暗殺聖闘士   作:挫梛道

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【3-E 座席表】
 
 寺坂    赤羽    吉良 櫻瀬
 
 村松 狭間 千葉 奥田 菅谷 原
 
 吉田 神崎 岡島 速水 杉野 不破
 
 竹林 矢田 三村 中村 潮田 茅野
 
 木村 倉橋 磯貝 岡野 前原 片岡
 
        タコ 
 
※単行本とは逆に、黒板を背にした視点で表記しています。
原作の席順とは、若干異なります。


加筆修正しました。


金髪の時間③

連休が明けた。

 

教室内、生徒達の注目を余所に、イリーナはタブレット端末を弄りながら殺せんせー暗殺のプランを練っている。

 

(ふふふ…連休は少し肩透かしだったけど、ボーヤ達にも情報を得たし、改めて今日、あのタコを殺ってやるわ。)

そう思いながら渚と目を合わせ、片目を瞑って己の唇を舐める。

その顔と仕草を見て、何かを思い出したのか、鳥肌を立てる渚。

…そして、矢田と響。

 

既に授業開始のチャイムは鳴っているのだが、何時までも生徒そっちのけで端末を弄るイリーナに前原が

「なー、ビッチ姉さん、いい加減、授業してくれよー?」

ずるっ!

椅子から滑り落ちるイリーナ。

この台詞が着火となり、

「そーだよ、ビッチ姉さん。」

「一応、此処じゃ先生なんだろ?ビッチ姉さん?」

「ビッチ姉さん」「ビッチ姉さん」

「ビッチ姉さん」「ビッチ姉さん」

「ビッチ姉さん」「ビッチ姉さん」

「ビッチ姉さん」「おっぱい姉さん」

「ビッチ姉さん」「ビッチ姉さん」

「「ビッチおばさん」」「ビッチ姉さん」

「ビッチ姉さん」「ビッチ姉さん」

クラスの皆が「ビッチ姉さん」を連呼し始める。

 

「あ゙ーっ!!ビッチビッチ五月蠅いわね!

それにドサマギで、別の呼び方も止めろ!

あと、後ろの席の2人!

あたしは まだ、20だ!!」

兎に角、この時間は全く、授業にはならなかった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

五時限目。

校庭で生徒達が射撃訓練をしている中、用具倉庫に入ろうとする2つの人影。

ピンク色の顔をして更に頬を赤らめ、普段以上に若気た顔をした、殺せんせーとイリーナだ。

 

「マジかよ…?」

「あんな見え見えな手に引っ掛かるか?」

 

 

 

 

 

 

 

用具倉庫は連休が始まる前、イリーナが呼び寄せた3人の男達によって、殺せんせーを確実に殺る狩り場に改造されていた。

加工された跳び箱や床マットの裏側には、「実弾」が装填された機関銃を手にした男達が配置に着いている。

 

そんな獣の巣に獲物(ターゲット)を誘い込んだイリーナは白の上着を脱ぎ、顔を赤らめ潤んだ瞳と、黒のアンダーの下に強調された胸元を武器に、

「殺せんせー、私…

いつも特別な人を好きになるの…」

如何にも殺せんせーに好意が有るかの様な台詞を投げかける。

「にゅや!?」

完全に顔が赤くなる殺せんせー。

普通の噺なら、このまま聖職者同士が校内の倉庫で情事に及ぶ流れだ。

普通の噺なら。

動揺しまくりな殺せんせーに対して

「残りも全部脱ぐから1分待ってて…」

…と一瞬冷たく微笑んだイリーナは、壁際に置いてある、脚付き黒板の裏に隠れた。

…その次の瞬間

ドッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…

 3つの銃口から跳び出す散弾が殺せんせーを背後から襲った。

 

倉庫内を飛び交う実弾。

イリーナは事前に防弾仕様の鉄板を裏面に貼り付けていた黒板の陰で微笑む。

(本物の銃に実弾!!

それを1分間に3人掛かりで、部屋中に死角無く行き渡る様に計算して撒き散らす…

対せんせー弾?…こんな訳解んない弾の出番なんてない…

だって…今のコレで、死なない生き物なんて、いる筈がないもの…!)

 

7、6、5…

イリーナは そう思いながら、機関銃から放たれる散弾の雨が止むカウントダウンを開始する。

…が、この時 既に、3人の狩人は、殺せんせーに捉えられ、泡を吹いて気絶。

「放っておいても良いのですが…

此処は生徒も使う、大切な倉庫ですし…」

 

ドッドドドドドドドドドドドドドドッ…

殺せんせーは奪った3丁の機関銃を己の腹に向けて撃っていた。

 

 

3、2、1…ゼロ!

「…!!?」

頭の中でのカウントダウンが終了と共に銃声が止み、潜んでいた物陰から姿を現したイリーナ。

しかし、倒れている3人の狙撃手、地に転がっている機関銃、そして、ダメージの全く無いタコ…

その目にした光景を見て、驚愕する。

「残念ですがイリーナ先生、私に鉛の弾は効かないのです。」

そう言いながら、自身の体内に触手を突っ込み、

「体内で全て溶けてしまうのでねぇ…」

ドロドロに溶けた、鉛の塊を取り出す殺せんせー。

 

「そして私の顔を、よく見て下さい。」

「…!?」

いつの間にか、殺せんせーの目が、4つになっている。

「いえ、どれか2つは鼻の穴です。」

「紛らわしい!!」

思わず突っ込むイリーナ。

殺せんせーは続けて言う。

「昨日までは倉庫に無かった金属の臭いに成人男性の加齢臭…その違和感に、思わず鼻が開いてしまうのです。」

(はっ…!そー言えば、ボーヤが言ってた…

『鼻無いのに鼻良いから』…と!)

「暗殺者なぞ、罠に掛かったフリでもすれば、簡単に炙り出せます。」

後退りするイリーナに歩み寄りながら、更に話を続ける殺せんせー。

 

「要するに貴女は…プロとしての暗殺の常識に捕らわれ過ぎた。

私の生徒達の方が…よほど柔軟で、よほど手強い暗殺をしてきますよ?」

トン…

「そして知っていますか?」

壁際まで追い詰め、逃げ場を封じたイリーナに宣告する。

 

「私の暗殺者への報復は…

手・入・れ…だと言う事を!!!!」

既に暗殺者としての顔を失い、素で青ざめ怯えた表情をした金髪の美女に、

「い、い…いやぁああああああああ!!」

その表面から、ヌルヌルとした粘液を大量に分泌した触手が迫ってくるのだった。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

ヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌル…

「一体、何!?」

「何なの?このヌルヌル音?」

「ん?あの用具倉庫、地味に揺れてね?」

 

外の生徒は驚いていた。

約1分、激しい銃声が木霊したと思えば、絹を引き裂いた様な女性の悲鳴、更にはヌルヌル音と共に揺れる用具倉庫。

 

 

ヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌル

「いやあああ!」

 

ヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌル

「いや…あ…ぁ」

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

ダダダッ

「滅っ茶、執拗にヌルヌルされてっぞ?」

「行ってみよう!!」

倉庫に走るE組の生徒達。

 

 

 

キィ…

「!」

生徒達が倉庫前に着いたと同時に その扉が開き、中から殺せんせーが出てきた。

 

「殺せんせー?!」

「あのビッチ姉さんは?」

「何があったの?」

「おっぱいは?」

質問漬けの生徒達に、若気た顔のピンクのタコは、

「いやいや…本当は もう少しだけ、楽しみたかったのですが…」

ここで、何時もの黄色いカラーに戻り、

「皆さんとの授業の方が楽しみですから。

次の6時限目、今日の小テストは…手強いですよぉ?」

「あははは…まあ、頑張るよ。」

 

 

 

フラ…

そして倉庫の中から、イリーナがフラフラした足取りで出てきた。

その服装は所謂、黒の提灯ブルマが絶妙な味わいを醸し出した、昭和の健康的な体操着だ。

胸元には しっかりと「いりいな」と書かれた布地が縫い付けられている。

 

「ま、まさか…僅か1分で あんな事されるなん…て…」

目は虚ろで涎を垂らし、顔を赤らめた艶ってぽい表情の金髪の美女は言い続けた。

「肩と腰の凝りを解されて、オイルと小顔とリンパと足裏のマッサージされて、早着替えさせられて…

……その上、まさか…触手とヌルヌルで、

こんな事や そんな事や あんな事を…」

 

ぱた…

此処まで言うとイリーナは、力尽きて地面に うつ伏せになって倒れ込むのだった。

((((((どんな事だ!!!??))))))

 

「殺せんせー…一体、何したの?」

やや白目がちな渚の質問に

「 (・_・)さぁ…ねぇ…?

大人には大人の手入れがありますから…」

「「「「「悪い大人の顔だ!!」」」」」

答えると同時に、その顔を見た生徒達は、心を1つにして突っ込むのだった。

 

キーンコーンカーンコーン…

此処で、5時限目終了のチャイムが鳴る。

「さあ、教室に戻りますよ。」

「「「「「「「はーい」」」」」」」

 

その様を見たイリーナは思った。

(…絶対に赦せない!こんな無様な失態、初めてだわ…

この屈辱はプロの名に誓って必ず返す!

次のプランで絶対に殺ってやるわ!!)

その顔は、普段の暗殺者の それに、完全に戻っていた。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

翌日。

教室には、昨日と変わらず、授業中だというのに、生徒を無視して暗殺プランの練り込みの為、タブレット端末を操作しているイリーナがいた。

 

「あはぁ♪必死だね、あのビッチ姉さん。

まぁ、あ・ん・な事(笑)されちゃ、そっりゃあプライドもズッタズタだろうしね~?♪」

カルマが嗤いながら呟く。

                 

「先生…」

一向に授業を開始しないイリーナに、クラス委員の磯貝が話し掛ける。

「授業してくれないなら、殺せんせーと交代して貰えませんか?

一応 俺等、今年 受験なんで…」

 

ゴト…

「はん!あんた達、あの凶悪生物に、物を教わりたい訳?」

端末を教卓に置いたイリーナは、更に言い続ける。

「地球の危機と受験を比べられるなんて…

ガッキは平和で良いわね~?」

「「「「「「………………」」」」」」

「それに、聞けば、あんた達E組って…

この学校の落ちこぼれらしいじゃない?

今更、勉強なんかしても、意味が無いんじゃなくて?」

「「「「「「……………!!」」」」」」

その言葉で教室内の空気が変わるが、それに気づいていない、高飛車な笑顔をした女の言葉は続いた。

                 

「そーだ!じゃ、こーしましょ?

私が あのタコを殺れたなら、1人当たり、500万円ずつ分けてあげるわ!!

あんた達が これから一生、目にする事もない大金よ?

無っ駄な勉強なんかしてるより、ずっと有益でしょ?

だ・か・ら、黙って私に従いな…(ビシィッ)

…え?」

トーントーン…

台詞の最中、自分に酔いしれ、目を瞑っていたイリーナには誰が投げたか分からない、彼女に向けて投げられた消しゴムが、その顔の横ギリギリを通過し、黒板に当たって床に落ちる。

 

「(ボソッ)…出てけよ」

誰か呟く。

(はっ!)

イリーナは この時になり、初めて気付く。

自分に向けられた56の瞳が、暗殺者が標的に向ける其れと同じだという事に。

 

「出てけ、糞ビッチ!!」

「殺せんせーと代わってよ!!」

消しゴムが、ペットボトルが、ノートのページを千切って丸めた紙くずが、対せんせーナイフが…傲慢な金髪女に向けて教室内を怒号と共に乱舞する。

 

「なっ…何よ、あんた達の その態度っ?!

殺すわよっ!?」

「上等だ!殺ってみろよ、ゴラ゙ァ!!」

「ひぇっ!?」

余りの殺気と迫力に たじろぐイリーナ。

 

そんな中、

「そーだそーだ!!巨乳なんて要らない!!」

(え?そっち?)

皆とは別方向の怒りのベクトルで、『脱・巨乳!!』と書かれたプレートを掲げ、涙目で怒りを露わにしている女生徒が、約1名。

そして廊下には、その一部始終を見て頭を抱え込む黒スーツの男が1人。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「何なのよ、あのガキ共!!」

放課後の職員室でイリーナが吠える。

 

「こんな良い女と同じ空間にいれるのよ?

有り難いと思わない訳!??」

全く以て有り難くないからこその、学級崩壊だという事に気付いていないイリーナ。

このまま暗殺を続けたいなら、生徒達に謝罪しろと言う烏間にも、自分は教師の経験なんてないし、暗殺だけに集中すべきだと主張する。

その言葉に烏間は、校舎裏に彼女を連れ出した。

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓校舎裏。

そこにはリクライニングベンチに腰掛けジュースを飲みながら、バインダーに挟まれた紙に何やら高速で書き込みをしている殺せんせーがいた。

 

「何してんのよ、あいつ?」

「テスト問題を作っている。

水曜日6時限目の恒例だそうだ。」

イリーナの質問に烏間が答える。

テスト問題の作成。

確かにベンチの脇のテーブルには、問題作成の参考にしているのだろう、沢山の問題集や参考書が山積みになっている。

 

 

「…っくょん!…あぁっ…!!?」

9割完成していたテスト用紙はクシャミで ぶち撒けた葡萄ジュース(100㌫)によるシミで修復不能に。

シクシクと泣きながら、最初から作り直す殺せんせー。

 

 

此処でイリーナが疑問に思う。

「…やけに時間、掛けてない?

マッハ20なんだから、テスト作るくらい、あっと言う間でしょ?」

「1人1人、テスト問題が違うんだよ。」

「え?」

その疑問に、烏間が答えた。

それを初めて聞いた時は烏間も驚いたらしいが、あの超生物は、生徒の得手不得手に合わせて、クラス全員に違うテストをさせているらしい。

「ヌルフフフ…

カルマ君と吉良君には、こっそりと大学入試の問題を紛れさせてみますか…?

尤も、あの2人なら、あっさりと解いてしまいそうな気もしますがねぇ…」

                  

高度な知能と巫山戯たスピードを持ち、地球を滅ぼさんとする危険生物。

だが、その超生物の教師としての仕事は完璧に近かった。

その姿を、木の陰から、何かを思う様に見つめるイリーナ。

次に烏間は、彼女を校庭の脇の、テニスコートに案内した。

                  

「生徒達を見てみろ。」

「…?遊んでるだけじゃない?」

傍目には男女関係なく、数人が両コートに別れ、木製のナイフを使ってボールを突く、変則的なバレーボールをしている様に見えた。

その黄色いボールには、殺せんせーの顔が描き込まれている。

自分が教えた、動く目標に正確にナイフを当てる為のトレーニング…『暗殺バドミントン』だと烏間が説明する。

                  

烏間は更に語る。

暗殺経験の皆無な生徒達の、勉強と暗殺を両立させようとしている努力を。

そんな中、この教室で教師と暗殺者を両立出来ない様な3流の自称・プロ(笑)なら、この場には不要と。

此処で暗殺を成功させる為に最も重要なのは、生徒達との連携。

だからこそ、彼等を見下す事なく、対等な信頼関係を結ぶのは必須だと。

そして最後に

「イリーナ、それが出来ないと言うなら、只 単に『殺せるだけ』な殺し屋など、腐るほど居るんだ。

お前は順番待ちの、一番後ろに並び直して貰う事になるぞ…。」

…そう言うと、彼女を その場に残し、烏間は職員室に戻って行ったのだった。

 

「………………………………………」

そして、その場に1人残された、イリーナの目には…

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

更に翌日。

 

キーンコーンカーンコーン…

「英語…今日も どーっせ、自習になるんだろな?」

「どーせ、ビッチ姉さんはアレだから、その時は外でバドやらね?」

「あ、あたし、やるー♪」

 

ガラッ…

そういった会話をしてる中、教室の扉が開き、イリーナが中に入ってきた。

長い金色の髪を掻き上げながら、教卓の前に立つ。

「「…へぇ?」」

その、何時もと違う表情に、響とカルマが気付く。

 

生徒達を背にして、無言でチョークを手に持ち、カツカツッ…と、黒板に何やら英文を書き込むイリーナ。

そして振り向くと、生徒達には初めて見せる、凛とした顔付きで

「You're incredible in bed!

Repeat!!(言って!!)」

ずるっ!!

「き、吉良君?」

思わず、椅子から滑りコケる響と、それを心配する櫻瀬。

1つ空席を挟んだ隣の席のカルマは口を挽き吊らせ苦笑、ついでに言えば、前側の席の中村は、微かに顔を赤くしていた。

そして、他の生徒達は、この不意撃ちに等しい、まるで英語の授業な如くな流れに、目を点にして口を ぽかーんと空けて固まっている。

                  

「Hey! Harry up!!(ほら!早く!!)」

「「「「「「ゆ、ゆあいんくれでいぶる、いんべっど」」」」」」

イリーナの言葉に、思わず復唱するE組の面々。

イリーナは語り出す。

「少し前に、アメリカで とあるVIPを暗殺した時、まずは ソイツのボディーガードに色仕掛けで接近したの。

コレは、その時に彼が私に言った言葉よ。

この言葉の意味は…『ベッドでのキミは凄いよ…』…よ。」

((((((((中学生に、なんて文章、読ませるんだよ!?))))))))

顔を赤くし、心の中で突っ込みを入れるE組の面々。

 

イリーナは話し続けた。

「外国語を短時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いと よく言われてるのを知ってるかしら?

相手の気持ちを、よく知りたいから…必死で言葉を理解しようとするのよね。」

何時も違うイリーナに戸惑いながらも、言ってる事には納得な顔をする生徒達。

更にイリーナは話し続ける。

「私は仕事上、必要な時…その方法(ヤリカタ)で、新たな言語を身に着けてきたわ。

だから、私の授業では…

外人の口説き方を教えてあげる!!

プロの暗殺者直伝・外国人と仲良くなれる会話のコツ…

身に付ければ、実際に外人と会った時に、必ず武器になるわ。」

((((外人…と…))))

何人かの生徒の気持ちが揺らぐ。

 

「受験に必要な英語なんて、あのタコに教わりなさい?

私が教える…教えられるのは、あくまでも実践的会話術だけ。

もし…それでも あんた達が私を教師と思えないなら、その時は暗殺を諦めて出て行くわ。」

 

イリーナは決して無能ではない。

昨日の烏間の…他人の言葉を聞く耳、理解する頭脳、自身が何をすべきかの結論を出せる判断力は持っていた。

何よりも、政府が依頼した仲介者が自信を持って薦め、真っ先に送り込んで来た人材なのだ。

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

静まり返る生徒達。

神妙な顔付きで

「…そ、それなら、文句無いでしょ?」

そして、最後に恥ずかしそうな顔をして、尚且つ小さな声で

「…あと、悪かったわよ、色々と…」

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

「「「「「「………………」」」」」」

「「「「「「………………」」」」」」

 

クラスは生徒達の唖然とした顔と共に、数秒間の沈黙に包まれる。

そして、それは

「「「「「あはははははははは」」」」」

びくぅ!

生徒達の明るい笑い声で撃ち消された。

「何、ビクビクしてんだよ?」

「この前まで殺すとか言ってた癖に~?」

急な笑い声で、思わず身震いしたイリーナに生徒達が話し掛ける。

 

「なーんかさ、普通に先生になっちゃったよな?」

「んん、これじゃ もう、ビッチ姉さんなんて呼べないよね~?」

前原と岡野が話す。

 

「あんた達…わかってくれたのね?」

ぶわっ…

暗殺者云々でなく、普通に若い女性としてビッチという銘は真剣に気にしてのか、感動の余り、本気で碧い瞳に涙を浮かべるイリーナ。

 

「考えみりゃ、先生に向かって失礼な呼び方だったよね?」

「うん、呼び方、変えないとね。」

じーん…

嬉し過ぎて感動の涙を流すイリーナ。

 

 

 

 

 

 

       

     

      

       

    

 

「「んじゃ…ビッチ先生で♪」」

ピシィッ…

その瞬間、イリーナの周りの空気が凍り、彼女の顔も硬直する。

それでも、気を取り直し、無理矢理に笑顔を作って

「えぇ…っと…ねぇキミ達…?

折角だからさ、この際、ビッチから離れてみないかな?

ほら、気安くイリーナ先生…って、ファーストネームで呼んでも構わないのよ?」

兎に角、必死なビッチ先生。

 

「でも、今更なぁ?」

「ん。もう、すっかりビッチで固定されちゃってるしぃ。」

「んん。イリーナ先生より、ビッチ先生のが、しっくりくるよな?」

既にビッチで決定な空気のE組教室。

 

「そんな訳で、よろしくビッチ先生!!」

「授業、続けようぜ、ビッチ先生!!」

 

ビッチ!びっち!ビッチ!びっち!…

 

クラス内に起きた、大ビッチコールにイリーナは額に血管を浮かべ…

「むっきーっ!!

やっぱりキライよ!あんた達!!

特に後ろの席の2人!大っキライ!!」

盛大に叫ぶのだった。

 

「……………………………………。」

その様子を廊下から眺め、まだ多少の問題はあるかも知れないが、とりあえず一安心と、安堵の溜め息を吹く烏間。

 

 

 

生徒には生の外国人と会話をさせたい…

さしずめ…世界中を渡り歩いた殺し屋は適任だと…?

暗殺の為に理想的な環境を整える程、学ぶ為に理想的な環境になっていく…

俺達は、仏陀の掌の上の孫悟空ならぬ、タコの触手の上の暗殺者なのかも知れないな…

 

 

…そう考えている烏間の顔には、微かに笑みがあった。

 




次回、吉良君がまた、少しキレます?(笑)

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