銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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友達は広く深く
嫌なことは引き摺らないスタンスで


『お手柄!?真選組またやった!!店舗半壊!これで23件目』

 

今朝の大江戸新聞の記事に書かれた見出しを見て、志乃は嘆息した。写真には、バズーカを担いで真顔でピースする沖田と壊れた喫茶店が写っていた。

 

「またやらかしたんだ、あの人……」

 

「流石、チンピラ警察と呼ばれるだけあるわね」

 

志乃の背中越しに新聞を読んだ時雪と小春は、思わず苦笑する。

昨日退院した彼らは、それぞれの職場へと急いで準備をしていた。

八雲は仕事着に着替えながら、思い出したように志乃を振り返った。

 

「そうだ、最近真選組の管轄下で連続婦女誘拐事件が起こってるそうですよ。志乃、貴女もいくら危ない目に遭ったからって誘拐犯を殺してはいけませんよ」

 

「オイコラ。アンタ私を何だと思ってんだ」

 

八雲の失礼な発言にこめかみをピクリと動かした志乃も、新聞を畳んでバイトのため真選組屯所へ向かった。

 

********

 

この日の仕事は、年始め特別警戒デーということで、真選組総出でパレードをし、市民に犯罪防止を呼びかけるというものだった。

志乃は選挙カーの下に立ち、その上で注意喚起する近藤の声を聞いていた。何だか少し脱線しているような気もするが、面倒なのでスルーする。

 

「いいですかァ!!浮かれちゃうこんな時期こそ、戸締まり用心テロ用心!!ハイ!!」

 

最後に近藤が民衆にマイクを向ける。しかし、数人が小さい声でボソボソと言うだけだった。

流石、市民からの人気が低い。志乃は肩を震わせ、俯いて必死に笑いを堪えていた。

その時、車の上から別の声が聞こえてきた。

 

「あれれ〜、みんな元気がないぞォ。ホラ、もっと大きな声で。浮かれちゃうこんな時期こそ、戸締まり用心火の用じん臓売らんかィクソッタっりゃああ!!」

 

「「「じん臓売らんかィクソッたりゃああ!!」」」

 

突如大きな反応が返ってきて、ボーッとしていた志乃は思わず肩を揺らして驚く。

車の上を振り仰ぐと、そこには「一日局長 寺門通」と書かれたたすきを肩にかけたお通が立っていた。

 

「えっ……お通?何でアイドルの寺門通がこんな所に?何やってんの……?」

 

「聞いてなかったのかィ嬢ちゃん。今日はイメージアップの日だぜィ」

 

「イメージアップ?」

 

選挙カーからお通の曲が流れる中、志乃はわけがわからず首を傾げるのだった。

 

********

 

その後、真選組隊士らは家康像の前に集合した。

彼らの前には、近藤と真選組の制服を着たお通が並ぶ。

 

「いいかァァー!今回の特別警戒の目的は、正月で弛みきった江戸市民にテロの警戒を呼びかけると共に、諸君も知っての通り、最近急落してきた我等真選組の信用を回復することにある!!こうしてアイドルの寺門通ちゃんに一日局長をやってもらうことになったのも、ひとえにイメージアップのためだ!いいかァお前らくれぐれも今日は暴れるなよ!そしてお通ちゃん……いや、局長を敬い、人心を捉える術を習え!」

 

「ほーい」

 

志乃が間の抜けた返事をして右手を挙げると、隊士らが一斉に色紙を持ってお通に殺到した。

 

「ひゃっほォォォ本物のお通ちゃんだァァ!!」

 

「サイン!サインくれェェ!」

 

「バカヤロォォォォ!!」

 

しかし、近藤の鉄拳が唸る。

流石は真選組局長。しっかりしてるなァ。志乃は腕組みして感心した。

 

「これから浮かれんなと市民に言う時に、てめーらが浮かれてどーすんだ。あくまで江戸を護ることを忘れるな。すいません局長。私の教育が行き届かないばかりに……みんな浮かれてしまって」

 

「いえ」

 

しかし、近藤の制服の背中に、大きくお通のサインが書かれていた。

それを見た隊士らに、一斉に袋叩きにされる近藤。

 

「てめーもサイン貰ってんじゃねーか!!どーすんだその制服!!」

 

「一生背負っていくさ!この命続く限り!」

 

 

「いや〜、すっかり士気が上がっちまって」

 

「士気が上がってんじゃねーよ。舞い上がってんだよ」

 

土方が呆れた隣で、志乃がお通にスケジュール表を手渡す。

 

「お通、これ今日のスケジュールだって」

 

「あ、ありがとう志乃ちゃん。それにしても驚いたよ〜。まさか志乃ちゃんが真選組でバイトしてるなんて」

 

「まあね。色々あって」

 

スケジュール表を受け取って再開を喜ぶお通。志乃は肩を竦めてウインクして見せた。

バイトで働くことになった理由を話すには、銀狼の云々まで話さなくてはならなくなるため、全て端折った。

 

「ま、そんな固くならなくていいってさ」

 

「……あのね、志乃ちゃん。私、やるからには半端な仕事は嫌なの。どんな仕事でも全力で取り組めって父ちゃんに言われてるんだ」

 

「へー、あの父ちゃんにねェ」

 

志乃は第九話で出会ったお通の父親を思い出して、フッと微笑む。

 

「たとえ一日でも局長の務めを立派に果たそうと思って、真選組イメージ改善のために何が出来るか、色々考えてきたんだ」

 

「そうなの?お通偉いね〜感心するよ」

 

しかし、志乃の隣に立っていた土方がお通を咎めた。

 

「いや、いいって。アンタはいるだけでいいから」

 

「まぁまぁいいじゃん。お通ああ見えて結構真面目だし。大丈夫だと思うけど」

 

志乃が土方を宥めるように言うと、お通は未だ近藤を袋叩きにしている隊士らに言い放った。

 

「ちょっと貴方達いい加減にしてよ!そんな喧嘩ばかりしてるから貴方達は評判が悪いの!何でも暴力で解決するなんてサイテーだよ!もう今日は暴力禁止!その腰の刀も外して!!」

 

「おおっ、早速だね」

 

「オイオイ小娘がすっかり親玉気取りか?そいつらはそんじょそこらの奴に指揮れる連中じゃねーんだよ。それに武器無しで取り締まりなんて出来るわけねーだろ。刀は武士の魂……」

 

しかし、近藤を含めた隊士らは喧嘩をやめ、一斉に刀を捨てた。腰に手を当てて立つお通に敬礼する。

 

「「「すいませんでした局長ォォ!!」」」

 

「転職でもするか」

 

「トシぃぃ!!総悟ぉぉ!!志乃ちゃんんん!!何をやってんだァ!お前達も早く武装解除せんか!」

 

「近藤さん、アンタは頭をもう少し武装する必要がある」

 

「金属バットは武器に入りますかー?」

 

志乃が手を挙げて質問するが、もちろん金属バットも人を殴るには充分な武器になるため、却下された。志乃は渋々腰にさした金属バットを外した。

今回は、真選組のイメージアップを図るためにお通を呼んだため、その責任を果たすべくお通は様々な案を提案した。

 

「まず、貴方達につきまとう物騒なイメージを取り払わなきゃ。そのためにはまず規則から改善していくのがいいと思うの」

 

「規則?そんなのあったの?こんな無法地帯みたいな組織に!?」

 

「あるわ!!そこまで信じられねーのか!?オイッ何だその目はァァ!!」

 

志乃の「信じられない!!」とでも言うような目に、土方は鉄拳制裁を彼女に下した。

 

真選組には局中法度という規則が存在し、それらの一つを変えようと言うのだ。

お通が提案したのは、『語尾に何かカワイイ言葉を付ける(お通語)こと これを犯した者 切腹』というものだった。要するに、お通語を話さなければ切腹というなかなか危ない規則に変わった。

 

さらにお通が親しみやすさのあるマスコットキャラクターを作ってきたという。

しかしそのマスコットキャラというのは、矢が突き刺さった少女の死体を背中に乗せたケンタウロスだった。

その名も、誠ちゃん。

それが現れた瞬間、土方は真っ先にツッコミを入れた。

 

「全然カワイクねーし!コレ真選組と何の繋がりがあんだよ!!何で死体背負ってんだ!?どっちだ!?どっちが誠ちゃんだ!?」

 

「馬の方だようかん」

 

「こんな哀しげな眼をしたマスコット見たことねーよ!カワイイどころかお前っ……うっすら悲劇性が見え隠れしてるじゃねーか!」

 

「なかなかマッチしたマスコットだと思うけどな。屍を越えて生きていくカンジが。それが侍の運命ってモンだろ」

 

「オメーに侍を語られても納得しねーんだよ!!」

 

志乃は誠ちゃんが真選組のマスコットにとても相応しいと言うが、土方に本日二度目の制裁を受けるのだったーー。

 

********

 

それから真選組はお通を筆頭に、町内パレードをしていた。志乃もそれに参加し、歩いていく。

パレードというかただの集団ウォーキングじゃないか?と思ったが、敢えて言わなかった。

 

彼女の前を歩く近藤とお通は何やらとても楽しげに話している。その若干イチャイチャともとれないような雰囲気に、志乃の後ろを歩く土方と沖田はイライラしていた。

と、ここで近藤の腕を誠ちゃんが掴む。

 

「てめェェェェェェェェェェェ!!何お通ちゃんといちゃついてんだァ!!」

 

「ぎゃあああああ!!まこっちゃんがァァァァ!まこっちゃんの中にもう一人のまこっちゃんがァァ!!」

 

「アレ?さっきまでの上半身は」

 

沖田の指摘通り、誠ちゃんの上半身だけがいなくなり、下半身というか馬の部分だけが残っていた。

上半身は、馬を残して居酒屋に一人入っていた。

 

「あ〜、やっちゃったよ〜。やっちゃったなーオイ……やっちゃったよ〜。完全に猪かと思ったものな〜やっちゃったな〜」

 

「旦那、何があったか知らねーがやっちゃったもんは仕方ねーよ。飲んで忘れちまいな」

 

「俺もさァ反射的に矢を射ってしまったものな〜〜。やっちゃったな〜オイ」

 

「やっちゃったじゃねェェェェ!!」

 

酒を飲む誠ちゃんの脳天に、土方の踵落としが炸裂した。

 

「お前何してんのォ!?マスコットだろ。何でマスコットがこんな所で飲んだくれてんだよ」

 

「やっちゃったな〜。まさかあんな森の中で人間が出てくるとは思わないものな〜」

 

「オイぃぃぃ!!なんか恐ろしげな事件の全貌が露わに……」

 

「誠ちゃん!こっち、早く早く」

 

お通が手招きして誠ちゃんを呼び寄せる。

そこには寺子屋の集団下校の一行がやってきていた。

 

「チャンスだよ!子供は純粋だからイメージを植え付けやすい!しかも親の耳に伝わればあっという間に評判が上がる!子供といえばカワイイもの……誠ちゃんの出番よ!!」

 

「待てェェェ!!お前そいつがどれだけ重たい過去を背負っているのかわかってるのかァァァ!!」

 

土方の制止を聞き止めず、下半身へと疾走する誠ちゃん。

しかし誠ちゃんは逆向きに下半身とドッキングしてしまい、カワイイどころか化け物と化してしまった。

何も見えないまま歩き出し、その時に死体が落ちてしまった。死体は暴走する誠ちゃんを追いかけて走り、飛び込む。

その光景を見た子供達に怯えられてしまった。

 

死体が飛び込んだ勢いでバラバラになってしまった誠ちゃんだったが、実はマスコットの正体は銀時、新八、神楽であることが真選組にバレてしまい、彼らは一斉に袋叩きに遭ったのだったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その裏ではとんでもない事件が起きていた。

何者かに口を押さえられ、路地裏に連れ込まれるお通と志乃。

これが今日、大きな波乱を巻き起こす予兆となった。


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