響の呼び掛けに立ち止まり、
「何か用か?吉良?」
不本意な試合結果に、明ら様に不機嫌な顔をしているA組・浅野学秀。
「いや、別に嫌なら良いけどさ、今から特別試合、やらね?…って思ってさ。
トーナメント優勝のA組に対し、襤褸負けしたってなら兎も角、あ・の・野球部(笑)に勝った、俺達E組だ。
別に不自然なマッチメイクじゃ、ないと思うけどな?」
ざわざわざわざわざわざわ…
響の発言に、グランドを去ろうとした皆が足を止め、2人に注目する。
「それに、そっちのが、本校舎の連中はE組は野球部に勝てる程の強いチームだから、戦るのが怖いから、負けるの恥いから、トーナメントから外して逃げたとか言われなくて済むだろ?」
「「「「「「「はぁあ!!??」」」」」」」
響の台詞に、A組…でなく、その成り行きを見ていたB~D組、他クラスの生徒達が反応する。
!
「いや、別に無理強いはしないよ?♪
そりゃ俺達、あの野球部に勝ったんだ、そんなチームと、本来やる必要性が全く無い試合して、恥掻きたくないよね?♪
『ひぇーっ!!(」゚O゚L)E組怖いよー!』…ってさ♪(笑)」
更には其処に、焼け木杭にガソリンをぶっ掛ける様な発言をするカルマ。
すると、
「巫山戯るな、E組が!!」
「マグレ勝ちで、調子ぶっこいてんじゃないわよ!!」
「殺れ!殺っちまえ!浅野!!」
A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!…
突如発生、そして一向に鳴り止まぬ気配の無い『A組コール』。
「あ、浅野君、これは…」
「ど、どうすんだ…?」
「……………………。」
その流れに気圧されるA組男子達。
「流石は吉良君とカルマ君だ。
A組の生徒自身をその気にさせるのでなく、先に さり気に周りを攻め、勝負を受けざるしかない状況を作る。
この盛り上がり様…これは もう、逃げようがありませんね。
しかし…此処まで簡単に挑発に乗ってくれるなんて、想定以上にチョロいですね。」
そう呟いたのは、ズレた眼鏡を整え直し、レンズを妖しく光らせる竹林。
A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!A組!!…
未だ止まぬ『A組コール』の中、響は浅野に話し掛ける。
「…ほら、皆、ノリノリじゃない?
もう、戦るしかないぜ?」
「吉良、この球技大会は、学校行事だ。
僕達生徒の間だけで、勝手に予定外な試合が組める訳がn
「私の権限、責任で許可しましょう。」
「「!!」」
生徒の立場で、学校行事を色々と取り仕切る生徒会長・浅野学秀が、勝手な真似は出来ないと言おうとした時、口を挟む男。
椚ヶ丘学園理事長・浅野學峯である。
「いや、実に良いじゃないか、事実上の優勝決定戦。
そうは思わないのかい、浅野『君』?」
「く…」
「吉良君、試合は決定だ。
君は皆に伝えてきなさい。」
「…~っす。」
理事長の言葉に響は返事をすると、クラスメートの元に戻って行った。
「何のつもりですか、『理事長先生』?」
「浅野『君』、見なさい、この場の生徒達の盛り上がりを。解らないのかい?
彼等は皆、君達に、いや、君に期待しているのだよ?」
「………………………………。」
「君ならE組を叩きのめしてくれる…。
彼等は そう思っているんだ。
君はE組勝利という望んでいない結末が招いた、皆のフラストレーションを解消させようと云う気は無いのかね?
『A組』の生徒として、そして、生徒会長として?」
「…分かりました。」
浅野学秀が そう応えると、理事長は会心の笑顔で、
「そうか!判ってくれたか!
ならば、私が監督としt
「結構です!!
僕達だけで、彼等を倒します!!」
自ら監督を買って出ようとするのを、拒まれてしまう。
「…ほぉ?君に出来るのかい?」
「やってみせます。」
「よし、分かった、君に任せよう!
しかし、この事だけは、忘れずに覚えていてくれよ?
E組は常に『ENDのE組』でなくてはならないという事を…。
解ってるよね…浅野『君』?」
最初から、監督役を拒まれるのは解っていた様な顔をしている理事長は、A組のトップに改めて、E組の意義を伝え、今度こそ、グラウンドから去って行く。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
「プレイボール!」
審判の号令で試合開始。
「よし、1番は僕が行こう。」
「浅野君…」
いきなり流れを呼び込む心算か、トーナメントでは4番を打っていた浅野が先頭バッターとして打席に着く。
「いきなり浅野かよ…」
カキン!!
「!!」
まるで当たり前の如く、杉野の初球をライト前に運ぶ浅野。
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!
いきなりノーアウトで出塁したランナーに、今度こそはE組が無残に敗れる、そんな場面が見たい見学者達が期待を込めて、沸き上る。
A組なら、浅野なら、何とかしてくれる…
しかし、
「吉良~っち!」
「おう!…三村!!」
「うっしゃ!」
続く2番バッター・小山を杉野がショートゴロに仕留め、カルマから響、そして この試合、菅谷に代わり、ファーストに入った三村に繋いでダブルプレーとする。
更には
「ナイスピッチ、杉野!」
「サンキュ!」
3番バッター・榊原を、杉野が変化球を駆使して三球三振に打ち取り、A組の初回の攻撃を、あっと言う間に終わらせる。
そして その裏…
「き、君、キチンと立ちたまえ!」
「はぁあ゙!?ストライクゾーンにボールが来るなら、ちゃんと構えますよ!
バット持ってるだけマシでしょうが!!」
「うぐ…」
木村、岡島、杉野が次いで出塁、野球部との試合の実績で、皆に4番を推された響が打席に入るが、前の試合を見たA組は満塁にも拘わらず、キャッチャーがホームベースから大きく離れての敬遠策を執る。
それに対し響は、抗議の意味か、バッターボックスに座り込み、審判から注意を受けると、正論な?反論で黙らせ、結果、1塁へ進む。
押し出しにより、E組が先取点を得た。
「どうなってんだよ…」
「A組、何やってんだよ…?」
「相手はE組だぜ?」
響の敬遠押し出しによる先取点、それに観客席が どよめく中、E組の猛攻は止まる事はない。
続く磯貝、カルマ、前原、三村、渚…
スタメン9人全員が次々とヒットやファーボールで出塁、打者一巡する。
そして1回裏、未だノーアウト満塁でスコアは0-9、E組がコールド勝ちに王手を掛けた時点で、4番・響に打順が廻って来た。
「吉良君、美味しい~!!」
「さて、A組は どう出る?
次は敬遠でも、そのまま押し出しでコールドだぜ?」
「見てみなよ、見学の連中の盛り『下』がり様…まるで、お通夜だねぇ?♪」
「「「「「「南~無~♪(笑)」」」」」」
すっかり、勝ちムードなE組ベンチ。
しかし響は、
「よし、竹林、代打だ。」
「え?」
「「えぇ?」」
「「「ええぇ~っ!?」」」
指名された竹林本人を含め、皆が驚いた。
「吉良君、何で僕が…
しかも、こんな大事な場面で…?」
「いや、竹林だけ まだ、全然に試合に出てないだろ?
あの鬼特訓、一緒に受けたんだ、1打席くらい出とくべきだろ?」
「吉良…」
「吉良君…」
「…そうだな、吉良君の言う通りだ。
竹林君、君は いつも最後には倒れていたが、それでも練習中は ちゃんと喰い付いていたんだ、その成果を見せてきなさい。」
「烏間先生…」
響の言葉に、烏間が更に後押しする。
「竹林、決めてこいよ!」
「竹ちん、頑張れ~!」
「心配するな、別にアウトでも、誰も文句言わねーよ。
例えトリプルでも、次、杉野が抑え、その後に1点穫ったら終わりなんだ。」
「吉良君も言ったろ?
あの特訓を受けた僕達、皆が試合に参加するのに、それに意味があるんだよ。」
「そーそー♪寺坂(アイツ)等除いてね♪
アイツ等、今頃絶対に「俺も出てれば良かった」みたいな、悔しそうな顔してるよ~?♪」
「皆…」
烏間に続き、クラスメートの後押しにも、まだ自分が出ても良いのか?…と、躊躇う竹林。
「あ~、もぅ!!」
そんな煮え切らない竹林に、中村がスマホを差し出す。
「竹林さん、頑張って下さい♪」
その画面には、優しい笑顔でエールを送る、メイドさんな美少女が居た。
「…………………………。」
それを見て黙り込む竹林。
「ふっ…中村さんも律も、そんな見え見えな安い手で、僕が乗るとでも思っているのかい?」
「竹林…?」
「良いよ、敢えて、敢えてだよ?
その手に乗ってやるよ!
吉良君、バットとヘルメットを!
さあ、はりーあっぷ!!」
「お…応ぅ…」
((((((((コ…コイツ、ちょれー!!)))))))
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「良いか、竹林…向こうは絶対、お前はバントで来ると思っているだろう。
…だから、思いっきり振ってやれ!」
「ん。分かったよ。」
「…それから、周りは気にするな。」
「吉良君の代わりに僕が出る事で、どんな反応があるかは想定内さ…」
響のアドバイスを受け、竹林は打席に向かって行った。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
ざわざわざわざわざわざわざわざわ…
「何だ、アイツ?」
「竹林…?」
「吉良を出さないのか?」
「クソ、E組め、舐め過ぎてないか!?」
「いや、ラッキーと思えよ、これは余裕ぶっこいた油断からの、負けフラグだろ!」
1打終了の場面で代打に出た竹林に対し、見学の生徒達は、予想通りの反応を示す。
『おぉっと?この局面でE組、竹林?
これは余裕の表れか?
舐め過ぎているとしか思えない!
油断してると、足元を掬われるぞ?』
今更だが、中立な立場でなければならない筈のアナウンスも、竹林を招かれざる者と見ている。
「吉良(あのヤロー)が出ないのは、ラッキーと思わないとな。」
「アイツは外野に飛ばす力は持ってない。
三振狙いでも良いが、恐らくヤツはバントを仕掛けてくるだろう。
此処は確実にダブルプレー、出来ればトリプルで片付けよう。」
「分かったよ、浅野。」
ピッチャーは浅野の言葉に頷くと、第1球を投げる。
「ストライーク!!」
僅かに外側に外れた様な気もするが、審判はストライクをコール。
しかし竹林は「今更でしょ?」と抗議の素振りもせず、
「うん、殺投手の、仮想・楫木の球よりは、全然遅い。
ボールをよく見ていけば、打てる!」
改めてバットを強く握り締め、目の前のピッチャーに集中。
続く第2球、
「今だっ!!」
竹林はバットを力の限り、フルスイングする。
コン…
しかし、元々の運動神経の無さが災いしてか、振り遅れた打球は、セカンドの真上に高く打ち上げてしまう。
「クッソ!!」
珍しく、その感情を表に出す竹林。
セカンドの榊原がボールをキャッチ、
「ふぅ、やっとワンナウトか…」
漸く取れた1つのアウトに安堵の溜め息を零した その時、
「蓮!ホームだっ!!」
「えぇ?」
ファーストの浅野が榊原に向かって叫ぶが、既に遅く、
「げ…ゲームセット!!
10-0、E組のコールド勝ち!」
『ななな…何と云う事だー!!
セカンド榊原がフライを捕球したと同時に、3塁ランナー木村がタッチアップ!
10点目が入り、コールドが成立してしまったー!!』
「え…?」
何が起きたか、分かってない竹林に
ポン…
「ナイス犠打!」
木村は肩を叩き、ニカッと笑いかける。
「「「「「うおぉお!竹林ぃ!!」」」」」
「うわぁっ!?」
同時に、ベンチのE組男子達が走り込み、
「このヤロー、マジに やりやがった!」
「おま、何を呆けてんだよ?
お前のバットが試合を決めたんだぞ?」
ベシベシベシベシパンパンパンパン…「ちょっと、痛いよ!?」
先の響同様に、チームメイトから手荒い歓迎を受ける竹林。
「「「「竹林を舐め過ぎて、油断するから、足元掬われるんだよ、バーカ!!」」」」
岡島、前原、三村、菅谷がA組、そして本校舎の生徒達を挑発し、
「た~け~ば~や~し~!!」
響が竹林をヘッドロックに捕らえる。
「痛い痛い、吉良君、痛いってば!!」
しかし その顔は、どう見ても笑っている様にしか見えなかった。
感想よろしくお願いします。