暗殺聖闘士   作:挫梛道

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流れる時間

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

昼休み。

 

ぐすっぐすっ…

 

「そー言えば、昨日の試合、見た?」

「いや、途中までは見てたんだけどさ、何時の間にか寝落ちしてたよ~。

一応、録画してあるし、ニュースで結果は知ってるけどな。」

 

ぐすっぐすっ…

 

「茅野っち、具合どう?」

「あ、うん…もう平気かも…?」

 

ぐすっぐすっ…

 

「杉野~?唐揚げ、美味そうじゃん?」

ガバッ!

「吉ぃ良ぁ~!!」

「体全体で、弁当箱ガードするなし…」

「はは…まぁ、仕方無い…」

 

ぐすっぐすっ…

 

「…で、ビッチ先生、昨日の朝って、どんな水着、着込んでいたんですかぁ?」

「あぁ、自撮りした画像あるけど見る?」

ガサガサ…

「「うっ…わぁあ………」」

 

ぐすっぐすっ…

「…って、アンタ、さっきから!

何なのよ、意味も無く涙流して!?」

 

休み時間、食事中の誰もが気になっていた事…。

何故だか泣きながら大量の菓子パンを食べている殺せんせー。

最初は皆、敢えて無視していたが、何時迄経っても泣き止む気配が無い この黄色いタコに対し、我慢しきれなくなったのか、イリーナが ついに突っ込んだ。

 

「いやいや…これは鼻なので涙でなくて、鼻水です。目はこっち。」

「「「「「「「「「「「紛らわしい!

てか、汚いわ!!」」」」」」」」」」」

余計な解説で、更に皆から総突っ込みされる殺せんせー。

 

「どうも昨日の夕方辺りから、体の調子が少し変です。夏風邪ですかねぇ?」

涙…もとい、鼻水を零しながら呟く。

 

ガラ…

そんな教室に、如何にも不機嫌そうな顔をした寺坂が入ってくる。

 

「おぉ~寺坂君!!今日は もう、学校に来てくれないかと心配でした!」

そんな寺坂を、感激の余り号泣するが如く、大量の鼻水を出しながら、寺坂の両肩をガシッと掴んで出迎える殺せんせー。

寺坂は その顔に、思わず目が飛び出す位の驚きの表情を見せる。

身長差故に、次第に顔が殺せんせーの分泌物まみれになる寺坂の顔。

 

「昨日の殺虫剤の事なら御心配なく!!

もう皆さんも気にしてませんよね?ね?」

泣きながら(違)皆に訴えかける様な顔をして、許しを求める担任教師。

「お、おぅ…涙でグチャグチャになってる寺坂の顔のが気になる…」

 

『涙』と云う言葉を使うのは、先の会話に居合わせておらず、真実を知らない?寺坂に対する武士の情けか…

 

「あれから昨日1日考えてみましたが、やはり本人と、じっくり話すべきと思いました。

何か悩みがあるのなら、後で聞かせて貰えませんか?」

「……………………」

親身に話す担任教師の顔を無言で睨み付ける問題児は、その担任の身に着けている三日月マークのネクタイで顔を拭くと、

「おい、タコ…

そろそろ本気でブッ殺してやるよ。

水が弱点らしーな?

放課後、プール来いや!」

暗殺宣言である。

 

「テメー等も全員手伝え!

俺が このタコを水ん中に叩き落としてやっからよ!!」

「「「「…………」」」」

「「「はぁ!?」」」

「「「「「……………………」」」」」

 

その呼び掛けに ある者は口に出し、またある者は無言で、「コイツ、何言っちゃってんの?」な顔をする。

 

「おい、勝手言ってんなよ、〇゙ャイア「誰がジャイ〇ンだ!?」

「お前だよ、オ・マ・エ!」

「あ゙ぁ!?」

そんな皆を、響が 代表するかの様に諫めようとするが、呼び方がアレだった為か、なかなか会話が進まない。

 

「あ~、吉良、ちょっと下がって!!」

「ぬぉ!?」

そこに口を挟むのは磯貝悠真。

響を押しのけた学級委員が、寺坂に話し掛ける。

「…寺坂、お前、ずっと皆の暗殺には協力して来なかったよな?

それを いきなり お前なんかに命令されてだ、皆が皆、ハイやります…と言うとでも思っているのか?」

「どんな策かは知らねーが、いきなり協力求めてんだ、どーせ お前1人じゃ、どーにも出来ないんだろ?

とりあえず皆に頭下げて、どんな作戦か話した上で「お願いします」って言ってみろよ?」

これに前原も言葉を続ける。

更には渚が

「寺坂君…本気で殺るつもりなの?」

心配そうに聞いてくる。

「あぁ!?…ったり前じゃねーか。」

「だったら ちゃんと皆に、前原君が言った様に、具体的にどんな計画かを話さないと…1回失敗したら、同じ手は通じないんだよ?」

「具体的な計画って、そりゃ お前…

……………………………………………」

此処で寺坂の口が止まる。

「「「「「「「「???」」」」」」」」

 

「五月蝿ぇよ、弱くて群れるばっかで、本気で殺るビジョンも無ぇ奴等な癖によ!

俺はテメー等とは違うんだ。

楽して上手く殺るビジョンを持っているんだよ!!」

「「おい、寺坂…!」」

その台詞の何処かが琴線に触れる部分があったのか、磯貝と前原が突っかかろうとするが、響が其れを制する。

 

「けッ!別に嫌なの無理して来なくてもいいんだぜ?

そん時ゃ俺が、賞金100億独り占めだ!」

ピシャッ

そう言うと、寺坂は教室から出て行った。

 

「何なんだよ、アイツわ…」

「正直、もう付いてけねーわ。」

昨日までは同じ『派閥』だった、吉田と村松も三行半な発言を放つ。

 

「私、行~かな~い!♪」

「同じく。」

「俺も今回はパスな。」

「以下同文!」

クラスの皆も、寺坂の策とやらを共にする者は誰も居ない様だ。

 

「吉良君やカルマ君は、どー思う?」

「失敗にゴーヤ・オレ1本!」

「ん~、何だかアイツの言葉、違和感があったんだよね~?それよりも…」

「それよりも?」

「「アイツがビジョンて単語を知っていたのに驚きだ!」」

「そっち!?」

 

放課後はプールで遊ぶ予定だったが、暗殺の舞台に使われるのでは仕方無い。

烏間も数日前から防衛省に入り浸りで、放課後の特訓もないから、久しぶりに早く帰るかと、皆が言っていると、

「皆さん、行ってみましょうよぉ~?」

顔中から大量の…最早、鼻水だか粘液だか解らない分泌物を出しまくりな殺せんせーが訴えかけた。

「折角、やっと寺坂君が私を殺る気になってくれたんです。

皆で協力して暗殺して、気持ち良く仲直りしましょう。」

「「「「「「「いやいや、まず、アンタが気持ち悪いから!!」」」」」」」

ドロドロドロドロ…

分泌された粘液で、まるで顔が溶けた様になり、B級SFホラー映画に出てくる怪物の如く、不気味さが200㌫増しになったタコに、生徒達は突っ込んだ。           

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

そして放課後のプール。

 

「よーし、そうだ!

そんな感じでプール全体に散らばっとけ!」

拳銃を片手に寺坂が指示を出す。

 

「何なの?あの偉っそうな態度?」

「全くだぜ。あれじゃ、1年2年の時と変わらねー。」

「学年中の嫌われ者。

浮き過ぎなんだよ、この学校じゃあな。」

「あたしも やっぱり、あっちに居るべきだったかな~?」

不破、三村、木村の言葉に、矢田が響達の立っている岩場を見て言う。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「何だかんだで お人好しが多いよね~、このクラスって♪」

「まあ、そう言うなって。

兎に角、お手並み拝見だ。」

その様子をプール傍の高い岩場から見守る、数人の男女。

カルマ、響、千葉、速水、倉橋、中村。

そしてイリーナ。

彼等は結局、殺せんせーの説得にも応じる事無く、今回の寺坂の暗殺計画には不参加の形を取った。

E組の生徒達にとって寺坂は、4月の渚にやらせた自爆テロ(未遂)の事もあり、やはり信用信頼には事足りない部分がある。

それでも、半数以上の生徒は、何だかんだで寺坂に協力している。

磯貝や片岡は、クラス委員としての責任感故か、そして渚や神崎辺りは、その お人好し過ぎる性格からか、また茅野や杉野は特定の人物が参加しているからだろうか。

他の生徒達にしろ、殺せんせーに諭された部分が多いのだろう。

 

「…に、してもアンタ達、しっかりと水着には着替えてるのね?」

「いや~、どーっせ、直ぐに暗殺失敗に終わるだろうからな~って…」

「ねぇ…(笑)」

「同じく。」

イリーナとカルマ以外は皆、失敗直後にプールで遊ぶ気満々で、水着の上にジャージを羽織っていた。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「ヌルフフフフフ…

成る程成る程…先生をプールに落として皆に刺させる計画ですか。」

「!!」

縞々のタコがプールに現れた。

 

「…で、君は、どうやって先生を落とすつもりですか?

そんなピストル1丁では、先生を1歩すら動かせませんよ?」

「フン…」

 

 

タコが…

コレは銃なんかでなく、イトナに合図を送る発信機なんだよ。

E組(あいつら)が準備(スタンバ)った時点で引き金を引いて知らせる…。

そしたら、この近くに潜んでいる筈のイトナが駆け付けてテメーを水に落とす。

後は…集団で滅多刺しよ!!

 

 

ス…

寺坂が銃口を殺せんせーに向ける。

「覚悟は良いな?モンスター?」

「ええ、勿論。鼻水も止まってますし。」

「俺はテメーが嫌いだ。

目の前に現れた時からな。

消えて欲しくて しょうがなかった。」

「はい、知ってます。

暗殺(コレ)の後、2人で ゆっくりじっくり話し合いましょう。」

寺坂の言葉も、大人の余裕か、縞模様のタコは軽く受け流す。

「舐めやがって…」

                  

 

…来いや、イトナ!!

                  

                  

カチッ…

ドッゴォォヮッ!!

「え?」

寺坂が その引き金を引いた瞬間、それに呼応したかの様に、プールの水門が派手な音と共に爆発した。

「「「うわわっ!?」」」

「「「「きゃああぁっ!?」」」」

水門の破壊により、放流される水と一緒に勢い良く流される生徒達。

 

「皆さん!?」

その生徒達を触手を駆使して水から掬い上げ、救出しようとする殺せんせー。

 

「な…嘘だろ?

コレ、こんな事するスイッチって聞いてねーぞ!?」

自分のやった事を理解したのか、今にも泣きそうな顔で、手にした銃を見ながら、寺坂は呟く。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

一方…

「ちぃっ!!」

タタッ…

「「「吉良っち!?」」」

「吉良?」

「きーちゃん?」

「ヒビキ!」

 

水門が爆破されるのを見たと同時に、その場に向かって走る響。

最初は爆発に唖然としていたカルマ達も響を見て、1テンポ遅れながら走り出した。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

そして同じ頃…

「ふふふ…

プールを爆破して、生徒ごと放流。

そして あの先は険しい岩場に滝…

溺れるか落下するかで、私の計算では…

7~8人は死ぬよ?

水に入って助けなきゃね?殺せんせー?」

その様子を影から見ながら、白頭巾の下で、邪な笑みを浮かべる男が1人いた。

 

「マッハで助ける…。

それでは、生徒の体が耐えられない。

気遣って助けてる間に、奴の触手は どんどん水を吸っていく。」

「少しの水なら、粘液で防げるぞ?」

ヌルン…

頭から伸びる触手の先端から、粘液を出したイトナが言う。

 

「そうだよイトナ。

周囲の水を粘液で煮凝りみたいに固めれば、浸透圧を調整出来る。

だが、昨日、彼が巻いたスプレー缶…

あれは奴…触手生物にだけ効く薬剤でね、今頃は花粉症の時の涙や鼻水の症状の如く、粘液を出し尽くしてる筈さ。

即ち水を防ぐ手段は無い。

生徒全員を助けてる頃は、奴の触手は膨れ上がり、自慢のスピードを失っているよ。」

「兄さん…」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「何だ、こりゃ?」

「水、無くなってるじゃん?」

 

響達が着いた時には、プールの面影は無く、本来の姿である沢が ちょろちょろと流れていた。

 

「おい、大丈夫か!?」

「おぅ、千葉か…」

「…何があったのよ、これ!!?」

「分かんないよぉ…いきなり水門が爆発したと思ったら、皆、勢い良く流されて…」

「…で、殺せんせーが俺達を…」

千葉達が近くに居た、岡島や不破達に話を聞こうとするが、本人も何が起きたのか分からない様子だ。

 

 

グイッ!!

「おい、寺坂!

お前一体、どんな計画立ててたんだよ!?」

茫然と立ち尽くしている寺坂に対し、響とカルマが襟元を持ち上げ問い詰める。

「俺は…何もしてねぇぞ…」

「「はぁ!?」」

「話が違げーだろ?

拳銃(コレ)、イトナを呼ぶサインって言ってたじゃねーかよぉ…?」

「イトナ…!?」

「……!!

…成る程ねぇ…。

つまり、これは寺坂が立てた計画でなく、あの2人に見事に騙され操られてた…って訳ね?」

「な…俺は悪くないぞ、カルマ、吉良ぁ!!

こんな計画やらせる奴が悪いんだよ!!

そうだろ!なっ?」

青ざめて引き攣った笑い顔を作り、自分には責任が無いと必死に訴える寺坂。    

「皆が流されてったのだって、全部奴等が仕組んだ事で、俺は悪くn…」

バキィッ!!

言い終わる前に、カルマの右拳が寺坂の顔面を撃ち抜いた。

 

「ふぅ…」

殴った本人も少し痛かったのか、拳を押さえながら赤髪の少年は話す。

「あのタコがマッハ20で良かったよね?

…でなきゃ お前、今頃大量殺人の実行犯にされてる処だよ?」

「まだ解ってないのか?

流されてんのは皆でなくて、テメー自身なんだよ!」

「…!!」

更に続く響の台詞に、完全に黙り込んでしまう寺坂。

 

「吉良っち、俺達も皆の所に!」

「応よ…

…で、寺坂、お前は どーすんだ?

他人(ひと)のせいにするヒマがあるなら、自分の頭で何したいか何すべきか、考えてみろよ?

じゃ、俺等は もう行くぜ…」

そう言い残し、響とカルマは去って行く。

 

「俺は…」

その2人の後ろ姿を見ながら、独り残った大柄な少年は俯きながら呟いた。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「うおぉっ!?落ちるぅ!!」

「吉田君、待ってて下さい!!」

そう言いながら、流される吉田を滝に落ちるギリギリで救出した殺せんせー。

 

「ふぅ…何とか全員、無事に救出する事が出来ました。

しかし、この爆破…一体、誰が…?」

シュル…

その時、滝の下から伸びてきた1本の白い触手が、殺せんせーの脚を掴む。

 

「触手!?ま、まさか…」

バッシャァーン!!

白い触手は その儘、殺せんせーの身体を下流の滝壺に叩き付ける。

 

「はい、計画通り。

久しぶりだね、殺せんせー?」

「兄さん…決着を着けよう…」

「あ、アナタ達は…!!?」

 殺せんせーの前に、黒幕であるシロとイトナが姿を見せる。

 

「…………!!」

「気付いてるかも知れないが、一応、言っておこう。

君が吸ったのは、ただの水じゃあない。

昨日の夜に、あの坊やにプール上流から混入させた、触手の動きを弱める薬剤が入っているのだよ。

ついでに言えば、昨日の彼のスプレー缶も そうなんだけどね…

前にも増して積み重ねた数々の計算。

そして、更に触手強化したイトナ…。

ま・さ・に、プッワァーフェクツッ!!!!

ふふふ…さあ、イトナ!殺しの時間だ。」

ヒュンヒュンヒュン…

頭から生える触手を鞭の様に撓らせ、無表情だが その瞳にだけ強烈な殺意を込めた少年が、迫りながら口を開く。

「…俺と兄さん、どっちが TSUEEEEE!!か、改めて決めよう…!!」

 

 




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