昨日夕方頃に一度帰宅した志乃は、翌朝再び森の中に入っていった。そして、昨日仕掛けたトラップを見上げる。
「おっ、カブト虫」
志乃は木に登り、バナナに吸い付くカブト虫をそっと手で捕まえ、虫カゴに入れた。羽の光沢が美しく、艶もある綺麗なカブト虫だ。
志乃はカブト虫を真選組の面々に見せようと、彼らの元に駆け寄る。
「おはよ〜。…………」
しかし、志乃は彼らを見て絶句した。昨日と比べて、ハチミツ塗れの男の人数が増えている。
この組織、マジでヤバい。今日限りで辞めさせてもらえないだろうか。
志乃は彼らから全力で目を逸らしながら、辞表を書くべきか本気で検討した。
その中の近藤が、志乃に気付いて声をかけてくる。
「おっ!おはよう志乃ちゃん!」
「…………」
志乃は苦笑いで会釈をしてから、スススス……と逃げるように山崎の元へ歩いていった。
どうやら彼女の中で、近藤=危ない人という方程式が出来上がりつつあるらしい。近藤はショックを隠し切れず、ガクッと膝をついた。
「ザキ兄ィ、コレ見てよ。カブト虫捕まえたよ」
「どれどれ?おっ!コレは綺麗なカブト虫だね。昨日の仕掛けで?」
「うん。本当は夜中が一番良かったんだけどね。光とか当てたら、カブト虫以外にももっとたくさん虫が集まるから」
「へぇ〜、すごいね」
現在真選組内で、志乃が一番懐いてるのは山崎である。それが鮮明にわかった瞬間だった。
「でも、まだ瑠璃丸は見つかってないんだね」
「そーだね〜。家出した奴なんかほっといて、新たな恋に向かって走ればいいと思うけど」
「いや、ソレ根本的な解決になってないから」
山崎からツッコミを受けた志乃は、伸びをして上着を脱ぐ。とにかく、暑いったらありゃしない。ついでに胸元のボタンも開けて、少し緩めた。
隣で何やら山崎が顔を赤らめて慌てていたが、無視した。
それから、単独で瑠璃丸を探しに出た。
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結果から言うと、今回の瑠璃丸捜索は失敗に終わった。
瑠璃丸は見つかったものの、神楽が沖田とのカブト相撲に連れていってしまい、沖田も沖田で、超巨大カブト虫で瑠璃丸を迎え撃った。
カブト相撲自体は銀時のおかげで阻止されたが、その時に銀時が瑠璃丸を踏み潰してしまったのだ。
「……本当にやらかしちゃったね」
新八から事情を聴いた志乃は、ある程度予測していた結果に溜息を吐いた。
そして、隊士に頼んで紙と筆を貰い、将軍に手紙を
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その後近藤と土方についていって警察庁に赴いた志乃。しかし何故か近藤はハチミツ塗れのまま、兜を頭に被っていた。
通された長官室で、松平が偉そうに座っていた。実際偉いのだが。
「よォ、今回はご苦労だったな。わざわざカブト虫ごときのために色々迷惑かけちまってよう。で、見つかったのか?トシ」
「…………ああ、見つかるには見つかったんだが。あの…………突然変異」
「腹切れ」
やはり近藤で誤魔化そうとしたのか。
即刻切腹を命じられた二人の前に立ち、志乃は虫カゴを松平の机の上に置いた。
「とっつァん。コレ、将ちゃんに渡してくれない?今回のお詫び」
「あん?」
松平は虫カゴを手に取ると、中身を確認する。中には、普通のカブト虫と手紙が入っていた。
「見たところ、危険物は入ってねーな」
「んなもん入れるわけねーだろ」
「しゃーねェ、渡しといてやるよ」
「ん、ありがと。じゃあこれで、真選組の皆さんの切腹はナシでよろしく」
「てめーのコレでどちらに転ぶかわからねーがな。……まァ、何とかしてやるよ」
志乃は松平に微笑みかけ、長官室を出て行った。
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『拝啓 将ちゃんへ
元気にやってますか?私は元気です。
今回、瑠璃丸を返せなくてごめんなさい。代わりと言ってはなんですが、私が捕まえたカブト虫をプレゼントします。
でも将ちゃん、これだけは覚えておいてください。
カブト虫だって、ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きています。生きている限り、みんな自由を求めます。瑠璃丸もきっと、自由を求めて逃げちゃったんじゃないかと思います。
だから、瑠璃丸を責めないでください。そして、これからも元気でお仕事頑張ってください。天国へ昇っていった瑠璃丸も、将ちゃんを見守っています。私も応援してます。
また将ちゃんと会える日を楽しみにしています。その時はそよと三人で、カブト虫を捕りに行きましょうね。
敬具 霧島志乃より』
次回、紅桜篇!!うぉわぁぁぁぁ!!