暗殺聖闘士   作:挫梛道

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または『脱ぎ脱ぎの時間』。



スィーツの時間

「せぇいやあぁっ!!」

シュッ

響の正拳突きが烏間に放たれるが

「甘い!」

烏間は難なく躱す。

「おぉ~!」

「あれも躱すか~!!」

「烏間先生、マジ人外!」

体育の時間、2人の模擬戦を見守る生徒達も、思わず唸る。

 

対せんせー繊維で編まれた、『対せんせーグローブ』を両手に嵌めた響が、再び構えを取る。

「ならば!!う~っりゃっ!」

左右の正拳を弾幕の如く連打する響。

だが、これも烏間は涼しい顔で、全てを紙一重で捌いていく。

                  

ニタァ…

「!?」

ピシッ

「!!」

響が意味深な笑みを浮かべると同時に、烏間の肩口に拳でなく、手刀による突きがヒットした。

今までの『拳』の攻撃はフェイク…

まだまだの余裕からか、その全てをワザとギリギリで躱していた烏間は、不意に拳から手刀に切り替えた響の攻撃を、約10㌢…ほんの指の長さ分ではあるが、『武器』のリーチが延びた分、避けきる事が出来なかった。

「うっしゃあっ!!」

「「「「「「おぉぉ~っ!!」」」」」」

会心のガッツポーズを取る響と大歓声を上げるE組生徒達。

                  

「ふ~、やっぱ俺、ナイフより徒手(コレ)だな。」

特注のグローブを見ながら呟く響。

                  

「良し!吉良君は加点3点!!次っ!」

「「はい!」」

その掛け声に今度は、磯貝と前原が対せんせーナイフを手にして、烏間に向かっていった。

                   

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「吉良、やったな!」

「まあな…でも、次は通じない。

まだまだ、こんなんじゃ駄目だ。

卒業までに、(小宇宙無しで)絶対に あの人に勝ってやる!!」

「吉良…お前、目標違ってね?」

この杉野の問い掛けに

「烏間先生に勝つ事だろ?」

迷わず惑わず答える響。

                  

「「「「「「「いやいや、目標(ターゲット)、

あくまでもアレだから!!」」」」」」」

「ヌルフフフフフ…」

そんな響に対し、E組一同は砂場でサグラダ・ファミリアを完成させている、黄色いタコを指差し突っ込むのだった。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「!!」

バシっ!!

「うわあぁあああぁっ!?」

「な、渚!?」

杉野と2人掛かりで烏間に攻め込んでいた渚が、大きく弾き飛ばされた。

「あ痛たたたた…」

小柄軽量故に、派手に地面を転がった渚は頭をさすりながら起き上がる。

 

不意に感じた、得体の知れない殺気?の様な物…

それを感じ、反射的に自身に迫る攻撃を、思わず普段より強く払いのけた烏間。

「…大丈夫か?

すまない、少し強く防ぎ過ぎた。」

「あ、平気です。」

少しやり過ぎたと思い、やや慌てて駆けつけた烏間に、渚は問題無しをアピール。

「バーカ、ちゃんと見てないからだよ。」

「うぅ~…」

笑いながら話す杉野に、凹む渚。

 

「「……………………………。」」

しかし、その様を最初から砂場から見ていた響と担任教師は、はっきりと感じ取っていた。

烏間でさえ、ほんの違和感程度にしか気付かなかった、渚の中の「何か」を。     

「隙あり!」

「ヌルフ!甘いです!!」

そんな響は殺せんせーの注意が渚に向けられた隙を突き、砂の大聖堂を踏み潰そうと足を出すが、殺せんせーも これを死守。

以前の大阪城の悲劇を繰り返す心算は微塵も無かった。

 

…が、

ドドドドド…バサァ…

「にゅやーっ!?」

突如、無数の対せんせーナイフが大聖堂の真上から降り注ぎ、そのスペインの象徴を模した砂のオブジェは瓦解する。

ナイフを放ったのはカルマ。

皆から対せんせーナイフを借り受け、腕いっぱいに抱えたナイフを、サグラダ・ファミリアの真上に放り投げたのだった。

 

(うっわ~、スピカねーちゃんのアストライア、思い出したよ~!)

 

前世(むかし)、実の姉の様に慕っていた黄金聖闘士が得意としていた、広域殲滅を前提とした技。

パチィン…

それを思い出しながら、響はナイフを放り投げたカルマとハイタッチを交す。

 

「あ…あああぁ…」

数秒前までは大聖堂だった砂の山を、まるで この世の終わりが来たかの様な絶望の眼差しで見つめる殺せんせー。

「「「「「「「非っ道ぇ…!これは流石に非道過ぎる…!!」」」」」」」

そのorzっぷり、余りのショックで担任教師が自殺するのではないかと、本気で心配する生徒達。

まあ、それはイコール、地球が救われるのだから、寧ろウェルカムなのだが。

 

キーンコーンカーンコーン…

「よし、今日の体育は終了!」

「「「「「「「「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」」」」」」」」

 

「しっかし当たらん!」

「マジに人間じゃねーぜ、あの先生も!」

「吉良っちのアレも、本人が「もう二度と通じない」って言ってたしね…」

「あたしとイケメグ、後は磯貝君と前原が連携で掠らせるのが精一杯って…」

校庭での授業終了後、烏間の無敵ぶりを口々にしながら、教室に戻る生徒達。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「よし、今日は終了だ。」

「「「ありがとうございましたー。」」」

「「「「「お疲れ様でしたー。」」」」」」

この日の放課後の暗殺特訓も終了。

                   

「烏間先生、街で皆で お茶してこーよ!」

「…ああ、誘いは嬉しいが、まだ仕事が残ってるんでな。」

倉橋の誘いも、烏間は素っ気なく断り、校舎に戻っていった。

そんな烏間の後ろ姿を見ながら、

「…にしても、私生活も隙が無ーな。」

「てゆーか、私達との間に壁っていうか、常に一定の距離を保ってるよね?」

生徒達は話す。

「うぅ~!!」

「倉橋…どんまい…」

そして誘いを断られ、半分涙目な倉橋を、速水が頭を撫でながら励ました。

「ん…厳しいけど優しくて、私達の事、大切にしてくれてるけど…でも、それって やっぱり…只単に任務だからに過ぎないのかな…?」

少し悲しく、不安気に言う倉橋。

「ヌルフフフフフ…

そんな事はありませんよ。」

「「「「うわっ!?びっくりした!!」」」」

いきなり背後に現れ、話し出す殺せんせーに驚く生徒達。

「確かに あの人は、先生の暗殺の為に送り込まれた工作員です。

しかし、彼にも ちゃ~んと、素晴らしい教師の血が流れてますよ。」

                   

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

カタカタカタカタカタカタ…

烏間は教員室でパソコン相手に書類仕事をしながら、考える。

 

 

E組の生徒達よる暗殺計画…

4ヶ月目に入り、「可能性」のある生徒が増えてきた。

磯貝君と前原君は運動神経が良く、普段から仲が良いだけあって、連携の息もぴったりだ。

2人掛かりなら、俺にナイフを当てる回数が増えてきた。

女子では、元体操部で意表を突いた動きが出来る岡野さんと、男子並みの体格(リーチ)と運動量を持つ片岡さん。

総合的に能力が高いのは吉良君と赤羽君。

吉良君は空手の有段者なだけはあり、特注のグローブを嵌めた徒手での攻撃は、決して侮れないのが分かった。

残念なのは彼とコンビを組める力量の生徒が居ない事だ。

赤羽君もクラス全体的には、頭1つ飛び抜けているが、それでも吉良君と比べると見劣りしてしまう。

もしも彼と同等な生徒が もう1人居て、2人掛かりで仕掛けられたら、正直、常に勝てるかどうか分からない。

そして潮田君。

小柄故に多少、スピードがあるだけで、御世辞にも特化した身体技能がある訳でもない温厚な生徒。

…な筈だが、授業中に感じた違和が気のせいと思えないのは何故だ?

あの時に感じた、得体の知れない気配、感覚は、一体何だったのだろうか…?

兎に角、全体的に見れば、生徒達の暗殺能力は格段に向上している。

この儘 皆、順調にレベルアップしていけば、3月迄に結果を出す事も、決して不可能では無いだろう。

 

 

RRRRRRRRRR…

「!」

そう考えている中、机の上の携帯電話が鳴った。

パカッ

「はい、烏間です…」

ガラケーを開き、応対する烏間。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「明日…からですか?」

『…そうだ。烏間、君を 「この任務」に着けたのは、君の その能力を買っての事だ。

空挺部隊現役時代は成績トップ。

それを経ての教官時代、教え子達の間で付けられた、「鬼」の通り名と共に才能を発揮し、結果を残した。

そして軍服を脱いだ後の、諜報活動も目覚ましかった。』

どうやら烏間の電話相手は、政府関係者…彼の上司の様だ。

「……………………………。」

『…だ・が、現状はどうだ?

秘密兵器だった暗殺転校生も、活かし切れていない。

暗殺者の手引きと生徒達の訓練…

どうやら いくら君でも、1人では こなせない様だな。

そういう訳で、明日から君のサポートとして、現場人員を1人増やす事になった。

詳しくは明日、当人から聞いてくれ。

…以上だ。』

ガチャ ツーツーツー…

「………………………………………。」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

ガラ…

「よっ、烏間!久しぶりだな!」

翌日、烏間が教員室の扉を開くと、そこにはジャージを着た、やや太り気味な男が にこやかな顔で話し掛けてきた。

「鷹岡…お前だったのか…!?」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

その日の4時限目の体育の授業が終わった時、校庭に、長身でやや立派な腹周りをした男が沢山の荷物を抱えてやってきた。

 

「鷹岡明だ!!

ま、今の説明の様に、今日から烏間のサポートとして此処で働く事になった!

皆、よろしくな!」

その新任教師は にこやかにE組の生徒達に話し掛けた。

それを烏間は複雑な表情で見ている。

 

どさ…

鷹岡は早速、持ってきた荷物を開くと

「嘘!『ラ・マヒストラル』のプリン~!!」

それを見た瞬間に茅野カエデの両目がハートマークになり、

「こっちは『モンキキ』のモンブラン!」

「見て、こっちは…」

数々のスィーツに、他の女生徒達も目を輝かす。

 

「有名な店なの?」

「うん、それなりにね…」

スィーツの店やブランド等は、余り良く知らない響が渚に聞いていた。

 

「ほれ、男子(おまえら)も、こっち来て食え食え!」

キャッキャ言っている女子をやや呆れ顔で見ていた男子生徒を、笑いながら手招きする鷹岡。

 

「良いんすか?これって高いっしょ?」

「おう、俺の財布を喰らい尽くすつもりて遠慮無く食え!」

前原の言葉に鷹岡は、やや照れながら応える。

「モノで釣ってるとか思わないでくれよ?

お前達と早く仲良くなりたいだけだ。」

そう言うと鷹岡は地面に腰を降ろして胡座を掻き、

「それには…やっぱ皆で囲んでメシ食うのが一番だろ?」

自らもケーキを食べながら、言葉を続けた。

 

「…に、しても鷹岡先生、よく こんなスィーツのブランドを知ってますね~?」

「まあ…ぶっちゃけ砂糖ラブなんだよ。」

倉橋の質問に対し、顔を赤らめて てへぺろで答える鷹岡に、

「デカい図体して可愛いな…」

そう言ったのは中村。

 

そして

「おう、殺せんせーも食え!

ま、いずれは殺るけどな!はっはっは!!」

そう言って、涎を垂らして触手(ゆび)を咥え、その光景を羨ましそうに見ていた黄色いタコにも、鷹岡はケーキを渡す。

「同じ同僚なのに、烏間先生とは随分違うッスね~。」

「何だか近所の おいちゃんみたい。」

「おいちゃん?ははは!良いじゃないか!

でも、どーせなら父ちゃんと呼べ!

同じ教室で同じ目標に進み歩んでいるんだ、俺達は家族同然だろ?」

がしっ…

そう言うと鷹岡は笑いながら、近くに座っていた杉野と神崎の肩に手を回し抱き寄せる。

その際に一瞬だが、杉野の顔が照れながらも曇ったのは、また別の話。

 

「…ところで、お前は食べないのか?

美味いぞ?」

「え?俺?」

鷹岡はスポーツドリンクしか手にしていない、響に声を掛ける。

「いや~、すいません、俺、ケーキとか甘い物は、ちょっと…」

人差し指で こめかみをポリポリと掻きながら、若干 罰が悪そうな顔をして響は答えた。

 

「へ~、吉良君、甘いのダメなんだ?」

「そう言えば吉良君て、いっつもコーヒーもブラックだよね?」

「或いはゴーヤ・オレ。」

「京都の時も、皆で甘いコーヒー飲んでた時も、1人だけ抹茶だったし。」

「まあ…な…」

気まずそうな顔になる響。                          

「きーちゃん、何か理由でもあるの~?

昔、ケーキを一杯食べ過ぎて、お腹壊したとか~?」

「……………………。」

更に気まずい顔になる響。         

「吉良…だったか?

これはもう、素直に何があったか言う空気じゃないか?

まあ、無理にとは言わんがな?」

鷹岡が にこやかに問い詰める。

「はぁ…実は…」

やれやれな溜め息を零し、響は言うのだった。

「実は地元(あっち)に居る彼女がパテシエ志望でさ、中1ん時に、一度に大量の手作りケーキを どーん!て出されてな…いや、美味しいのは美味かったけどね?

ただ、マジに量が多すぎて、それ以来、ケーキとかクリームとか、甘い物は…」

 

「「「「「「「…………。」」」」」」」

それを聞き、黙り込む一同。

                  

そして、

「…おい皆、こういう奴には こういう時、何て言えば良いか、知ってるか?」

「はい、知ってます。」

鷹岡の問い掛けに、岡島が血の涙を流しながら、代表して答えた。

「じゃ、いくぞ、せーのっ!!」

『『『『『リア充、爆裂しろ!!』』』』』

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

そんな様子を校舎の中から見ていた烏間に園川が話し掛ける。

「…本部長からの通達です。

烏間さんは今後、外部からの暗殺者の手引きに専念して欲しいと…

生徒の訓練は、全て鷹岡さんに一任させるとの事です。」

「!!」

不安気な顔をして、園川は話し続ける。

「同じ防衛省の者としては、生徒達が心配です。

あの人は…極めて危険な異常者ですから…」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

ガラ…

「烏間、ちょっと良いか?」

「ん?」

その日の放課後の自主訓練を終わらせ、教員室に戻ってきた烏間に、鷹岡が声を掛けてきた。

 

「お前の訓練(やりかた)な…

3ヶ月で あれじゃ遅過ぎる。

軍隊なら、あのレベル、1ヶ月だぞ?」

明らかに、烏間の指導育成に不満な顔を出して言う鷹岡。

それに対して烏間は

「職業軍人と一緒にするな。

彼らは あくまでも、中学生だぞ?

あれ以上は学業に支障が出る。」

…と、反論。

しかし、

「はぁ~…地球の未来が掛かってるのに、何を悠長な事を…」

鷹岡はオーバーアクションを取りながら、それを否定する。

 

「いいか烏間?

教育に最も必要なのは熱意だ。

教官自らが体当たりで、教え子に熱く接するんだ。

そうすれば、多少なりハードな訓練でも、その熱意に生徒達は応えてくれるもんなんだよ。俺が証明してやる。

楽しみにして待ってろ…。

じゃ、今日は、お疲れ!」

ガラ…

そう言うと鷹岡は、教員室を出ていった。

 

「ヌルフフフフフ…

何ともスィーツな考えの先生ですねぇ?」

「そのスィーツで籠絡されている お前が言うな。」

机一杯に置かれたケーキやプリンを、御機嫌な顔で食べながら発言している殺せんせーに、烏間は呆れ顔で突っ込んだ。

「オホン…まあ、体育に関しては、アナタ方が譲らないので任せています。

ですから、担当の交代に対しては、兎や角は言う心算は有りませんが…

でもね、烏間先生、E組の体育教師は貴方しかいないと思うんですがねぇ?」

それだけ言うと、殺せんせーは窓を開け、

ヒュン…ッ

何処かに飛んで行った。

 

「…ねぇ、カラスマ、アンタは これで良いと思っているの?

何かワザとらしいのよ、あの大男。」

「教官としては、俺より遥かに優れていたと聞いている…。」

「カラスマ…」

プロ暗殺者の直感だろうか、やはり鷹岡を怪しく見ているイリーナの指摘にも、烏間は過去の教官としての実績の事を口にするだけだった。              

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

次の日の朝。

「今日から体育、鷹岡先生らしいな。」

「どー思う?」

「私は烏間先生のが良いなー。」

ホームルーム前、教室に入ってきた生徒達は、今日の1時限目からの体育を指導する鷹岡、そして今まで訓練を見ていた烏間について話していた。

 

「実際さ、烏間先生って、何考えてるか分かんないトコあるからな~。」

「う~ん…いつも厳しい顔してるし、メシや軽い遊びも、誘えば偶に付き合ってくれる程度だし…」

案外、ずっと楽しい訓練かもよ?」

「楽しい…ね…?」

「吉良?」「吉良君?」「きーちゃん?」

響の その懐疑的、否定的な発言に、その場の皆が注目する。

「俺自身が結構、体育会系な環境で育ってきたから言えるけどさ、フレンドリーと楽しい訓練は両立しないと思う。

大体にして、俺達の訓練の目的、忘れてないか?

バドミントンみたいな遊び感覚前提なヤツなら兎も角、楽しく感じられる訓練とやらで、それが果たせるとは、少なくとも俺は思えないよ。」

「吉良…」「きーちゃん…」

響の言葉に、皆が改めて考え込み、

「大体、楽しい訓練なんかじゃ、何時まで経っても(小宇宙無しで)烏間先生に勝てる気がしねー!」

「「「「「「そっちかよ!?」」」」」」

響の言葉に、皆が盛大に突っ込んだ。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「よーし!皆、揃ってるか?」

「数名サボってます…」

この日の1時限目の体育。

鷹岡の初授業となるが、カルマと寺坂組の3人、計4人の姿は校庭にはなかった。

 

「仕方ねーなー…

ポッと出の俺に、まだ少し抵抗があるんだろうなぁ…まあ、直に馴染むだろう…」

苦笑いする鷹岡。

「ま、いいか!

訓練は ちょっと厳しくなると思うが、終わったら また美味いモン食わせてやる!

サボった奴等が授業出てりゃ良かったって、後悔するくらいにな!」

鷹岡はサムズアップしながら微笑む。

 

「そ~んな事言って、実は自分が食べたいだけじゃないの?」

中村の問い掛けにも、自分の腹を持ち上げ揺らしながら、

「まーな、御陰様で、この横幅だぜ!!」

どどっ!!

てへぺろ顔で笑いを取りにいく鷹岡。

 

「ふっ…そりゃ駄目駄目だ。」

「吉良君…?」

この時、口を挟んだのは響。

「やはり男子たる者、この俺の様に…」

そう言って、体操着の上着を捲り上げようとした時、

「「「いちいち脱がんで良いっ!!」」」

ガン!!x3

「あじゃぱー!!」

奥田、岡野、片岡の投げたピースメーカー、デザートイーグル、コンバットマグナムが響の顔面に直撃、響は その場にダウンした。

「お~い、吉良~?生きてるか~?」

そんな響に鷹岡は心配そうに覗き込む。                    

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

見事に生徒の心を掴んでいる。

何だかんだ言って、軍隊との区別も、ちゃんと出来てる様だな。

…あれなら訓練も捗るだろう。

プロとして一線を引き接するのでなく、アイツの様に、家族の如く接した方がベターだったのだろうか…俺の やり方が間違っていたのか?

                   

                   

校舎から、校庭での生徒達と鷹岡の やり取りを見ていた烏間が少し戸惑いの表情を浮かべ、そう考えていた その時、

ガラ…

「烏間さん!」

「鶴田?」

教員室に烏間の部下である鶴田が、焦った表情で入ってきた。

「どうした?」

「これを…」

鶴田は1枚の紙を渡す。

「!!?」

それを見た烏間の表情は、一気に険しくなった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「さて、早速だが訓練内容の一新に伴い、E組の時間割も少しだけ変更させて貰った。」

「「「「「変更?」」」」」

「とりあえず、これを皆に回してくれ。」

そう言って鷹岡は、時間割が書かれた用紙を配る。

 

「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」

その新しい時間割を見た生徒達は驚きの声を上げる。

新しい時間割…1日10時限、夜9時まで、その1日の授業の7割が体育(訓練)となっていた。

 

「地球の危機だ。この位、当然だろ?

理事長にも『全てを任せる』と許可は取ってあるぜ?」

「尻尾を見せたな、狸が…!!」

さも平然と言ってのける鷹岡に、響が小さく呟く。

 

「このプログラムをこなせば、お前達の能力は飛躍的に向上、間違い無く、殺せんせーを殺る事が出来r「ちょ、待ってくれ、こんなの どー考えても出来る訳無ーよ!!」

「あ!?」

この無茶振りな時間割に、前原が待ったを掛けたが、

ズン!!

次の瞬間、前原の腹に鷹岡の膝が突き刺さった。

「ぐは…っ」

「その台詞は違うぞ?『出来ない』じゃない、『やる』だ。」

表情を崩さず、にこやかに鷹岡は言う。

 

「前原!」

「大丈夫か!?」

うずくまっている前原を、磯貝達が抱え起こし、鷹岡を睨みつけるが当の本人は

「昨日、言ったろ?

俺達は家族で、俺は父ちゃんだって。」

それが日常の如く、表情を変える事無く、涼しげに言い放った。

そして、次の瞬間、

「……………………!!!!?」

「世の中に、父親の命令を聞かない家族が何処に居る?」

スマイル顔は変わらずだが、その目は狂気を孕んだ それに変わったのだった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「なっ…アイツ…っ!!」

それを教員室の窓から見ていた烏間は、校庭に走り出す。

 

「しまった…俺のミスだ…!!」

烏間は、昨日の園川の言葉を思い出す。

                   

                   

…まさか、中学生に対して、余程の無茶はしないと思いますが…

あの人は、烏間さんに強い対抗心がある様です。

同期として あなたに劣った分、活路を見出したのが、教官の道だとか。

家族の様に近い距離で接すると同時に、暴力的な父親の様な独裁体制で、短期間で忠実な精鋭を育てる事が出来たそうです…

                  

                  

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「ん?どうした?

まだ文句ある奴がいるのか?」

その本性を露わにした、笑う暴君は、最も怯えてる様子の奥村の前に立ち、

「どーなんだ?文句あるのか?ん?」

にこやかに問い質す。

「いえ…ありません…」

「そうか!父ちゃん、嬉しいぞ!!」

ポン…

鷹岡は そう言って、頭を軽く撫ると、

「お前は?」

次に その隣にいた、神崎有希子の前に立つ。

「!?」

「「!!」」

「お前も勿論、父ちゃんに ついてきてくれるよな?」「はい、あの…」

しかし、膝を震わせながらも神崎は

「私は嫌です。

烏間先生の授業を希望します。」

最高な笑顔で言ってのけた。

しかし、これは鷹岡に対しては、悪手以外の何物でもない。

数秒の沈黙の後、暴君の右手が神崎の頬を目掛け、降り注くのだった。

バチィッ!!

しかし、その暴力は神崎には届かず。

「「「「「杉野!!」」」」」

「「「「「吉良君!!」」」」」

杉野が神崎を庇い、自身が身代わりになるかの様に前に立ち塞がり、更に その前に出た響が、鷹岡の右手首をガッチリと受け止め、掴んだのだった。

 

「ナイスだ、杉野!」

「お前もな…サンキュ…」

 

「成る程…お前達の考えは分かった。」

鷹岡は掴まれている手首を振り払うと、響と杉野を睨み付ける。

「しかし…お前達は まだ、分かってない様だな、俺の授業に「はい」以外は無いんだよ。」

「あ゙ぁ!?」

その言葉に過剰に反応する響。

 

鷹岡はニヤリと笑い、

「何だ?文句があるなら、拳と拳で語り合うか?」

そう言いながら、ボクシングのファイティングポーズの構えを取る。

「実は父ちゃん、そっちの方が得意だぞ!!」

余裕の笑みを浮かべる鷹岡。

 

そして、その直後…

「上等だ!殺ってやるぜ!このデヴ!!」

バサァ…

「「「「「「「「「「きゃあああああああああ~っ()!!」」」」」」」」」」

女子達の悲鳴と歓声と同時に、響の体操着の上着が宙を舞った。

 

 




      皆の響の呼び方 

渚、竹林、烏間、タコ…吉良君
カルマ、中村、速水…吉良っち
奥田…吉良さん
倉橋…きーちゃん
律…吉良っちさん
イリーナ…ヒビキ
その他男子及び狭間…吉良
その他女子…吉良君


※因みに一番最初に『吉良っち』と呼んだのは中村である。

『吉良っち』『きーちゃん』の呼び方は、今後も女子達の間で浸透していく予定?

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