銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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天狗の鼻は折られる
第一印象が礼儀正しい奴ほど裏の顔は怖い


朝。志乃は、いつものように銀時の家へ遊びに行った。

しかし、声が一階のスナックお登勢の方で聞こえてきたので、階段を降りて扉を開けようとした。

その時。

 

ドカッ!

 

「どわぁあああああああ!?」

 

突如扉を蹴破って、銀時が逃げるように走っていった。

志乃は思わず尻餅をついたが、すぐに立ち上がって呆然として銀時が逃げた方向を見る。

 

「え、何?マジで何なの?アレ?今日ジャンプの発売日か?違うよな……」

 

「あ、志乃ちゃん」

 

何故銀時があんなに急いで走っていったのか理由を模索していると、店の中から出てきた新八が、彼女に気付いた。彼の後ろには、神楽、お登勢、キャサリンの姿もある。

 

「あ、おはよう新八」

 

「おはよう。で、何で志乃ちゃんがそんな所に……」

 

「今日アンタらのとこに遊びに来たんだけど。ねぇ、どーしたの?銀は」

 

「志乃ちゃん、よく聞くアル。銀ちゃんに隠し子がいたアルネ!」

 

「隠し子?」

 

興奮気味に神楽が志乃の肩に手を置いて言うが、志乃は首を傾げるだけだった。

 

「隠し子……って何?」

 

「……………………えっ?」

 

間を置いて、新八がどういうことか二文字で尋ねる。

 

「だから、隠し子って何?って」

 

「え"え"え"え"え"え"え"え"!!志乃ちゃん隠し子の意味知らないの!?」

 

「えと……うん」

 

「ちょっと待って!それじゃあ、どうやって子供が出来るかも?」

 

「え?だって子供は夫婦の愛の結晶だって言うじゃん。だから、夫婦の愛の力をお腹に注いで初めて出来るんじゃないの?」

 

「何ィィィこのロマンティックな発想!?眩しいよ!僕らの心が汚れ過ぎて眩しいよこの子!!」

 

「ねぇ神楽、こいつ何言ってんの?」

 

「ほっとくネ志乃ちゃん。志乃ちゃんは、こんなダメガネみたいになっちゃいけないアルヨ」

 

まあ、志乃が隠し子を知らないことは置いといて。

新八が、朝からの経緯を説明した。

 

「なるほど。店の前に赤ん坊がねェ……。で、銀は親を探しに行ったわけ?」

 

「んー、僕らも厳密にはそこまでわからないけど、多分そんな感じかな」

 

志乃への説明が終わり、彼女も理解したところで、ふと彼らに声をかける者がいた。

 

「あのう……すいません、ちょっとお伺いしたい事があるんですが」

 

そう言って現れたのは、何やら低い腰の纏う雰囲気が金持ち感満載のおじいさんだった。

何者か図れなかった志乃は、金属バットに意識を集中させながら、彼に話しかける。

 

「私らに何かご用でしょうか?ご老人」

 

「すいません、実は人探しをしておりまして。この娘をご存じありませんか?」

 

おじいさんはそう言って、志乃に一枚の写真を渡した。彼女が写真を見るのと同時に、後ろにいた新八達も背中から覗き込む。

写真に写っているのは、とても綺麗な女性だった。

しかし、志乃に見覚えはなく、後ろにいるお登勢に尋ねてみる。

 

「ねェ、ババア。知らない?」

 

「そうだねェ」

 

お登勢は志乃から写真を受け取りジッと見てみた。しかし、心当たりは無かった。

 

「悪いけど知らないねェ。こんな娘、見たこともない」

 

「そーですか。あっ、申し訳ありません。いきなり名乗りもせず不躾に」

 

おじいさんは一礼してから、自己紹介をした。

 

「あの、申し遅れました。私、橋田賀兵衛と申しまして。このかぶき町で店を開かせてもらってます。ご存知ですか?」

 

「え"!!あの大財閥の!?」

 

「何それ?」

 

「後ろ後ろ!見えるでしょ、あのデカイ建物!」

 

志乃が新八の言葉に振り返ると、確かにそこには新八の言った通り、デカイ建物があった。

なるほど、リッチであることに間違いはなかったか。

志乃は自分の勘を素直に褒め、話題の方に戻る。

 

「かぶき町のことなら何にでも精通しているというお登勢殿にお聞きすれば、何かわかるかもしれないと思いお伺いさせてもらったんですが」

 

「悪いね、力になれなくて。で?一体何があったんだィ?」

 

お登勢が事情を尋ねると、賀兵衛は押し黙った。

何かを隠している。その態度を見て、志乃はそう思った。

 

「………………実は……先日、私のたった一人の大切な孫が……あの……突然……いなくなってしまいまして」

 

「!(かどわ)かし?」

 

「……断定出来ませんが、まだ歩くのも覚束ない子ゆえ、恐らく……それで、心当たりを当たってみたところ、その娘が……」

 

「こんな綺麗な人が……」

 

新八は写真を見て、信じられない様子で呟く。

志乃は、賀兵衛の方が怪しいとずっと思っていた。そこで、一歩踏み込んでみる。

 

「おじいさん、奉行所には相談したの?」

 

「それが、何分込み入った事情がございまして。あまり公には……」

 

「出来ないってこと?それはしたくないの間違いじゃない?」

 

志乃の鋭い指摘に、賀兵衛は一瞬固くなった。彼の周囲を固めるお付きのような男達が、敵意を自分に向けたことを察した。

ビンゴだ。志乃は心の中で、ニヤリと笑った。

だが、これ以上踏み込めば何やらヤバイ気がした。

この賀兵衛という男、ただの商人ではない。そんな気がした。

そこで、今度は浅く探ってみる。

 

「まぁでも、事情が事情だし……公がどうこうって言ってる場合じゃないでしょ?」

 

「……ええ、そうなんですが……なんとも」

 

やはり、公にはしたくない理由があるらしい。

賀兵衛は今度は、お登勢達の方に言った。

 

「あの、皆さん。どうか……この娘を見かけたら、連絡だけでもいいのでご協力願います。あの、孫の写真の方も……」

 

そう言って孫の写真を手渡した瞬間。

 

「すいませーん。いないんですかァ」

 

一人の女性が、店の奥を覗き込んで声をかけていた。どうやら、店員を探しているらしい。

お登勢はすぐに、彼女に声をかける。

 

「おーい、こっちだよ。何か用かィ?」

 

声を耳にした女性が、こちらを振り返る。

その女性は、賀兵衛が探しているという写真の女性そっくりだった。


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