暗殺聖闘士   作:挫梛道

32 / 105
対野球部オーダー
1:木村(センター)
2:潮田(キャッチャー)
3:磯貝(サード)
4:杉野(ピッチャー)
5:吉良(セカンド)
6:千葉(ライト)
7:菅谷(ファースト)
8:前原(レフト)
9:赤羽(ショート)


野球の時間

『試合終了ー!!2対1!

野球3年生の部はA組が優勝です!!』

体育館で女子バスケ部対E組の試合の決着が着いた頃、野球グランドでは球技大会トーナメント本戦が終了、A組がB組を下し、優勝を決める。

 

「クッソ!A組強ぇー!!」

「勉強だけでなく運動もAランクですか?

あー、そーですか?」

「勝ちたかったよな~…」

トーナメント1回戦でD組をコールドで破るも、決勝でA組に敗れたB組の生徒達がボヤく。

 

そんな中、

『全学年の本戦トーナメントは終了です。

それでは最後に…皆さん お待ちかね!

E組vs野球部選抜の余興試合(エキシビジョンマッチ)を行います!!』

球技大会の〆の試合の開始がアナウンスされた。

 

「クッソー、B組め…俺等ボコったんだから、A組もフルボッコしろってんだ。

それか、フルボッコで負ければ、良かったのに…」

「Α組対С組も、5-4の良い勝負だったしな…」

「ちっ、俺等だけコールドかよ…

何だか、俺等が ぶっちぎりで一番弱いみてーじゃねーかよ…」

「言うな!アレ見てスッキリしようぜ?

俺達より弱い奴等が もっと恥ずかしい目に遭うのを見てよ…」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

パスッ! バシッ! ズバァ! ビシッ!…

 

グランドには一足先に公式試合用のユニフォームで現れた野球部が、パフォーマンスのつもりか、ウォーミングアップを始める。

 

「おー、気合い入ってるねぇ~?♪」

「ま、野球部としちゃ、全校生徒に良いトコ見せるチャンスだしな。」

「いや、試合用のユニフォームって、ヤリ過ぎだろ、おい?」

「俺達相手じゃ、コールドは当たり前。

最低でも圧勝は義務だからな。」

「監督が煩いから、手は抜かないって言ってたよね…」

「あぁ、情け容赦無く、本気で畳み掛けて来るだろうぜ…」

E組の面々が野球部を見ながら、そんな やり取りをしていると、1人の野球部員が近づいて来た。

 

「楫木…?」

「ふん…逃げずに この場に来た事だけは、誉めてやるよ。」

「「ほぉう?」」

この楫木の安い挑発に、敢えて喰い付いてみせるE組最凶コンビ。

「「わっ、何?ちょ…放せよ!?」」

それに対し、すかさず2人を取り押さえるE組の面々。

「楫木、あまりコイツ等を挑発するな!!」

杉野が言うが、そんなの お構い無しに楫木は言い続ける。

「良いか…学力と体力を兼ね備えたエリートだけが、選ばれた者として人の上に立てる…それが、文武両道だ。

お前等は どちらも無い選ばれざる者達だ。

そんな奴等が表舞台(グラウンド)に残っているのは許されない。

E組(おまえら)全員、二度と表を歩けない試合にしてやるよ…。」

「「「「「「「………!!!!」」」」」」」

言いたいだけ言うと、楫木は野球部の元に戻って行った。

 

「何なんだ?アイツは?」

「アイツは…あーゆー奴なんだ…」

楫木の後ろ姿を見ながら、半ば呆れ顔で話すE組の面々。

「まあ好いよ、試合で潰すから♪」

「打席で『てがすべったー!!(棒)』ってバット投げるとかね♪」

「違うだろ、カルマ!!

試合に勝って凹ませるって意味だよな!?

そーだろ、吉良?!

頼むから、そーと言ってくれ!!」

揉め事を嫌う磯貝の必死の訴えに響は

ポン…

「…おぉ、その手があったか♪」

「「「「「「うをぉぉゐぃ!?」」」」」」

何かを思いついたかの様に掌を叩く、響の冗談か本気(マヂ)か判らない発言に、皆が突っ込んだ。

そこに、

「皆さ~ん、女子バスケの試合、終わりました~。77対76で…」

渚のスマホに律が(勝手に)アクセス、女子バスケの結果報告にやって着た。

「…E組の勝利で~す!!」

画面の中、湘〇高校バスケ部、赤のユニフォーム(14)を着てバスケットボールを脇に持ち、Vサインする律。

「「「「「「おおぉ~っ!!」」」」」」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…

良い報せに、沸き立つ響達。

「こりゃ、俺達も負けられないな!!」

「はい、女子の皆さんも今、こっちに向かってますよ!」

「仕方ない…此処は いっちょ、俺等のカッケェー所、見せてやるか!!」

「…だな!!」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「野球部~♪」

「泣かすなよ~(笑)」

見学の生徒達が声援を飛ばす中、ホームベース前に整列する野球部とE組男子。

「杉野、悪いが手は抜かんぞ。」

「手加減を頼む程、其処まで落ちぶれてはいないつもりだよ。」

野球部主将の進藤とE組キャプテン・杉野がガッシリと握手した後、両軍は それぞれのベンチに着く。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「烏間先生、殺せん…殺監督は?」

ベンチに一応、担任兼監督として待機している烏間に、杉野が尋ねる。

「あぁ、奴なら…」

烏間が指差す方向、グランド脇に皆が注目すると、其処には放置された3つの野球ボール。

「「「「「「「「???」」」」」」」」

?…と思ってボールをよーく見てみると、内1つには、どこかで見た様な顔が。

「「「「「「「………。」」」」」」」

「もしかして、あれかよ…?」

「遠近法か…。」

「そうだ、ヤツをこんな目立つ場所に出す訳にはいかないからな。

あの場所から顔色を変える等で、サインを出す様に言っている。

この試合、俺は形だけの お飾りだ。

1つの軍に複数の指揮官が居ても、それは混乱の元だからな。

指揮はヤツに一任しているから、そのつもりでいてくれ。」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 

「おい、見ろよ、あれ…」

そんな中、早速 殺ボールが顔色を変えてサインを出す。

 

①山吹色→②群青色→③赤茶色

 

「渚君~、通訳~♪」

「えーと…」

渚がサイン一覧を記したメモ帳を見ながら

「山吹色→群青色→赤茶色…

ん~、『殺る気で勝て』…ってさ。」

「はは…確かに。俺等には もっとデカい目標(ターゲット)がいるからな。」

ぽん…

「奴等程度、簡単に捻らなきゃ、あのタコは殺れないよな?なあ、キャプテン?」

杉野の背中を軽く叩きながら、響が言う。

「よっしゃあ!サクッと殺ってくるか!!」

「「「「「「「「応っ!!」」」」」」」」

 

試合開始、士気が上がるE組男子を見て、殺ボールは呟いた。

 

「ヌルフフフフ…

さあ、彼等に味わわせてやりなさい…

殺意と触手に彩られた暗殺野球地獄を!!」  

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「おーい、男子ー♪」

「おぅ、お疲れー。」

E組女子が野球グラウンドにやってきた。

 

「律から聞いてるよ。

勝ったそうじゃな~い?♪」

「向こうが ずっと油断してくれた御陰。」

「まさか、ずっとパスに徹していた茅野さんが最後の最後にシュート、しかも3(スリー)打つなんて、敵さんも思わなかったでしょうね~!(笑)」

「いぇい!!練習の成果!」

誇らしげにVサインの茅野。

「…で、男子(あんた)等は どーなのよ?」

「あぁ、ちょうど今からさ…。」

 

 

ワーワーワーワーワー…

『1回表、E組の攻撃…

1番センター、木村君…』

「お~ぉ、やだねぇ…

どアウェイで先頭かよ~?」

「まぁ、木村君がE組(ウチ)じゃ、一番足が速いから…」

「木村さん、頑張ってください!」

スマホの中、青〇高校野球部のユニフォームに着替えた律がエールを送る。

参考までに、背番号は『18』である。

 

ずどん!!

「ふん…雑魚が!」

楫木の第1球が唸りを挙げた。

『これは凄い!

ピッチャー楫木君、流石の剛球!!

E組1番、木村棒立ち!

おいおい、せめてバットくらい振ってくれよ~!(笑)』

 

毎度お馴染みなE組弄りなスタイルのアナウンスの中、湧き上がる見学の生徒達。

「140㎞出てるらしいぜ…」

「それ、プロじゃねーか!?」

「中2からガタイも どんどんデカくなって、今じゃ180オーバーだとよ。

選ばれたってのは、あーゆーのを言ーんだよな…」

 

 

「ふん!1回表を楫木が3人で終わらせ、ウラで10点取ってコールドだ。

いいな お前等、さっさと終わらせるぞ!!」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

野球部ベンチに座る顧問の寺井も、既に勝った心算でいる。

そして、

「雑魚は眼中に無い。

危険人物とか言われてる あの2人も所詮、野球は素人。

強いて警戒するなら杉野だが…それでも、俺の敵じゃない、格が違うんだよ。」

マウンドの楫木も同様だった。

 

 

この たった1球投げただけで野球部の勝ちムードの中、殺ボールがバッターボックスの木村にサインを出す。

①青→②橙→③緑

「…りょ~かぃ!」

小さく頷く木村。

 

コォン…

楫木の投げた、第2球を、的確にバントで転がす木村。

野手は誰がボールを取るかで一瞬迷った為、E組一の瞬足・木村は楽々セーフとなる。

「ちぃっ、小賢しい!」

「楫木、気にするな。

如何にも素人の考える事だ。

警戒しとけばバントなんざ問題無い。」

                  

『2番、キャッチャー、潮田君…』

打席に入った渚に、殺ボールからサインが出る。

①サッカー柄→②迷彩柄→③星条旗

「…はい!」

コツッ…

『潮田、三塁線に強いバントぉ!?

前に出てきたサード、脇を抜かれた!!

こ…これでノーアウト、1塁2塁…!』

                  

ざわざわ…

「…おい、大丈夫か?」

「なんか、変な流れになってきたぞ?」

ざわつく見学者達。

                 

「ヌルフフフフ…

強豪と云えど、まだまだ中学生。

当然、プロ並みなバント処理には至ってませんねぇ?」

殺ボールは余裕の表情。

 

 

何…だと……?

想定外の展開動揺する楫木。

 

これは、ベンチの監督も然り。

コイツ等、何故バントが こんなに出来る?

素人目には簡単に見えるだろうが…

楫木クラスの速球を狙った場所に転がすなんて、素人には まず無理だ…

ましてや、あの杉野の遅球では練習台にも なるまいに!!

 

 

「…な~んて、思ってる頃だろね~?♪」

「ところが こっちは…」

響が親指で殺ボールを指差し、

「アレ相手に練習してたんだからな!」

殺投手のMAX300㎞の速球、

殺内野手の鉄壁の布陣、

そして殺捕手の囁き戦術…

練習の効果は確実に出ていた。

そして、3番・磯貝も難なくバントを決め、

『ま…満塁ぃー!?

ちょ…調子でも悪いのでしょか楫木君!!』

4番・杉野がバッターボックスに入った。

 

①地球→②木星→③三日月

「おっけ…!」

殺ボールのサインに頷くと、杉野はバントの構えを取る。

 

既に暗殺者となっている、杉野の面構えに楫木は戦慄する。

何なんだ、コイツ等は!?

今まで こんな敵(チーム)とは対戦した事が無いぞ…?

何だ、あの目は?

あの獲物を狙う様な躊躇無い目…

俺が今、やってるのは本当に野球なのか?

 

 

まるで、四方から銃とナイフで狙われている錯覚に陥る楫木。

「…落ち着け、これ以上バントなんか させてたまるか…」

此処でキャッチャーからカーブ要求のサインが来るが、楫木は首を横に振る。

「巫山戯るな…E組如きに変化球なんか投げれるかよ!!」

「わっ?!」

捕手との意思疎通、球種やコースも決まらない儘、勝手に内角への直球を楫木は投げる。

そして其の瞬間、杉野はバントの構えから、バットを長く持ち替え、

「「バスターだと!?」」

カキィイン…!!

楫木の球をジャストミート、

『う、打ったぁーあっ!?

打球は深々と外野を抜ける!!』

木村が、渚が、磯貝が、次々とホームベースを踏む。

『ま、まじかよ…?

杉野、走者一掃のスリーベース!!

い、E組3点先制ー!!』

3塁の上で飛び跳ねながら、会心のガッツポーズをする杉野。

そして恨めしそうに睨みつける楫木に対し、拳を向け相手の顔を見据える。

 

楫木…お前、文武両道とか言ってたよな?

確かに武力で俺は、お前には敵わねー…

けど…例え弱者でも、狙いすました一撃で、巨大な武を仕留める事が出来る!!

そう、俺達は今、E組(みんな)で…そーゆー暗殺(べんきょう)してるんだよ!!

 

杉野の目は、そう語っていた。

 

「やったぜ杉野!!」

「流石はキャプテン!」

「よーし、杉野ぉ!ご褒美に神崎がデートしてやるってよ!!」

「え?ちょ、ちょっと、中村さん!?」

先制点に、沸きに沸くE組ベンチ。

そして、

「よし、じゃ、殺ってくる。」

「「よーし、殺ってこい、吉良っち!!」」

響が打席に向かった。

 

『ご…5番、セかんド、きら…くん…』

「何で俺のコールん時に限って、テンション下げてるかな~?差別?」

ブウゥン…ブウゥン…!!

如何にも『打ちますよ♪』と言いたげなフルスイングをしながら、打席に立った響。

                  

①縞馬→②虎→③ラブラドール

「…(笑)ら~じゃ。」

殺ボールのサインに苦笑しながら、バットを構える響。

因みに このサインの意味は『好きに殺れ』だったりした。

 

カキィイイン…

「な…!?」

響はサインに従い早速、動揺している楫木の初球をフルスイング。

「「「「「「うおぉぉおっ!!」」」」」」

「「「吉良ー!!」」」

「「吉良君、凄い!!」」

「「「吉良っちーっ!!」」」

鋭く、勢い良く飛ぶ打球は、レフトのポールぎりぎり内側に消えて行った。

                 

                 

「ファアール!」

しかし、審判(副審塁審含む)は この打球をファールとコール。

「「「「「「「はぁあ!?」」」」」」」

当然、E組ベンチは黙っていない。

「巫山戯るな!!」

「どー見たって内だったじゃない!」

「「「眼下行けーっ!!」」」

そんなE組ベンチに響は掌を差し出し、「気にするな」の意思表示。

くるくるとバットを軽く回し、

「さあ、次、逝ってみよー!」

再び打撃の姿勢を取った。

「吉良…」

「吉良君…」

「まあまぁ、本人が『大丈夫』と言ってるんだから、問題無いっしょ~?♪」

「カルマ…」

こんな時にも携帯ゲームを弄りながら冷静に、皆を宥めるカルマ。

 

 

「クソっ…!!」

収まらないのは楫木。

審判の『お情け』でファールにして貰ったが、野球部全員、楫木を含め、先の打球が文句なくホームランなのは理解していた。

野球部関係者で、当然な裁定と受け取っているのは、顧問の寺井だけである。

 

キャッチャーが敬遠を求めるが、楫木は首を横に振る。

「E組のカスだぞ!?

逃げる様な真似が出来るかよ!」

ならば、一球だけ外に流す指示も、楫木は それを拒否。

「ぅるせー!捕手(おまえ)は俺が投げた球、黙って受けてりゃ良ーんだよ、ボケ!!」

「なっ…!?」

「「「楫木…!?」」」

その暴言に、驚くチームメイト。

そして楫木は また、勝手に投球モーションに入る。

「E組のカスの分際で、俺から打ってんじゃねーよ!!」

「!!?」

ガッシャァ…

「「「「「「「吉良ぁっ!?」」」」」」」

「「「「「「「吉良君!!」」」」」」」

その球は、一直線に顔面に向かってきたのだが、響は持ち前の反応速度で後方、背中から倒れ込む形で躱す。

この暴投はキャッチャーも受ける事は出来ず、バックネットに直撃、その隙に杉野がホームイン、E組に4点目が入った。 

だが、これで収まらないのがE組ベンチ。

普通ならば、乱闘も辞さぬと集団で抗議にグラウンドに乗り出す処なのだが、

「巫山戯るにも程があるぞ!!」

「「「「烏間先生、落ち着いて!!」」」」

嘗て3つの球団で監督を勤め、その何れも優勝へと導いた、あの『闘将』が摂り憑いたかの如くな怒りの形相で真っ先に飛び出そうとした烏間を、生徒達は止めるのに必死だった。

「こーなったら仕方ない、陽菜、『乙女のちゅー』で黙らせろ!」

「えぇ~っ!?そんなの まだ早いし、心の準備、出来てないよ~?」

…結局は何事もなく起き上がった響が、先の疑惑裁定同様に『大丈夫だ』のアピールでベンチを鎮めたのだが。

 

『いやいや、凄く惜しかった!

もう少しで顔面直げkひえぇっ!?』

放送席で うっかり本音をマイク越に漏らしてしまった荒木に、響は鬼の様な形相で睨みつけ、そしてバットを向けた。

『殺る』『絶対に殺る』『兎に角殺る』

『とりあえず殺る』『死ぬまで殺る』…のアピールである。

 

『あわわ…不適切な発言が有りました!!

いや、ごめんなさい吉良君、すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません!!』

その殺し屋の様な冷酷な表情とポーズに畏れを為し、必死に謝るアナウンサー・荒木。

「あちゃ~、こりゃ、回避不可な死亡フラグが立ちましたね~♪?」

そう言いながら、ケタケタ笑うカルマの背後には、バナナの皮とカレーライスが踊るのが見えたとか見えなかったとか…

 

「ちぃ…あんな球、投げといて、帽子取って頭下げるのも無しか…

E組だからって、巫山戯過ぎてねーか?」

「…すまん。」

「お前が言っても仕方無ーよ。」

響の愚痴に、キャッチャーが慌てて代わりに謝るが、意味は無しと斬り捨てる。

「あのヤローが直接、謝らなk…!!」

響は見た…というより、無駄に良い視力の御陰でハッキリと見えた。

楫木がマウンドで、下種な含み笑いをし、その顔を歪ませているのを。

(あのヤロー、ワザとか…!!

俺だったから避けれたが、普通に大怪我、下手すりゃ死人が出てたぞ!!)

ぷち…

見事にキレた。

中学生相手に大人気ない(前世込みで24歳になりました)なんて発想は、如何に子供とは云え、平気で人を殺せる行動に出れる輩には持ち合わせてない。

少年法?何ですか、それ?

既に響に迷いは無くなった。

 

またもやキャッチャーの指示を無視して楫木の投げる豪速球、ストライクぎりぎり、更なる挑発的な内角高めの球を

カキン!!ドガッ!!!

「うぎゃあああああああっ!!」

「「「「か、楫木!?」」」」

フルスイングして、楫木の右肩に正確に撃ち当てたのだった。

 

「うわああぁぁああぁ…」

打球直撃の激痛で、捕球処ではない楫木、慌ててキャッチャーがフォローに走るが、その時 響は既に2塁ベースを踏んでいた。

                  

「念の為に聞くが…」

「事故なんかでなく、ワザと狙って、確実に仕留めたとでも言って欲しいのか?

仮にワザとじゃないと言えば、お前等は信じて納得するのか?

だから、敢えて言ってやるよ、ノーコメントだと。

お前等が勝手に都合良く判断しろ。

俺をヒールにしたいなら、好きにすれば良いさ、何しろ俺は、本校舎(そっち)じゃ超々・危険人物らしいからな…今更、痛くも痒くも無ーよ。」

「うっ…」

2塁のベースカバーに入った進藤の問い掛けを途中で遮り、響は一方的に言い放つ。

(実際、小宇宙全開で正確に撃ち崩したんだけどな…

まぁ、殺されなかっただけ、有り難いと思って欲しいね…)

 

                  

「うぅ…」

未だ肩を押さえ、うずくまった儘、立ち上がれない楫木。

「おい、担架だ!」

結局 楫木は、1つのアウトも穫れず、担架で運ばれて退場となった。          

                  

馬鹿な…

何で俺の球が こうも簡単に見切られた…

此処は、屑を生贄に、全校生徒に俺の実力を見せつける場所じゃなかったのか?

選ばれた俺が、何故こんな屈辱を…!?

クソっ!クソっ!クッソーっ!!

 

 

惨めに担架で運ばれる楫木の顔は、先程 響に向けた悪意故による顔以上に、屈辱で歪んでいた。

因みに この後 彼が、病院で医師から野球人として、死刑宣告に等しい診断結果を受け、深い絶望で顔を更に歪ませる事になるのは、また別の話。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「馬鹿な…楫木が…!?」

野球部ベンチでは、顧問の寺井が、色々な意味で予想外な展開に驚愕、そして動揺していた。

 

 

不味い…これ以上、不様を晒す訳には…

この儘だと、儂は理事長に…

 

 

 

「顔色が優れませんね、寺井先生?

何処か お体の具合が悪いのでは?」

「はああっ!?」

其処に現れたのは、椚ヶ丘学園理事長・浅野學峯。

今、最も遭いたくなかった人物の登場に、寺井の顔が青ざめ曳き吊る。

 

「ふむ…顔色も好くないみたいだし、直ぐに休んだ方が良い。

部員達も心配の余り、全力が出せてない様ですし。」

寺井にベンチを退く様に促す理事長。

「り、理事長、い、いや、私は この通り元気でs「病気で良かった。」

ガタガタ震えながら、自分は健康だと言おうとする寺井の言葉を遮り、病気と断定する浅野。

ピタ…

「病気でもなければ…こんな醜態を晒す様な指導者が…私の学校に居る訳がない…」

そう言いながら、浅野は自分の額を寺井の額と重ね、絶対零度と比喩しても差し支えない、冷たく残酷な視線を寺井に浴びせた。

ドサッ…

その、余りの恐怖に耐えきれず、寺井は口から泡を噴き、その場に倒れ込む。

浅野は自らの額に手を当て、

「あぁー、やっぱり凄い熱だ。

誰か、寺井先生を医務室へ。

その間、監督は私が勤めます。」

 

「「「「「「「!」」」」」」」

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

「!!」

その言葉に、野球部員、見学の生徒達、E組の面々が、そして殺ボール…殺せんせーが息を飲み驚く。

 

「審判、タイムです。」

「理事長先生…?」

寺井が担架で運ばれて行く中、全く事態が掴めない、進藤を始めとする野球部員達。

浅野は そんな彼等に、

「何、少しだけ…教育を施すだけだよ?」

そう言うと、自らマウンドに足を運び、野手全員を呼び寄せた。

                   

 

浅野學峯は こう考えている。

                  

此処でE組(かれら)を勝たせてはいけない。

彼の目には、少しずつ自信が漲りつつある。

全ては あの怪物が影で引いた糸だろうが…それでは駄目だ。

『やればできる』と思わせてはいけない。

常に、下を向いて生きていて貰わねば…

秀でるべきでない者達が秀でるとなると…この椚ヶ丘(わたし)の教育理念が乱れてしまうのでね!

                  

                  

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

『え~、今、入った情報によりますと…』

グラウンドにアナウンスが流れる。     

『野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で…部員達も先生が心配で試合処ではなかったとの事…

それを見かねた理事長先生が、急遽 指揮を執られるそうです!』

 

 

「お~、1回表からラスボスの登場かと思えば…」

「捏造乙~(笑)」

「過保護過ぎでね?(笑)」

「んな小細工しないと、E組如きに勝てない野球部…(泣)」

アナウンスの後に、理事長の行動を賞賛する声や、改めて野球部への応援の声が上がる中、E組は余裕で呆れていた。

 

「…気を抜いてはいけません。

あの理事長先生の、指揮統率力は決して侮れませんよ?」

「「「「「「おわっ!?」」」」」」

殺ボールが地中を進み、E組ベンチに顔を出していた。

不意の足元からの声に、思わず驚き叫ぶE組男子。

「理事長先生の介入は想定外でしたが、兎に角 皆さん、気を引き締めて下さい!

どんな手で来るか、予想不可能ですから!」

「「「「「「お、おぅ…」」」」」」

それだけ言うと、殺ボールは再び地中に潜り、元の位置に戻っていった。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

その頃、マウンドの野球部員は、浅野の号令の下、円陣を組んでいた。

「君達は選ばれた人間だ。

こんな場所で躓いてる暇は無い。

何故なら君達は これからの人生で、ああいう相手を幾千幾万と踏み潰して進まなければならないのだから。

今、やっているのは「野球」ではない。

幾千幾万の中の、たった10人程を踏み潰す「作業」なんだ。

さあ、作業の手順を教えよう…」

椚ヶ丘学園の支配者、浅野學峯の指示という銘の洗脳が始まった。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

理事長・浅野がグラウンドから下がり、試合再開となる。

そして負傷退場したエース・楫木の代わりに、マウンドに立ったのは…

「え?進藤!?」

「杉野、アイツ、投げれるのかよ?」

「あぁ、アイツも元々は、ピッチャーだったんだ。

只、楫木がピッチャーとして ずば抜けてたからな、レギュラー確保の為、アイツは もう1つの才能であるスラッガーとしての実力を集中強化する事を選んだんだ。」

「成る程…」

「まぁ、いいさ…あの楫木より、投手としては下なんだろ?」

「千葉?」

「とりあえず、俺が様子を見てくる。」

そう言うと、次のバッターである、千葉はヘルメットを被り、バットを持つと、打席に向かって行った。

 

「げ…???」

バッターボックスに入った、千葉の前髪に隠れた両目が点になる。

 

『これは…?

E組千葉が打席に入ったと同時に野手全員が…外野手も本来の守備位置を捨て、内野に集結したぁー!!

こんな極端な前進守備、見た事がない!!』

 

それを見たE組ベンチは

「バントしかないって見抜かれてるね…」

「…っても、あれって、あの至近距離ってアリなのかよ?」

この岡島の疑問に答えたのは竹林。

「ルール上は、フェアゾーンなら、何処を守っても自由なのさ。

もっとも、審判が駄目と判断すれば別だけど、残念ながら、審判の先生は本校舎(あっち)の人間だ。

期待するだけ無駄だよね。」

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

進藤の第1球が内角低めに決まる。

「当てるのは大丈夫だけど…」

とりあえず1球目を様子見とした千葉は、殺ボールの方向を見て、

(…だけど、冗談じゃないぞ!?

こんな内野、バントなんかじゃ どーにもならねーよ!どーすんだよ殺監督?

指示(サイン)くれ、サイン!!)

①無表情→②冷や汗→③顔を両手で覆い、

「ヌル…ど、どうしましょう…?」

「打つ手無しかい!!」

                  

結局、バントしか攻撃の手段がなかった6番・千葉、7番・菅谷、8番・前原は鉄壁の内野陣の前に凡打に終わり、響は残塁、チェンジとなる。

                  

そして1回裏、

「うわっ!?」

杉野の変化球が冴える。                  

しかし、その間も

「さあ、進藤君、繰り返して言ってみようか、『俺は強い』」

「…俺は強い」

「良いよ、『力で捻じ伏せる』」

「…力で捻じ伏せる」

「そう、『そして踏み潰す!』」

「…そして…踏み…潰すぅ!!」

理事長・浅野による、進藤の魔改造が着々と行われていた。

 

野球部の先頭バッター、続く2番バッターを変化球を駆使して三振に仕留めた杉野。

そして3番バッターが打席に着いた時、

「カルマ君、カルマ君…」

「?」

ショートを守るカルマの足元、地面から殺監督が顔を出してきた。

「いきなり出てくんなよ…踏むよ?」

「今の内に伝令です。

次の回、先頭バッターは君です。

ちょっと挑発して揺さぶってみましょう。」

「へ~、どんな?」

「ヌルフフフ…それは…」

 

 

カァン…

「…成る程ね、了~解♪」

パシッ…

そう言いながら、カルマは自分の頭上に打ち上がった打球をキャッチ、3アウトチェンジとした。                  

 

そして、2回の表、野球部は相変わらずの鉄壁なバントシフトを敷く。

                  

「…………………」

この回、E組の先頭バッターのカルマは、打席に着かず、その布陣を見据える。

「どうした?早く打席に入りなさい!」

審判が打席に着く様に促すと、

「ねぇ、これってさぁ、ズルくないの?理事長先生?」

カルマが仕掛ける。

「ほう…?」

「こんだけ邪魔な位置で守ってるのにさ、

審判の先生とか、何にも注意しないの。

一般生徒(おまえら)も おかしいとか、思ったりしない訳?」

挑発はカルマの真骨頂、最高にバカにした顔をバックネット裏の見学席に向け、

「あぁ、そうか、お前等ってバカだから、守備位置とか理解してないんだよね?」

この言葉に一瞬、黙り込む見学の生徒達だが、次の瞬間、

「小さい事でガタガタ言うな、E組!!」

「たかだかエキシビションで守備にクレームつけてんじゃねーよ!」

「文句があるなら、バットで結果、出してみろや!!」

ブーぶーBOOブーぶーBOOブーぶーBOO…!!

逆ギレ丸出しなブーイングを乱舞させる。

 

カルマは やれやれだぜ…なオーバーアクションで仕方なく打席に立つが、やはり鉄壁の守備陣の前に成す術も無く、

「監督、ダメっぽいよ?♪」

ベンチに戻ると、此方に移動していた殺監督に話し掛ける。

しかし、殺監督は

「いや、今ので良いんですよ、カルマ君。

口に出して、言葉にして、はっきりと抗議することに意味があったんですから。」

満足な表情で答えた。

打順は先頭に戻るが、木村、渚も やはり、極端な前進守備に手も足も出ず、この回は三者凡退となる。

 

そして2回裏…

カアァァァン!!

「「「「「「あ、あぁ…」」」」」」

いきなりの轟音に、E組女子は言葉を失う。

『キター!キタキタキター!!

4番・進藤君のバットが唸りを上げ、火を吹いたー!!

センター頭上を遥かに超えた、文句無しのホームランだー!!

野球部、1点を返したぁー!!』

凄く嬉しそうにアナウンスする荒木。

しかし杉野は崩れる事無く、次の5番、6番を三振に仕留め、続く7番に2塁打、更に8番にタイムリーを許すも、9番バッターをセカンドゴロに打ち取り、失点を2に抑え、最終回、3回表を迎える。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「く…!!」

変わらずの前進守備で先頭バッターの磯貝は内野ゴロで仕留められる。

更に守備体制を通常に戻した上で、4番・杉野が、進藤の投球の前に三振に倒れた。

「マジかよ…」

「スライダー?いや、フォークか?」

「打撃に専念して、ピッチャーの練習は してないんじゃなかったのかよ~!?」

「杉野並みにキレッキレだったぞ!?

いくら吉良でも、あれは…」

「ん…吉良君なら多分、大丈夫…かも?」

「渚君?」

E組男子が進藤の変化球に驚愕している中、ネクストサークルから響がバッターボックスに入った。

 

杉野以上の長打を警戒しての後方寄りな守備体制の中、進藤は第1球を投げた。

バスッ…

「…!!」

「ストライーク!!」

響は迫るボールに狙いを定めてバットを振るが、そのボールはバットに当たる瞬間、嘲笑う様に軌道を変え、下に落ちる。

 

「吉良…」

ベンチに戻った杉野が響を じっと見る。

「杉野~、どうなんだよ、吉良っちは?」

カルマが杉野に意見を求めた。

「あぁ、殺監督や烏間先生の特訓の後、一度、打撃練習に付き合わされたけどさ…」

此処で杉野は深く溜め息を吐く。

「ははは…正直、凹んだよ…

俺のカーブもスライダーも あのヤロー…」

進藤が第2球を投げた。

初球と同じスピード、同じ軌道、そして同じ回転で、再びバットで空を斬らさんと響に迫る。

響は それにタイミングを合わせ、深く踏み込み、バットを大きく振る。

「進藤、1球目で分かったよ…

杉野のスライダーのが、よっぽど鋭い。

そして、何より…」

それと同時に杉野は呟いた。

「…あのヤロー、どんな球も2球目には悉く、ぶっ飛ばしやがった!(泣)」

「聖闘士に同じ技(たま)は通用しない!!」

カキィィイイン!!

確実に真芯を捉えた打球は、先の進藤以上の高さでセンター頭上を超えていった。    

 

「「「うぉおお~!!吉良~っ!!」」」

「「「「「「吉良く~ん!!」」」」」」

「「「吉良っち~!!」」」

「吉良っちさ~ん♪」

文句の突けようのない、響のホームランに やんややんやなE組ベンチ。

バシバシバシバシガンガンガンガン…

「痛い痛い、ちょ…マジ痛いから!!」

そして、ゆっくりとダイヤモンドを1周して戻ってきた響に、手洗い歓迎をするクラスメート達。

「止め…痛いっつってんだろ!ごら゙ぁ!!」

                   

                   

                   

「うげーっ!?」

「なあ、今の内に、皆に話しておきたいってか、聞いてみたいんけどさ…」

岡島を吊り天井固め(ロメロ・スヘシャル)で極めながら、響が話す。

「「「「「「「…………。」」」」」」」

「面白そうじゃん♪

吉良っち、俺は乗るぜ。」

「確かに面白いな。」

「俺そういうの、密かに好きだぜ!」

「…決まりかな?」

「奴等、こっち見てるしな。」

「全く…吉良君は悪巧みさせたら、カルマ君以上ですね。」

「「「「「「いーじゃん♪

やっちゃえ殺っちゃえ~!!♪」」」」」」

「吉良、俺も乗る!

乗るから、早く放してくrっうぎゃーっ!!」

 

響が持ち掛けた、竹林が言う処の【悪巧み】とやらに、とりあえずバッターボックスに向かい、この場に居なかった千葉以外、男女全員が賛同。(後で千葉も同調する)

その千葉も、響のホームランの動揺を全く見せない進藤の投球と、野球部の超前進守備の前に散る。

3回表が終わった時点で5対2、E組が3点リードの状況で その裏、最後の攻防が始まる。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「橋本君…」

バッターボックスに立とうとする1番バッターに理事長が話し掛ける。

「『お手本』を見せてあげなさい。」

 

 

『おぉっとー!1番・橋本君、これはバントの構えだー!!』

 

理事長・浅野學峯は冷たく微笑む。

 

 

見てますか、殺せんせー?

其方に多少のイレギュラーが居るとは云え、小細工を駆使して勝とうとする弱者と、其れを絶対的な力で容易く捻じ伏せる圧倒的強者…

人は、どちら側になりたいと思いますか?

其れを教えるのが、私の教育ですよ。

ありがとう、殺せんせー。

私の教育に協力してくれて…

お礼に、『善い勝ち方』と云う物を教えてあげましょう。

 

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

コンッ

『あーっと、クリーンナップの3番打者・佐竹もバント!

野球部が1回表、E組が繰り出したバント地獄の お返しだ!!

同じ小技なら、野球部の方が当然ながら、遥かに上!』

 

 

「う~む…バント処理の練習も、しておくべきだったか…」

「ヌル…野球部がE組(われわれ)にバントを仕掛けるのは想定外でしたからね…」

ベンチで顔を暗くする烏間と殺監督。

                  

 

『バントのみでノーアウト満塁!

1回表のE組の攻撃と、全く同じだ!

しかし、違う点が1つ!

この場面で打席に立つのは…我が校が誇るスーパースター!

野球部主将、進藤ぉ…一孝あぁーっ!!

野球部、逆転サヨナラのチャアーンス!!』

「俺は…強い…力で捻じ伏せる…

そして…踏み潰す…俺は強…い…力で…」

テンション最高潮なアナウンスの中、何やらブツブツと譫言の様に言いながら、バッターボックスに入る進藤。

                  

浅野は それを満足気な表情で見送る。    

 

 

普通なら…野球部が素人相手にバント等、見てる者も納得はしないだろう。

だ・が、君達が先に やった事で、大義名分が出来た。

『お手本を見せる』というね。

小技でも『強い』という印象を与えて、そして確実に勝つ。

殺せんせー、これが正しい強者の勝ち方というヤツですよ?

最終回の『この場面』を演出する為…1回表から彼を洗脳(きょういく)して来た!!

そして終幕(フィナーレ)は、バントみたいな小技ではない…。

主役である強者の一振り(スイング)だ!!

 

 

「…踏み潰す…踏み潰してやる…杉野!!」

「…!!」

理事長の魔改造を施され、鬼神の如きな形相の進藤が、杉野を睨む。

 

『さ~ぁ、これで終わるか、終わってしまうのか?

進藤と杉野、元々は野球部で競い合った2人ですが、今の2人の立場は真逆!

片や野球部主将のスーパースター!

そして片や、ENDのE組!!

ピッチャー杉野、絶体絶命のピンチ!

今日の運命も、E組らしく、敗北かぁ?』

「カ~ル~マ君?」

アナウンスが好き勝手言っている中、カルマの足元に、再び殺監督が顔を出す。

「…踏むよ?」

「にゅや?ちょっと待って!?

さっきの挑発が活きる時ですよ?」

「…!!…成~る程ね。」

殺監督の意図を理解したカルマは

「吉良っち~、監督から伝令~。」

「…!!マジかよ!?(笑)」

響に殺監督の作戦を伝えた。

 

『こ…この前進守備は!?』

カルマと響が、先の野球部に負けず劣らずな、バッターの目の前まで近付く前進守備を執る。

 

「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるって、自覚はあるけどさ~♪」

「さっき、そっちがやった時、審判はスルーだったよな?」

「文句は無いよね、理・事・長・先・生?」

 

「………………………(笑)」

この2人の挑発に浅野は苦笑。

 

 

成る程ね…

さっき、赤羽君が私にクレームを漬けたのは、この同じ行為をやり返しても、誰にも文句を言わせない布石でしたか…

確かに明確に打撃妨害と見なされるのは、守備側がバットに触れた時のみ…。

前進守備が集中を乱す妨害行為と見なすかは、審判の裁量だが、さっきのクレームを認めなかった以上、今回も黙認するしかない。

それは、見学の生徒達も然り。

全く、よく考えたよ…小賢しい程にね!!

 

「御自由に。

選ばれた者はE組(きみたち)と違い、守備位置位で心を乱さない。」

文句を言いたくても言えない、審判や見学者達が そんな顔をしている中、浅野學峯は涼しげな顔で言ってのける。

 

 

無駄だよ…

その進藤一孝の集中力は、私の『教育』で極限まで高まっている。

君達の小細工は打ち砕かれ、弱者を更に醜く曝すだけだよ?

 

「へ~?言ったねぇ?♪」

…顔から そんな思考を読み取ったか、カルマは悪戯めいた顔で、

「じゃあ、遠慮なく♪」

 

「「「「なっ…!?」」」」

『ち、近い!!』

響と共に、バッターボックスから一歩の距離まで歩み寄った。

『ぜ…前進処か、これはゼロ距離守備!!

振れば確実にバットが当たる距離で守っています!?』

「…はいぃ?」

思わず目が、点になってしまう進藤。

「ははは…進藤、悪い…。

そんな位置で守られた日にゃ、流石に どんなに集中してても冷めちゃうわな…」

これには杉野も苦笑い。

「気にせず打ちなよ、スーパースター♪」

「ピッチャーの球は邪魔しないぜ?」

「し、正気か、お前等?」

「ふふ…下らんハッタリだよ、進藤君。」

集中力が失せた進藤に浅野が声を掛ける。

「構わずバットを振りなさい。

例え骨が砕けても、打撃妨害を取られるのは、彼等の方だ。」

「ま、マジかよ、あの理事長!?」

背後から禍々しい【何か】を沸き出させながらの理事長の冷徹な発言に、進藤は やや引き気味となる。

そして、杉野の第1球。

(巫山戯た真似しやがって…

大きく振ってビビらせりゃ、退くに決まってる!!)

ブゥン!!

進藤のフルスイング。

しかし、それを響とカルマは殆ど動かず、最小限の動きで躱す。

「す、ストライーク!!」

 

「ヌルフフフ…

マッハ20の私への暗殺で鍛えられ上げられた胴体視力!

あの2人の度胸と胴体視力、そして性格の悪さはE組でもトップクラス!!

バットを躱すだけなら、バントよりも簡単ですよぉ?」

 

「あは…駄目駄目♪

そんな遅いスイングじゃあさ♪」

「次は…殺る気で殺ってみろよ?」

動揺する進藤にカルマと響が、更に顔を近づけて言い放つ。

進藤が助けを求めるかの様に、ベンチに居る理事長を見てみると、その顔は「構わないから、殺りなさい」とばかりに微笑んでいる。

(じ、冗談じゃないぞ、殺すとか!?

理事長もコイツ等も、一体何なんだよ?

俺は この先、高校大学、そしてプロを目指して野球やってんだぞ!

こんな余興じみた試合で、手を汚せる訳がないだろ?

自己責任とか、そーゆー問題じゃないだろうが!!)

 

進藤は殺し屋でもなければ、戦士でもない。

勝つ気はあるが、殺る気は無い。

あくまでも、只のスポーツマン、゙選手゙に過ぎない。

倒せても、殺すのは実行不能。

この時点で進藤は、体は恐怖でガチガチ、頭も真っ白で、理事長の戦略に心身共に、着いていけなくなっていた。

 

進藤の目が、目の前の8人の野手、そして後ろに座っている捕手の渚、この9人を黒いフード付きのローブを纏った死神と錯覚させる。

その死神(すぎの)が、まるで自分の命を刈り取るかの様に投げた球を、

「う…ぅゎぁぁあ…」

コンッ

『な…進藤君、腰が引けたスイングぅ!?』

ガチガチの身体で辛うじてバットに当てた打球は、ホームベースの上をバウンド、

ガシ…

「渚!!」

「!」

その球を響が素手でキャッチし、そのまま捕手の渚に渡す。

渚がボールを受けたミットでホームベースをタッチ、

「三塁ランナー、アウト!」

「渚君、サード!!」

すかさず渚がサード・磯貝に送球。

「しまっ…」

余りの事態に固まっていた二塁ランナーが慌ててダッシュするが、既に遅く、

「二塁ランナー、アウト!」

「磯貝、一塁(こっち)だ!

進藤、へたり込んでるから、焦んなくて良いぞ!!」

ファーストの菅谷が、捕球の構えを取り、叫ぶ。

「了解!!」

ヒュッ…パシィッ!

「うぉっ!!」

磯貝の送球は、構えた菅谷のグラブ目掛け、レーザービームの如く一直線。

全く体を動かしていない菅谷のグラブの中に、綺麗にスッポリ収まった。

受けた菅谷が吃驚である。

「凄い!磯貝君のボールが凄過ぎる!!」

「うっとり」

「カッコ良い…かも…」

「ぴゅーん!…だよ!ぴゅーん!!」

その送球に、「イケメンだ!!」…になってしまうE組女子(…及び、一部本校舎女生徒)。

そして、その光景を見て、

「「「「「誰が、あんなにカッコ良く決めろと言った、このイケメン!!」」」」」

憤慨するE組男子(笑)。

『ととと…トリプルプレー!???

げ、ゲームセット…!!

ななな…何と!E組が、E組が野球部に勝ってしまったぁ!!』

 

「きゃー、やった!!」

「勝ったー!」

「男子かっけー!!」

大はしゃぎのE組女子。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「ちっ…」

影で試合を見ていた寺坂達は、複雑な表情を浮かべ、その場を立ち去る。

 

 

「…………………………。」

そして、監督代行を勤めた、理事長・浅野學峯も、無言で その席を立つ。

 

「ヌルフフフ…

中間テストと合わせて、1勝1敗のイーブンって処ですかねぇ?

このケリ、次の期末で勝負ですよ?」

去って行く浅野を見て、呟く殺せんせー。

そして、

(今日は敗れたが、あの男もまた、教育の名手である事には変わりない。

生徒の顔と能力をよく覚えていて、教えるのも やる気を引き出すのも抜群に上手い。

このタコと浅野理事長…2人の やり方は、よく似ている。

なのに、何故…教育者として、こんなにも違うんだ?

この2人の対決…少しだが、興味が沸いてきたな…)

烏間もまた、2人の対決の行く末を、見届ける心算となる。

「3月と暗殺完了、どちらが先かな…?」

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「なんだよ、つまんね…

E組如きに負けやがったぞ、あの野球部?」

「あの戦力差で、負けるかよ、フツー?」

不満、文句たらたらでグランドを後にする生徒達。

彼等は気づいてはいない。

試合の裏の…2人の教育者の数々の戦略、駆け引きの ぶつかり合いがあった事を。

 

 

 

「…皆、教室に帰ろう。」

グラウンドの真ん中で男女問わず、ハイタッチを交わすE組の生徒達の様を面白くなさげに見ていた、A組・浅野学秀の一言で、その場から去ろうとするA組の生徒達。

 

 

「おーい、待てよ、A組ー、浅野ぉ!!」

「!?」

その浅野達を響が呼び止めた。        

 




念の為…
響の第2打席は小宇宙未使用です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。