銀時と志乃、星海坊主は鬼神の如く暴れ回り、えいりあんの体を掻っ裂き次々と倒していった。
粗方えいりあんは片付き、三人は息を弾ませ、背中合わせで立っていた。
「ねェ、なんか今頃来たよ。遅ーっつのバカ共が」
こちらへ飛んでくる幕府の軍艦を見上げ、志乃は笑う。
彼女の言葉を受けて、星海坊主も辺りを見回しながら言った。
「もうほとんどカタついたじゃねーのか。……にしてもてめーら、地球人にしちゃあやるな」
「てめーに言われても嬉しくねーよ、化け物め。片腕でよくここまで暴れられたもんだぜ」
「よく言うよ、銀。アンタも片腕のくせにさ」
志乃は銀時の血塗れになった左腕を見て、肩を竦める。
しかし志乃も右足をえいりあんに噛まれ、赤黒い血がどくどくと流れ続けていた。
彼らを見て、星海坊主は逃げるように諭す。
「悪いこたァ言わねー。帰れ。死ぬぞ」
「帰りてーけど、どっから帰りゃいいんだ?非常口も見当たらねーよ」
「あー、もうこりゃ残るっきゃないね〜。残念残念」
えいりあんによって侵食された船は、形は残してはいるものの内部は既にボロボロだった。
志乃は金属バットを甲板に立て、少し体重をそこへ預けた。
星海坊主は背を向けたまま、銀時に問いかける。
「……てめーのハラが読めねー。神楽を突き放しておきながら、何でここにいる?何でここまでやる?」
「俺が訊きてーくらいだよ。何でこんな所に来ちまったかな、俺ァ」
「お前……」
「安心しなァ。あんなうるせーガキ連れ戻そうなんてハラはねー。勿論、死ぬつもりもねェ…………だが、あいつを死なせるつもりもねーよ」
「私もさ、お父さん」
志乃はもう一度自分の足で立ち、星海坊主を振り返った。
「言ったろ?私はあいつの友達だ。友達を助けるのに理由なんて要らないんだよ。それが江戸っ子の心意気ってヤツさ。……手紙書きたいから、また後で住所教えてよね」
星海坊主は彼らを肩越しに見て、ニヤリと楽しげに笑った。
「クク。……面白ェ。面白ェよお前ら。神楽が気に入るのもわかった気がする。だが腕一本で何が出来るよ?」
「アンタも一本だろ」
「何言ってんの?」
背中合わせのままの彼らに、えいりあんが鎌首をもたげる。
「全部合わせたら、四本さ」
三人は一斉に踏み込み、えいりあんを斬った。
「胸クソワリーが、神楽助けるまでは協力してやるよ!」
「ありがたく思いな、お父さん!!」
「そーかイ。そいつァ、ありがとよォ!!」
星海坊主が跳躍し、えいりあんを撃った。
すると船の底が抜け、中から大きな玉が現れた。
志乃は思わず目を見開き、星海坊主に訊いた。
「ねェ、何アレ?」
「核だ。寄生型えいりあんの中枢……こんなデケーのは初めて見るが、ターミナルのエネルギーを過度に吸収して肥大化し、船底を破っちまったようだ」
「じゃ、アレを潰せばこいつらを……」
止められる、と言いかけた志乃と、銀時と星海坊主の目に、見覚えのある少女がえいりあんに取り込まれている光景が入ってきた。
「かっ……神楽ァァァァァァァ!!」
三人はすぐさま核に飛び降り、着地する。しかし、銀時だけは滑って転んでいた。その間に、神楽は核に呑み込まれてしまった。
神楽が取り込まれた場所に、三人が駆け寄る。志乃は膝をつき、核の中にいる彼女の名を呼ぶ。
「神楽!!神楽!!」
「オイ、呑まれちまったぜ!どういうこった!?」
「……ヤ……ヤバイ」
星海坊主も志乃の隣で、絶望するように膝をついた。
「野郎ォ……神楽を取り込みやがった。このままじゃ、こいつを仕留めることは出来ねー。こいつを殺れば、神楽も死ぬ」
「!!」
嫌だ。神楽が死ぬなんて絶対に嫌だ。でも、どうやったら神楽を救える……!?
考え込む志乃の耳に、別の声が入ってきた。それは、軍艦から発せられていた。
「えっ、えー。ターミナル周辺にとどまっている民間人に告ぐ!ただちにターミナルから離れなさい!今からえいりあんに一斉放射をしかける。ただちにターミナルから離れなさい」
その声と共に、軍艦の砲口がこちらへ向けられた。大人しくなっていたえいりあんも再び活動を始める。
「あー、もう……!」
どいつもこいつも……!
志乃は苛立ち、ぐしゃりと髪を握り締める。
ふと、傍らの星海坊主が立ち上がった。
「行け。もうじきここは火の海だ。てめーらを巻き込むわけにはいかねェ」
「なっ……」
「てめー、まさか一人で……」
「……つくづく情けねー男だよ、俺は。最強だなんだと言われたところでよォ、なーんにも護れやしねー。家族一つ……娘一人護れやしねーんだなァ。俺って奴ァよォ」
星海坊主は傘を手に、艦隊と対峙した。
「………………これも逃げ続けてきた代償か。すまねェ神楽……せめて最期はお前と一緒に死なせてくれ」
彼の背中を見ていた二人は、お互いをチラリと見てフッと嘆息した。
「ったく、これだから世の父親ってのは娘に煙たがられるんだよ。護ろうと思うあまり、娘を信じてないんだ。ねっ、銀」
「ああ、そーさな。お父さんよォ。アンタ
星海坊主はこちらを振り返り、銀時と目が合った。銀時は木刀を手にしていた。
「五分だ。五分だけ時間を稼いでくれ。俺を信じろとは言わねェ。だが、
銀時は木刀を核に突き刺した。
えいりあんの触手は自分に害をなす銀時を覆い、そのまま彼を呑み込んだ。
「!!なっ……」
驚く星海坊主を尻目に、志乃は痛む足を引きずって、金属バットを支えに立ち上がった。
「さァ〜てと。五分か……説得出来ますかね」
血が付着した口を手の甲で拭い、腰のベルトについている拡声器を手に取る。
生まれたての子鹿のようにガクガクと震える右足を引きずって立つ志乃の背に、星海坊主が咎めた。
「オイ、何を……!?」
「時間稼ぎさ。あいつら相手に五分も説得出来るか不安だがね。私、気が短いからさァ」
ニッと笑った次の瞬間、彼女の背後で大きなものが落ちてくる音がした。
「よォ、やっと来たか。
新八、定春」
志乃が振り返ると、新八と定春が、ハタ皇子とじいを連れて立っていた。
志乃はハタ皇子の首根っこを掴んで前に立たせ、拡声器のスイッチをオンにして、腹の底から叫んだ。
「オイコラてめーらァァこのオッサンが目に入らねーかァ!!今大砲ブチ込めばこの央国星皇子が爆死しちまうぞォォ!!もれなく国際問題っつー素敵なオマケがついてくるぞォォォ!!いいか、たった五分だ!五分でいいから待てっつってんだよ!!お高めのカップ麺作って待っとけやボケェェェ!さもなくばぶっ飛ばすぞコルァ!!」
要件を告げた志乃は、拡声器のスイッチを消して下に下ろす。数回咳払いをしてから、一息吐いた。
ハタ皇子が、志乃を振り返って訊く。
「撃たないよね?コレ撃たないよね?大丈夫だよね」
「けほっ……多分ね」
喉を押さえ、艦隊を見つめる。
すると、一隻の軍艦の砲口に、何やらエネルギーっぽいものが集中していた。
「……アレ?」
「なんか……撃とうとしてない?」
「ウソ……ウソだろオイ。皇子だよ。仮にも皇子だよ」
志乃達の額に、冷や汗が流れる。
新八が逃げよう、と言おうとしたその時。
「それ私の酢昆布ネェェェ!!」
核を突き破って、神楽が銀時と共に飛び出してきた。