銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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昨日の敵が今日の友になる確率は低い

銀時、新八、神楽、志乃、近藤、土方、沖田。

たった七人で、数倍以上の相手をバッタバッタとなぎ倒していく。

 

志乃も金属バットを振り回し、次々に敵を打ち倒す。

時に突き飛ばし、蹴り飛ばし。数人まとめて叩き伏せる。

 

志乃の剣技は完全な我流であるため、型どころか構えの姿勢すら存在しない。

戦いに生きる銀狼の剣技は、相手を"倒す"ではなく"殺す"ためのもの。

情け容赦なく敵の急所をつき、首を撥ね脳天から叩き斬り、血を得たいがために剣を振るい続ける。

 

志乃のそれは覚醒した銀狼ほどではないにしろ、それでも銀狼の剣技とほぼ同じものであった。

そして、本人は全くそれに気付かぬまま、容赦なく金属バットで敵を倒していく。

 

「てめーらみたいな三下なんざ興味ねーんだよ。大将出せやァァ‼︎」

 

「ひっ……退けェェ!東城さんを、東城さんを呼んでこい!」

 

「逃げんなァ!」

 

逃げ惑う柳生の門下らを追いかけようとするが、銀時にぐいっと首根っこを掴まれ、引き止められる。

 

「ハイハイそこまで。ちょっと落ち着け。地獄の鬼かオメーは」

 

「誰が鬼だ!せめて狼と呼べ!」

 

「んなモンどーでもいいだろーが‼︎」

 

鬼と呼ばれるのは志乃のプライドが許さないらしい。抗議したが、銀時に一蹴された。

背後で真選組メンバーがあーだこーだと言い合う中、志乃は新八の背中を見やった。

 

「僕ねェ……もうシスコンと呼ばれてもいいです。僕は姉上が大好きですよ。離れるのはイヤだ。出来る事ならずっと一緒にいたいです。でもねェ……姉上が心底惚れて連れてきた(ひと)なら、たとえそれが万年金欠の胡散臭い男でも、ゴリラのストーカーでも、マヨラーでも、ドSでも、マダオでも痔でも。姉上が幸せになれるなら、誰だって構やしないんです。もう送り出す覚悟は出来てるんだ。泣きながら赤飯炊く覚悟はもう出来てるんだ。……僕は仕方ないでしょ、泣いても……そりゃ泣きますよ。でも」

 

雨が降る中、新八はボロボロと涙を流していた。

 

「泣いてる姉上を見送るなんてマネは、まっぴら御免こうむります。僕は姉上にはいつも笑っていてほしいんです。それが姉弟(きょうだい)でしょ」

 

俯く新八の隣を、通り過ぎる影が三つある。銀時と志乃、神楽だ。

 

「銀ちゃん、志乃ちゃん。アネゴがホントにあのチビ助に惚れてたらどうなるネ。私達、完全に悪役アル」

 

「悪役にゃ慣れてるでしょ。誰かの邪魔して、しっちゃかめっちゃかに掻き回すのもね」

 

「新八、覚えとけよ。俺達ゃ正義の味方でもてめーのネーちゃんの味方でもねェよ。てめーの味方だ」

 

三人は、肩を並べて奥へと進んでいく。金属バットを腰に挿して、志乃は大股で歩いていった。

 

********

 

しかし、乗り込んだのはいいものの、彼らはこの柳生家のめちゃくちゃ広い敷地のことを何一つ知らない。

どこに行けばお妙を見つけ出せるのかも、九兵衛と会えるのかもわからない。

なので、銀時達は直進した先にある建物に向かった。

 

扉を、一番槍として神楽が開ける。次の瞬間、生卵を乗せたご飯が神楽に降っかかった。

 

その有様を見て、相変わらずのポーカーフェイスで沖田が言う。

 

「オイチャイナ、股から卵垂れてるぜィ。排卵日か?」

 

不意に神楽が沖田の顔を掴み、思いっきり投げ飛ばす。

それを見て、土方は「今のは総悟が悪い」と納得するように言っていた。

 

「ねェ銀、排卵日って何?」

 

「テメーは保健の勉強をしろバカ」

 

くいくいと袖を引っ張って尋ねる志乃を見向きもせず、一蹴した。

 

後頭部を摩って起き上がった沖田に、刀が三本向けられる。

中には食事をしていた四人の男がいて、そのリーダーらしき長髪の男が、前に進み出た。

 

「いやァよく来てくれましたね、道場破りさん。天下の柳生流にたった七人で乗り込んでくるとは……いやはや、大した度胸」

 

その男が、口角を上げる。

 

「しかし、快進撃もここまで。我等柳生家の守護を司る」

 

北大路(きたおおじ)(いつき)

 

南戸(みなみと)(すい)

 

西野(にしの)(つかむ)

 

東城(とうじょう)(あゆむ)。柳生四天王と対峙したからには、ここから生きて出られると思いますな」

 

どうやら、ご丁寧に一人一人挨拶をしてくれたらしい。それほどの余裕があるということかそれとも。

志乃は腕組みをして、東城を睨んだ。

 

「てめーらみてーな格下にゃ興味ねーよ。いーからとっとと大将出せやコノヤロー」

 

しかし柳生四天王が一人、南戸が沖田の首に剣を当てがいつつ、鼻で笑う。

 

「アンタらのようなザコ、若に会わせられるわけねーだろ。俺達が剣を合わせるまでもねェ。オラッ得物捨てな」

 

得物を捨てろと指示された銀時達は、腰に挿した木刀やら剣やら金属バットやら手にしていた傘やらを、柳生四天王と沖田に投げつける。

床に突き刺さったそれらを柳生四天王と沖田は間一髪かわし、怪我人は出なかった。

 

「ちょっ、何してんの⁉︎」

 

「捨てろって言うから」

 

「どんな捨て方⁉︎人質が見えねーのか!」

 

「残念ながら、そいつに人質の価値はねェ」

 

「殺せヨ〜殺せヨ〜」

 

「てめーら後で覚えてろィ」

 

神楽がゲスな笑顔を沖田に向ける中、北大路が剣の柄に手をかける。その時、障子が開いた。

 

「それは僕の妻の親族だ。手荒なマネはよせ」

 

「若‼︎」

 

九兵衛がこちらへ歩み寄り、新八と対峙する。

 

「まァゾロゾロと。新八君、君の姉への執着がここまで強いとは思わなかった」

 

「今日は弟としてではない。恒道館の主として来た。志村妙は、当道場の大切な門弟である。これを貰いたいのであれば、主である僕に話を通すのが筋」

 

「話?何の話だ」

 

キッパリと言い切った新八に対し、とぼけるように言う九兵衛。

それに、近藤、沖田、土方、神楽が続く。

 

「同じく剣を学び生きる身ならわかるだろう。侍は口で語るより剣で語るが早い」

 

「剣に生き剣に死ぬのが侍ってもんでさァ」

 

「ならば、女も剣で奪ってけよ」

 

「私達と勝負しろコノヤロー‼︎」

 

ニヤリと笑みを浮かべた九兵衛は、嘲笑うように言った。

 

「勝負?クク……我が柳生流と君達のオンボロ道場で、勝負になると思っているのか?」

 

「それがなるんですよ〜、セレブ共」

 

九兵衛に負けじと、銀時と志乃も嫌な奴の笑顔を見せる。

 

「僕ら恒道館メンバーは実はとっても仲が悪くて、プライベートとか一切付き合いなくて、お互いのこと全然知らなくてっていうか知りたくもねーし、死ねばいいと思ってるんですけどもね〜。お互い強いってことだけは、知ってるんですぅ〜」

 

柳生家対バラバラメンバー。

一人の女をかけた戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。


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