銀時と新八は、スキヤキの材料を購入し原チャリで帰路を急いでいた。
その隣を、志乃が愛用のスクーターで並走する。だが、銀時がとてつもなく重要なことを思い出した。
「しまったァ。今日ジャンプの発売日じゃねーか」
「え?何?忘れてたの?私買ったよ?」
「今週は土曜日発売なの忘れてた……ってオイ!!買ってたの!?買ってたなら教えてくれよ!!」
「いや……ジャンプと糖分の事しか頭にないアンタなら覚えてるかと」
「くそ〜……引き返すか」
「もういいでしょ。スキヤキの材料は買ったんだから」
銀時の後ろに乗る新八が、彼を宥める。
「まァ、これもジャンプを卒業するいい機会かもしれねェ。いい歳こいてジャンプってお前……いや、でも男は死ぬまで少年だしな……」
「スンマセン、恥ずかしい葛藤は心の中でしてください」
心の葛藤を独り言のように口に出す銀時に、志乃と新八は呆れる。
そんな最中、突然一人の少女が道に飛び出してきた。
銀時が気付いてブレーキをかけるが、時既に遅し。少女と原チャリの激突事故が起こった。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!轢いちゃったよちょっとォォォ!!どーすんスかコレ!!アンタよそ見してるから!!」
「騒ぐんじゃねーよ。とりあえず落ち着いてタイムマシンを探せ」
「そうだよ。運命は変えられるとどこかの誰かが言ってた。だからとにかく落ち着こう」
「アンタらが落ち着けェェェ!!」
この出来事に銀時と志乃は激しく動揺し、銀時は自販機の取り出し口に頭を突っ込み、志乃は缶専用のゴミ箱に頭を入れようとしていた。
新八のおかげでなんとか落ち着いた2人は、轢かれた少女に近寄る。
「だ……大丈夫だよオメーよぉ。お目覚めテレビの星座占いじゃ、週末の俺の運勢は最高だった」
「そ、そっか……なら、奇跡が起こって無傷かもね……うん」
「なァ、オイ。お嬢……!!」
銀時が少女の体を起こしてみると、地面には血が流れていた。
「お目覚めテレビぃぃぃぃぃ!!てめっもう二度と見ねーからなチクショー!!いや、でもお天気お姉さん可愛んだよな」
またも恥ずかしい葛藤を口に出す銀時。
轢かれた少女を新八の体に縛り付け、病院に向かっていた。
少女はピクリとも動かず、意識を失っているようだった。
「こりゃマズイね。早いとこ医者に診てもらわないと……ん?」
銀時たちの後ろから、黒塗りの車が近付く。
車の助手席に座るパンチパーマのグラサン男は窓を開け、拳銃をこちらに向けていた。
そして、2発ほど発砲する。新八は痛みがくると思って目を瞑っていたが、それは来なかった。
目を開けてみると、新八に括り付けられた少女が傘をさして、銃弾をガードしていたのだ。
少女は今度は傘を閉じ、追ってくる車に向ける。
傘から発砲され、銃弾を受けた車は近くの木にぶつかってそれから動くことはなかった。
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銀時たちは、またパンチパーマの仲間が襲ってくる可能性を考え、ひとまず路地裏に避難した。
「お前ら馬鹿デスか?私……スクーター撥ねられた位じゃ死なないヨ。コレ奴らに撃たれた傷アル。もう塞がったネ」
「何ソレ。アンタご飯にボンドでもかけて食べてんの?」
「まァいいや。大丈夫そうだから俺ら行くわ。お大事に〜」
ヤクザに追われるなど、この少女は何やら抱えているらしい。
面倒事はごめんと早々に退散しようとした銀時たちだったが、少女に原チャリとスクーターの後部を掴まれ、逃げることができなかった。
「ヤクザに追われてる少女見捨てる大人見たことないネ」
「ああ、俺心は少年だからさァ。それに、この国では原チャリとスクーター片手で止める奴を少女とは呼ばん。マウンテンゴリラと呼ぶ」
こんなことをしている内に、先程のパンチパーマ一味に見つかった。
「ちょっ何なの!?アイツら。ロリコンヤクザ?」
「何?ポリゴン?」
「ロリコンは死ね。そして二度と輪廻の輪に還るな」
それでも逃げながら、少女が追われている理由を聞いた。
話が長いので要約するとこうだ。
天人の彼女の家はビンボーで、三食ふりかけご飯の生活を送っていた。少女はそんな生活を変えるため、故郷の星から江戸へ出稼ぎに来ていた。
そんな時、パンチパーマのヤクザに三食鮭茶漬けが食べられると言われ、地球人より体が丈夫な彼女は、彼らの元で喧嘩の代行をすることとなる。
しかし、喧嘩するだけのはずが、どんどんとエスカレートしていき、人殺しまで命じられた。
彼女はそれが嫌で、ヤクザから逃げ出そうとしていたのだ。
そんな話をしている内に、なんとかヤクザをまいた。
「私もう嫌だヨ。江戸とても恐い所。
少女がポツリと呟くと、バケツから出てきた銀時と志乃が言う。
「バカだなオメー。この国じゃよォ、パンチパーマの奴と赤い服を着た女の言うことは信じちゃダメよ」
「ま、アンタが自分で入った世界だ。他人の私らが何とか出来る立場じゃないし。アンタで落とし前つけるんだね」
「オイ、ちょっと」
新八の制止を無視して、銀時と志乃は去っていった。
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銀時と志乃は、それぞれの愛車を立ち上がらせる。エンジンをかけた志乃は、ふと銀時を振り返った。
「アンタ、これからどーすんの?」
「バカ言ってんじゃねーよ。ジャンプ買いに行くに決まってんだろ」
「売ってるかね〜、今さら遅いと思うけど?」
「バカヤロー。行ってみなきゃ分かんねーだろ。江戸中の本屋行って探すわ」
ヘルメットを着用した銀時に、志乃は言い放つ。
「とか何とか言って、アイツらが心配なんじゃねーの?」
「はァ?どーだろーな」
銀時はそうしらばっくれると、原チャリを走らせた。
その後ろ姿を見送り、志乃もスクーターを上空に浮上させる。そして、走り去る銀時を見下ろした。
「……まったく。素直じゃないんだから」
志乃はフッと笑うと、駅の方向へ向かった。
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志乃が駅に着くと、銀時が線路に原チャリで入っていくのを見た。
よく見ると、線路の上にバケツが落ちている。その中には新八と少女がいた。
「あっ!あのパンチパーマもいる」
志乃は駅の中にパンチパーマを見つけて、スクーターから飛び降りた。
新八たちは、銀時が絶対に助け出す。それをわかっていたからこその行動だった。
志乃は駅のホームに膝を折って着地した。
立ち上がり、金属バットを構える。
一方、線路の上では、銀時が危機一髪でバケツを木刀でぶん殴って弾き飛ばし、バケツは屋根を突き破って落下してきた。
そろそろだと、背後から不意打ちでパンチパーマの一人をバットで殴った。
「ぐはっ!?」
「?どうし……ブフォ!!」
「なにをすっ……るうう!!」
ほとんど一言も発させずに打ち倒していく志乃。
パンチパーマの親玉には、少女が近付いていた。
「私、戦うの好き。それ夜兎の本能……否定しないアル。でも私、これからはその夜兎の血と戦いたいネ。変わるため戦うアル」
傘を手にずんずん近付く少女に、親玉は後退りする。
「野郎ども、やっちまいな!!」
そう叫んで親玉が振り返るが、そこには打ちのめされたパンチパーマ集団と、血の付いたバットを肩に担ぐ志乃が立っていた。
「アレ!?」
「よォ。アンタの部下情けないね。一瞬で片付いちゃったよ」
「なっ……お前ら、それでもパンチ……パーマぁぁぁぁ!!」
志乃に気を取られていた親玉は、少女の一撃にあっさりと静められるのだった……。
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一件を終えた銀時たちは、ホームの椅子に座り、少女は親玉のパンチパーマを剃っていた。
「助けにくるならハナから付いてくればいいのに」
「ワケの分からない奴ネ……シャイボーイか?」
「いや、ジャンプ買いに行くついでに気になったからよ。死ななくてよかったね〜」
「僕らの命は220円にも及ばないんですか」
「まあまあそう怒るなよ新八。ピンチの時に颯爽と現れる……それが主人公の掟だろ」
「だからって心臓に悪いんだよ!!要らんわそんな掟!!」
いつものような会話をしていると、電車がやってきた。
「あ、ホラ電車来たよ」
「早く行け。そして二度と戻ってくるな災厄娘」
「うん。そうしたいのはやまやまアルが、よくよく考えたら故郷に帰るためのお金持ってないネ。だからもう少し
少女の衝撃発言に、銀時は最新号のジャンプを破っていた。
買ったばかりなのに良かったのだろうか。
そして彼らの生活はジリ貧だというのに、ここで働いて大丈夫なのかお前は。
「じょっ……冗談じゃねーよ!!何でお前みたいなバイオレンスな小娘を……」
少女は銀時と新八の間に、拳を入れる。
壁にはヒビが入っていた。
「なんか言ったアルか?」
「「言ってません」」
「ははっ、楽しくなりそーだね」
「てめーコノヤロー!!他人事だと思いやがって!!よーし分かった。てめーんとこの店にエッチな手紙500通毎日送りつけてやる!!」
「嫌がらせが低俗ー」
「やめてください。パンの耳の支給が途絶えますよ」
こうして、夜兎族の少女ーー神楽が万事屋メンバーに加わった。
神楽のモデルとなったかぐや姫。彼女が登場するのは、今から1000年以上前に書かれた、日本で初めてと言われる物語。
「竹取物語」と呼ばれるそれは、誰もが知ってる話ですよね。誰が書いたかもいつ書かれたかもわかってない謎の多い物語ですが、大体10世紀頃には成立していたと言われています。
この話、ラストでかぐや姫が月に帰る前に、不死の薬を帝に手紙と共に渡すのですが、帝は大層悲しんで手紙を読むこともしませんでした。そして、この国で最も月に近い場所、つまり最も高い場所で、不死の薬を焼かせたのです。ここから、富士山(不死山)と呼ばれるようになったという逸話があります。
次回、泥棒猫&新キャラ登場です。