暗殺聖闘士   作:挫梛道

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※※※※※3-E 座席表・2※※※※※※
 
  寺坂    赤羽 律 吉良 櫻瀬
 
  村松 狭間 千葉 奥田 菅谷 原
 
  吉田 神崎 岡島 速水 杉野 不破
 
  竹林 矢田 三村 中村 潮田 茅野
 
  木村 倉橋 磯貝 岡野 前原 片岡
 
         タコ 
 
※単行本とは逆に、黒板を背にした視点で表記しています。
 
原作の席順とは、若干異なります。

加筆修正しました。


転校生の時間・2時限目

その日は朝から雨だった。

                  

渚の机に集まり喋っている響達。

話題の中心は、今日から やってくるという転校生についてだ。

「烏間先生からの一斉メールだからな、ぶっちゃけ殺し屋だろ?」

「律は何か知らないの?」

「そーですね…」

渚の机の上に置かれたスマホ。

その画面の中の律が喋り出した。

                  

モバイル律。

E組メンバーとの情報共有を円滑にする為に、全員のケータイに(勝手に)自身の端末をダウンロードしてみたという。

そんな画面の中の律は現在、外の天気に合わせ、雨の降る街並みの画面背景、制服の上にカエルな雨合羽を着込み、ピンクの地に青の水玉模様の傘を差している感じだ。

 

律曰わく…

今回の転校生、最初は律と同時投入の予定だったという。

律が遠距離射撃、今回の『彼』が接近戦での連携で暗殺対象(ターゲット)を仕留める予定だったと。

しかし、『彼』の調整が まだ時間が掛かり、更には律の性能が『彼』と連携するには能力不足という理由で、重要度の下がった律が、先に単独で送り込まれたらしい。

あくまでも本命である『彼』と比べたら、自分は前座に過ぎないと…

                   

「前座…能力不足って、殺せんせーの指をふっ飛ばした律が、その扱いなの…?」

「どんな化け物が来るんだ?」

「身長57㍍体重550㌧とか。」

「接近戦ね…徒手か、ナイフか…」

「お?空手使い、興味ある?」

「まあな…」

「スルー?!」

                  

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「おはようございます。

皆さん知っての通り、律さんに続き、今日から転校生がやってくる予定ですが…」

「「「「「「「…………」」」」」」」

担任のタコの、思わせぶりな言い方に注目する生徒達。

                 

「今日は、雨が降るから休むそうです。」

がったーーーーーーーーーーーーん!!!!

思わずコケる生徒達。

響、カルマだけでなく、律までもが、画面の中でコケていた。

「「「「「南の国の大王かっ!!?」」」」」

E組メンバーの心が1つになった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

次の日。(晴れ)

朝のホームルームの途中、いきなり教室に入って来たのは、白装束に白頭巾の人物。

皆が「あれが転校生か?」と思わせた その人物は教卓の前に立つと、右手をスゥ…と皆の前に差し出して、

 

ぽんっ!

いきなり白い鳩を出した。

いきなりの手品に、一瞬 生徒達は驚く。

 

「君が…転校生の堀部君ですか?」

驚きの余りに、天井の角に張り付いた黄色いタコが白装束の人物に尋ねる。

「「「「「ビビり過ぎだろ!!」」」」」

生徒達の突っ込みの中、

「ははは…驚かせて済まなかったね。

私は転校生じゃないよ。」

先程の鳩を袖の中から出した籠に仕舞いながら、白装束は

「私は保護者さ…。まあ、この格好だし、シロと呼んでくれて結構だよ。」

「そうですか、初めましてシロさん、それで…肝心の転校生は?」

天井から降りた殺せんせーがシロに尋ねる。              

「初めまして殺せんせー。

あの子は性格とかが色々と特殊な子でね、

私が直に紹介しようかと思いまして…」

 

 

「…怪しい…凄く怪しい…!」

「…言うな。」

廊下では外国語教師と体育教師が様子を見ていた。

「それで…席は、あの後ろの空きですか、殺せんせー?」

「はい、そうなりますね。」

シロがの寺坂竜馬と赤羽業の間の、誰も座っていない机を指差して、担任に確認を取る。

 

「では呼びましょう。

おーい、イトナ!!入っておいで!!」

 

ドクン…ドクン…

一体、どんな奴だ?

クラスの誰もが そう思いながら、教室前側の扉に注目した、その時、

 

ドッゴォッ!!

「「「「「「「!???」」」」」」」

教室後側の壁、掲示板を破壊して『彼』は入ってきた。

そして その儘、教室後側の空いている席に着く。

(((((ドアから入れっ!!!!)))))

昨日に続き、クラスの心が1つになった。

                 

『俺は…勝った…。

この教室の壁よりTSUEE!!事が証明された。

それでいい…それだけでいい…』

血走った目で呟く転校生。

 

 

「何だか面倒臭そうな人ですねぇ…?」

「「そ、そうだね…」」

律の言葉に少し思う事があるのだが、発言自体は間違っていない為、とりあえず同意したのは、彼女の席の両隣である響とカルマである。

担任の殺せんせーもリアクションに困り、笑顔と真顔のハーフ&ハーフな中途半端な顔になっている。

 

「堀部イトナだ。

名前で呼んであげて下さい。」

シロが改めて『彼』を紹介する。

「あ、それから私は多少過保護でね、暫くの間は、彼の事を此処で見守らせて貰いますよ。」

堂々と同伴宣言するシロ。

 

「へ~…で、イトナ君?」

早速、隣の席のカルマが話し掛ける。

「派手に壁を破って入ってきたけど、どんな武器を使ったの?

ゴム素材の対せんせー武器じゃ、壁なんて破れっこ無いよね?」

「…………………」

このカルマの質問には答えず、只、血走った目で睨みつける堀部イトナ。

 

きょろきょろ…

更には教室内を見渡すと、この転校生は席を離れ、響の前に立つ。

そして、

「お前が…お前が あの赤い髪より、多分、このクラスで一番強い。」

「へぇえ…!??」

この言葉に過敏に反応するカルマ。

しかし、イトナは そんなカルマを無視して

「でも、安心しろ。」

 

なでなでなでなで…

響の頭を撫でながら、

「お前は俺より弱いから、俺は お前を殺さない。」

響に対して言うのだった。

 

なでなでなでなでなでなで…

ぷちっ…!!!!

「あ゙っぁん゙!!!???」

バチィッ!

頭の上の手を思いっきり払い飛ばし、席を立ち上がる響。

その顔は『渚自爆テロ』の際に、寺坂を虐殺した時(注:殺ってません)に見せた、完全にキレた時の それだった。

「!!!?ヤバい!皆!!」

「「「「「「「お、応っ!!」」」」」」」

磯貝の呼び掛けで、即座に2人の間に割って入る男子生徒達。

 

「あわわわわわ…ふ、2人共、ぼ、暴力は いけません!!」

本来ならば、真っ先に止めるべき筈の担任は、テンパって役に立たない。        

そんな中、

「皆、落っ着け、もう大丈夫だ。」

「吉良…」

響は皆を下がらせた後、

ゴツッ…

「よーし、どっちが強いか、ハッキリさせようじゃねーか!」

両拳を撃ち合わせた後、ファイティングポーズを取る。

 

「「「「全然、大丈夫じゃねぇ!!」」」」

突っ込むクラスメート達。

「悪いな、俺は こう見えて(前世込みで、もう直ぐ24歳)、結構ガキなんだ。」

『…ふん、良いだろう。外に出ろ。』

堀部イトナも応戦の態度を示すが

「イ~ト~ナ?」

『!!』

此処で初めて、今まで黙っていた、イトナの保護者であるシロが口を挟んだ。

「そんな、自分と同年代の子供相手にムキになるな。

今のお前は、既に世界最強の『人間』なんだからな?」

『そうだった…俺は…最強だ…

俺が…殺したいと思うのは…俺より強いかも知れない奴だけだ…。』

イトナは そう言うと、教室前側に進み、

『この教室の中で それは殺せんせー、あんただけだ。』

担任に宣戦布告するイトナに対し、

「強い弱いとは、ケンカの話ですか?

力比べでは、先生と同じ次元には立てませんよ?イトナ君?」

その担任は顔を縞模様にして軽く流す。

『立てるさ…』」

イトナは真っ直ぐに、殺せんせーの目を見て言う。

『だって俺達…血を分けた…兄弟…なんだから…』

「「「「「「「はぁあ!?」」」」」」」

イトナの台詞に、驚きを隠せない表情のE組の面々。

 

「「「「「「「きっ!?」」」」」」」

生徒達の脳裏に、宇宙服を着た、天パと金髪の青年が浮かぶ。

「「「「「「「きっ!?」」」」」」」

続いて、胸に7つの傷を持つ、2人の男の姿が浮かび(1人は黒いヘルメット着用)、

「「「「「「「きっ!?」」」」」」」

更には、金髪を三つ編みにした、背の低い少年と、大柄な全身鎧が浮かんで

「「「「「「「きっ!?」」」」」」」

そして、額に傷のある熱血少年と、鎖を振り回す美少年の姿が浮かんだ。

「「「「「「「兄弟ぃっ!??」」」」」」」

兎に角、E組の面々は驚いた。

 

そんな生徒達は無視してイトナは殺せんせーを睨みつけ、

『負けたら死刑な?兄さん。

兄弟同士、小細工は要らない。

お前を殺して、俺の強さを証明する。

時は放課後…この教室で勝負だ。』

暗殺の日時と場所を指定。

『今日が あんたの最後の授業だ。

こいつ等に お別れでも言っておけ…』

そう言うとイトナは、最初に教室に入る時に破壊した壁の前まで進み、響を指差し、

『お前、俺が兄さんを殺した後で良いなら相手になってやる…。

兄さんを殺った後でも、お前がビビってなく、まだ戦る気があるならな…』

「…では、とりあえず失礼するよ。」

シロと共に、壁の穴から去って行った。   

その直後、

「ちょっと、兄弟って、一体どーゆー事なのよ?殺せんせー!!」

「そもそも、人とタコで、全然違うじゃねーか!!」

「いやいやいやいや!!」

生徒達に追求され、しどろもどろな殺せんせー。

「いや、先生だって びっくりですから!

お父さん お母さん、いつの間に?…って心境ですよ!?」

「「「「「親、いるのかよ!?」」」」」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

放課後。

殺せんせーとイトナ、2人を囲む様に机が並べられた教室。

 

「机の…リング…!?」

「ああ、まるで試合だ。

こんな暗殺は初めてだ。」

烏間とイリーナも戸惑いを隠せない。

 

『リング』の対角線に位置するコーナーで対峙する2人。

イトナのセコンドの如く寄り添うシロが、口を開いた。

「殺せんせー、ただの暗殺は、もう飽きてるでしょ?

此処は1つ、ルールを決めないかい?」

「ルール…ですか?」

「リングアウトは即死刑!!どうかな?」

このシロの提案に

「はぁ…?何よ それ?

負けたって、誰が守るってのよ?

そんなルール?!」

「いや…少なくとも、殺せんせーなら…」

「吉良っち?」

「皆の前で決めたルールを破れば…それで『先生』としての信用が落ちる…」

「殺せんせーには意外と効くんだよな…この手の縛りは。」

「カルマ…吉良っち…」

中村の疑問に解説ポジな2人が説明する。

 

「…良いでしょう。

その提案、受けましょう。

ただし、イトナ君、観客に危害を与えた場合も負けですからね?」

コク…

「…………」

イトナは無言で頷く。

 

「では、始めますか。」

シロが右手を上に上げる。

ドクン…ドクン…

その場にいる者、全ての心臓の鼓動が高まり速まる中、

「暗殺…開始!!」

斬っ!!!!

「「「「「「「っ…!??」」」」」」」

シロの手が振り下ろされたと同時に、殺せんせーの左腕が斬り落とされた。

その場の誰1人として…烏間とイリーナでさえ、声も出さず…いや、出せずに驚き、注目する。

その視線の先は、床で脈打つ斬り落とされた腕ではなく、

ヒュンヒュンヒュンヒュン…

「「「「「「「触手!??」」」」」」」

風切り音を立てながら躍動している、イトナの頭部に生えている触手だった。

 

「成る程…こりゃ壁、普通に壊すし…」

納得するカルマ。

 

 

 

そして…

「……………こだ…?」

斬り落とされた腕を抑えながら、

「何処で其れを手に入れたっ?

その触手を!?」

殺せんせーは その身体を一瞬にして黒く変色させ、イトナを、そしてシロを睨みつける。

「君に言ったりする義理も義務も無いね、殺せんせー。だが、理解したろ?

両親(おや)も、育ちも違う。

しかし…この子と君は、紛れもなく兄弟なんだよ。」

「…どうやらシロさん、貴方にも話を聞かなきゃいけない様です。」

そう言いながら、殺せんせーは斬られた腕を再生し、身体も普段の黄色に戻す。

「無理だね?君は死ぬのだから。」

 

カッ…

シロが殺せんせーに向けた左手の袖の中から光が放たれる。

「!?」

動きが止まる殺せんせー。

「この圧力光線を至近距離で浴びせると、君の細胞はダイラタンシー現象により、一瞬だが全身が硬直する。」

シロの左手首には、特集光線を放つ、小型の装置が仕込まれていた。

「全部、知っているんだよ。

君の弱点は全部ね。」

カッ…

シロは右手でサムズダウンしながら、再度、左手から圧力光線を放つ。

「うっ…!?」

「死ね…兄さん!!」

それと同時に殺せんせーに、無数の触手が襲ってきた。                  

ドドドドドッ…!!

イトナの放つ、触手の槍のラッシュが殺せんせーの身体を幾度となく貫き、勝負あったかに見えた。

 

「うぉ…」

「殺ったの?」

「…いや、上だ。」

寺坂が天井を指差した先に、殺せんせーは居た。

 

「脱皮か…」

イトナが攻撃を仕掛けていたのは、エスケープした後に残された脱け殻だった。

「そう言えば、そんな手もあったねぇ…」

ざわつく観客。

「マジか?」

「もう奥の手の脱皮、使わせた!?」

 

イトナの猛攻は続く。

シロ曰わく、脱皮や再生は、見た目以上にエネルギー消費が激しい。

常人から見れば、速過ぎるのは変わらないが、そのスピードは明らかに低下し、それは触手同士の戦いでは、影響は大きい。

また、触手の扱いは精神状態に大きく左右される。

想定外である触手による攻撃、そしてダメージによる動揺、その気持ちを立て直す暇も無い狭いリング…

「今現在、どちらが優勢か…生徒諸君にも一目瞭然だろうねぇ?」

 

「お、おい…」

「これマジに殺っちゃうんでないの?」

防戦一方の殺せんせーを見て、生徒達が口々に呟く。

 

カッ…

更には過保護な保護者の献身的サポートである圧力光線を浴び、またも身体が止まる殺せんせー。

其処に跳躍したイトナが頭部から生えた、全ての触手を一本に束ね、空中から『兄』の脳天目掛け、強烈な一撃を狙う。

ザザンッ

だが これは、直撃するより一瞬速く、殺せんせーの硬直が解けた為、辛うじて脚の触手を2本失うだけに留まった。

「ふっふっふ…だがしかし、また再生しなくては ならないねぇ…

更にスピードが落ち、殺り易くなったよ。」

余裕の発言のシロ。

そして、

『安心したよ、兄さん…

俺は、お前よりTSUEEEEEEEEEEEEEEEE!!』

目を血走らせたイトナが叫ぶ。

 

「「「「「「……………。」」」」」」

複雑な心境になるE組の面々。

殺せんせーが追い詰められている…

後、もう少し…イトナが殺せんせーを殺せば、地球は救われる!!

…なのに、何故、自分は こんなにも、悔しがっているんだろう…?

後出しジャンケンの様に、次から次と出てきた殺せんせーの弱点…

本当なら其れは、自分達が この教室で見つけたかった…。

E組(じぶんたち)が…殺したかった…!!

                 

                 

気がつけば、何人かの生徒が俯きながら、対せんせーナイフを握り締めていた。

                 

「此処まで追い込まれたのは初めてです。

一見愚直な試合形式の暗殺ですが、実に周到に計算されている…。

貴方達に聞きたい事は山ほど有りますが…まずは、この試合に勝たねば いけないみたいですねぇ…?」

勝利宣言とも取れる、殺せんせーの発言。

「…勝てる心算でいるのかい?

負けダコの遠吠えだね。」

やれやれ…と、オーバーアクションで言い返すシロ。

                  

「シロさん…この暗殺方法を計画したのは貴方でしょうが…計算し忘れている事がありますよ?」

「…そんなの無いね。

私の性能計算は、プッワァーフェクツッ!!…なのだからね…。殺れ!イトナ!!」

シロが そう言いながら、圧力光線を放とうと、左手を殺せんせーに向けた その時…

バシィッ!!

「「「「「「「「吉良?」」」」」」」」

「「「「吉良っち!?」」」」

「ヒビキ?!」

「「「「「「「吉良君!?」」」」」」」

「吉良っちさん?」

「やっちまったぜ…」

其処には、シロの左手を大きく蹴り上げた響が居た。

それにより、放たれた光線は天井を照らす。

教室内の人間が、響を普段の呼び名で叫ぶ中、本人は某・チェーンソーを持った、神殺しの戦士の様な台詞を呟く。

 

「痛ぅ…何の心算かね?」

シロが響に問い詰めるが

「いや、コレは試合である限り、やっぱりフェアじゃないとね…って思ってね…

セコンドの介入は無いわぁー。」

やや、気まずく答える響。

これは、クラスメートの心情を察した以上に、聖闘士としての、真剣勝負を汚す行為は赦せないという信条による、本能的な行動だった。

そして、結果的にシロのアシストを回避した殺せんせーは、真上から仕掛けるイトナの攻撃を躱し、

ドギャッ…

その触手は床を破壊すると同時に、

「おやおや?落とし物を踏んづけてしまった様ですねぇ?」

ドロォッ…

「!!?」

…ドロドロに溶けていた。

 

イトナが踏んづけた落とし物…

それは、床に置かれた沢山の対せんせーナイフ。

「え?」

「えぇ?」

「ええぇっ!??」

「「「「「何時の間に!?」」」」」

実は、生徒が取り出したナイフを、何時の間にかハンカチ越しに掏っていた殺せんせー。

 

バサッ

間髪入れず、先程の脱皮の脱け殻でイトナを包み込み、袋詰めにして持ち上げる。

「同じ触手なら…対せんせーナイフが効くのも同じ。

触手を失うと、動揺するのも同じですね。

…でもね、先生の方が、ホンの ちょっとだけ老獪ですよ?

あ、杉野君、神崎さん、そこの窓を開けて下さい!!」

「「は、はい!」」

ガラ…

指名された2人が窓を開けた瞬間、

ブンッ…!!

殺せんせーはイトナを脱け殻ごと、そこから外に放り投げた。

ドサッ…ゴロゴロ…

地面に転がるイトナ。

脱け殻を内からビリビリと破り、呆然としているイトナに

「先生の脱け殻で包んでいたから、ダメージは無い筈です。

だが、君の足はリングの外に着いている。

先生の勝ちですねぇ。

ルールに照らせば、君は死刑。

もう、二度と先生を殺れませんねぇ?

ついでに もう1つだけ…兄より優れた弟なんて、存在しないんですよぉ?」

完全に人を舐めきったドヤ顔で、縞々模様のタコは言い放った。

殺せんせーのリングアウト勝ち=イトナのリングアウト負けによる死刑が確定した。

                  

「生き返りたいのなら、皆と一緒に、このクラスで学びなさい。

性能計算では そう簡単に計れない物…それは経験の差です。

君より少しだけ長く生き…少しだけ知識が多い。

先生が先生になったのはね、経験(それ)を君達に伝えたいからです。

この教室で先生の経験を盗まなければ…君は私に勝てませんよ?」

イトナを諭す殺せんせー。

…しかし、

『勝てない…?俺が…弱い?

うがぁああああぁぁあああぁっ!!』

怒りで目を真っ赤に充血させたイトナの頭部から、゙黒い゙触手が再生された。     

バキッ…バキバキ…!!

暴走した触手が、周囲の木を斬り崩す。

「え?黒い触手!?」

「ヤバい、完全にキレてるぞ、アイツ!!」

「うわ、こっち来たっ!!」

 

シュタ…

自身が投げ出された窓から飛び込み、教室に戻ってきたイトナは、怒りの眼差しで殺せんせーを睨みつける。

『俺は…強い…

この触手で…誰よりも強くなった…

誰よりも誰よりも誰よりも誰よりもっ!!』

「………」

『うがぁあっ!!』

イトナは叫ぶと、殺せんせーに飛び掛かる。

 

バスッ…

そんなイトナを撃ち抜く弾丸。

撃たれたイトナは意識を失い、その場に倒れ崩れる。

どうやら、麻酔弾の類の様だ。

「すいませんね、殺せんせー。

どうも この子は…まだまだ登校出来る精神状態じゃなかった様だ。」

撃ったのはシロ。

倒れているイトナを肩で担ぐと

「転校初日でアレですが…暫く休学させて貰います。」

シロは そう言って立ち去ろうとするが、

「待ちなさい!

担任として、その子は放っておけません。一度E組(ここ)に入ったからには、私が責任を持って、卒業するまで面倒を見ます。

それにシロさん…貴方にも聞きたい事が沢山あります。」

殺せんせーが呼び止める。

 

「嫌だね、帰るよ。

私は話す事は何もない。

それとも、力ずくで止めてみるかい?」

聞く耳持たぬシロに、止むを得まいとばかり、殺せんせーは触手を伸ばし、その肩を掴むが、その瞬間、触手はドロォッと溶け落ちる。

「対せんせー繊維…君は私に触手一本、触れる事は出来ないよ。」

肩の上の、溶けた せんせー細胞を振り払いながら、シロは話す。

「そんなに心配せずとも、直ぐに復学させるよ、殺せんせー。

3月まで時間は無いからね。

その間の勉強の方は、責任持って、私が家庭教師を務めるから心配無く。」

「ちょっと待てよ…」

「それは虫が好すぎるんじゃない~?♪」

シロが出ようとする゙例の穴゙を塞ぐ、2人の生徒。

「リングアウトは即死刑っしょ?」

「もう、そいつに゙次゙は無い筈だぜ?」

響とカルマである。

 

「ほう?まるで君達は、イトナを殺したい言い種だね?」

「別に~?汚くて卑怯な大人の、見苦しい言い訳に興味があるだけさ♪」

「ほれ?言い訳はりーあっぷ!!(笑)」

このカルマと響の挑発にシロは

「あのタコと律儀に守る必要のある約束なんか、在る訳がないだろう?

何しろ、アレは、地球を破壊せんとするモンスターなんだよ?」

悪びれずも無く答えた。

「それより、吉良君…だったね?

あの時の君の邪魔さえ無ければ、それで世界が救われたかも知れないというのに、そのチャンスを不意にしたという自覚は有るのかい?」

「…知るかよ、バーカ!」

「もう、良いだろ?失礼するよ…。」

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

イトナを抱えて下山するシロが呟く。

 

 

…このイトナも まだまだ成長真っ盛り。

調整を焦る必要は無い。

奴の性格上…3月まで、学校(あそこ)から逃げ出す事も無い…

しかし あのクラス…

ふふふ…まさか、あの子が居たとはねぇ…

ふっふっふっふ…実に、実に面白いよ…

    

          

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「………………………………………。」

シロとイトナが去る様子を゙例の穴゙から見ながら、考え込む響。

 

「吉良君?」

そんな響に、渚達が声を掛ける。

「渚…」

「吉良っち?もしかして、あのシロが言ってた事を気にしてるの?」

「………。」

中村の問い掛けに、静かに頷く響。

 

「…実は、余計な真似をしたかも…ってのは、確かにある。

ぶっちゃけ、只の自己満足、俺自身の持つ「勝負」ってヤツに対する拘りだけで動いただけだし…

もしかして、最大のチャンスを潰してしまったかm(バシィッ!!)痛っ!?」

「吉良…お前って もしかして、1周回って馬鹿ってヤツか?」

そう言ったのは、丸めたグラビア雑誌を手でパンパン叩きながら、呆れた顔をしている岡島大河。

「岡島…?」

「あのな、クラスの皆…少なくとも俺は、余計な事してくれたなんて、これっぽっちも思ってないぜ?

寧ろ、「よくやった!」みたいな?」

「…本当に要らない真似って思っていたなら、あの場で全員が非難轟々な大ブーイングを浴びせていたよ。

吉良君、考え過ぎだよ…」

岡島の後に、原も言葉を続けた。

そしてクラスの殆どが、「気にするな」という顔で響を見ている。

「皆…サンキュ…」

軽く笑って応じる響。

(大丈夫だ…3月、いよいよって時は、俺が小宇宙全開させてケリ着けるからさ…)

 

 

「さ、皆、もう良いだろ?

机、元に戻そうぜ!」

締めたのは磯貝悠馬だった。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「にゅ~、はずかしい はずかしい…」

生徒達がリングにしていた机を元通りに並べている中、いち早く戻した教卓の席に着き、赤くした顔を両手で被っている殺せんせー。

 

「何してるの、殺せんせー?」

「さぁ…さっきから、アレだけど…?」

 

「にゅる~、シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。

先生、どっちかって言うと、ギャグキャラなのに…」

「「「「「「自覚あるんだ!?」」」」」」

 

「くっくっくっく…

カッコ良く怒ってたよね~?

゙何処で其れを手に入れたっ?゙

゙その触手を!?゙…ってね?」

「いやああああっ!

言わないで狭間さん!!

改めて自分で聞くと、逃げ出したい!!」

狭間綺羅々の再現に、更に赤くなり、テンパる殺せんせー。

すると、

「゙何処で其れを手に入れたっ?゙」

「「「「「「゙その触手を!?゙」」」」」」

「にゅやーっ!!止~め~て~っ!!!!」

プチ凹みモードから立ち直った響がリピートし、更にカルマや中村達が後に続いた。

「つかみ所の無い天然キャラで売ってたのに、あんな真面目な顔を見せたらキャラが崩れるぅ…」

「自分のキャラ、計算してたのかよ…」

「腹立つな…」

                  

「…でも、驚いたわ。」

此処でイリーナが口を出す。

「あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね…。

カラスマ、あんたも知らなかったの?」

「…。」

イリーナの問い掛けに、烏間は無言で首を縦に振った。

「ねぇ、殺せんせー、説明してよ?」

「あの2人との関係を…」

生徒達が担任に詰め寄る。                        

「先生の正体、いっつも適当に はぐらかされてたけどさ…あんなの見たら、流石に聞かずにはいられないぜ?」

「……………………」

「そうだよ、私達、生徒だよ?」

「先生の事、よく知る権利、ある筈だよ?」

その顔、その目は真剣そのもの。

 

「…仕方ありません。

真実を話さなくてはなりませんねぇ…」

その目を前に、意を決する殺せんせー。

「実は…実は先生は…」

 

ゴク…

息を飲み込み、注目する生徒達。

 

「実は先生は…人工的に造り出された生物だったんです!!」

「「「「「「…………」」」」」」

その事実に、一瞬、黙り込む生徒達。

そして、

「「「「…ですよねー?…で?」」」」

「にゅやっ!?反応薄っ!!

自分で何ですが、これって結構、衝撃的告白じゃないですか?

此処は皆して、「な、何だってーっ!!」って驚く場面じゃあないんですか!?」

教え子達の余りのリアクションの無さに、少しばかり不満気な殺せんせー。

 

「いや、自然界にマッハ20のタコとか、普通にいないし…」

「宇宙人でもないなら、それ位しか考えられないよね?」

「それで、あのイトナは弟って言ってるって事はだ…」

「先生の後に造られたって、簡単に想像出来るよね?」

 

(察しが良ろし過ぎる!!

何て恐ろしい子達!!)

生徒達の分析力に戦慄する殺せんせー。

「殺せんせー…」

渚が教卓の前に立った。

「知りたいのは その先だよ、殺せんせー。

どうして さっき、あんなに怒ったの?

イトナ君の触手を見て…

殺せんせーは どういう理由で生まれてきて、何を思ってE組(ここ)に来たの?」

「渚…」「渚君…」

誰もが疑問に思っていた事…

響だけは事前に教えて貰って知っていた事だが、初めて生徒の1人が皆の代表として、はっきりと言葉にして質問した。

                       

「………………。」

数秒の沈黙の後、口を開く殺せんせー。

「残念ですが、今それを話した所で、はっきり言って無意味です。

先生が地球を爆破すれば…皆さんが何を知ろうが、全て塵芥になりますからねぇ…」

「「「「「「「…!!」」」」」」」

絶句する生徒達。

                  

「逆に、もし君達が地球を救えば、君達は後で幾らでも、真実を知る機会が得る事が出来ます。」

「せんせー…」

「此処まで言えば、もう解るでしょう?

知りたいならば行動は只1つ!

…殺してみなさい。

暗殺者(アサシン)と暗殺対象(ターゲット)…。

それが、先生と君達を結ぶ絆の筈です。

先生の中の大事な答えを探すなら…君達は暗殺で それを見つけるしかないのです。」

                  

そう言うと、殺せんせーは踵を返して

「それでは今日は ここまで。また明日!」

扉の前で立ち止まると、

「はずかしい はずかしい…」

また思い出したかの様に、赤らめた顔を両手で被い、教室を出て行った。

                  

「「「「「「「……………」」」」」」」

                  

                  

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

校庭の角で、暗殺訓練の設備であろう、烏間の指揮の下、彼の部下である鵜飼と鶴田の2人が雲梯の様な器具を作っている。

監督を勤める烏間もそうだが、この様な大工仕事を黒スーツ着用の儘で作業するのは如何なる物か…

しかし、それを突っ込める人間は この場には居なかった。

 

「烏間先生!」

そんな烏間を呼ぶ声。

「…君達?どうした、そんな大人数で?」

クラス委員の磯貝と片岡を先頭に、クラス殆どの生徒が烏間の前に集まった。

 

「あの…もっと教えてくれませんか?

暗殺の技術を…」

「…今以上にか?」

 

「今までさ…放っとけば、きっと誰か殺ってくれると、何処か他人事だった…。

だけど…」

「ああ、今回のイトナを見て思ったんだ。

誰でもない…俺等の手で殺りたいって!」

「もしも今後、強力な殺し屋に先越されたら、俺等、何の為に頑張ってたのか、分からなくなるし…」

「だから…限られた時間、殺れる限り殺りたいんです。私達の担任を!」

「自分達で殺して…自分達の手で答えを見つけ出したい!!」

自分達の思いを、決意を述べる生徒達。

 

「……(意識が1つ、変わったか…皆、良い目をしている。)」

一瞬だが、僅かに烏間の顔が緩んだ。

鵜飼と鶴田も、その様を作業の手を止めて満足気に見ている。

 

「…分かった!

では希望者は今日より、放課後に追加訓練を行う。

より厳しくなるから、覚悟しとけよ!!」

「「「「「「「はいっ!!!!」」」」」」」

烏間の言葉に、良い返事で応える生徒達。

「では早速…」

烏間は山の巨木の枝に垂らしてあるロープを指差し、

「新設した垂直ロープ20㍍昇降…始めっ!!」

「「「「「「「厳しッ!!」」」」」」」

生徒達の指導を開始するのだった。

 

後に生徒達が、

「あの時の烏間先生は、凄く、凄ーく黒(やさし)い笑顔で指導してくれました。」

…と、当時の様を零したりするのは、また別の話だった。

 

 




次回:球技大会の時間(仮)
君の殺る気は、目覚めているか?

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