この物語は、読者の皆さんは『暗殺教室』を熟読、『聖闘士星矢』の設定も、ある程度は知っている前提として進めていきます。
4月某日。AM0:00
小高い山の上にある学舎、深夜、三日月が照らす運動場に2つの人影があった。
1つは、見た目的には特にコレといった特徴もない、極々普通の少年。
そして、もう1つは…
「ヌルフフフフフ…本当に対せんせー武器無しで勝つ気ですか?吉良君?」
「はい。てゆーか、今日は、俺の攻撃がせんせーに効くかどうか試すだけですから。
今回は殺るとか勝つとか、そんなのは考えてないですよ、殺せんせー。」
黄色いタコ…の様な生物?
「ヌルフフフフフ…これは舐められた物ですねぇ…」
少年から『殺せんせー』と呼ばれた黄色いタコ?は余裕からか、或いは元からなのか、夜空の三日月の如く、口を吊り上げ若気ている。
「では、吉良君、始めますか?」
「…行きます!」
無防備に立つだけのタコに対し、吉良と呼ばれた少年は、拳法の様な構えをとり、
「…の前に、」
「ヌフーっ!」
ステーン!
目の前のタコをずっこけさせた。
意外に人間味のあるタコの様だ。
「今夜の事は、絶対に誰にも喋らないで欲しいです。」
「ヌルフフフフフ…分かりました。
いいですよ。約束しましょう。」
タコは独特、且つ奇妙な笑いで頷く。
「では、改めて行きます!
まずは…マッハ1で!」
「にゅにゃ?!」
音速…少年は、普通の人間なら考えられないスピードでタコに突進しながら拳を打ってきた。しかし、タコも常識外れなスピードで、これを難なく躱す。
「このスピードは?!
吉良君、君は一体…?」
「まだまだ!スピードはもっと上がりますよ?せんせー!」
マッハ2、マッハ3、マッハ4…
徐々に攻撃のスピードを上げていく少年。
タコは予想外のスピードに戸惑った顔を見せながら、その全てを躱していく。
マッハ20…
「にゅる!」
そして、今までは少年の繰り出す拳や蹴りを躱すだけだったタコが始めて己の腕…否、触手で放たれた右の拳を「ガード」して受け止めた。
「へぇ…マッハ20でこれかぁ、それなら!」
マッハ25…
ドン!
「にゅや?」
少年の放った蹴りがついにタコの側頭部にクリーンヒットした。
しかし、
なんだ?この手応えの無さは…?
攻撃をヒットさせた方の少年が納得のいかない顔を見せる。
「…ならば!」
更に次の攻撃のモーションに入った時、
「ストーップ!ストーップ!
ちょっとタンマです、吉良君!
お願いだから、ちょっとだけ待って!」
ぴた…
タコの言葉に反応し、律儀にも?振り上げた拳を止める少年。
「…何?」
「君の、その速さは一体、何なのですか?
どう考えても、人間の出せるスピードじゃあないですよ?!」
「それが、出せるんですよ?俺にはね。
それに、俺のMAXは、この程度じゃない!」
カッ…
「にゅ?」
一瞬、少年の左拳が煌めいたかと思えば、次の瞬間、タコの三日月のマークが特徴的なネクタイの上に衝撃が走った。
ちっ、やはり、手応え無し…か。
「吉良君…?」
「俺のMAXは、マッハなんて欠伸が出る速度とは、次元が違うんですよ!
こっから先はマジでいきますよ、殺せんせー!」
再び、独特の拳法の様な構えを取り、
「はああぁぁぁぁぁぁ…」
身体中に己の全ての力を張り巡らせるかの如く、呼吸を整える少年。
そして、
「先ずは…アルギエバさん、借りるよ!」
カッ…!
「にゅにゃー?」
放たれた拳の軌跡が無数の閃光となり、タコの身体を打ち抜き天高く吹き飛ばす。
スタ…
だが、このタコには飛行能力があるのか、空中で体制を整えると、静かに着地。
あれだけの打撃を浴びながら、ダメージを受けている様子はない。
「ヌルフフフフフ…
確かに先生の目でも追えない速さですが、それでもね、効かない物は、効かないんですよ~?」
「く…ならば、これだ!パーンさんの…」
シュッ!
手刀の形から右腕を振り抜き、研ぎ澄まされた刃の如き衝撃波が一直線にタコを襲い、直撃するが、
「ヌルフフフフフ…」
これも効果が確認出来ない。
本来ならば、触れた先から真っ二つになる筈であろうタコの身体は、先程の攻撃から、その身を纏っている式服は既にズタボロなのだが、身体は全くの無傷だ。
「そんな…バカな…」
動揺を隠せない少年。
「…はっ?」
そして、1つの事に気づく。
「殺せんせー…」
「はい?」
「よく考えてみたら、せんせーは全然、俺に攻撃してきてないよね?何故?」
そう、殺せんせーと呼ばれるタコは、少年の攻撃を受けるだけで、自身は全く手を…触手を出してないのであった。
「ヌルフフフフフ…
それは、君が守るべき生徒だからですよ。
間違っても傷つける存在なんかではありませんからね。」
「!!」
こりゃあ勝てねーな…
相手が攻撃を仕掛けてこないなら、負ける事はないだろう…
しかし、自身の攻撃が通じる通じない以前に、決して勝てる『器』でない事を感じ取る。
そして、
「今、ギブするのは虫が良すぎる?」
「ええ、構いませんよ?
その代わり、ほんの少しだけ、手入れをしますがね?
それと、最初の約束通り、今夜の事は、誰にも言いませんが、先生にだけは、この場で説明して欲しいですね?
吉良君、君のその
ヌルッフフフフフフフ…」
「ふぅ…分かったよ、殺せんせー。
ギブアップ、今日は、俺の…負けだ…。」
笑顔で負けを宣言する少年。
「ヌルフフフフフフフフフ…」
それにタコは目を細めて優しい笑みを浮かべ応えたのだった。
▼▼▼
木造校舎、『3-E』と表記された札が廊下の壁に掛けられた教室。
深夜2:00前のその教室に、先程まで運動場で戦闘行為をしていた少年とタコがいた。
「ヌルフフフフフ…
では吉良君、説明して貰いますよ?
君の、そう、まるでマンガに出てくる
「…俺、一応、聖闘士なんだけど?」
「にゅる?」
タコが己の問い掛けに応えた少年の台詞に驚く。
半分冗談で聖闘士と言ったつもりが、まさかの肯定で切り返しが来るのは予想外だったのだろう。
「
「
「にゅにゃー、何ですとー?!」
鸚鵡返しの様なやりとりで驚くタコ。
「ば、馬鹿な…アレはあくまでも、マンガの存在であり、実際に存在してるなんて話は聞いた事ありませんよ!」
「
それに、見た目から能力から、何から何までギャグマンガそのまんまなタコにだけは、マンガみたいな存在云々なんて言われたくないし。」
「にゅ?!先生、そんなにギャグですか?」
コクン…
無言で頷く少年。
これに対し、タコは両手両膝?を床に着き、頭を垂れてしまう。
「…せんせー、そんなにorzるなよ?」
「…………………………………………。」
無言なタコ。
「この程度で拗ねるなよ、子供か!?」
「先生、キャラクターはギャグを意識していましたが、存在そのものをギャグ認定されると、流石にショックです…。」
「あー!分かったよ、悪かったよ!
ギャグマンガは言い過ぎだったよ!」
「…………………………………………。」
少年が、ややヤケクソ気味に謝るとタコは無言のまま、スクっと立ち上がり、
「オホン…吉良君、君が
君から見たら、先生は地球を破壊せんとする怪物…邪悪な存在ではないのですか?」
質問を投げかけた。
それに対し少年は
「確かに俺達、
実際、さっきの戦いでも俺を傷つけようとはしなかったよね?
生徒だからと言ってさ?
だからこそ、月をあそこまで破壊したと言って憚らない怪物が何故、こんな学校の、こんな教室の担任になったのか、何故、このクラスの生徒だけに暗殺の機会を与えたのか、少なくとも それをはっきりさせるまでは討つべき存在ではない…と、判断したんだ。
地上の愛と平和を守る
だから、せんせー、この教室に来た理由、話してくれないか?
絶対に誰にも喋らないからさ…。」
「吉良君…分かりました。
いずれは皆さんに話す時が来るでしょうが、今、君にだけは話しておきましょう。
でも、これは本当に絶対に秘密にしておいてくださいね?」
「了~解。」
「絶対ですよ?絶対に秘密ですよ?
もし、誰かに喋ったりしたら、針千本飲んで貰いm
「いーから早よ話せ!」
≫≫≫
それからタコは、聖闘士を名乗る少年に自身の過去、全てを話した。
自分が嘗て死神と呼ばれた殺し屋だった事、柳沢という科学者の下で人体実験された事、そして元E組担任の雪村あぐりの事…
「…まあ、大体は、そんな風な感じなのですが…ん?吉良君?」
「…!」
タコが事の大まかな展開を少年に話し終えた時、少年の目からは涙が零れ落ちていた。
「ヌルフフフフフ…
おや~?吉良君、君、もしかして泣きました?泣いちゃいました?」
「うっせーよ!汗だよ!」
必死に誤魔化す少年。
「ヌルフフフフフ…
ま、そういう事にしておきましょう。」
「このタコ、ムカつく!」
僅かに殺意を抱く少年。
「それから、最後にもう1つ、先生からお願いがあります。
君は、まだ先生を討つべきでないと判断したみたいですが、他の皆さんの暗殺の邪魔は止めて欲しいのです。
寧ろ、彼らと一緒に協力して積極的に暗殺に取り組んで欲しい。ダメですかね?」
相変わらず口元はニヤているが、口調は真剣そのものなタコの申し出に少年は
「はぁ…分かったよ、ただし、
あくまでも普通の中学生として、期限の卒業シーズンまでに、皆とマジに殺ってやるよ。
これで良いかい?殺せんせー?」
と受け答えると、
「はい…それでお願いします。」
タコは身体の色をオレンジに変色させ、顔に朱色の○マークを浮かべ微笑みんだ。
「それで、
更にタコが話を続ける。
「君が先程、放った技、恐らくはライトニング・プラズマとエクスカリバーだと思いますが…」
「ん、正解だよ。」
「あれは確か、獅子座と山羊座の技でしたね。
あの時、君は技を放つ際に、他の人の名前を言ってましたが…」
「ああ、今回、俺が使ったのは他の
当然、威力は本家より数段、落ちてるよ。
本家本元が使ってたら、せんせー、殺られてたかもよ?」
「ヌルフフフフフ…怖い怖い。
…で、君は本来、何座なのですか?」
「!!………………………。」
黙り込む少年。
なにやら、答えるのを躊躇っている様だ。
「ヌルフ?答えたくない?
あ、もしかして蟹座ですか?
それとも魚座でしたか?
確か、吉良君の誕生日は…あ、はいはい、吉良君は蟹座の生まれでしたか~!
キャンサーですか~?
デ※マスクですか~?
あじゃぱーっ!ですか~?
星座カーストぶっちぎりトップですか~?」
ぷち…
顔を緑と黄色の縞模様にして、触手で頬を突つきながらの挑発的なタコの台詞に少年の中で何かがキレた音がした。
「せんせー…」
「にゅ?」
「確かに、せんせーには如何に
「き…ら君…?」
重苦しい迫力を纏う少年の台詞にタコが戸惑う。
「例えば…絶対零度でしか破壊出来ない氷に閉じ込めたら…」
「にゅ?」
「例えば…殺せないにしても、その体を異次元の彼方にぶっ飛ばしたら…」
「ヌル?」
「例えば…強制的に幽体離脱を引き起こし、その魂を直接燃やしたら…どうなる?」
「にゅにゃーっ?!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、吉良君、少し落ち着いて!」
少年の冗談に聞こえない脅しに、タコは必死に土下座して謝るのだった。
「全く…あのコミックのお陰で全国の蟹座の少年少女に、この手の話は禁句だって事くらい、分かるでしょうに…」
「ヌルゥ…すいません…。
先生、ちょっと調子に乗り過ぎました…。」
冷静さを取り戻した少年にタコは注意される。
≫≫≫
「ふぁあ…今日はもう、こんくらいで良いっしょ?
じゃ、俺、帰るわ…
あ、本当に
席を立ち、教室を出ようとした少年に
「ちょっと待ちなさい、吉良君!」
タコが呼び止める。
「何だよ?
さっき、最後とか言ってたろ?」
「まだ、先生に暗殺を仕掛けた者への手入れが終わっていません。」
「分かったよ、さっさとしろよ…。」
「はい、それでは…」
ドサッ…
机の上に数冊の問題集が置かれる。
「これは?」
「問題集です。」
「いや、それは見りゃ分かるし。」
「付箋紙が貼ってるのが分かりますね?
この付箋が貼ってあるページ、全ての問題をやって貰います。
それを明日の、いえ、今日の朝のホームルームの時に提出して貰いm
「出来るか!!」
「え?吉良君は
光速で頭脳を回転させて、光速でペンを動かしたら、楽勝じゃないんですか~?」
元から吊り上がっている口を更に吊り上げ、ニタァと笑うタコ…いや、殺せんせー。
「こ、のタコ…!」
▼▼▼
「オ、オハヨーゴザイマス…」
「おおぉ~!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ…
次の日、吉良少年が小声で挨拶をしながら教室に入ると、クラスメートから拍手が沸き起こる。
そして…
「皆さん静かに!授業中ですよ!
それに吉良君!
今、何時だと思ってるんですか?!
とりあえず、この授業は後ろで立って受けなさい!」
「このタコ…絶対に殺す!」
吉良響(きら ひびき)
誕生日 6月23日生
身長 169㎝
体重 64㎏
得意科目 強いて言うなら全部
苦手科目 無し
趣味、特技 「俺、凄ぇ!」な輩をおちょくる
将来の目標 平和に生きる
注意事項 蟹座をディスるのダメ、絶対!