暗殺聖闘士   作:挫梛道

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本作品の原作は『暗殺教室』です。

旅行回の締めです。



旅行の時間④

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ニューヨークはマンハッタンのダウンタウン郊外。

多くのギャラリーが歓声を上げて見守る中、2人の男が対峙していた。

1人は癖毛のある短く黒い髪に赤いハチマキを締め、左右の袖は千切れ、埃まみれの薄汚れた空手着を着込んだガッシリした体躯の身長、約190㌢弱の男。

仮に【白胴着の男】としておく。   

対するは、身長2㍍越えだが、決して細身に非ず、筋肉の鎧で身体全身を被い、その上に黒の空手着を着込んでいる。

やや長めの赤い髪を旋毛の辺りで結い、鬼神の仮面を被った男、仮に【黒胴着の男】と呼ぶ事にする。

2人の胴着の左胸には同じ紋様…天に昇る竜をイメージさせる刺繍が施されている事から、同門派と思われる。

                  

『FIGHT!』          

誰が叫んだか、その声が場に響いた瞬間、2人は動き出す。

 

先に仕掛けたのは黒胴着の男。    

早い踏み込みで間合いを縮めて、豪快な連続の回し蹴りを繰り出すが、白胴着の男は難なく此を避ける。

常人なら、一発掠っただけで死ねるであろう、この攻撃が止んだ瞬間、白胴着の男は その隙を見逃す事無く、小刻みな下段蹴りの連打から、胸元目掛けて右拳の一撃を放つ。

                  

黒胴着の男は数歩後退し、体勢を立て直すと、再び距離を詰め、右の正拳を放つが、白胴着の男は両腕をクロスして これをガード、敵の伸びきった腕が戻る前に懐に飛び込み、脇腹に膝蹴りをヒットさせた。

白胴着の男が追撃を仕掛ける。    

拳、掌打、肘、膝、前蹴りの決して派手さは無いが、丁寧なコンビネーションで黒胴着の男を攻める。

黒胴着の男は必死にガードをするが、それでも全ての攻撃を捌く事は出来ず、ガードを崩された箇所から、身体全体に集中打を浴びてしまう。

どうやら この黒胴着の男、その攻撃の破壊力は兎も角、防御の方はザルな様だ。

                  

黒胴着の男が大振りの裏拳を放つが、白胴着の男は またも これを躱し、隙だらけの側頭部に強烈な上段蹴りを入れる。

これによって、黒胴着の男の意識が一瞬だが飛んでしまう。

その一瞬…白胴着の男は腰を僅かに沈め、両の手首を重ねて脇を閉めて「溜め」を作る。

そして そこから繰り出される双掌打から、雄叫びと共に、互いの胴着に刻まれた【天を昇る竜】が如く、自らの身体を旋回させながらのジャンピングアッパーを炸裂させた。

恐らくは流派の象徴であろう一撃をまともに喰らった黒胴着の男は、断末魔と共にダウンし、再び立ち上がる事は なかった。

 

ギャラリーの歓声の中、右腕を高々と上げて勝利をアピールする白胴着の男。

しかし其処に、「次の相手は自分だ」とばかりに、独特な形状の三角帽子と黄色いワンピースのミニスカートに黒タイツを身に着けた、赤茶色いセミロングの髪の後ろ部分をカールに巻いた小柄な少女が、白胴着の男の前に立ちはだかった。

                  

 

 

 

                  

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『1PLAYER WIN!!』

「あ゙ーっ!俺のア〇ーナがっ?!」

「凄ぇーっ!

神崎さん、これで5人抜きだぜ!!」

「いや、吉良も惜しかったよ!」

修学旅行2日目の夜、E組の約半分は旅館のゲームセンターに居た。

そして 其処では、少し前の世代の対戦型格闘ゲームで、神崎有希子がE組男子相手に無双していた。

因みに響の前の、黒胴着の男を操作していたのは杉野である。

殆ど互角だった神崎と響の攻防を見た杉野が後日、響にゲームの弟子入りを申し込んだりするのは、また別の話。

「いや…照れると言うか、なんだか恥ずかしいと言うか…」

「いや、そう お淑やかに言いながら、手つきはプロだったし!」

「ちっくそーっ!神崎さん!

もっかい勝負だ!」

そう言いながら、響は、スルリと浴衣の帯を解くと、浴衣と共に放り投げながら、ゲーム機に100円玉を投入する。

当然、下は下着丸出しでなく、ハーフパンツを着用している。

 

「「「「「「きゃーっ!!!?」」」」」」

響の鍛え絞られた胸板や腹筋を見て、その場にいる女子が、悲鳴と歓声を上げる。

 

「吉良!ちょっと待て!

お前、何 脱いでるんだよ?」

「え?負けたら脱ぐんじゃないのか?」

「「「「「「違う!」」」」」」

千葉の質問に真顔で答え、集団で突っ込まれる響。

「じゃあ、こうする事で、何となく強くなる気g「アンタは何処の『脱いだら強い露出狂な聖〇士』よ!?」

響は あくまでも〇星座でなく蟹座である。

「不破ちゃん?目をキラキラさせて、ガン見しながら言っても、説得力ないぜ?」

「ゔ…」

 

因みに…

目を輝かせてガン見…不破 櫻瀬

動揺しながらガン見…茅野 奥田 片岡

顔を両手で覆ってるが、指の隙間は開けてチラ見している…神崎

マジに恥ずかしがっている…岡野

無反応…速水

 

…である。

ドタドタ…

「あ!吉良、いた!」

「吉良、助けてくれ!

…って、何 脱いでんだよ!お前?!」

そう言いながら、ゲームセンターに駆け込んで来たのは木村正義と岡島大河。

 

「神崎さんに引ん剥かれた。」

「「え゙ぇっ?!まぢ?神崎さんが!??」」

「いや、違うから!

コイツが勝手に脱いだだけだからね!」

響の発言に顔を赤くし、はわわ状態で何も言えない神崎の代わりに、茅野カエデが弁解する。

 

「いや、そんなの どーでも良い!

吉良、さっさと浴衣(それ)着て、俺達と一緒に来てくれ!」

「頼む!もう、お前しか頼れる奴がいないんだよ!」

 

 

 

 

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「おいおい、一体、何があったんだよ?」

 

響が木村と岡島に連れられて、やってきたのは旅館の卓球コーナー。

其処に待っていたのは

「次は吉良君が相手か…

言っておくが、俺は強いぞ?」

凄く怖(よ)い笑顔な烏間だった。

「…失礼しまs「「ちょっと待て!」」

 

 

 

 

 

 

「…つまり、烏間先生を卓球に誘ったは良いが、無敵過ぎた…と?」

「「「「いぐざくとりー…」」」」

「烏間先生、凄く強いんだよ~♪」

倉橋が自分の事の様に自慢する。

「頼む吉良、勝ってくれとは言わん!」

「せめて、せめて1ポイントで良いから穫ってくれ!!」

「ハードル低いな?おい!?」

 

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…その頃、レッドアイは京都市街のアーケードを とぼとぼと歩いていた。

 

(はぁ…)

深い溜め息を吐くレッドアイ。

8年間の暗殺家業で、例え暗殺対象(ターゲット)が常識外な人外だったとは云え、今日ほどプロとしてのプライドがズタズタになった日は無かった。

スコープに暗殺対象(ターゲット)の赤い血が映らなかった事は無い。

それが【RED-EYE】の名の由来だった筈が…

「…嗤わせるぜ。今日、俺の目の何処に、赤(RED)が映ってんだ?」

左手の親指と人差し指で○(まる)を作りスコープに見立て、覗き込みながら、自虐自嘲するレッドアイ。

「!?」

その時、そのスコープの中に赤が映った。

「どうぞ。三寧坂で買った七味です。」

そう言いながら、「とうがらし」と書かれた掌大の赤い瓢箪を渡す殺せんせー。

 

「あぁ、アンタか…

Thanks(ありがとよ)…」

レッドアイは疲れた表情で瓢箪を受け取り

「あ、暗殺対象(あんた)ぁ!!?」

前振りも無く、不意に目の前に現れた暗殺対象(ターゲット)に、レッドアイは今日、4度目の驚きの顔を見せた。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「ふっ…何もかも、お見通しで遊ばれてた訳かい…」

2人は湯豆腐専門店の個室で、鍋を突いていた。

 

ふー、ふー…

杓文字に取った豆腐に息を吹きかけ、冷ましている殺せんせー。

レッドアイは そんな殺せんせーに呟く。

「此処まで常識外れな怪物だ…

国が厳重に口止めする訳だ。」

ふー、ふー、ふー…

杓文字に取った豆腐に息を吹きかけ、冷ましている殺せんせー。

「…で、俺を殺す心算かい?

OK…殺れよ…。こんな商売だ。

常に覚悟は出来てるぜ。」

ふー、ふー、ふー、ふー…

杓文字に取った豆腐に息を吹きかけ、冷ましている殺せんせー。

「……………」

ふー、ふぅ…

「早よ食え!!」

余りの猫舌っぷりに、溜まらず突っ込みを入れるレッドアイ。 

そんなレッドアイに、豆腐をはふはふ言って食べながら、殺せんせーは言う。

「殺す?とんでもない…。

お陰で楽しい修学旅行旅行になりました。

純粋に お礼が言いたかっただけですよ。」

「…?」

 

自分を狙撃(ヒット)出来るポイントを探す為、生徒達は普通より沢山、京都について調べただろう…。

地理、地形、見所に歴史、成り立ち…

つまり それは、京都という街の魅力を知る機会が より多かったという事…

人を知り、地を知り、空気を知る…

暗殺を通して得た物は、必ず生徒を豊かに彩ってくれる筈…

 

「だから、私は…暗殺されるのが楽しみなのですよ、レッドアイさん。」

そう言うと、殺せんせーは 豆腐に出汁、薬味を装いだ お椀をレッドアイに渡す。

 

「……………………。」

お椀を受け取り、レッドアイは言う。

「あんた、体も考えもイカレてるぜ…」

 

 

 

(…なのに、なんでかな?

その辺の教師なんかより、立派に先生してやがるよ…)

 

 

 

ふー、ふー…

杓文字に取った豆腐に息を吹きかけ、冷ましている殺せんせー。

「だから、早く食えよ、このタコ!(笑)」      

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場所は再び旅館のロビー。

神崎達女子陣がアイスクリームを食べながらトークをしている。

女性に『夜、アイスなんか食べてると、ふとr(…規制が掛かりました)』等と言う台詞が言えるのは、死ねる覚悟がある者だけだ。

 

 

 

「へ~?吉良っちが、そんな事をねぇ?」

「ん…ウチは父親が厳しくてね、良い学歴に良い職業…良い肩書きばかり求めてくるの…」

「あー、いるいる、そんなのに固執する奴…って、あ、ゴメン…」

「いや、良いよ…それでね、そんな肩書きだけの生活から逃げたくて、名門の制服も脱ぎたくて…」

「それで、余所のゲーセンかぁ…」

「はは…バカだよね…遊んだ結果の肩書きが【ENDのE組】。

もう、自分の場所が分からなくなってた…

でも、あの時の吉良君の台詞で…」

「え?フラグ?

もしかして これはフラグ?」

「ち、違うよ、そんなのじゃなくて!

…周りの目を気にし過ぎてたのかもね?

服装も趣味も肩書きも、逃げたり流されたりで身に着けてたから、自信無かった…。

あの時の吉良君の言葉で思ったの。

大切なのは、腐らずに前を見て進む事だってね。」

「神崎さん…

…って、おや?噂をすれば、何とやら?」

「「「「「 ?!!」」」」」

 

 

 

「吉良も意外と使えねーな…」

「3ポイントも穫ったじゃねーか!」

「ん?女子が揃って、こっち見てるぜ?」

やって来たのは響、岡島、菅谷。

 

「や、皆、どうしたの?」

「「「いや…何でもないから…(笑)」」」

「?…どーでも良いけど、夜にアイス食べてると、ふとr(ガン!)ふぷし!」

「岡島ぁ!?、そーゆーのは、口に出さず、心の中だけに閉まっておk(ゴン!)のわっ?!」

「き、吉良ぁ!?」

岡島と響の顔面に、ワルサーとパイソンが直撃した。

BB弾でなく、エアガン本体である。

 

 

ジャキジャキジャキジャキ…

鬼女達の構える、多数の銃口が響達に向けられる。

反射的にホールドアップする3人。

「お、俺もかよ?

俺、何も言ってn…何でもないです…。」

そう言ってるのは菅谷。

 

「い~い?吉良君?女の子にはね、口に出すのは勿論、心に思っただけで、万死に値する事もあるのよ…?」

優しく、優しーく微笑みながら言うのは、神崎有希子…否、有鬼子。

「「「ら、らじゃ…」」」

響達は男3人、抱き合いながら体をぶるぶると震わせ、涙目で首をカクカクと縦に振ったのだった。

 

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「全く…岡島が余計な事を言うから…」

「「火にガソリン注いだのは お前だ!!」」

 

漸く『有鬼子』達から解放された響、岡島、菅谷の3人は、男子が寝泊まりする大部屋に向かう途中、浴場男湯の入り口前で屯してる女生徒を見つける。

狭間綺羅々、矢田桃花、片岡メグの3人。

 

「こんなトコで何してんだよ?」

「くくく…覗きに決まってるでしょ?」

菅谷の質問に答えたのは狭間。

「覗きぃ?それって、男子(おれら)の仕事(ジョブ)だろ?」

そういう風に思っているのは、岡島だけである。

「全く3人共…見たいなら、一言、言ってくれたら、俺が見せt「「脱ぐな!!」」

そう言いながら、浴衣の帯を解こうとするのは響、それを阻止したのは片岡と矢田である。

「しかし、狭間は兎も角、矢田や片岡に覗き趣味があるとは…」

「岡島、どうゆう意味だい?呪うよ?

あれを見ても…それが言えるかい?」

「「「!!?」」」

狭間が男湯の暖簾を捲り、指差した先には

見覚えがある式服が壁に掛けられていた。

その下のベンチには、やはり見覚えがあるネクタイと学士帽。

 

「ぅわ~ぉ…」

思わず唸る響。

「あの服が掛けてあって、服の主は風呂場にいる。もう、解るでしょ?」

「今なら見れるわ…

殺せんせーの服の中身!!」

そろ~…

「首から下は触手だけか、それとも胴体があるのか…

暗殺的にも知っておいて損は無いわよ?」

カモ~ン…と手招きしながら、静かに先頭を歩く片岡が言う。

 

「この世に こんな浪漫の無い覗きがあったとわ…」

カラカラ…

そんな岡島のボヤキをスルーして、好奇心全開で浴場の扉を少し開けて覗き込む女子3人と その姿に呆れつつ、付き合う男子3人。

ガラっ!

「「「「「「女子か!!」」」」」」

しかし、その姿を見た瞬間、派手に扉を開けて、一斉に突っ込を入れる一同。

其処には小浴槽を泡風呂にして、その中でブラッシングしてる殺せんせー(シャンプーハット装備)がいた。

「おや?皆さんも お風呂ですか?

片岡さん矢田さん狭間さん?

ここは男湯ですよ?」

「「「違う!!!!」」」

真剣に否定する女子3人。

「なんで泡風呂なんだよ?」

「入浴剤禁止だろ?」

岡島と菅谷が聞く。

「これ、先生の粘液です。

泡立ち良い上、ナノ単位で汚れも浮かせて落とすんです。」

「とことん便利な体だな?おいっ?!」

殺せんせーの解説に響が突っ込む。

 

「くくく…でも甘いわ。

出口は私達が塞いでる。」

そう言いながら、ナイフを構える狭間。

「浴槽から出る時、必ず私達の前を通るよね?」

「殺す事は出来なくても、どんな身体してるかくらいは確認させて貰うわよ、殺せんせー?」

ナイフを手にした矢田と片岡が続く。

しかし…

「ヌルフフフ…そうはいきませんよ?」

ぬぽん…

「「「「「「煮凝りか!!?」」」」」」

浴槽内の お湯を煮凝りの如く完全に固め、それを纏った殺せんせー。

お湯は粘液の泡で濁っており、中を確認する事は出来ない。

そして殺せんせーは その儘、窓から逃げて行くのだった。

 

「片岡さん…」

「何?吉良君?」

「虚しい…」

「ん…そうだね…」               

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「やっぱし1位は神崎さんかぁ…」

「まぁ、嫌いな奴って いないっしょ?」

男子の泊まる大部屋では、【気になる女子ランキング】のアンケートが絶賛実施中だった。

因みに現時点で

神崎…4 矢田…2 速水…1 茅野…1

奥田…1 片岡…1 倉橋…1

…と、なっている。

 

「…で?どーよ?杉野?」

「上手く班に引き入れた成果は?」

「それがさぁ…」

前原と三村の尋問に杉野は

「色々とトラブってさぁ…

じっくり話すタイミングが無かったよ。」

「あー、何か大変だったらしいな?」

断じて、Tο L〇∀Eるではない。

                   

ガラ…             

「あ、吉良…」

部屋に入ってきたのは響達。

「ん?何だそれ?」

「気になる女子ランキング…?」

「おぅ、皆 言ってんだ。

お前達も白状しろよ。」

「俺も?俺、彼女いるんだけど?」

「「「「「るっせー、リア充!そーだよ!

クラス内限定での話だよ!」」」」」

集団で突っ込まれる響。

「そうだな…?」

「う~む…」

「俺は…」

考え込む響達。

「やっぱし神崎さんか?」

此処で磯貝が振ってみるが

「「「う…神崎さんは…ちょっと…」」」

つい先程のトラウマ(笑)を思い出す3人。

「ん?何かあったのか?」

「いや、別に…」

顔を下に向け、目を逸らす3人。

「気になるな~?」

ぽん…

響が そんな杉野の両肩に手を置き、

「杉野…世の中、知らない方が幸せな事もあるんだぜ?」

この響の言葉に、んん…と、同調する様に首を縦に振る岡島と菅谷。

「何なんだよ?余計に気になるぞ!?」

 

 

「それなら俺は…櫻瀬さんかな?

席 隣だし、話してて楽しいし。」

「はいよ、吉良、櫻瀬…と。」

前原がランク表の紙に書き込む。

「俺は…矢田かな?」

「岡島、お前、胸だけで決めただろ?」

「別に良いだろ!!

そりゃ、お前は良ーよ?余裕だろーよ?

お前のパツキン彼女、海外の血を引いてるだけあって、ダイナマイツなんだろうからな!」

響の指摘に対し、血の涙を流しての訴えで返す岡島。

 

「いや、そうでもないと思うぜ…?」

そう言いながら響は、何かを思い出す様に自分の掌を見つめ、

「多分、普通…だと思う…。」

「「「「「「「テメー!何だ、その掌わ!!

何を思い出していた!??」」」」」」」

「わっ?!ちょっと待て?」

前原を中心に集団で問い詰められる響。

「連休の時の様子からに、まだ致してないと思ってたぞ!!」

「ちょ…前原、落っ着け!

1度だけ、ラッキースケベなイベントがあっただけだ!!信じろ!」

「問答無用!充分、万死に値する!!」

「「「「「リア充、爆裂しろ!!」」」」」

そう言うと前原は、クラスメートの声援を背に、響の両脚をクロスして持つと、その儘 身体をうつ伏せに反転させ、思いっきり締め上げるのだった。

 

バンバンバン!!

「ギブギブ!前原、サソリはマジにシャレにならねー!!」

畳を叩きながら、ギブアップと訴える響。

                  

「残念!これはテキサス・クローバーだ!!」

「どっちでも良ーぃっ!!

…って、窓、窓ぉ!?」

「「「「「「え?」」」」」」

響の言葉に、男子達が窓を見ると、若気ついた顔をして、ガラスの外側に張り付いている、黄色いタコがいた。

 

「「「「「「………………。」」」」」」

 

数秒間の時間停止状態の後、黄色いタコ…殺せんせーは懐から手帳を取り出すと、畳の上に置いてあった【気になる女子ランキング】の紙の内容をメモって逃げて行ったのだった。

 

「あ・の・タ・コ…!」

「殺せ!」

メモを没収せんと、逃げた殺せんせーを追い掛ける男子達。

特に矢田に票を入れた4人は必死だ。

何せ、あの紙には、誰が誰の名を挙げたかだけでなく、その理由…ポイントも しっかりと記されていたからだ。

「「「「ヤベ…絶対に殺される…」」」」

因みに矢田の指名の理由は揃って【胸】の1文字のみである。

 

 

旅館の廊下で鬼ごっこが始まる。

「待てや、このタコ!」

「生徒のプライバシーを侵しやがって!!」

「ヌルフフフ…先生の超スピードは、こういう情報を知る為にあるんですよ~!!」

 

 

 

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「ちぃ、逃げられたか!?」

結局、標的(ターゲット)のタコを見失ってしまう生徒達。

「マジに不味いな…」

「吉良…?」

「そりゃあ、矢田さんを挙げた奴等が〆られるのは自業自得だけどよ。」

「「「「をいっ?!」」」」

「問題は…アレに名前を挙げられなかった女子の方が、逆に怖いと思うぜ?」

「「「「「「……………!!!!」」」」」

「なあ、特に前原?お前、なんで岡野さんの名前、出さなかったんだ?」

「ゔ…!!」

「…と、兎に角、殺せんせーを探そう!!」

「「「「「「「「「応!!!」」」」」」」」

 

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一方の女子生徒の部屋では…

 

「え゙ぇーーーーーーっ?!

ビッチ先生、まだ20歳(はたち)ぃ!?」

 

西賀茂チーズ、豆餅、京ばあむ、八つ橋…

『それは お土産として買ったのではなかったのか?』…と、言いたくなる様な御菓子の山を摘まみながら、イリーナも混じっての女子トークが展開されていた。

 

「経験豊富だから、もう少し上かと思ってた。」

「「「んん。」」」

「毒蛾なキャラの癖に…」

「それはね…濃い人生が作る色気…って、誰だ!今 毒蛾つったの!?」

 

突っ込みながらもイリーナは語る。

 

女の賞味期限は短い…。

自分と違い、折角 危険とは縁遠い国に生まれたのだから、感謝して全力で女を磨け…と。

 

これに対して、冷めた顔で

「ビッチ先生の癖に 凄いまともな事を言ってる…」

「なんか生意気~!」

という発言に

「舐め腐りおって餓鬼共!!!!!」

…と、血管剥き出して目玉を飛び出して突っ込むイリーナは決して悪くないと思う。

 

「じゃあさ じゃあさ…」

やや膨れっ面なイリーナに話し掛けるのは【胸】…もとい、矢田。

「ビッチ先生が今までに堕としてきた男の話、聞かせてよ?」

「あ、興味ある~♪」

矢田の発言に倉橋も便乗する。

 

「…ったく、しょうがないわね~?

フフフ…良いわよ?

た・だ・し…ネンネには刺激が強過ぎるだろうから覚悟しなさい?」

このテの話をするのが大好きなのか、機嫌を直したイリーナは軽く笑みを浮かべながら話始める。

 

「そうね…あれは18の時、ダラスで…」

ごくり…

生唾を飲み込み、イリーナに注目し、話を聞き入る女子達。

…と、ピンク色のタコ。

「…って、おい、其処ぉっ!!!?」

何時の間にか、女子部屋に紛れ込んでいた殺せんせーに、堪らずイリーナが突っ込みを入れる。

 

 

「え?こ、殺せんせー?」

「い、何時から居たのよ?」

「ヌルフフフ…最初から居ました。」

「黒〇かっ?!」

見事なミ〇ディレク〇ョン…

イリーナが突っ込むまで、誰1人、殺せんせーの侵入には気付かなかった。

 

「さり気に紛れるな、女の園に!」

「ヌル…いいじゃあないですか?

私も その色恋の話、聞きたいですよ。」

イリーナの文句も軽く流す殺せんせー。

 

「そーゆー殺せんせーは どーなのよ?

自分のプライベートは ちっとも見せないじゃない?」

「そーだよ、人のばっかズルい!」

中村と岡野の言葉に、思わず後退りする殺せんせー。

その反応を見た女子達が追撃。

「殺せんせーは恋バナとか無い訳?」

「え?」

「そーよ!巨乳好きだし、片思いくらい絶対あるでしょ?」

「え?え゙?」

予期せぬ展開に焦る殺せんせー。

そして数秒の沈黙の後…

シャッ…!

「あっ、逃げやがった!!

皆良い?捕らえて吐かせて殺るわよ!!」

「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」

女子達は対せんせーナイフを握り締め、立ち上がった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「いたぞ!こっちだ!!」

「にゅ?」

旅館の廊下、男子達が殺せんせーに向かっては走る。

「あ、殺せんせー、見つけたー!」

「にゅや?

し、しまった!男女の挟み撃ちに!!」

そして反対側の廊下からは、女子達が攻め込んで来た。

どたばたどたばた…

廊下は支茶化滅茶化な戦場と化した。

その際、殺せんせーの懐から落ちた手帳を岡野が拾い、後で多少の修羅場が展開するのだが(特に前原と岡島と菅谷と木村)、それは別の話。

 

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『明日の予定も、正式に辞退するか…』

『ああ、済まないなカラスマサン、この街を好きに観たくなったよ。』

『…お前でも無理か?』

『俺は まだ、未熟者だった様だ。

赤という1つの色に拘らず、色んな色を見て回る事にしたよ。Adieus(またな)!』

プッ…ツーツーツー…

 

レッドアイから今回の修学旅行を利用した暗殺の依頼を正式に辞退された烏間。

 

(殆どの狙撃手(スナイパー)が仕事の難度を見て断り、唯一 仕事を引き受けてくれたレッドアイも、今 辞退か…

京都での狙撃計画は、限界だな…

これ以上、生徒に修学旅行の負担は掛けられんな…

実質明日1日、残り時間は少ないが、後は自由時間とするか…)

「…って、ん?何か廊下が騒がしいな?」

 

 

 

 

 

 

 

           

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「お前等、何をしてるかーっ!!」

 

殺せんせー、イリーナ以下、その場にいた者達は廊下に全員正座。

烏間の特大の雷が落ち、その場で大説教会が始まった。

 

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「いやいや、生徒達にも困った物です。」

「元凶が言うな、元凶が。」

烏間の説教の後、教師用に宛てがわれた部屋で話す2人。

「いやいや、生徒達に恋バナを吐かされそうになりましてね…」

「恋バナ…?」

「そりゃあ烏間先生、私だって、過去の恋バナ等、ゴロゴロありますよ?

この触手(てあし)では数え切れないくらいにねぇ?」

京バームを頬張りながら話す殺せんせー。

 

「その話は…お前の手足が2本ずつだった頃の話か?」

「……………………。」

烏間の言葉に、八つ橋を口に運んでいた殺せんせーの手が止まる。

「…いや、止めておく。

どうせ話す気は無いだろうしな…。」

「…賢明ですよ、烏間先生。

いくら旅先でも、触手(てあし)の数まで聞くのは野暮って奴です。」

 

 

 

ガラ…

「カラスマー、タコー!

もう説教も終わったし、頭 切り替えて、一緒に飲もうぜー!」

部屋の扉が開き、イリーナが入ってくる。

 

「…ヌルフフフ…だ、そうですが?」

「ふぅ…仕方が無い、1杯だけなら付き合ってやる…。」

烏間は呆れ顔で呟いた。

 

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「岡島~、前原~、生きてるか~?」

あの大説教の後、更に一部の男子生徒は女子の制裁を受けていた。

「…あ?大きな星がついたり消えたりしている…あっはは!大きい!彗星かなぁ?

いや、違う、違うな…

彗星はもっと…バァーッて動くもんな…

暑っ苦しいなぁ…此処…

出られないのかな?

おーい、出して下さいよ。ねえ!」

「ま、前原ぁ~っ?!」

前原は重傷な様だ。

 

 

そんな中、

「「吉良っち~♪」」

カルマと中村に手招きされる響。

「?」

響が2人に連れて行かれた先は、旅館の中庭。

建物の影に潜む3人。

「一体どうしt「「しっ!!」!?」

響が喋っている途中で、その台詞を遮ったカルマは小声で

「吉良っち、あれあれ♪」

…と、中庭の真ん中を指差した。

そこに居たのは渚と茅野。

全てを察した響。

角、羽根、尻尾を出し、最高に悪(よ)い笑顔でサムズアップする。

それに対し、同様なアクションで応じるカルマと中村。

 

それにしても、如何に比喩的表現と云え、嘗ては地上の愛と正義の為に闘っていた、女神(アテナ)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)が、悪魔の姿を象るのは どうなのだろうか…?

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「…なんだかんだで、結局は暗殺になっちゃったね。」

「…うん。」

出歯亀3人に気付かず、語り合う2人。

 

 

「明日、最終日かぁ…色々あったけどさ、結構 楽しかったね、修学旅行。

皆の色んな…意外な面が見れて。」

「そうだね。」

「特に吉良君に露出癖があったのは、ビックリだよ(笑)。」

「うん、あれは僕も驚いた(笑)。」

 

 

「あ・の・ヤ・ロ…!!」

「「吉良っち、抑えて!」」

飛び出そうとする響を、必死に押さえ付けるカルマと中村。

 

「……………。」

「…?どしたの?」

「…うん、ちょっと思ったんだ、修学旅行ってさ、残り明日だけって、終わりが近付いた感がするじゃん?」

「…ん。」

「暗殺(この)生活は始まったばかりだし、地球が来年、終わるか生き延びるかは判らないけどさ…」

「渚…?」             

「このE組(クラス)は絶対に終わるんだよね?

来年の3月で。」

「…そうだね。」

「皆の事、もっと知ったり、せんせーを殺したり、やり残す事が無いように暮らしたいな…」

「…とりあえず、もう1回位、行きたいね、修学旅行。」

「…うん、今度はトラブル無しでね…。」

 

                  

                  

 

「「「……………………………。」」」

2人の展開を見守っていた3人だが、

「こりゃ、オチは無いかな~?」

「…ですよねー?」

「基本、弩草食に期待するのが間違っていた様な…」

これ以上の進展は無しと踏んだ3人は

「渚く~ん!」「「茅野ちゃ~ん!」」

「「!!?」」

何の遠慮も躊躇も無く、2人の前に姿を現した。

 

「「な、な、な…何してんの~っ?!」」

顔を真っ赤にしてハモる2人。

それを見てケタケタ笑う、悪魔な3人。

 

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翌日の夕方、椚ヶ丘中学3年生一行は、椚ヶ丘市に帰って来た。

その時、Ε組教室には既に、防衛省からの新たな殺せんせー暗殺の刺客が送り込まれていたのだった…。

 

 


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