暗殺聖闘士   作:挫梛道

44 / 105

タグにも「他作品キャラ乱入」とは、きっちり表記してますので…




適当な時間

「…知らない天井だ。」

 

「…ケッ!ネタに走ってボケる余裕があるなら、大丈夫みたいだな!」

「寺坂、お前なぁ…」

「イトナ、気分は どうだい?」

 

その日、放課後訓練が終わった後、数人の生徒が保健室に様子を見に行った(寺坂皆勤賞継続中)その時、イトナは目を覚ました。

結局 約24時間、眠り通しだったイトナ。

目を開けた後の、その第一声を聞いた寺坂は、思わず呆れ顔で悪態を吐く。

それを諫める前原に、そして何事も無かった様に、自然体で声を掛ける磯貝。

 

「……………………………。」

「おい、黙り決め込んでないで、何か喋ったらどうだ?」

「…兄さんは何処だ?」

「兄さん?あぁ、殺せんせーなら、教員室に…って、イトナ?」

ガタ…

教員室という言葉を聞いた途端、起き上がるが、その瞬間、立ち眩みを起こし、床に倒れ込むイトナ。

「う…!?…これは…?」

その時に頭を抑え、初めて自身の頭に巻かれている物に気付く。

 

「ああ、対せんせーネットと繊維で作ったバンダナだよ。

悪いが触手を抑える為に、着けさせて貰ったんだ。」

 

少し前、結果から先に言うと惜しくも失敗に終わったのだが、裏山で敢行された岡島発案、『殺せんせーをエロ本で釣って、網で生け捕り&暗殺しようぜ計画』。

その時に使用した対せんせーネット(防衛省特注品)と、ネットと一緒に防衛省から支給して貰っていた、対せんせー繊維を活用し、裁縫させたらE組で一番の原に、急遽作って貰ったバンダナ。

触手の暴走を少しでも防ぐ為、寝ているイトナの頭に巻いていたのだった。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「あっ、本当に起きてるし~♪」

「イトナ君、大丈夫?」

「やあ、おはよう。」

「吉良さん、もう夕方ですよ?」

イトナが起きたと聞き、次々と保健室に入ってくるE組の面々。

 

「あ~っ!!イトナ君、良かった~っ!!

目が覚めましたか?気分はどうですか?

何処か体の具合が悪いとか無いですか?

頭痛や目眩や吐き気とか大丈夫ですか?」

そして、過保護なまでに心配性なタコもやってきた。

 

「…兄さん…気分…?最悪に決まってる。

だか…ら…スッキリさせる…為…俺と此処で戦…え…」

獲物(ターゲット)の登場に立ち上がったは良いが、今にもまた倒れそうなフラフラなイトナが、虚ろな目で殺せんせーを睨む。

 

「殺せんせー…と呼んでくれませんか?

私は君の担任ですから。」

「五月…蠅い…今度こそ…勝つ…

勝負…し…ろ…!!」

「勝負するのは構いません。

しかし、君がいま、最優先にするべき事は心身の回復ですよ?

とりあえず、昨日から何も食べてないですよね?

先に校庭で、バーベキューでもしながら、先生の殺し方を皆で話し合ってみたらどうですか?」

「バーベキュー…?」

グゥ…

その言葉に反応するように、イトナの腹が音を発てる。

 

「そのタコ、しつこいよ~♪

一度 担任になったら、地獄の果てまで教えに来るから。」

「ヌルフフフフ…当然ですよ?

目の前に生徒がいるなら…教えたくなるのが先生っていう生き物なのですから。

ささっ、それよりも、皆でバーベキューしましょう。

イトナ君が その気なら、マッハで食材買いに行ってきますよ!」

「黙れ…誰が、敵の施しなんか…!!」

グッグゥ~…

しかし、イトナの腹は、口とは真逆の反応を示す。

 

「意地張ってんじゃねーよイトナ…

テメーにゃ散々してやられたがよ、全部 水に流してやっから、大人しく こっちに来いや。」

「うる…さ…」

バタ…

そして、それでも手を差し伸べる寺坂の呼び掛けも虚しく、再びイトナは意識を失い、倒れてしまう。

 

「これって…もしかして…」

「空腹で倒れたんじゃないの?」

「疲労と併せてピークだったんだろう?」

「…にしても、意地っ張りだよね~?」

 

「触手です…。」

「殺せんせー?」

「触手は意志の強さで動かす物です。

そして、それに伴い、触手が逆に宿主の意志を強く、悪く言えば、意地っ張り、頑固者へと誘導する事もあります。」

「「「「「今じゃん!!」」」」」

「はい、イトナ君に力や強さ…勝利への病的と言っても良い執着がある限りは、触手細胞は強く癒着し、決して離れる事は無いでしょう。

そうこうしている間に、肉体は強い負荷を受け続けて衰弱してゆき、最後は触手諸共、蒸発して死んでしまう…」

「その前に、餓死しそうなんですけど…」

「兎に角、彼の力への執着を消さないと、どうにもなりません。その執着の源を…」

「おい、執着の源ってアレだろ?

テメーの家の会社が大企業に潰されて、その結果、親に捨てられたって…

ついでに言えば、学校で その事で集団でバカにされたかで、キレてケンカになったが、返り討ちにでも なったんじゃね?

それで、誰にも負けない力が欲しいって、触手に手ぇ出したってオチだろ?」

「寺坂…お前、もう少し、ソフトに言えないのかよ?」

「知るかよ!結論から言や、それでグレただけって話だろーが、くっだらねー!」

「寺坂君…」

「皆、それぞれ悩みってな、あんだろ。

重い軽いの違いは、あるだろーがよ。

…けどよ、んな苦労とか悩みとか、考え方次第で、割と どーでもよくなったりするもんなんだよ…

おい村松、吉田、狭間!」

「「「は?」」」

寺坂は村松達を呼びながら、イトナの腕を自分の肩に回して抱え起こす。

そして、皆に向かって言うのだった。

 

「俺等にコイツの面倒、見させろや。

それで死んだら、其処までだよ。」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

『ごらん糸成。

この小さな町工場から、世界中に部品を提供しているんだ。ウチにしか作れない技術なんだ。

勉強を重ねた腕利きの職人と研究を重ねた製造器機。

近道は無いんだぞ。

日々勉強の繰り返し。

誠実にコツコツやっていけば、どんな大企業とも勝負が出来る。

誠実に努力を続けた人だけが、強くなれるんだ。』

 

 

そんな言葉は、嘘、まやかしだった…

結局、金(チカラ)で技術を盗(うばわ)れた。

圧倒的な力の前には、勉強も誠実も意味が無い。

力がある者、強い者は、力無き者が、それなりに大きくなるのを、黙って待てば良いだけだ。

力を行使して、後から奪えば簡単だから。

力があれば、誰にも邪魔はされない。

力があれば、誰にも負けない…。

だから俺は、そちら側になる為に、触手(チカラ)を求めた…。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「…はっ!!」

「よう、目が覚めたか?」

「お前…」

「おはよう。」

「吉良、もう夜だって…」

寺坂と村松がイトナの腕を、それぞれの肩に回して下山している途中で、イトナは目を覚ました。

 

「お前等…俺を何処に連れて行く気だ…」

「駅前のマク○。腹、減ってるだろ?

心配しなくても、金は出してやるよ。」

「………………………。」

「…寺坂が。」

「おぉいぃっ!!?」

「お前が面倒見るって言ったろ?」

 

 

このやり取りを少し後ろ、距離を開けて見ていた片岡達は思った。

((((やっぱり不安だ!!))))

 

少し、時間は遡る。

 

≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪

「俺等にコイツの面倒、見させろや。

それで死んだら、其処までだよ。」

「「「はぁ!?」」」

「おいおい、何で俺達まで…」

「うるせぇ!元々は、俺達がプールを荒らしたのが今回の事の始まりなんだ!

良ーから黙って手を貸せ!!」

「「ちぃ…わーったよ…。」」

「ちょっと、あたしは関係ないわよ?」

「良いんだよ、細かい事は!!」

「…てゆーか犯人、やっぱり、お前達だったのか…」

今更だが、呆れ顔で言う磯貝。

 

 

「…でも、寺坂君、大丈夫なのかな?

何か、作戦が…」

「渚、アイツも思う所があるんだよ…」

「吉良君?」

「あの爆破な、少しでも、アレの清算しようと必死なんだよ。」

「でも、アレについては、皆、もう…」

「アイツが納得してないんだろうよ…

折角その気になってるんだ、挽回の機会を邪魔するのは、野暮ってもんだぜ?」

「吉良君…」

「ふ~ん?其処まで解ってるなら、吉良君も寺坂達に着いて行ってよ?」

「「片岡さん?」」

響と渚の会話に、片岡が入ってきた。

 

「言ってる事は解るけど、それでも寺坂がバカやり過ぎない為の監視は必要でしょ?

殺せんせーも空から同行するんだろうけどさ、アイツ等を(物理的に)止められるって、アンタかカルマしか居ないじゃない?」

「だったら、俺でなくてもカルマでも…」

ガシッ…

その台詞に対し、片岡は響の両肩をガッシリと掴み、青筋を立てながら にっこり微笑み、質問してきた。

「良~い?想像してみなさい?

カルマ(アイツ)が いざって時に、ストッパーになると、本気で思ってるの?」

「いえ…アイツなら面白がって、尚更 支茶化滅茶化にしてしまいそうな気が…」

「そう、だったら…

分かるね?分かるわね?分かるわよね?」

「は…はい。」

暗殺教室で身に付けた、余りにも殺気が込められたスマイルからのONEGAIに、若干引きながらも承諾してしまう響。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「…とゆー訳で、同行する事になった。」

「くっく…アンタも災難ね…」

寺坂達に同行する旨を伝えると、狭間から早速 同情される響。

 

 

「…で、寺坂、とりあえず これから、どーすんだ?」

「おう…」

イトナを抱え、先頭を歩く寺坂と村松の少し後ろを歩いている吉田が尋ねると、寺坂は立ち止まると、後方を向き、

「お前等…これから どーすんべ?」

「「「「はぁああ!?」」」」

何とも間の抜けた笑い顔で、逆に意見を求めるのだった。

 

「質問に質問で返すな!!」

「何も考えてなかったのかよ!?」

「ホンッット、無計画だな、テメーわ!!」

「呆れた…」

「うるせー!5人も居れば、何かアイデア浮かぶだろーが!!」

あまりの 行き当たりばったり感に、非難轟々な響達と、それに逆ギレする寺坂。

 

「とりあえず、何か食わせようぜ。

俺も普通に腹、空いてきたわ。」

「…だな。」

「だったら村松ん家は?」

「村松ん家?」

狭間の言葉にオウム返しで聞く響。

 

「あぁ、吉良は知らなかったか。

俺ん家、ラーメン屋でよ…。」

「へ~、ラーメン、良いじゃん♪

コイツも一杯食べたら、気も多少は楽になるかもな?」

「バカヤロ、それ、何の罰ゲームだ!?

あの不味いラーメン食わせた日にゃ、逆に更にキレて、それこそ また触手で店を破壊しかねんぞ?」

これに寺坂がストップを掛ける。

 

「あ゙!?…まぁ、可能性はあるわな…」

この寺坂の発言に村松は、一瞬キレるが、次の瞬間には同意する。

「おいおい、自分ん家ディスられてんだからよ、そこはキレろよ?」

「いや、ぶっちゃけ仕方無ーよ。」

「村松?」

「親父、俺が散々レシピ改良しろって言ってるのに、全っ然聞きやしねー。」

どうやら村松は、自分の家の店に、不満がある様だった。

 

「それじゃ駅前のマク〇、行かないか?

あの店、今の時間帯なら可愛い店員さんが居るんだぜ♪

ツインテでさ、茅野ちゃん並の背丈に矢田さんレベル…下手すりゃ それ以上なのを持っててよ、まぢ、スペシャルビッグ〇ック、2プリ~ズ!どーん!!…みたいな?」

「「「よし、レッツゴー!!」」」

「はぁ…バカばっか…」

胸元で、両手で何かを持ち上げるポーズをしながらの響の提案に、ノリノリで応じる寺坂達を見て、溜め息を吐く狭間は、決して間違ってはいないだろう。

 

そして、今に至る。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「何だ?これ…?」

「くくく…修羅場ってるわねぇ?♪」

 

響達が件のマ○ドに入った時、店内では見た目20歳位の男性店員と、同年代なOL風の女性客が、痴情の縺れか、カウンター越に何やら言い争っていた。

それを あわわわ状態で見ている、アルバイトだろうか、若い女性店員が1人。

「あ…いらっしゃいませ~♪」

来店した響達に気付き、その女性店員が接客する。

                   

「また あの2人っすかぁ?(笑)」

「そ~なんですよ~。ハァ…」

それなりに常連な響からすれば、この2人による店内での やり取りは既に何度か見ており慣れた光景なのか、何気に話を振ってみると、マク○の制服の胸元に『佐々木』と書かれた名札を付けた店員は、溜め息混じりにボヤく。

「お姉さんも 大変っすね♪(笑)」

「え?えぇえっ!?

わ、わたしは真奥さんとわ、別に しょんにゃ…§ΘЖ※Ψ◎£¢§@∂∬…」

言い争っている2人と この佐々木という女性店員の3人を含め、まるで全てを察してますみたいな、響の下世話な顔をした含み笑いに、顔を赤くしてテンパるツインテールの店員。

「えと…ご注文をどーぞ…」

それでも、最後にはキチンと仕事するのだった。

                   

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「どーよ?美味いか?」

席に着き、スペシャルビッ○マックを頬張るイトナに吉田が話し掛ける。

「…特別な事はない。普通だ。」

「この野郎…人の奢りだからって、何の躊躇いも無くスペシャルのセット、頼みやがって…もう少し美味そうに食え!」

 

「…で、あの お姉さん、どうだった?」

続いて、響が接客してくれた、アルバイト店員について話を振る。

「…アレは、尋常ではないな。

でも、悪くはない。」

『アレ』…女性店員の何の事、何処の事を言ってるのか、どの様に尋常ではないのかは察して下さいなのだが、兎に角、満更でもないイトナ。

そして、

「お前等は どーよ?」

響が寺坂達に同様に振ると、

「「「吉良!お前、嫌な奴だと思ってたけど、実は凄く良い奴だったんだな!!」」」

ガシッ

「はぁ~…」

寺坂達は、感動しながら、響に対する認識を改めたかの様な発言と共に、がっしりとシェイクハンド。

4月の渚の自爆テロ以来、彼等の間で かなり深くなっていた溝が埋まった瞬間だった(笑)。

その様を見た狭間が更に呆れ返ったのは、また別の話である。

 

(((((やっぱり凄く不安だ!!)))))

その様子を2つ離れた席で伺っていた磯貝、片岡、渚、萱野、カルマの5人は そう思った。

因みに入店の際、茅野が何故か、件の女性店員を見た瞬間に尋常でない殺気を放ち、渚や片岡が必死に宥めたのというトラブルがあったのも、また別の話である。

 

「よしイトナ、飯も食ったし、腹ごなしに次は、風でも感じてみるか!」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

次に5人が足を運んだのは『吉田モーターズ』。

吉田の家が経営しているバイク屋である。

 

ドッドッドッドッ… グオォォォン…

「ひゃっはー!!どーよ、イトナぁっ!?

このスピードで嫌な事なんざ、吹き飛ばしちまえ!!」

店の裏のグラウンドの練習用トラックを、中型バイク2人乗りで疾走する吉田とイトナ。

 

「良ーの?中学生が無免で?」

「まあ、敷地内だから大丈夫だよ。

2人乗りは どーだか知らないけど?」

「吉田(アイツ)、偶にサーキットにも行ってるらしいぜ。」

その様子を見守る4人。

更に店の外、フェンス越しには片岡達5人が見守っている。

 

「どだ?テンション上がったか?」

「…悪くない。」

ハンドルを握る吉田の問いに、まずまずの反応を見せるイトナ。

 

「はっ!それなら もっと上げてやるぜ!!

しっかり掴まってろよ!」

ブォオッ!

バイクがトラックの直線からコーナーに差し掛かった時、

「必殺!高速ブレーキターン!!」

キィィッ!

「「「おぉっ!!」」」

自身が必殺と銘打つだけの事がある、豪快なターンが見事に決まるが、

「「「あぁーっ!!?」」」

その勢いで、後部座席のイトナが振り落とされる。

幸いにも地面に激突する事はなく、コース脇の茂みに突っ込み、大事には至らなかった。

 

「あの お馬鹿!あんた達もボォッと見てないで、早く助け出してきなさい!!

ショックで暴走したら どーすんのよ!?」

「いや、あの程度なら平気じゃね?」

わーわーぎゃーぎゃー…

兎に角、バカ騒ぎな寺坂達。

 

 

(((((……………………。)))))それを見て、片岡達は完全に言葉を失う。

「計画性、まるで無いわね…」

「うん、ただ遊んでるだけな気が…」

「ま、アイツ等って基本的にバカだから仕方ないよ。」

「なんか、吉良君も一緒にノリノリになってるし…」

「で、でも、狭間さん頭良いから、狭間さんなら、きっと何とかしてくれる筈!」

 

                   

「くくく…シロに復讐したいんでしょ?」

しかし、そんな茅野が推しの狭間は、偶々自分の鞄に入れていた、復讐をテーマにした、ダークでブラックな有名長編小説を薦めようとするのだった。

「これ読んで暗い感情、高めなさい?」

「重いわ!」「暗いんだよ!」「難い!!」

ブーイングな寺坂達。

 

「あら?心の闇は大事にしなきゃ駄目でしょ?」

「もういい!吉良!!お前、何かないか?」

ダメだ こりゃ…そう思った寺坂は、最後の砦?である響にアイデアを求めるが、

「う~む、近くの空手か柔道かの道場に放り込んで鍛えて貰うか?

やはり健全な精神は、健全な肉体に宿るからn「「「お前、実は脳筋だろ!? 」」」

「誰がアルギエバさんだ!?」

「「「誰だ、それ?」」」

脳筋と言われて、思わず前世(むかし)の仲間だった聖闘士の名前を出す響。

 

「もっと、こう…簡単にアガるヤツってないのかよ!?…って、イトナ?」

「う…うがぁ…!?」

この時、イトナの様子が急変。

 

 

「何かヤベぇ、プルプルしてんぞ?」

「少し巫山戯け過ぎたか?」

「…違うわ。これは…」

バリィッ!

再びイトナの触手が暴走を始める。

対せんせー素材のバンダナをダメージを受けるのを承知で無理矢理に引き裂き、蠢く黒い触手。

 

「マズいです!」

空から様子を見守っていた殺せんせーが急降下。

「寺坂!」「イトナ君!」「吉良っち!」

外で様子を見ていた渚達5人も、敷地内に駆け付ける。

 

「寺坂君、皆、下がって!!」

殺せんせーが前に立ち、寺坂達に退くように促すが、

「下がるのはオメーだ、このタコ!」

「にゅっ?!」

担任を押しのけ、更に前に出る寺坂。

「そーそー、この先はガキの時間、大人は引っ込んでろっての!!」

そして、響。

「寺坂君、吉良君…?」

 

 

「俺は…普段から適当にやってる、お前等とは違うんだ…

今すぐ、アイツを…兄さんを殺して、勝利を…!!」

前に出た2人に対し、イトナは目を血走らせ、睨みながら話す。

 

「おう、イトナ…俺も、つい この前までは そう考えてたぜ。

あのタコ、今日にでも ぶっ殺してやりてーってな。

…でもよ、少なくとも今のテメーにゃ、今すぐ奴を殺るなんて無理だ。」

「もっと楽に考えてみようぜ?

無理なビジョンなんか捨ててよ?」

寺坂と響は真剣な、且つ力を抜けと、笑みを浮かべた顔で話し掛けるが、

「黙れ!!お前等に俺の、何が分かる!?」

ブンッ!!

そんな言葉にも、聞く耳を持たない2本の黒い触手が2人に襲い掛かる。

 

ガシィッx2!!

「「うっ!!」」

その鞭の様に撓りながら、横殴りで襲ってきた触手を、2人は揃って腹、両腕、脚を使ってガッチリと、顔を歪めながらも受け止める。

 

「2回目だし、やっぱし前より弱ってるからな、捕まえ易いわ。

吐きそうな位、痛てーけどな!」

「刺突なら、地味に危なかったけどな?」

明らかに痛いのを我慢して、強がりの笑いを見せる2人。

「それに、片岡さんや岡野さんが投げる拳銃のが、もっと痛てーしな!」

 

 

「…だ、そうだよ~、片岡さ~ん?♪」

「あ、あれは あの露出狂が悪いの!!」

角と羽根を生やして茶化すカルマに、片岡は顔を赤くして必死に弁解する。

尚、拳銃(エアガン)という武器は、本来は弾を込めて撃つ武器であり、顔を目掛けて投げる様な、投擲武器等では断じてない。

 

因みにだが、響は今回、小宇宙を使ってのガードはしてはいない。

只の人間である、寺坂が生身で受けようとしたという、負けず嫌い的な物もあるが、瞬時に必要無しと判断したのである。

仮に必要があったなら、小宇宙全開で、寺坂と一緒にダメージを防いでいただろう。

 

「吐きそうって言や、村松ん家のラーメン思い出したぜ。」

「ほっとけ!!…なあ、イトナ…」

寺坂に突っ込みを入れた村松が、その儘イトナに話し出す。

 

「あのタコな、前に店(いえ)の事を話したら、俺に経営の勉強、奨めてきたんだぜ?

今は不味いラーメンでも、何時か俺が店を継ぐ時、新しい味と経営手腕で勝負しろってよ…。」

「それ、俺も同じ様な事を言われたわ。

い・つ・か・絶対に役に立つってよ。」

吉田が続けて話す。

 

 

「イトナよぉ…」

ゴンッ

「痛てっ!?」

「テメー、1度2度負けた位でグレてんじゃねー!

い・つ・か・勝てたら、それで良いじゃねーかよ!!」

そう言いながら、拳骨を落とす寺坂。

 

「いつか…?」

「おぅ、あのタコ殺すってのもな、別に今じゃなくて良いんだよ。

100回失敗しようが1000回失敗しようが、3月までに たった1回殺れたら、それだけで俺達の勝ちだ。」

「親の工場だったか?

その時の賞金で買い戻したら良いだろ?

そしたら、親も戻ってくるさ。」

響も、諭す様な顔で語る。

 

そんな響達に、イトナは自信無さげな顔で俯き話す。

「…考えられないし、耐えられない。

その、勝利のビジョンが出来る迄…俺は一体、何をして過ごせば良いんだ?」

「「「「「はぁ??」」」」」

イトナの台詞に、この日、最高の呆れ&引き顔を見せる響達。

 

 

くっくく…うぷぷ…

ぎゃぁーっはっはっはっはっはっはっは!!

 

そして次の瞬間には、大爆笑。

 

「な…何が可笑しい?」

「そ、そりゃあ、オマエ…」

「何をするってよ…」

「?」

「今日みたいに、皆で適当にバカやって過ごすに決まってんだろが!

その為にE組(おれたち)が居るんだよ!!」

「え…?」

寺坂の言葉を聞いたイトナの目が変わる。

「さっきみたく、何か食いながらよ、『あの お姉さんの おっぱいパねえ!!』とか駄弁ってみたり…」

「バイク乗ったりしてな!」

「皆でプリン食べてみたりぃ♪」

「スポーツとかな!」

「皆で渚君を弄ってみたりね♪」

「カルマ君…それは違うと思うよ…。」

然り気に会話に参加している渚達。

                   

「あはは…冗談だよ、渚君♪」

「ホントに…?」

笑うカルマにジト目の渚。

 

「見てみなよ、渚君、茅野ちゃん。」

「「え?」」

そんな渚と茅野の腕を引っ張り、イトナや寺坂達と少し距離を開けると、カルマは2人に小声で話す。

「寺坂ってさ、基本バカだから、あーゆー適当な事を平気で言えるんだよね?」

「カルマ君…?」

「でもね、あーゆーバカの適当な一言ってさ、こーゆー時に凄く力、抜いてくれるんだぜ?」

 

カルマの言う通り、イトナの顔から険が取れ、触手も力が抜けた様にダラリと垂れ下がり、その色も黒から白に変わる。

 

「俺は…焦っていたのか…?」

「…じゃね?」

イトナの呟きに、笑みを浮かべながら応える寺坂。

 

「イトナ君…」

「兄さん?」

改めて殺せんせーがイトナの前に立った。

 

「目から執着の色が消えましたね。

今なら、君を苦しめる触手細胞を、全て取り払えます。」

そう言って、幾本ものピンセットを構える殺せんせー。

「1つの大きな力を失う代わりに…多くの仲間を君は得ます。

皆と殺しに来てくれますね?明日から。」

「……………………………。」

その場にいる10人のクラスメートが微笑み見守る中、兄の…いや、担任の、余りの しつこさに ついに根負けしたか、イトナは呆れた顔で、尚且つ何か安心した様な顔を見せて言う。

「…勝手にしろ。この触手(チカラ)も兄弟設定も、もう飽きた…。」

その顔は、嘗てのカルマの様な、憑き物が取れて吹っ切れた様な、健全な殺意が込められた笑顔だった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓改行次の日。

「おっ、来たなイトナ!」

「もう壁壊さず、扉から教室入れよ!」

「…努力する。」

 

「おはよーイトナ君。」

「バンダナ、似合ってるぞ♪」

「…気に入った。」

 

「おっは~♪」

「…おはー」

 

久しぶりのイトナの『登校』に、顔を合わせる度に声を掛けるクラスメート達。

既に昨夜の件は、その場に居合わせていなかった生徒にも、渚達がメールで報せていたので皆、事情は知っていた。

 

「お、イトナ!今朝買ったグラビア、一緒に見るか?」

「見せろ。」

ガンッ!!x2

「「痛い!?」」

「いきなり変態(あく)の道に引きずり込もうとするな!この変態終末期が!!」

「イトナ君も!安易に変態(あっち)側に行ったりしない!!」

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「ヌルフフフフフ…

おはようございます、イトナ君。

気分はどうですか?」

「最悪だ。力を失ったんだから。

でも…」

ホームルームが始まる少し前に、教室に入ってきた殺せんせーの呼び掛けに、イトナは応える。

「…弱くなった気はしない。

だから、いつか…必ず殺すぞ…

殺せんせー。」

首狩りポーズからのサムズダウンで意思表示したイトナは教室後方、寺坂の隣の自分の席に着く。

 

『問題児・堀部イトナ』が正式にE組に加入した。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

放課後。

 

「寺坂、腹が減ったが金が無い。

昨日のマ○ドで また奢れ。」

「はぁ!?」

 

…因みに寺坂組にも加入した。      

 




次回の生贄(予定)

荒木鉄平
小山夏彦
岡島大河

次回:暗殺聖闘士『制裁の時間(仮)』
乞う御期待!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。