「…それでは失礼します。」
「は~い、お疲れ様~♪」
E組校庭で殺せんせーのサービス暗殺が繰り広げられていた頃、烏間の部下、防衛省所属の園川雀と鵜飼健一は市内の ある一軒の家、その家に住む1人の少年を訪ねていた。
用件を伝え終えた2人は、ドアの前に立つ少年に一礼して立ち去って行った。
「……………………………………。」
2人を見送った少年は、自室に入り、ポケットに入れていた紙切れを取り出すと、
スパ…
ゴム素材の様なナイフで切りつけた。
床に落ちたのは、黄色いタコの様な生物が描かれた手配書。
それが縦半分真っ二つになる。
「ふふ…殺せんせー…だったっけ?
明日が楽しみだよ?」
▼▼▼
「「「「「いーち、にー、さーん、し、ごー、ろっく、しっち、はっち…」」」」」
「ヌルフフフフフ…晴れた午後の運動場に響く掛け声…平和ですねぇ…」
揃った掛け声と共に、真剣に体育の授業に取り組む生徒達に御満悦な表情を見せるのは、「殺先生」と書かれた名札が縫い付けられた、恐らくは自前の体操着を着込んだ殺せんせー。
「いいか!八方向からナイフを正しく振れるように!!
どんな体勢でもバランスを崩さない!!」
「生徒の
…訂正、満足感の中に、やや複雑な表情を混ぜた、微妙な表情をしている。
E組生徒達は、今日から正式にE組体育専任教諭として赴任して来た烏間惟臣の指導の下、対せんせーナイフを片手に素振りをしている。
この日から体育の授業は完全に、対殺せんせー暗殺のノウハウを烏間が仕込む事になったのだ。
生徒達からすれば、授業内容は兎も角、体育を烏間が受け持つのは大歓迎だった。
このタコの体育は人外過ぎて、誰にも…約1名が『本気』を出した場合を除き、こなせる内容ではなかったのだ。
とりあえず普通の人間は、反復横飛びで3身分身withあやとりなんかは まず出来ない。
烏間に退場を命じられ、校庭の角の砂場で1人寂しく泣きながら、砂の山を作り始めた殺せんせー。
しかし、誰1人、それを見て可哀想と思う生徒は居なかった。
「でも烏間さ…烏間先生、こんな訓練意味あんスか?
しかも、当の
前原の質問に対し、烏間は勉強に暗殺、何事も基礎を身につけておいて損はないと諭し、それを証明すると言わんばかりに、前原と磯貝に模擬戦を誘う。
「え…いいんですか?」
「2人がかりで?」
遠慮か躊躇いか、やや困惑気味の表情の磯貝が、ナイフを手にした腕を伸ばすが、簡単に躱す烏間。
「くっ!」
それを見た前原が、チャラ男返上な真剣な表情)で突っ込むが、これもナイフを手で払われる。
その後の2人同時攻撃も、多少の心得があれば…と、威とも容易くあしらう烏間。
凄い…
ギャラリーの生徒達が感嘆する中、
「「くっそ!」」
完全に本気と言うかムキになり、同時に攻撃を仕掛ける2人の手首を烏間は余裕の笑みを浮かべて掴むと、そのまま その力を利用して2人の体を一回転させ、背中から地面に落としたのだった。
「一本!」
「「「「「「おお~!!」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ…
思わず響が叫ぶと同時に歓声と拍手が沸き起こった。
「な…」「え?」
地に座り込んでいる自分自身、何が起きたか解らないという顔の2人に対し、烏間は、自分に当てられずに、マッハ20のタコにナイフが届く訳がないと言いのけ、更にアレを見ろとばかりに、殺せんせーを親指で指さす。
生徒達が砂場の殺せんせーに目を向けると、そこには砂で大阪城を造り、何処ぞの茶人な如く出で立ちで茶を立てているタコがいた。
((((((腹立つわぁ~…))))))
生徒達が そう思っている中、砂場に近づく響。
「へ~?これ、大阪城?上手く出来てるじゃん!殺せんせー!」
「ヌルフフフフフフ…いや、吉良君、それ程でもありますy(ゲシッ!)にゅやーっ!!!?」
謙遜する事なく、得意気に語る殺せんせーの前で、砂の城に躊躇なく足を落とし、城を崩壊させる響。
「ななな…何て事を…」
涙を流しながら、数秒前までは城の形をしていた砂の山を、放心状態な顔で見つめる殺せんせーを見て、
「なあ、磯貝…ほんの少しだけ、惨いと思う俺って、性格甘いのかな?」
「いや…俺も、流石にアレは凄く可哀想と思うが…」
因みにクラスの評判は「ナイス(笑)!」と「酷い…」が半々だった様だ。
そんなorzとなった殺せんせーを見て、何やら満足したかの様に、凄く良い顔を浮かべながら響は烏間の前まで歩くと、
「烏間先生、次は俺が相手になるよ。」
…と対戦を申し出る。
「ふ…良いだろう。
吉良君、掛かってきなさい!」
烏間の吉良評は、やや短気で暴力的な部分があるが、運動神経は抜群。
E組内ではタコを殺れる可能性が一番高い…である。
そんな生徒の実力を、改めて自身の目で確認出来る機会を無駄にする筈がなかった。
「磯貝、ナイフ貸してよ。」
「え?ああ…」
磯貝からナイフを借りた響は、右手は順手持ち、そして左手のナイフは逆手持ちで構え、
「行きます!」
烏間に切り掛かった。
シュシュシュシュ…!
素早い左右のラッシュを見せる響だが、そのナイフは烏間には当たる事はない。
「吉良君、甘いぞ!そんな付け焼き刃な二刀流で、どうにかなるかとでも思っているのか?」
「ん?いいえ、全然?」
笑みを浮かべながら距離を詰めると響は、烏間の顔面目掛けて放った両手のナイフを途中で手離し、
「!!?」
烏間の注意が手から離れたナイフに向いた瞬間、予め、ジャージの長袖の中に忍ばせていたナイフを握ると、再度、烏間に攻撃を仕掛けるが、
ガシィ…ッ!
響の手首を掴んだ烏間は、先程の磯貝達同様に、攻撃の勢いを利用した投げを放つが、響も空中で身体を捻って、両足で難なく着地する。
「あっあぁ~!ダメだったかあ~?」
「いや、今のは…少し危なかった…」
烏間の まだ続けるか?の問に、響は さしあたっての策は尽きたと言い、模擬戦は終了した。
くっそ!烏間先生、強っ!
卒業までに、絶対に
既に響の目標は、他の生徒達とは別の方向に向かいつつあった…。
≫≫≫
体育の授業が終わり、次は小テストかぁ…とボヤく渚と杉野。
校庭から旧校舎に戻ろうと、土手の階段を上ろうとした時、その土手の上に1人の少年が立っていた。
渚は彼に気づくと
「カルマ君…帰って来たんだ…」
「よー、渚君、久しぶり。」
カルマと呼ばれた少年は渚に微笑んだ。
他の生徒達も、この赤羽
そんな中、櫻瀬が響に
「吉良君、あのヒトが…」
…と教えてやる。
「へぇ…あいつがアカバネ…ね…」
次回は間違いなくカルマ回?