え?何が色々ヤバいって?……勘だよ!!なんとなくだよ!!
よっしゃ長編!!かかってこいやオラ。
他人の部屋に入る前にはノックを
この日も志乃はパンの耳を持って、銀時の家に遊びに行った。今日は時雪と一緒に、スクーターで道路の上を飛んでいた。
川の隣を走っていると、何やら人集りが出来ていた。川辺に死体が落ちており、それを奉行所の役人が見ていた。
「何やってんだろ、アレ」
その光景を見ていた志乃が、ボソッと呟く。彼女の呟きを受けて、時雪も川辺を見た。
「また死体が上がったのか……これで何人目だ?」
「え?どういうこと?」
志乃はちらりと横目で時雪を見ると、時雪は一度頷いてから彼女の問いに答えた。
「最近、巷で辻斬りが横行してるんだって。なんでも、狙われているのは浪人ばかりって話だけど……」
「へェ〜。物騒な世の中だね、まったく……ん?」
志乃は下を一瞥した瞬間、笠を被った見覚えのあるペンギンオバケを見た。
高度を下げ、そのペンギンオバケに近付く。
「おーい、エリ〜」
並走すると、エリザベスはこちらを見た。
「よォ。珍しいね、エリーが一人なんて。ヅラ兄ィは?今日は一緒じゃないの?」
いつも一緒にいるはずの桂のことを訊くと、エリザベスは足を止めた。それに応じて、志乃もスクーターを着地させる。
ぱっちり開いたエリザベスの目から、ポロッと涙が零れた。
「エリー!?」
「ど、どうしたのエリザベス。まさか、桂さんに何か……?」
エリザベスは涙を拭うと、プラカードを掲げた。
『万事屋銀ちゃんはどこにある?』
「銀の店?これから私ら行くけど……」
『一緒に連れてって』
志乃は後ろに座る時雪とお互い視線を交換してから、エリザベスに頷いた。エリザベスは時雪の後ろに無理やり乗り、彼らと共に銀時の元へ向かった。
********
「おーっす。邪魔するよ」
特にノックもせずガラガラと扉を開けて中に入った志乃に、銀時が椅子を回して彼女を見る。
「なんだぁ?てめー、部屋に入る前にはノックを忘れるなとあれほど口酸っぱく言っただろーが」
「初めて聞いたわ。それよりほら、お客さん」
志乃が少し体を右に出すと、彼女の後ろからエリザベスがジッと銀時を見つめた。
部屋の中に入ったエリザベスは、ソファに座る。そんな彼に警戒しながら、銀時は向かいのソファに座り、その隣に神楽、志乃が座った。
「お茶です」
お茶を出した新八は、すぐに銀時達の座るソファの後ろに立った。
「あの……今日は何の用で?」
恐る恐る新八が尋ねるも、エリザベスは無表情のまま。
銀時達は思わず、目の前に相手がいるにも関わらず、コソコソと話し始める。
「……何なんだよ、何しに来たんだよこの人。志乃、何か知らねーか?」
「私らも詳しくは聞いてない。依頼はアンタ達で訊いて」
「オイオイマジで何なんだよ、恐ーよ。黙ったままなんだけど。怒ってんの?何か怒ってんの?何か俺悪いことしましたか?」
「怒ってんですかアレ。笑ってんじゃないですか?」
「笑ってたら笑ってたで恐いよ。何で人ん
「新八、お前のお茶が気に食わなかったネ。お客様はお茶派ではなくコーヒー派だったアル」
「新八ィ、お茶汲みならそれくらい見極められるよーになれ。そして世界一のお茶汲みを目指せ」
「んなもんパッと見でわかるわけないだろ!!ってか何だよ世界一のお茶汲みって!?どこ目指してんだよ!」
「俺すぐピンときたぞ。見てみろ。お客様口がコーヒー豆みたいだろーが。観察力が足りねーんだお前は」
「銀時さん、悪口入ってません?」
新八はコーヒーを持ってきて、エリザベスに差し出した。
しかし、エリザベスは無言を貫く。
「オイなんだよォ!!全然変わんねーじゃねーか!」
銀時がコーヒーだと言い出した神楽の頭をバシッと叩く。
「銀さんだってコーヒー豆とか言ってたでしょーが!!」
「言ってません〜。どら焼き横からの図と言ったんです〜」
「うわァ、大人が責任逃れだ〜」
「うるさい取り敢えず黙れ志乃」
「痛い痛い痛い!!」
志乃にはアイアンクローを決める銀時。
いい大人が子供二人に手を上げた。この場にもし星海坊主や小春がいたら、銀時はすぐさま抹殺されていただろう。
時雪が遠い目でそんなことを考えていると、店の電話が鳴った。
「あ、ハイハイ万事屋ですけど」
銀時が電話を取ったのを見て、神楽は新八を見やる。
「新八、こうなったら最後の手段ネ。アレ出そう」
「え?いや、でもアレ銀さんのだし、怒られるよ」
「いいんだヨ。アイツもそろそろ乳離れしなきゃいけないんだから。奴には親がいない、私達が立派な大人に育てなきゃいけないネ」
「アレ?銀時さん今いくつ?」
三人がボソボソと会話をしていると、受話器を置いた銀時が部屋を出ようとした。
「おーう、俺ちょっくら出るわ。オイ志乃、行くぞ」
「え?私も?」
突然呼ばれた志乃は、せんべいを食べていた手を止め、立ち上がる。
「あっ、ちょっとどこ行くんですか!?」
「仕事〜。お客さんの相手は頼んだぞ」
「ウソ吐けェェェ!!自分だけ逃げるつもりだろ!!」
新八が部屋を出て行く銀時とそれに付き添う志乃の背中に叫ぶも、彼らはこちらを振り返ることなく扉を閉めた。
子供だけを残して逃げていった大人を見た三人は、ああはなるまいとお互いを見やる。そして、最終手段を出した。
「いちご牛乳でございます」
いちご牛乳を見つめたエリザベスは、ポロリと涙を流した。
「泣いた!やったァァ!スゴイよ新八くん!!」
「グッジョブアル新八、よくやったネ!!」
「……アレ?やったのかコレ」
傍らでハイタッチする時雪と神楽を見ながら、新八は一人首を傾げた。
********
一方銀時と志乃は、依頼主の家に訪れていた。家の屋根には刀鍛冶と書かれた看板が立てかけられ、彼らの仕事が一目見てわかった。
ちょうど依頼主は刀を打っているらしく、工房から大きな音が聞こえてくる。耳を塞ぎながらその入り口に立って、銀時は声をかけた。
「あの〜すいませ〜ん。万事屋ですけどォ」
しかし、工房の中で鉄を打っている男女は、彼らに全く気付かない。銀時はもう一度声を張り上げた。
「すいませーん、万事屋ですけどォ!!」
「あーーー!!あんだってェ!?」
「万事屋ですけどォ!!お電話頂いて参りましたァ!」
やっと聞こえた、と思ったが。
「新聞なら要らねーって言ってんだろーが!!」
聞こえてるようで聞こえてなかった。
流石にイラついた銀時が、大声で彼らを罵倒する。
「バーカバーカ!!どーせ聞こえねーだろ」
その瞬間、銀時に金槌が飛んできて彼の顎に直撃した。
志乃は倒れる銀時を見下ろしながら、金槌を手に取って言った。
「すいませーん、お電話頂いて参りましたァ万事屋でーす」
********
銀時と志乃は部屋の奥に通され、ようやく話を聞ける形になった。彼らの前に、依頼主の男女が並んで座る。
男が声を張り上げて、先程の件を謝罪してきた。
「いや、大変すまぬことをした!!こちらも汗だくで仕事をしているゆえ、手が滑ってしまった。申し訳ない!!」
「いえいえ」
銀時はそう答えた後、志乃にボソッと耳打ちする。
「絶対ェ聞こえてたよコイツら」
「だよね」
志乃がこくりと頷いて答えた。
「申し遅れた。私達は兄妹で刀鍛冶を営んでおります!私は兄の鉄矢!!そしてこっちは……」
鉄矢が大声で自己紹介をしたのに対し、妹は黙って視線を逸らした。
「オイ、挨拶くらいせぬか鉄子!名乗らねば坂田さんと霧島さん、お前を何と呼んでいいかわからぬだろう鉄子!!」
「お兄さん、もう言っちゃってるから。デカイ声で言っちゃってるから」
「すいません坂田さん霧島さん!!コイツ、シャイなあんちきしょうなもんで!」
「それにしても、廃刀令のご時世に刀鍛冶とは、色々大変そうですね」
「でね!!今回貴殿らに頼みたい仕事というのは……」
「オイ無視かオイ。聞こえてなかったのかな……」
「銀、私この人に話しかけるだけ無駄だと思ってきた」
銀時の言葉に一切耳を傾けない鉄矢に、志乃は諦めてポンと銀時の肩に手を置いた。
「実は先代……つまり私の父が作り上げた傑作『紅桜』が何者かに盗まれましてな!!」
「ほう!『紅桜』とは一体何ですか?」
「これを貴殿に探し出してきてもらいたい!!」
「アレェェ!?まだ聞こえてないの!?」
「無理だって銀」
またもや銀時の問いを無視して、鉄矢は続けた。
「紅桜は、江戸一番の刀匠と謳われた親父の仁鉄が打った刀の中でも、最高傑作といわれる業物でね。その鋭き刃は岩をも斬り裂き、月明かりに照らすと淡い紅色を帯びるその刀身は、夜桜の如く妖しく美しい。まさに二つとない名刀!!」
「そうですか!スゴイっすね!で、犯人に心当たりはないんですか!?」
「しかし、紅桜は決して人が触れていい代物ではない!!」
「お兄さん!?人の話を聞こう!!どこ見てる?俺のこと見てる!?」
「銀、だから無駄だってば」
志乃の目は、最早明日の方向に向いていた。
「何故なら、紅桜を打った父が一か月後にポックリと死んだのを皮切りに、それ以降も紅桜に関わる人間は必ず凶事に見舞われた!!あれは……あれは人の魂を吸う妖刀なんだ!!」
妖刀。そう聞いた志乃は、チラリと銀時の腰にある木刀を見た。
そういえば銀時のこの木刀も、妖刀だと言っていた。まぁ、彼のものは紛い物だが。
ちなみに自分の一族に代々伝わってきた太刀は、妖刀ではない。確かに他の刀と比べると少し特殊だが、それを除けば普通の刀だ。
なんてことを考えていると、紅桜の話を聞いた銀時は、鉄矢に負けぬよう叫ぶ。
「オイオイちょっと勘弁して下さいよ!じゃあ俺らにも何か不吉なことが起こるかもしれないじゃないですか!!」
「坂田さん霧島さん、紅桜が災いを呼び起こす前に何卒よろしくお願いします!!」
「聞けやァァァ!!コイツホントッ会ってから一回も俺の話聞いてねーよ!!」
相変わらず人の話を聞かず、頭を下げる鉄矢。苛立ちが募った銀時は、思わず叫ぶ。
その時、ふと鉄矢の隣に座っていた鉄子がボソッと言った。
「……兄者と話す時は、もっと耳元に寄って腹から声出さんと……」
「えっ、そうなの。じゃっ……」
妹からアドバイスを貰った銀時は、早速鉄矢の隣にしゃがんで叫んだ。
「お兄さァァァァァァん!!あの…………」
「うるさーい!!」
しかし鉄矢は、銀時にかなり強いビンタを浴びせた。
めんどくせー!!マジで何なのコイツ!?心の底からめんどくせー!!
志乃は言いたかったこと全てを心の中で叫ぶにとどまった。ただ単にめんどくさかっただけである。
********
その頃、新八、神楽、時雪はエリザベスに連れられ、橋の上にやってきた。
そしてそこで、エリザベスは血染めの桂の所持品を見せる。
「ここ数日、桂さんの姿を見てないなんて。どうしてもっと早く言わなかったんだエリザベス」
エリザベスは俯いて、プラカードを掲げた。
『最近巷で、辻斬りが横行している。もしかしたら……』
「……エリザベス、君が一番わかってるだろ。桂さんはその辺の辻斬りなんかに負ける人じゃない」
「でもこれを見る限り、何かあったことは明白」
「そうだね。早く見つけ出さないと、大変なことになるかもしれない」
桂の所持品を見つめて言った神楽と時雪の言葉に、エリザベスは一層弱気になってしまう。
『もう手遅れかも……』
「エリザベス……」
時雪が何か励ましの言葉をかけようとしたその時。
「バカヤロォォ!!」
『ぐはっ!!』
突然新八がエリザベスを殴り飛ばした。そして倒れたエリザベスの胸倉を掴んで、熱く語る。
「お前が信じないで、誰が桂さんを信じるんだ!!お前が前に悪徳奉行に捕まった時はなァ、桂さんはどんなになっても諦めなかったぞ!!今お前に出来ることは何だ!?桂さんのために出来ることは何だァ、言ってみろ!言えェェ!!」
しかしその時、エリザベスがボソッと口を開く。
「ってーな、放せよ。ミンチにすんぞ」
「……………………すいまっせ〜ん」
一気に冷えた空気。
何とかしなくては、本当に新八がミンチにされる。そう思った時雪は、彼らの間に割って入った。
「ここは二手に分かれよう。俺と神楽ちゃんは、定春と一緒に桂さんの行方を。新八くんはエリザベスと一緒に辻斬りの方を調べてくれ」
時雪は神楽と定春を促し、新八を残して橋から離れていった。
********
紅桜捜索を頼まれた銀時と志乃は、あちこちの質屋に行って探してみたが、全く見つからなかった。
駄菓子屋の前のベンチで一休みしながら、志乃はぐーっと伸びをする。
「見つからないねぇ、妖刀」
「だな〜。どこもかしこも見当たらねェ。ったく、最近の品揃えはどーなってんだよ。時代はなァ、既に通販で妖刀買えるようになるまで進んでんだぞ」
「銀のヤツは紛い物じゃん」
「紛い物でも本人が名刀と思ってりゃ名刀なんだよ」
二人は駄菓子屋で買ったラムネの瓶を開けて、ぐいっと呷る。
一息吐いた志乃はふと、時雪から聞いた話を思い出した。
「そういえばさ、最近ここらで辻斬りが流行ってんだってね。なんか、遠目でその辻斬りを見た奴がいたらしいんだけど。そいつが持ってる刀、刀というより生き物みたいだったって話だよ」
「へェ〜」
一気にラムネを飲み干した銀時が、興味なさそうにベンチに凭れる。
「もしかしたら……それじゃない?妖刀って」
「どーだろーな……ま、でも調べてみる価値はありそうだな」
銀時はベンチから立ち上がって、ボリボリと頭を掻く。
彼の背中を追って、志乃も立ち上がり走り出した。
********
それから二人は、辻斬りがよく出没するという、橋の前の路地裏に置いてある、ゴミバケツに身を隠した。長いな、コレ。
「オイ志乃、お前何でこんな狭い所に無理やり入ろうとするんだ」
「そこまで狭くないって。大丈夫大丈夫」
「どこがだよ!!お前は大丈夫かもしれねーがなァ、こっちは窮屈で仕方ねーんだよ!!」
そう。二人は一つのゴミバケツの中に入っているのだ。
銀時がゴミバケツの底に胡座をかいて座り、その上に志乃が座っている状態だ。しかもかなり狭いため、距離がもう近いことこの上ない。相手の顔が文字通り、目と鼻の先だ。
「アンタ、これを機とばかりに触ってきたら訴えるから」
「触らねーよ。妹の体触って喜ぶ兄とかどんなシスコンだ。安心しろ、お兄ちゃんにそんな趣味はないから」
「誰がお兄ちゃんだ。爛れた恋愛しかしたことなさそーなクセに」
「んだとォォォォ!?てめェ、俺の何を知ってんだよ!!」
「ただの予想だっつーの。妹にそんな想像されたくなければ、日頃の行いを一つでも良くするんだね」
志乃は少し体を伸ばして、ゴミバケツの蓋から外を覗く。銀時が痛がっていたが、お構いなしだ。
辺りはすっかり暗くなってしまい、人の気配はほとんど伺えない。
強いて言うなら、自分達がギュウギュウに詰め込まれているゴミバケツの後ろに、新八とエリザベスがいることくらいだろうか。
キョロキョロと辺りを見回していると、ふと別の気配を察した。志乃はすぐさまゴミバケツの中に隠れて、外の声に耳をそばだてる。
「オイ。何やってんだ貴様らこんな所で?怪しい奴らめ」
「なんだァ〜奉行所の人か。ビックリさせないでくださいよ」
新八がホッとして、溜息を吐く。
「ビックリしたじゃないよ。何やってんだって聞いてんの。お前らわかってんの?最近ここらにはなァ……」
ふと、奉行所の役人の声が途切れる。次の瞬間、ドチャッと倒れる音が聞こえた。
そしてその後、別の声が聞こえてくる。
「辻斬りが出るから危ないよ」
「志乃!」
「わかってるよ!!」
新八の悲鳴を聞き止めた銀時は、まだ比較的動ける志乃に出るように促す。
志乃はゴミバケツの蓋を金属バットで押し上げてから、辻斬りの持っている刀を横薙ぎに弾き飛ばす。刀は辻斬りの背後の地面に突き刺さった。
「オイオイ、妖刀を捜してこんな所まで来てみりゃ」
「どっかで見たことあるツラじゃん」
「銀さん!!志乃ちゃん!!」
ゴミバケツから出てきた二人を見て、新八が叫んだ。目の前の辻斬りの男は、被っていた笠を脱ぐ。
「ホントだ。どこかで嗅いだ匂いだね」
その男は銀時の隠し子騒動の際、二人とやり合った人斬り似蔵こと、岡田似蔵だった。