銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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世界は愛とエゴと誰かを想う気持ちで回っている

九兵衛が倒れた隙をついて、一気にカタをつけようとした新八は、すぐに駆け寄り木刀を突き出した。それに応じ、九兵衛も木刀を突き出す。

 

木刀の切っ先が合わさった瞬間、九兵衛は新八の木刀を握る手を蹴り上げ、トドメを刺そうとする。

しかし、転がった木刀を銀時が投げ、今度は逆に木刀を手放してしまった。新八が九兵衛の皿を狙い木刀を振るうが、敏木斎が投げた木刀に阻まれる。

宙を舞った二本の木刀に、四人が跳躍して手を伸ばした。

 

その結果、得物は手にしたのは銀時と九兵衛。

銀時は敏木斎を、九兵衛は新八を狙う。

どちらの大将を斬るが早いか。

 

しかし、九兵衛の木刀は銀時の皿めがけて突き出された。大将を狙い、隙が生まれたそこをついたのだ。

だがそれをも銀時は読み、体を反転させ木刀の柄で、九兵衛の皿を割った。そしてその際、木刀を奪い取る。

 

それを新八に投げたその時、銀時の首を背後から敏木斎が締め上げた。

そのまま落下し、灯篭に打ち付けて銀時の皿を粉砕する。灯篭は二人の男がぶつかった衝撃で、折れてしまった。

 

着地を決めようとした敏木斎。しかしその瞬間、灯篭の穴から気配を感じた。

そこから、新八が木刀を水平に構え、敏木斎を見据える。気合いの怒号と共に、新八が渾身の一撃を繰り出した。

 

新八の突きは敏木斎の皿を割り、吹き飛ばす。

敏木斎が倒れた音と共に、辺りがシンと静まり返った。

 

「……ゴメン。負けちった」

 

敏木斎の呟きを聞いた近藤と神楽、志乃は一斉に新八に駆け寄る。

 

「いよっしゃァァァァ‼︎私らの勝ちだァァァ‼︎」

 

「新八ぃぃぃぃぃ‼︎あんま調子乗んじゃねーぞコルァ‼︎ほとんど銀ちゃんのおかげだろーが!」

 

「流石我が義弟(おとうと)‼︎真選組を任せられるのは君だけだ!」

 

神楽に蹴られ、近藤に真選組を託され。志乃も、表情が綻んでいた。

 

「やるじゃねーか、お前」

 

スッと、拳を差し出す。それに新八も拳を合わせた。

そして、一度目を伏せてから新八に言う。

 

「なァ、新八。アンタにお願いがあるんだ」

 

「お願い?」

 

「私に、剣の稽古をつけてくれないか?」

 

突然の頼みに、新八は驚いて目を見開く。彼を囲む近藤と神楽も、驚いていた。

その願いをしてきたのは、紛れもなく目の前に立つ銀髪の少女だ。

彼女は剣で戦えば最強とされる、銀狼である。にも関わらず、何故町道場の門下に入りたいと志願してきたのか。

それを訊こうとする前に、志乃が口を開いた。

 

「私さ、昔からちゃんと剣を教わったことがなくて。まァ剣っつっても、構え方とかそういう基本的なことだけど……それをもっとしっかり身につけたら、もっと強くなれるんじゃないかって思って。だから、新八に剣の稽古をつけてほしいんだ。……ダメかな?」

 

そう言って、首を傾げて見上げてくる。

 

「いや、そんなことはないけど……」

 

「けど?」

 

「志乃ちゃん、僕なんかより全然強いじゃないか。何も僕の所で学ばなくても、もっと強い所の方が……」

 

「新八」

 

彼女は彼の名を呼んで、その言葉を遮った。

 

「私は、アンタに教わりたいんだ。友として信頼の置ける、アンタにね。なに、私を強くしてくれってワケじゃないよ。剣術の基本、その全てを徹底的に私に叩き込んでほしい。それだけだよ」

 

志乃は微笑を浮かべ、「お願いします」と新八に頭を下げる。

どうやら、何を言っても彼女の気持ちは変わらないらしい。新八は「仕方ない」と肩を竦めた。

 

「わかったよ、志乃ちゃん。でも、やるからにはビシバシ鍛えるからね!覚悟してよ」

 

「はいっ!師匠!」

 

「ぅえっ⁉︎し、師匠⁉︎」

 

師匠と呼ばれ、狼狽える新八をキョトンとして志乃が見上げる。

 

「これから教わる人を、師匠って呼ぶのは当たり前でしょ?あ、先生の方が良かった?」

 

「えっ、あ、いや……今までそんな風に呼ばれたことないから、戸惑っちゃって……」

 

普段貶されるタイプだからか、敬いの意を込めた師匠の呼び名に、思わず照れる。そこに、神楽が釘を打った。

 

「新八ぃ、お前何志乃ちゃんとイチャついてるネ。お前が女の子とイチャイチャするなんて百年早いアル。顔を泥で洗って出直してこいヨ」

 

「それ結局汚いじゃねーか!何で僕にはそんな辛辣なの⁉︎」

 

「お前みたいなイヤラシイ男に志乃ちゃんは渡さないアル!どうせ修行にかこつけて、志乃ちゃんに何かするつもりネ。志乃ちゃんの貞操は私が護るアル!」

 

新八に飛びかかり、そこから喧嘩に発展する二人。と言っても、神楽が一方的に殴りかかっているだけだが。

それを眺めて、志乃は近藤と笑い合いつつ、彼らの喧嘩を止めるのだった。

 

********

 

それから数日後の夜。

万事屋志乃ちゃんの店のインターホンを、誰かが押した。

 

「はい、どちら様でしょう?」

 

時雪が扉を開けると、そこにはキャバ嬢の仕事着を纏ったお妙と、包帯を顔に巻いている土方がいた。

 

「あの、何か?」

 

「夜にごめんなさい。志乃ちゃんはいますか?」

 

「志乃ですか?」

 

時雪に呼ばれた志乃は、欠伸を噛み殺しながら寝巻きに着替えようとしたところだった。

寝ぼけ眼をゴシゴシと擦りながら、玄関へ向かう。

 

「何?どうしたの姐さん」

 

「お願い、ちょっと一緒に来てもらえるかしら?」

 

志乃がワケがわからず首を傾げる前で、お妙はいつもの優しい微笑みを見せた。

 

********

 

お妙に連れられたそこは、何かの会場だった。受付を無視し、そのまま会場へ向かうお妙の背中に、黙ってついていく。

何故お妙が薙刀を持っているのか甚だ疑問だったが、追及しないことにした。

会場の扉を開け放ち、薙刀を遠くへ投げ飛ばす。薙刀は近藤の上着ごと壁に突き刺さった。

 

ん?近藤?嫌な予感が、志乃の中で駆け巡る。

忘れていた。今日は、近藤の結婚式だった。

もちろん志乃も誘われていたのだが、近藤の結婚相手はまごう事なきゴリラであるため、式の参加を断ったのだ。

 

ーーまさか、姐さんが私を連れてきた理由って……。

 

回れ右して、志乃はそろーっと立ち去る。首根っこを、お妙に掴まれた。

 

「アラ、どうしたの志乃ちゃん」

 

「すいません、お腹痛いんで帰らせてください」

 

「トイレならさっき済ませたでしょ?」

 

お妙の笑顔が怖い。次の瞬間、ぐいっと引っ張られ、お妙の前に出される。そこには、興奮したゴリラ達がこちらへ向かっていた。

それを見た志乃は、サッと血の気が引いた。

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

金属バットを抜き、襲い来るゴリラを叩きのめしていく。

お妙は、ゴリラ達を一掃するために、ゴリラが苦手で見るたびに半殺しにしてしまう彼女を連れてきたのだ。

そして彼女の思惑通り、志乃は我を忘れて辺り構わず暴れ回る。

その隙にバブルス王女を蹴っ飛ばし、無事近藤を救出したお妙は、新八や神楽と共に逃げ始めた。

逃げながらも、その表情は綻び、心から楽しげな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、体格差のあるゴリラ相手に臆することなく挑んだ(違う)志乃の暴れっぷりは、目撃していた真選組内部でまさしく八面六臂であったとまことしやかに囁かれた。

 

しかし、その後数日間、志乃のゴリラ恐怖症は余計に悪化し、しばらくは床に伏せていたというーー。

 

 

 

 

 

 

 

ー柳生篇 完ー

 




ハイ、完結致しました。柳生篇です。いや〜、疲れた。
実はこの柳生篇執筆中に、漫画をたくさん買ってしまい、現在財布が一足先に冬を迎えてしまいました。寒い。寒いです。南極くらい寒いです。この上なく寒いです。

実は今回、またメモが消えてしまい、書き直しました。アレはマジで辛い。
終わった、やった!よし次……ってなった達成感が一気に崩れるんですよ。あの絶望ったらない。

次回、キャバクラです。

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