銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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ペットは飼い方をきっちり学んで万全の準備をした上で飼いなさい

「知るかボケェェ!!金がねーなら腎臓なり何なり売って金作らんかいクソッたりゃー!!」

 

「家賃ごときでうるせーよクソババア!!こないだアレ……ビデオ直してやったろ!アレでチャラでいいだろが!!」

 

「いいわけねーだろ!五か月分の家賃だぞ!!大体あのビデオまた壊れて、『鬼平犯科帳』コンプリート失敗しちまったわい!!」

 

「バカヤロー諦めんな!きっとまた再放送するさ!!」

 

「んなこたァいいから家賃よこせっつーんだよこの天然パーマメント!!」

 

「んだコラァお前に天然パーマの苦しみが分かるか!!」

 

玄関先でギャーギャーうるさい銀時と大家のお登勢が組み合っている。それを下から眺めながら、志乃はアイスを頬張っていた。

 

「ぎゃああああ!!」

 

おそらく銀時はお登勢に投げ飛ばされたのだろう。

ガッシャァアンという大きな音と共に、新八の叫び声が町中に響く。

こいつら……いい近所迷惑だっつーの。

志乃は呆れて、いつも差し入れで持ってくるパンの耳を、贔屓にしているパン屋まで貰いに行った。

 

********

 

「しっかし大変だねェアンタも」

 

「ホントだよ。どーすんスか生活費まで引っぱがされて……今月の僕の給料ちゃんと出るんでしょーね。頼みますよ、僕ん家の家計だってキツいんだから」

 

新八に淹れてもらった茶を啜りながら志乃はソファに凭れる。

差し入れはさほど喜ばれなかったが、生活がジリ貧の彼らにとって、救いの手だったらしい。

ふと、銀時がボソッと呟いた。

 

「腎臓ってよォ二つもあんの何か邪魔じゃない?」

 

「売らんぞォォ!!何恐ろしー事考えてんだ!!」

 

「え、何?新八腎臓売るの?献身的だねェ。高値で買い取ってくれる所紹介してあげるけど」

 

「だから売らねーって言ってんだろ!!二人揃って何同じ事考えてんだよ!!」

 

「カリカリすんなや。金はなァ、がっつく奴の所には入ってこねーもんさ」

 

銀時は頬杖をつきながら、テレビの電源を入れる。

 

「ウチ姉上が今度はスナックで働き始めて、寝る間も惜しんで頑張ってるんスよ……」

 

「アリ?映りワリーな」

 

「新八〜アンテナになって屋根の上に立っといてくんない?金はやらねーけど」

 

「ちょっと!聞ーてんの?」

 

「オ……はいった」

 

銀時が、テレビが映らない時によくやるあるある行動・テレビを叩くことにより、なんとかテレビが映る。こういうあるある行動は意外と役に立つものである。

テレビでは丁度ニュース番組がやっていた。どうやら、宇宙生物(えいりあん)が街で暴れているらしく、街の映像では建物がひどく損壊していた。

 

「オイオイまたターミナルから宇宙生物(えいりあん)侵入か?最近多いねェ」

 

「ぶっそーな世の中だね、まったく」

 

宇宙生物(えいりあん)より今はどーやって生計たてるかの方が問題スよ」

 

新八が呆れたように言うと、玄関のインターホンが鳴った。

 

「え、まさかまたあのババア?」

 

「チッ、しつけーババアだなァ!!」

 

「待って銀、私も協力するよ。しつこいネチネチした女は嫌いだからね」

 

「よし、行くか」

 

「お前ら何のユニット組んでんだよ!!」

 

銀時と志乃が固い握手を交わす隣で、新八がツッコむ。今ここに、世界最弱の対お登勢コンビが形成された。

二人は同時に玄関へ勢いよく走り出した。

 

「金ならもうねーって言ってんだろーが腐れババア!!」

 

「人の話はちゃんと聞けェェ!!」

 

2人揃ってドアを蹴破り、その向こう側にいるはずのお登勢を蹴ったーーはずだった。

しかし、二人が蹴ったのはお登勢ではなく、グラサンに顎髭を生やしたおっさんだった。

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

「局長ォォ!!」

 

「貴様ァァ!!何をするかァァ!!」

 

どうやら彼らは普通の依頼者らしい。

ただ依頼に来ただけなのに、一体誰がこんな結末を予想できただろうか。いや、できない。

 

「スンマセン間違えました」

 

「出直してきまーす」

 

「待てェェェ!!」

 

明らかにやらかした二人は、そそくさと家に戻ろうとする。

しかし、後頭部に突きつけられた拳銃に、足を止めた。

 

「えー、何?私ら何もやらかしてないよ?うん」

 

「今のはカウントしてないのか。いや、そんなことはどうでもいい。貴様らが万事屋だな。我々と一緒に来てもらおう」

 

「……わりーな。知らねー人にはついていくなって母ちゃんに言われてんだ」

 

「グラサンにロクな奴はいないって教わってるの」

 

幕府(おかみ)の言う事には逆らうなとも教わらなかったか」

 

「オメーら幕府の……!?」

 

「入国管理局の者だ。アンタらに仕事の依頼に来たんだ。万事屋さんたち」

 

********

 

銀時、新八、志乃は、依頼者の入国管理局長、長谷川泰三の車に乗せられ、移動していた。

しかし、どこに行くかはまったく聞いていない。ましてや依頼内容も聞いていない。

こんな理不尽な依頼があるのだろうか。いや、実際に現実として起きているから仕方ない。それに、この依頼者は幕府の重鎮だと言う。

 

「そんな偉いさんが、万事屋なんかに何の用だよ……怪しーなー……」

 

「何の用ですかおじさん」

 

志乃は腑に落ちないらしく、溜息交じりに独りごちる。その隣に座る銀時は、余裕ぶっこいて鼻をほじっていた。

長谷川はこちらを振り返らず、煙草に火をつける。

 

「万事屋っつったっけ?金さえ積めば何でもやってくれる奴らがいるって聞いてさ。ちょっと仕事頼みたくてね」

 

「仕事ォ?」

 

幕府(てめーら)仕事なんてしてたのか。街見てみろ。天人共が好き勝手やってるぜ」

 

「アンタらが仕事してたなんて初耳ィ〜」

 

銀時と志乃の情け容赦ない言い分に、長谷川は苦笑いを浮かべる。

 

「こりゃ手厳しいね。俺たちもやれることはやってるんだがね。何せ江戸がこれだけ進歩したのも奴らのおかげだから。おまけに地球(ここ)をエラク気に入ってるようだし無下には扱えんだろ。既に幕府の中枢にも天人は根を張ってるしな。地球から奴らを追い出そうなんて夢はもう見んことだ。俺たちに出来ることは奴らとうまいこと共生していくことだけだよ」

 

「ふーん……共生、ねェ……」

 

「んで、俺らにどうしろっての」

 

「俺たちもあまり派手に動けん仕事でなァ。公にすると幕府の信用が落ちかねん。実はな、今幕府は外交上の問題で国を左右する程の危機を迎えてるんだ。央国星の皇子が今地球(ここ)に滞在してるんだが、その皇子がちょっと問題を抱えていてな……」

 

「はァ、問題。で、それは何なの?」

 

「それが……」

 

********

 

「余のペットがの〜居なくなってしまったのじゃ。探し出して捕らえてくれんかのォ」

 

チョウチンアンコウみたいな触角を頭上から生やし、まさにワガママ皇子のクセに超ブサイクを絵に描いたような皇子の登場と、国家を左右する程の危機の内容に、銀時と志乃と新八は一瞬で帰ろうと踵を返した。

 

「オイぃぃぃ!!ちょっと待てェェェ!!」

 

もちろん、長谷川に止められたが。

 

「君ら万事屋だろ?何でもやる万事屋だろ?いや、分かるよ!分かるけどやって!頼むからやって!」

 

「うるせーな。グラサン叩き割るぞうすらハゲ」

 

「顎髭むしり取るぞ」

 

「ああ、ハゲでいい!!むしり取っていいからやってくれ!!」

 

それに加えて、長谷川は銀時らが帰ろうとした理由も悟ったらしい。第一印象は誰が見てもやはり同じようなものなのだろうか。

長谷川は危機の理由も詳しく説明する。

 

「ヤバイんだよ。あそこの国からは色々金とかも借りてるから幕府(うち)

 

「知らねーよ。そっちの問題だろ」

 

「ペットぐらいで滅ぶ国なら滅んだ方がいいわ。つか滅べ」

 

この会話が聞かれていたらしく、皇子が横槍を入れてきた。

 

「ペットぐらいとは何じゃ。ペスは余の家族も同然ぞ」

 

「あのね、ペットはどう考えても家族には入らないから。だって法律で守られるのは動物愛護法だけだし」

 

「だったらテメーで探してくださいバカ皇子」

 

「オイぃぃ!!バカだけど皇子だから!!皇子なの!!」

 

「アンタ丸聞こえですよ」

 

自分のことを棚に上げて銀時と志乃の口を塞ぐ長谷川に、すかさず新八のツッコミが入る。

新八は何故万事屋の力を借りるのか、と疑問をぶつけた。

 

「大体そんな問題貴方達だけで解決出来るでしょ」

 

「いや、それがダメなんだ。だってペットっつっても……」

 

長谷川が言いかけた途端、背後にあるホテルが崩れ、地響きが鳴った。

それに歓喜の表情を浮かべる皇子。

 

「ペスじゃ!!ペスが余の元に帰って来てくれたぞよ!!誰か捕まえてたもれ!!」

 

ペスは、ペットと呼ぶにはかなりかけ離れた、可愛げどころか化け物感満載のタコだった。

ホテルを次々と粉々にし、こちらへ進撃してくる。

 

「ペスぅぅぅ!?ウソぉぉぉぉ!!」

 

「だから言ったじゃん!!だから言ったじゃん!!」

 

「あっ!!テレビで暴れてた謎の怪物ってコレ!?」

 

「あー、アレか……って、なんてことしてくれてんだバカ皇子!!こちとら迷惑どころの話じゃねーんだよ!!アレに怯えて今でも恐怖に支配される生活を送ってる人だってきっといるんだぞ!!」

 

「ちょ、志乃ちゃん落ち着いて!!」

 

今も避難生活を強いられている江戸市民たちの怒りを代弁した志乃は、皇子を殴ろうとする。

なんとか新八が羽交い締めで押さえながらも、ツッコミ要員は的確なツッコミを忘れない。

 

「てゆーかこんなんどーやって捕まえろってんスか!!そもそもどーやって飼ったわけ!?」

 

「ペスはの〜秘境の星で発見した未確認生物でな。余に懐いてしまった故船で牽引して連れ帰ったのじゃふァ!!」

 

バカ皇子はペスの触手に殴られ、遠く彼方に吹き飛ばされてしまった。

 

「全然懐いてないじゃないスか!!」

 

ペスは皇子をぶっ飛ばした後、街へ向かって歩いていく。

その前に立ちはだかるように、木刀と金属バットを構えた銀時と志乃が現れた。

 

「新八、醤油買ってこい。今日の晩ご飯はタコの刺身だ。いや、タコ焼きのが良いか」

 

「タコのマリネとカルパッチョもよろしく」

 

「「それじゃあ……いただきまーす!!」」

 

「させるかァァ!!」

 

ペスを食べる気満々だった2人は、獲物に向かって走り出す。

そのハンティングを、長谷川がスライディングで2人の足を引っ掛け、転ばせた。

銀時は脳天を地面に勢いよくぶつけ、志乃はごろりんと一回転した。

 

「いだだだだ!!何しやがんだ!!脳ミソ出てない?コレ」

 

「出るはずないじゃん、だってアンタの頭に脳ミソなんて入ってないし」

 

「手ェ出しちゃダメだ。無傷で捕まえろって皇子に言われてんだ!!」

 

「無傷?出来るかァそんなん!!」

 

「それを何とかしてもらおうとアンタら呼んだの!」

 

「無理な事は無理なんだよ!!諦めてハンティングさせろ!私の晩飯奪うつもりかコノヤロー!!」

 

「うわァァァァ!!」

 

長谷川と口論をしていた銀時と志乃が、新八の悲鳴に振り仰ぐ。

新八はペスの触手に捕まり、今まさに食されようとしていた。すぐに銀時が助けに行こうとするが、後頭部に銃が突きつけられる。

 

「勝手なマネするなって言ってるでしょ」

 

「てめェ……」

 

「無傷で捕獲なんざ不可能なのは百も承知だよ」

 

「はァ!?じゃあ何で私らにこんなこと……」

 

「多少の犠牲が出なきゃバカ皇子は分かんないんだって」

 

「!!てめー……だからって……処分許可を得るために新八をエサにするってかよ!!ふざけんなよ!」

 

志乃は思っている丈を、長谷川にぶつけた。

こんなことに意味がないのはわかっている。だが、国を護るために一人の人間の命を犠牲にすることが、何より許せなかった。

 

「どーやら幕府(てめーら)ホントに腐っちまってるみてーだな」

 

「言ったろ。俺たちは奴らと共生していくしかないんだってば。腐ってよーが俺は俺のやり方で国を護らしてもらう。それが俺なりの武士道だ」

 

「クク、そーかい。んじゃ、俺は俺の武士道でいかせてもらう‼︎」

 

銀時は長谷川の銃を持つ手を蹴り上げ、新八の救出に向かった。

志乃も金属バットを握り直し、駆け出す。

長谷川が一人の人間と一国、どちらが大切か考えろと叫ぶ。しかしそんな問い、彼らにとっては愚問だった。

ペスの触手をかわしながら、今にも噛み砕かれそうな新八に、銀時と志乃が叫ぶ。

 

「新八ィィィ!!気張れェェェ!!」

 

「どーしたァ!!男だったら根性見せんかい!!」

 

「気張れったって……どちくしょォォ!!」

 

渾身の力でペスの口を押し開き、そこへ二人が駆け出す。

 

「志乃ォ!!新八頼んだぞ!!」

 

「分かってらァ!!」

 

志乃はペスの上顎を金属バットで思いきり突く。

大きく開いた口に、銀時が飛び込んだ。

 

「幕府が滅ぼうが国が滅ぼうが、関係ないもんね!!俺は、自分(てめー)肉体(からだ)が滅ぶまで、背筋のばして生きてくだけよっ!!」

 

ペスの中に、銀時が入る。すると次の瞬間にペスは盛大に血を吐いた。

新八を触手から救出した志乃は、ペスの口付近にいたため、全身に血を浴びる。

 

「うわっ!もー、またクリーニング出さなきゃいけないじゃん」

 

「銀さん!!無事ですかァ!!」

 

口に向かって、新八が呼びかける。

口内から、同じく血塗れになった銀時が出てきた。

 

「お〜何とかな……」

 

「銀さん!!」

 

「ったく、手間取らせんなっつーの」

 

志乃と新八に手を引かれ、ペスの体内から銀時が帰還する。

志乃は溜息をつきながらも、その表情はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「いや……アレだよ。持つべきものは妹ってな」

 

「は?アンタを兄貴だと思ったことはねーよクソ天パ」

 

「んだとコラァァ!!てめー天然パーマバカにしてんだろコノヤロー!!見ろ!この鮮やかなパーマを!!これ地毛だぞ!どーだバカヤロー!!」

 

「何言ってんのお前」

 

志乃が冷静に銀時にツッコミを入れた瞬間、長谷川はあのバカ皇子にアッパーカットを喰らわせていた。

それをめざとく見つけて、銀時が笑う。その笑顔は嫌な奴の笑顔だった。

 

「あ〜〜あ!!いいのかな〜んな事して〜」

 

「知るかバカタレ。ここは侍の国だ。好き勝手させるかってんだ」

 

振り返った長谷川の表情も、どことなく晴れ晴れとしていた。

 

「でも、もう天人取り締まれなくなりますね。間違いなくリストラっスよ」

 

「え?」

 

「あー……仮にも皇子にアッパーカット炸裂させちゃったもんね〜」

 

「バカだな。一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすんだよ」




新八のモデルとなった永倉新八は、新撰組二番隊隊長として活躍していました。新撰組の阿部十郎によると、「一に永倉、二に沖田、三に斎藤」と証言しており、実は剣術の腕においてはあの沖田総司より上だったとも言われています。意外とすごいな、新八!
また、巨大化した新撰組トップの土方や近藤の態度に腹を立て、上司の松平容保に訴えるほどの気概も持ち併せています。
……え?志村けんはどうかって?ンなもん私なんかが語れるわけないでしょう!

次回、神楽登場です。

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