加筆修正しました。
赤羽業(カルマ)。
2年の3月に暴力事件を起こし、停学の後、E組編入の処分を受けた生徒。
昨日で その停学が解け、久しぶりに彼は登校して来た。
…5時限目の終り時に。
停学明け早々の遅刻に、顔を紫にしてピンクのX(バツ)を浮かべて注意する殺せんせーに対し、笑いながら謝る赤羽。
これから宜しくとばかりに右手を出し、それに応えた殺せんせーも右触手を出して、握手した瞬間…
ドロォ…
殺せんせーの手が溶ける。
すかさず赤羽は制服の袖の下に仕込んでいた対せんせーナイフで切り掛かる。
先程の体育の授業で、響が烏間に仕掛けたのと、全く同じ戦法だ。
これを瞬時に距離を開け、回避する殺せんせー。
声も出ず、驚く生徒達。
当然な話だ。
初めて殺せんせーにダメージを与えたのだから。
「へぇ…」
これには響も驚いた。
赤羽曰わく、触手を溶かしたのは、対せんせーナイフを細かく刻み、掌に貼り付けていたからとの事。
更には こんな単純な手に引っ掛かるとか、あんなに飛び退くってビビり過ぎとか、「チョロい」認定してしまう赤羽。
ピクピクと、顔中に血管を浮かべながらも、何も言えない殺せんせー。
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6時限目。
ぶにょん ぶにょん ぶにょん…
教室内に木霊する締まりのない音。
どうやら、殺せんせーが"壁パン"をやっている音の様だ。
赤羽業に おちょくられたのが余程悔しいのか、生徒達が小テストに打ち込んでいる中、ずっと壁に触手を打ち込んでいる。
しかし、柔らかい触手故に、なんとも間抜けな音であり、
「さっきから ぶにょんぶにょん うるさいよ殺せんせー!!小テスト中なんだから!!」
「にゅや!こ、これは失礼!!」
生徒から お叱りを受ける。
そんな教室の後ろの席では
「よォ、カ~ルマァ、あのバケモン怒らせて どーなっても知らねーぞー?」
「また、お家に籠もってた方が良いんじゃなーい?」
寺坂達が赤羽を挑発するが
「…殺されかけたら怒るのは、当ったり前じゃん?寺坂?しくじって ちびっちゃった誰かの時と違ってさ?」
「な…ちびってねーよ!!テメ、喧嘩売ってんのか?!」
「あ~、悪い悪い、腰抜かして大泣きの間違いだったよね?」
「て、テメェ!」
逆に挑発。
どうやら赤羽の方が、寺坂より、役者が一枚二枚、上らしい。
その やり取りに自分の触手を棚に上げ、「うるさいですよ!」と注意する殺せんせーに対しても、逆に挑発する赤羽。
…と言っても、職員室の冷蔵庫に仕舞っておいた彼のアイスクリームを、勝手に失敬して舐めていただけだが、これが予想外に効果覿面。
殺せんせー曰わく、そのアイスは前日イタリアまで買いに行き、帰り道は溶けないように寒い成層圏(防寒具着装)を飛んだという苦労の一品だとか。
「へー…で、どーすんの?殴る?」
「殴りません!!残りを先生が舐めるだけです!!」
誰もが「舐めるのかよ…」と思っている中、こめかみに血管を浮かべ、ズンズンと赤羽の席に歩み寄る殺せんせー。
しかし、
バチュッ…
「!!」
いきなり「脚」に相当する触手が溶ける。
対せんせーBB弾が、いつの間にか床にバラ撒いてあったのだ。
考える迄もなく、赤羽の仕込みだ。
「あは♪まぁーた引っ掛かったぁ♪」
パンパンパン…
すかさず至近距離で拳銃タイプのエアガンを撃ち、それを躱されるも、今後も授業関係なく、今回の様な奇襲をすると言い切る赤羽。
「それが嫌なら…俺でも俺の親でも殺すがいい。」
「…………………」
「でも その瞬間から、もう誰も、あんたを先生とは見てくれない。只の人殺しモンスターさ…」
赤羽は そう言いながら、手にしたアイスをナイフで刺すかの様に殺せんせーの式服になすりつける。
更に影のある笑みを浮かべ、
「あんたという『先生』は…俺に殺された事になる…!!」
そう言うと、多分、全問正解というテスト用紙を殺せんせーに渡すと、明るい笑顔で「明日も遊ぼうね~♪」と言いながら、教室を去って行った。
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渚は言う。
カルマ君は頭の回転が凄く速い。
今もそう。
先生が先生で在る為に越えられない一線を見抜いた上で、殺せんせーにギリギリの駆け引きを仕掛ける。
だけど彼は…その本質を見通す頭の良さと、どんな物でも扱いこなす器用さを、いつも人とぶつける為に使ってしまうんだ…。
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帰り道、響は一緒に駅に向かっている渚達に、赤羽について改めて聞いていた。
2年3学期の時点で停学中なのは知っていおり、その理由が暴力沙汰なのは磯貝や櫻瀬から聞いていたが、その詳しい内容は まだ知らなかった。
「…と、僕が知ってるのは、この程度なんだけど…。」
「うわっ、超危険人物じゃん?怖っ!!」
「「お前が言うか!?」」
渚の説明を聞いて、思わず口走った響に、すかさず杉野と三村が突っ込んだ。
「じゃあな、渚、吉良。」
「ん。また明日。」
「じゃな~。」
駅に到着。
違う電車に乗る杉野達と別れ、改札口に向かおうとする渚と響。
そんな2人に後方から
「…おい、渚だぜ」
「…E組に馴染んでんだけど…」
「…っせぇ!ありゃ……戻って来ねー…」
完全に聞き取れる訳ではないが、本校舎の間違いなく同学年の生徒3人から、自分の事を話している会話が耳に入る。
思わず下を向く渚に
「気にするな…」
響が傍で呟く。
…が、
「…も……赤羽………しいぞ?」
「…悪………んでもE組(あそこ)落ちたくねーわぁ…」
一部一部、聞き取れない部分はあったが、それでも要所は耳に入り、
「ほおぉう…?」
「き、吉良君?ちょっと、何する気?」
発言の中に、よほど琴線に触れる何かがあったのか、響は彼等に歩を進め始めた。
ガシャッ!
「えー?死んでも嫌なんだ?」
しかし、響が彼等の本に立つ前に、何処からか現れた赤羽が、柱に凭れかけていた生徒の頭上でジュース入りのガラス瓶を叩き割り、更に割れた先が鋭利に尖った瓶を、ジュース塗れになった顔に向け、
「じゃ、今死ぬ?」
冷たく微笑んで聞いてみる。
「あっ赤羽ぇ!?」
「うわぁっ」
ダッ…
赤羽の顔を見た途端に、怯えて逃げ出す本校舎の3人。
しかし、
「まあ、待てよ?」
「ひっ?」
逃げる1人の制服の襟首を掴み、その場で捕まえる響。
「…え?誰?」
「ひ、何なんだよ?お前?」
「お前もE組か?は、離せよ!こんな事して、只で…」
その場の赤羽を含む、全員が響に対して「誰?」な状態の中、
「カルマ君!吉良君!暴力はダメだよ!」
渚が慌てて中に入る。
すると
「「「き、き、吉良あぁ!!?」」」
「吉良」という名前を聞いた本校舎の2人は、未だ響に首根っこを掴まれている1人を残して走り逃げてしまう。
「あ…ぁ…」
「行っちゃったね~♪」
「あー、はくじょーなやつらだなー」
何故か棒読み口調で赤羽に同調すると、捕まえている、眼鏡の生徒に目を向ける。
「ひいぃいいぃぃぃ!」
怯えるだけの本校舎生徒に、
「おいおい、必要以上にビビるなよ?」
…と響は掴んでいた首を離してやると、
「ひぃ!」
腰が抜けた様に、その場に へたり込む。
「はは…必要以上なのは、吉良君自身が原因だと思うよ…」
渚の「やれやれ…」な突っ込みに対し、
「へ?」
…な響。
…そうなのである。
響がΕ組行きになった理由…それは転校数日で起こした暴力事件。
これが、本校舎の間では、真実に尾鰭足鰭が附き、『吉良という転校生は、浅野と瀬尾を血祭りに上げた、超々・危険人物』という形で認識されていた。
事実、瀬尾は、あれから終業式まで、顔に包帯と絆創膏が付いたままだった。
参考までに、寺坂の現状が これである。
「もう消えていいぜ…」
「ひえぇっ!」
響の一言に、腰砕けな体勢で走り逃げる眼鏡の生徒。
それを見て
「渚…俺ってさ、そんなに怖い?」
「さ…さあ…?」
ほんの少しだけ、本気で気にし始めている響に対し、目を逸らし、言葉を濁す渚。
「ところで、君、誰?確か体育の時、Yシャツの人と好い勝負してた人だよね?」
ここで赤羽が響に話しかける。
「あ、カルマ君は まだ、面識ないよね…」
「俺は この3月に、Ε組に転校してきた吉良だ。よろしくな。」
「多分、もうクラスの皆から聞いてると思うけど、俺は赤羽業(カルマ)。カルマで良いよ。よろしく。」
「と、ところでカルマ君?僕達より先に教室出たのに、何で まだ駅(こんなトコ)に居るの?」
「ん~、ゲーセン?」
渚の疑問に、軽く答える赤羽カルマ。
「てゆーかよ、カルマ?〇ーラの瓶は、流石にヤバ過ぎだろ?」
「あは♪殺る訳ないじゃん?折角 教室に、もっと良い玩具があるのに♪」
「渚、言われてるぞ?」
「こ、この場合は僕じゃないでしょ?てゆーか、そう思ってるのは、吉良君と中村さんだけだよ!きっと!」
「あ、俺も~♪」
挙手して同意するカルマ。
「カ、カルマ君~…」
カルマがコ〇ラ瓶を割った件で注意するつもりだった響だが、何時の間にか、何時もの渚弄りになり、そこにカルマも加わる。
「でもまあ、もう あんな雑魚(くず)、どーでも良ーよ。あんなの構って、また停学になったら勿体無くね?」
急に、真面目な顔で話し始めるカルマ。
「カルマ君…?」
「…俺さぁ、嬉しいんだ。只のモンスターなら、どうしようと思ってたけど、案外、ちゃんとした先生でさ?」
「…カルマ?」
更にカルマは意味深な笑みを浮かべ、
「ちゃんとした先生を この手で殺せるなんてさ…最高じゃね?前の先生は自分で勝手に死んじゃったから…」
「「…?」」
(勝手に死んだ?どういう意味だ?どっちにしてもコイツ、かなり危険だな…)
そう思うも響は、この場では敢えて聞かず、その日は2人と別れたのだった。
次でカルマ回は纏めます。
…たら良いな…