジコン戦闘車輛が完成した。
男子生徒は全員、そして、2-Eの教室(『転校生の時間』参照)で着替えを済ませ、教室に戻ってきた数人の女子達から拍手喝采を受ける。
「早速動かそうぜ!」
……………………………………
コントローラを手にしたイトナにより、静かに、軽快に動き出すラジコン戦闘車輛。
「速っ!!」「音も殆ど出てない!」
そして、
「おい、何か的ないか?的!」
「空き缶があるだろ?」
シュッシュッシュッ…カカカァン!
「「「「「「「おぉ~っ!!」」」」」」」
砲台から撃たれたBB弾は、狙った空き缶に見事に命中(ヒット)。
「ひゅー♪」
「凄いな…走る時も弾撃つ時も、殆ど音がしないってよ…」
「使えるな、これ!」
「イトナ君、解説!」
「…電子制御を多用する事で、ギアの駆動音を抑えている。
カメラはスマホを流用、銃の照準と連動して、コントローラに画像を送るんだ。」
「スパイみたいだな?」「かっけー!」
「でもよ、これ…」
「吉良?」
「安くはないだろ、いくら掛かった?」
「…さあ?」
「「「「「「は?」」」」」」
「請求書は全て、防衛庁に回す様にしているから、俺は値段は知らない。」
(((((烏間先生、南無!))))))
この時、E組の面々の頭の中には、請求書を見ながら、苦虫を口の中一杯に含んで噛み締めている様な烏間の顔が浮かんだ。
「ま、まあ、早速、教員室に向かわせてみようぜ…!」
「あ、そうだな…イトナ?」
必要経費を全て、防衛庁に押し付けたと普通に言うイトナに対して やや引きし、脳裏に浮かんだ烏間のビジョンを振り払おうと、気分転換の意味合いを込めて、早速 殺せんせー暗殺を勧める磯貝達。
それには皆が合意し、このラジコン戦闘車輛を教員室に進めるが、教員室には誰も居ない。
「不在かよ…」
「また、明日だな。」
結局この日は、これで解散となった。
尤も寺坂を始め何人かの男子は、その儘ラジコンを操作して、夜まで遊んでいたのだが、それは別の話。
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更に翌日の朝。
「~っす。」
「あ、きーちゃん、おは~♪」
「…ねぇ、倉橋ちゃん?
何で岡島と前原とイトナは、朝から女子に囲まれて、床に正座してんの?」
「あー、あれはねー…」
急にジト目&不機嫌顔になり、響が教室に入る前の説明をする倉橋。
要約すると、3人で例のラジコンのカメラで、女子のスカートの中を覗けないかとか、朝から そういう会話をしていたのがバレたらしい。
教室の前角で、イトナは兎も角、岡島と前原がヒソヒソ話していたのを不信に思った律が、イトナのスマホに忍び、その会話記録を岡野と片岡に知らせたのだった。
「よりによって、あの2人に最初に教えるかぁ~?律~、容赦無いなあ?」
「女性の敵は、消毒です♪」
響が隣の席の液晶ディスプレイに話し掛けると、画面内の少女は、世界が核の炎に包まれた後の、腐敗と自由と暴力の真っ只中な世紀末な出で立ちで、火炎放射器を構えて応えるのだった。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「…皆、言いそびれたが、教えておきたい事がある。」
「イトナ?」
鬼女達から解放されたイトナが、皆を呼び集める。
「奴を殺る際の、狙うべき理想の一点。
柳沢から聞いた、あのタコの急所だ。」
「急所?そんなのがあるの?」
「おい、まさかとは思うが、それって〇んたm「言うなー!!」(ガン!!)あべしっ!!」
「「「「「岡島ーっ?!」」」」」
顔面と云わず体中に、無数の拳銃(エアガン)が投げつけられ、岡島は倒れた。
「…続けていいか?
そこにヒットさせれば、一発で絶命出来るそうだ。」
「イトナぁ、勿体ぶらずに言えよ?」
「…位置は、ネクタイの真下。
丁度、あの三日月マークの真下だ。」
「それって…」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
その頃、教員室では、
「ヌルフフフフフ…
イトナ君が加わり、私の心臓(きゅうしょ)の事も、恐らくはバレたでしょうねぇ…。
ますます、暗殺が楽しくなりました。」
「弱点が知らせた割には、嬉しそうね?」
「はい、生徒達に戦略の幅が広がるのは、先生として、単純に喜ばしい事です。」
「彼は…触手の無い彼は どうなんだ?」
「2日に渡り、補修と小テストで学力を試してみましたが、思っていた以上に学力は高い!
確かに学校に通っていなかった分の遅れは否めません。
正直、1学期は厳しいですが、2学期には皆に追いつけるでしょう。」
「意外ね…触手を振り回すイメージしか無いせいか、そこまで頭イイなんて感じられないわ?」
「…それは恐らく、その触手のせいです。
殆どのエネルギーを触手に吸い取られる為に、人間としての能力、特に理性的な面は、著しく低下していた筈。
それに彼は暗殺に関しては、本来は近接武器を使った肉弾戦でなく、射撃、或いはメカ等の特殊な武器を使うのが専門だと思われますね。」
「成る程な…ハァ…」
そんな会話がされていた。
「あら、カラスマ、何なの その紙?
…請求書?」
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休み時間、屋外を走行する、ラジコン戦闘車輛が、
ガン!
校庭の角の木に激突した。
「あー、このヘタクソ!
吉良、貸せ!俺が動かす!」
「バカヤロー前原、次は俺だ!」
次は自分だとばかりに、コントローラを取り合う男子達。
「やっぱりお前達は無理だ。
【糸成壱號】、壊される前に、これより撤収する。」
「「「「「「はあぁ?!んだと固羅ぁ、イぃトナぁ!!(笑)」」」」」」
「無愛想だからさ、クラスに馴染めるかな~?とか思ってたけどさ…」
「心配無用みたいね。」
「やっぱり男子ってさ、メカとか好きだなんだよね~?
皆のツボ、がっつり掴んでるじゃない?」
「んん。漸くメンバー勢揃い。
これからが本格的暗殺スタートだ。」
そんなイトナの周りに出来た人だかりを、女子達も微笑ましく見ていた。
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あの時、触手が俺の頭の中に直接、聞いてきたんだ。
『どうなりたい?』
だから「強くなりたい」と答えたら、それしか考えられなくなって…ただ、朦朧として、戦って戦って戦い抜いて、それで勝つ事しか、頭に浮かばなくなった。
『最初は細い糸で良いんだ。
徐々に紡いで強く成れ。
それが「糸成」…お前の名前に込めた願いだ。』
何故、忘れていたのかな?
自分のルーツ…
最初からコイツ等と此処で、此処からバカやりながら、始めれば良かったんだよな?
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「「「ば、化けモンだーっ?!」」」
それは、放課後訓練の後、プール付近まで遠征していた【糸成壱號】が、教室へ帰還中の事だった。
突如、背後から襲ってきたのはニホンカワウソ(絶滅種)。
「逃げろ!」
【糸成壱號】は逃げ出した!
しかし、回り込まれてしまった!
「撃て!撃つんだ!!」
【糸成壱號】の攻撃!
ミス!
ダメージを与えられない!!
「銃のパワーが全然足りねー!
改造強化の必要があるぞ!」
「てゆーかさぁ、このカワウソ、何だか凄く怒ってない~?」
「「「「「え゙ぇっ?!」」」」」
…それから少しして、コントローラの画面映像は途絶えた。
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ガラ…
「「お~い…」」
教室に入ってきたのは、木村と響。
「あっ、どうだった?」
「いや~、それがさぁ…」
「あったのは あったんだけど、ほれ…」
「「「「「「うあっちゃ~…」」」」」」
ボロ…
響が皆の前に出したのは、無残にも破壊、大破した【糸成壱號】だった。
「まさか、カワウソに襲われるとはな…」
「しかし、火力不足もだが、お陰で他にも、改良点は色々と見えてきた。
とりあえず、ドライバーと狙撃手(ガンナー)は分担させるべきだ。」
「…だ、そうだぜ、千葉?」
「お…おぅ…」
他にも、段差に強い足回りに、学校の景色に紛れる車体の迷彩塗装…
視野角の広いレンズに録画機能…
皆が意見を言い合った。
「皆、この【糸成壱號】は結果、失敗作となった。
…だが、これからだ。
これから紡いで強くする。
寺坂も、バカ面で俺に言った。」
「はぁ?!」
「100回1000回失敗しても構わない。
最後に殺れたら、それで良いってな。」
「お前、偶には言い事 言うんだな?」
「ケッ…るっせーよ…。」
「最後には必ず殺す。
…だから、これから宜しくな、お前等。」
「おう、お前もな、イトナ。」
イトナの言葉に、皆を代表するかの様に磯貝が、イケメンな笑顔で応える。
「とりあえず、当面の目標は3月までに、【糸成】シリーズで女子全員のスカートの中を偵察コンプリートだ!!」
「「「「「「「お~う!!」」」」」」」
暗殺とメカとエロ…この3つの要素で、E組男子が、今 正に一枚岩となった瞬間だった。
しかし、その時、
「「「「「「ほほう…?」」」」」」
「「「「「「え゙っ…?!」」」」」」
男子達が恐る恐る、声がした方向に振り向くと、そこに居たのは片岡、岡野、中村、速水、矢田、倉橋の6人。
「なっ?!お前等、帰ったんじゃなかったのかよ?」
「教員室でビッチ先生と、少し お話してたのよ!」
「「「「「「な、何だってー!!」」」」」」
「…で、教室の横を通った瞬間、岡島のアホな発言が聞こえたって訳。」
「律、あのバカ丸出しな掛け声、誰が言ったか、正確に割り出せる?」
「はい!既に終わらせてます!!
磯貝さん、千葉さん、渚さん、カルマさん以外の全員です!!」
この名前を聞いた瞬間、何故かホッとした表情を浮かべたのは片岡と速水。
逆に、岡野は夜叉の形相を浮かべる。
「「「「「「り、律ぅ~っ?!」」」」」
「えっちい人は、嫌いです♪」
「よし、お前等、とりあえず正座な?
少し、OHANASHIしようぜ?」
「返事は「YES」か「はい」の2択ね?」
「拒否権は無いよ~?」
「「「「「「は…はい…(泣)」」」」」」
その後、律の挙げた4人以外の男子は、片岡達と夜の遅くまで、OHANASHIしたとか、されたとか。
そして…
「か~やのちゃん?」
「……………………………………。」
更には翌日から数日間、女子達に口を聞いてもらえなかったのだった。
「「「「「男子、サイテー!!」」」」」
「あはは…まあ、仕方無いよね…。」
≫≫≫≫≫次回予告!!≪≪≪≪≪
「あっ、実は俺、中間テストの時のアレで、図書館って自由に入れるんだ。」
次回、暗殺聖闘士『図書館の時間(仮)』
乞う御期待!!