暗殺聖闘士   作:挫梛道

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※この小説はフィクションを原作とした、更なるフィクションです。
実在の人物、団体、国、出来事とは余り関係ありません。
 



破壊の時間

朝の教室。

ホームルーム前、E組の皆…寺坂を含む面々は、律の前に集まっていた。

…と、言っても、別に律の新コスの御披露目とか、そんなんではない。

 

「これってさぁ…」

「やっぱりイトナの仕業?」

 

昨夜、椚ヶ丘市内の携帯電話ショップをターゲットとされたと思われる、襲撃事件が多発。

その全てが略奪された形式はなく、単に店舗を破壊された物だった。

昨日から流れる関連ニュースを律に頼み、編集した画像を見ていた生徒達は呟く。

「この見事な破壊っぷり、触手でも使わなきゃ出来ないよね?」

 

昨日の騒動の後、結局イトナは姿を眩ませた儘だった。

当然、防衛省も彼を捜索開始しているが、まだ、見つけられない。

 

「…でもよ、どーして携帯ショップなんだよ?」

「あぁ、それなんだけどさ…律、用意出来てる?」

「はい、吉良っちさん♪」

ニュース画面を切り替え、普段の等身大の制服姿をした律が、液晶画面左上にサブ画面を表情して説明を始める。

 

「昨日の夜、吉良っちさんに頼まれて、イトナさんの事を調べてみたんですが…」

「「「?」」」

サブ画面に表示されたのは、【堀部電子製作所】という町工場のホームページ。

 

「世界的にスマホの部品を提供していた町工場でしたが、去年、負債を抱えて倒産、その時、社長夫婦は息子を残して雲隠れしています。」

「その息子ってゆうのが…」

「イトナ君…なの?」

「多分、間違いないだろ。」

「工場社長の息子・堀部糸成も、親戚に引き取られていた筈が、現在は行方知れずとなっています。」

「親戚に引き取られ、その後に どんな事があったかは知らないけど、その家から飛び出して やさぐれてる時に、シロに拾われたって考えるのが妥当だろうね。

ついでに負債の理由なんだけど、簡単に言えば、この工場の技術を、ほれ、例の〇国の企業に、スタッフごと金で持っていかれて、工場が機能しなくなったってのが、真相らしいぜ。」

「もしかして、少し前にニュースになってた、あれ…?」

「ああ、自分の国の技術じゃ、爆弾(笑)しか作れないもんだから、金に物言わせて日本(ウチ)からパクったってヤツな。」

「結局の所、大企業の力に潰されたって訳か…」

「力…ね…。」

 

ガラ…

「少し早いが…皆、揃ってるか?」

「皆さん、おはようございます。」

「烏間先生?…と、殺せんせー…」

そういう会話をしていると、まだホームルーム開始を知らせる予鈴は鳴っていないのだが、教室の扉が開き、烏間と殺せんせーが入ってきた。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「皆にも報告しておく。

シロ…柳沢は、現在 拘束中だ。

当然だが、表に出す訳にはいかないので、どういう処分にするかは、上で検討中だ。

尤もヤツは今、右腕と肋が数本が折れていて、顎と両膝も砕かれた状態だからな…

暫くの間は病院だ。」

皆を席に着かせた後、烏間が あの後の経緯を話す。

 

「吉良っち~?」

「殺り過ぎた自覚も無ければ、反省も後悔もしていない。」

ジト目のカルマを、軽く受け流す響。

因みにイリーナのトラップに掛かった柳沢は あの後、逃亡防止の意味を込められ、響に両膝と喉を破壊されていた。

「中学生とは思えない、容赦の無さだったわ…」とは、一緒にいたイリーナの弁。  

烏間の説明は続く。

「それから堀部イトナは…まだ見つかっていない。」

「そのイトナなんですけど…」

「はい、先生も、ニュースは見ました。」

曰わく、使い慣れている殺せんせー本人は画像を見て すぐに分かったが、皆の言う通り、あの破壊は触手による物と見て、間違いないとの事。

律の調べたイトナの身元の判明と合わせ、何故、携帯ショップを狙ったのかも納得。

力や強さ、勝利に固執する理由も、察したとの事。

 

「他人が努力して形を作った後に全部、横から持っていくって…卑怯だよね…」

「でも それって、その企業もシロも同じって気付いてないの?」

「努力した挙げ句、理不尽に力に潰されたからこそ…力のある側を選んだって考えなのかもな…」

「そんな事は、どうでも良いんです…」

「殺せんせー?」

 

イトナは自分みたいな、全身が触手細胞の生物とは違う。

人間の肉体に後から触手細胞を植えられた者は、毎日の様に適合処置(メンテナンス)をしなければ、神経を触手に蝕まれ、地獄の様な激痛と拒絶反応に苛まれる。

柳沢に梯子を外された今、どう暴走するか分からない。

兎に角、この細胞は人間に移植するには危険過ぎるとの事。

 

「いずれにせよ、イトナ君は先生が、担任として止めます。

彼を探して保護しなければ、それこそシロの…柳沢の言う通り、生命に関わりますから。」

「…でもよ、助ける義理あるのかよ、殺せんせー?」

「つい昨日まで、商売敵だったみたいな奴だぜ?」

「担任って言っても、形だけじゃん?」

今まで…というか、昨日の今日な事もあり、E組の生徒達は、イトナを救うのを余り善しとする顔をしない。

 

「…それでも、先生は担任です。

『どんな時でも自分の生徒を見捨てたりはしない、絶対に この触手(て)を離したりはしない』…先生は先生になる時、そう誓ったんです。」

「「「「「「「せんせー…」」」」」」」 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

その日の夜。

北椚ヶ丘駅前アーケードの街路樹の上に潜む、数人の少年少女。

 

「やれやれ、昨日も言った気がするけど、ウチのクラス、甘いヤツ多過ぎ。」

「そう言いながら、きっちりと お前も同行してるじゃないか?」

「…吉良っち、ツンデレ?」

「いや、速水さんにだけは、それ言われたくないし。」

「ぶーっ!!」

「…岡島、笑い過ぎ。後で〆る。」

「何故っ!?」

 

響、磯貝、岡島、速水、不破。

この5人は携帯ショップ、dokodemo北椚ヶ丘駅前店を見張っていた。

イトナの発見、保護、説得を目的に、律が挙げた、市内で まだ襲撃されていない携帯ショップを、E組が手分けして見張る事になったのだ。

 

♪ЯЯЯ♪

「「「「「!!」」」」」

そんな中、磯貝の携帯が鳴る。

「………………………………。

片岡さんからメールだ。

東口のah-uh(アーウー)だそうだ。急ごう!」

鷹岡が去った後、烏間の訓練プログラムに追加されたフリーランニング。

その成果を遺憾なく発揮するが如く、木々を飛び移って移動する5人。

 

「「うわゎっ!?」」

因みに この時、木から飛び出した数人の人影に、警備に就いていた2人の警官が驚きの余り、思わず銃を抜こうとしたのは、また別の話である。            

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

時は少しだけ戻る。

 

片岡、カルマ、寺坂、木村、千葉、岡野の6人が張っていた、ah-uhショップ。

既に営業時刻は過ぎ、閉められたシャッターの前には、2人の警察官が立っている。

 

「ねぇ、昨日の事件の事もあってさ、警官が入り口に張り付いてるのは分かるけど、あれって意味あるのかな?」

「あの触手(イトナ)に掛かれば瞬殺だろうけどさ、見張りがいるだけで、襲撃されない可能性だってあるからね~♪」

岡野の疑問に、自分の考えを話すカルマ。

 

その時…

ドガシャアッ!!

「「「「「「えぇっ!!?」」」」」」

何の前触れも無く、突如として店の前に現れたと思うと、黒い触手を操り、シャッターを破壊するイトナ。

いきなりの登場に、驚くカルマ達。

 

その頭には数本の黒い触手が蠢く。

先日、自らが斬り落とした触手も再生された様だ。

警備していた警官は、触手が繰り出す事により生まれる、音速の衝撃波をまともに受けて気を失っていた。

そしてイトナは その儘 中に入り、店内を破壊していく。

 

「…ったく、役に立たねー見張りだな!」

「いや、おねんねしてくれるのは、好都合っしょ?♪」

あっと言う間に熨された警官を見てボヤきながら、

「イトナぁ!!」

怒鳴りながら、店内に入る寺坂達。

その店内では、フラフラになりながらも、店の中を一通り破壊したイトナがいた。

 

「ハァ、ハァ…勝ちたい…勝てる強さが欲しい…俺は…TSUEEE…EEE……」

触手も未だ黒くはあるが、力を使い果たした様に枯れ細り、ダラリと垂れている。

体全身から汗を流し、顔は青ざめ、頭痛目眩に苦しむ様に頭を抑えながら、譫言の様に強さに拘る台詞を口にするイトナ。

 

「イトナ…?」

店内に入ってきた、寺坂達を睨み付けるとイトナは、

「何だ…?貴様等?

…兄さ…んは何処…だ…?

次は…負け…な…」

バタ…

「「「い、イトナぁっ!?」」」

其処まで言うと、気を失い、床に倒れ込んだのだった。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「にゅ?い、イトナ君!?」

「片岡さん!」

「寺坂、カルマ!」

「カルマ君!」

「皆、大丈夫か?」

そして暫くして、連絡を受けた殺せんせーを始め、各携帯店舗を見張っていたE組の面々が、この場所に集まった。

 

「…で、どうするよ、コイツ?」

未だに目を覚ます様子がない、イトナを見た杉野が皆に話し掛ける

「兎に角、この場からは去りましょ?」

「にゅる…では、とりあえずイトナ君は、先生が学校に連れて帰ります。」

「じゃ、皆、学校に集合って事で。」

「いえ、今日は もう遅いですし、皆さんは帰宅して下さい。」

「大丈夫なの?」

「触手自体が休養を求めています。

少なくとも今夜は、目を覚ます事はないでしょう。」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓改行次の日。

 

「まだ、目を覚まさないみたいだね?」

「ケッ!死んでんじゃないのか?」

「寺坂っ!!」

この日の保健室は朝から、授業の合間毎、ベッドで静かに寝息を立てているイトナの様子を伺う生徒達が、入れ替わり立ち替わりしていた。

因みに寺坂は、朝のホームルーム前から放課後まで、皆勤賞である。         

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「本当に大丈夫なのか?

直ぐにでも、防衛省に引き渡した方が、彼の為だと思うが?」

「私もカラスマに同意よ。

それに、また あのコが暴走したら、今度こそ生徒(ガキ)達も危ないわよ?」

「…もう少しだけ、せめて、今日1日だけ待って貰えませんか?」

教員室で、烏間とイリーナの、早急にイトナを国に引き渡すべきという意見に、待ったを求める殺せんせー。

 

「あの触手…あれを切り離すのは、普通の外科手術なんかでは無理です。

彼の、あの『力』への執着を消さないと…

その理由は、彼の実家の事情で何となくは察しましたが、それなら尚の事、イトナ君が触手の力を必要としている内は、触手も彼に癒着した儘、離れたりはしません。」

「…………………………。」

「タコ…」

 

「何処かで彼が、力に対する考え方を変えない限りは…。

そして、そのきっかけを作る事が出来るのは我々ではない、そう、彼等だけです。」

E組の担任教師は、教員室から、生徒達が集まっているであろう保健室の方向を向くと、小さく呟いた。

 

 




≫≫≫≫≫≫次回予告!≪≪≪≪≪≪ 
「それじゃ駅前のマク〇、行かないか?
あの店、今の時間帯なら可愛い店員さんが居るんだぜ♪
ツインテでさ、茅野ちゃん位の背丈に矢田さんレベルなのを持っててよ、まぢにビッグ〇ック、2プリーズ!!…みたいな?」
「「「…よし、レッツゴー!!」」」
「はぁ…バカばっか…」
 
次回、暗殺聖闘士:『適当な時間』
乞う御期待!!


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