銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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子供にはせめて純粋でいてもらいたい

現場へ急行したパトカーが何か人っぽいものを撥ねた。それに構わず、志乃、土方、原田の三人はパトカーのドアを開ける。

 

「えいりあんがなんぼのもんじゃーい!」

 

「なんぼのもんじゃーい!」

 

「えいりあんがなんぼのもんじゃああい!!」

 

「いや、えいりあんじゃねーからコレ!!」

 

いきなり人を撥ねた警察に、同じ警察がツッコむ。志乃が撥ねたものを見てみると、何やらえいりあんぽい着ぐるみを着た近藤だった。

何故そんな格好を?と疑問を持ったが、銀行の中からこちらへ何かが来る気配を感じる。志乃は金属バットに手をかけ、前に躍り出た。

しかし、山崎に肩を掴まれて止められる。

 

「ダメだよ志乃ちゃん!君はまだケガ治ってないんだから、下がってて!」

 

「ちょっ、放してよ!ジミーのくせに生意気だ!」

 

「やめて志乃ちゃん!!せめてザキ兄ィって呼んで!!」

 

悲しむ山崎の手をなんとか振り払った志乃の前にある自動ドアが開く。

そこには、バーコード頭の眼鏡をかけたオッさんがいた。しかも何故か、神楽の腕を掴んでいる。

 

「いいから来いってんだよ。アレだ、マロンパフェ食わしてやっから。なっ?」

 

「ちょ、離してヨ。離れて歩いてヨ」

 

「何だ、お父さんと歩くのが恥ずかしいのか!?どこだ!!どの辺が恥ずかしい?具体的に言え、お父さん直すから!」

 

「もう取り返しのつかないところだヨ」

 

「神楽ちゃん、人間には取り返しのつかない事なんてないぞ!どんな過ちも必ず償える!」

 

「無理だヨ〜。一度死んだ毛根は帰ってこないヨ〜」

 

「…………何やってんの、神楽」

 

志乃は呆然として、ズルズルお父さんに引っ張られる神楽に声をかける。

彼女に気付いた神楽が、志乃を振り返った。

 

「あっ、志乃ちゃん!こんなムサい連中と何やってるネ」

 

「いや、こっちの台詞だから。え、誰?あの人誰?」

 

「話すと長くなるから、取り敢えず来てほしいネ」

 

「はい?」

 

YesかNoか答える間も与えず、神楽は志乃の手首を掴む。そして、芋づる式にズルズルと引っ張られた。

 

「いや、ちょ、神楽。私まだバイト中なんだけど……ってあだだだだだだだだ!!わかった!行く!行くから握り締めないで……骨っ!骨折れる!!」

 

言い訳すら聞いてもらえず、志乃はそのまま神楽に連行された。

 

********

 

デパートのレストランに連れて行かれた志乃は、新八、銀時と並んで、神楽とお父さんと向かい合って座っていた。

 

「星海坊主ぅぅ!?星海坊主って……あの……えっ!?神楽ちゃんのお父さんが!?」

 

新八は神楽のお父さん=星海坊主だと聞いて、驚く。しかし、銀時と志乃はそれを知らなかった。

 

「星海坊主?何それ?妖怪?坊主じゃねーぞ。うすらってるぞ頭」

 

「まだギリギリ大丈夫だよ。坊主じゃないから」

 

「オイ、うすらってるって何だ。人の頭をさすらってるみたいな言い方するな。ってかその励ましやめろ」

 

失礼な発言に、星海坊主がツッコむ。新八は、銀時と志乃に彼のことを説明した。

 

「星海坊主といえば、銀河に名を轟かす最強のえいりあんばすたーっスよ。化け物を狩るため銀河中を駆け巡るさすらいの掃除屋」

 

「へー、神楽のお父さんってスゴイ人なんだね」

 

「あー、ハイハイ聞いたことあるわ。うすらいの掃除屋」

 

「オイ、うすらいの掃除屋って何だ。ただのダメなオっさんじゃねーか」

 

銀時の失言に苛立った星海坊主は、立ち上がって手をバキバキと鳴らす。

 

「カチンときた。お父さんカチンときたよ。ガチンとやっちゃっていい?」

 

「落ち着くネ、ウスラー」

 

「ウスラーって……アレ?でもハスラーみたいでカッコいいかも」

 

それでいいのか、お父さん。

志乃はツッコみたかったが、話が逸れそうなのでそれを呑み込んだ。

そして、神楽が銀時達を紹介する。

 

「ウスラー、紹介するネ。こっちのダメな眼鏡が新八アル」

 

「ダメって何?」

 

「こっちのダメなモジャモジャが銀ちゃんアル」

 

「だからダメって何?」

 

「こっちの女の子が私の友達志乃ちゃんアル」

 

「「オイッ何でコイツだけマトモな紹介なんだよ!?」」

 

「それほどアンタらがなめられてるってことでしょ」

 

ダメ呼ばわりされた男二人が、唯一ダメと言われなかった少女に(たしな)められた。

 

「私が地球(こっち)で面倒見てやってる連中ネ。挨拶するヨロシ」

 

しかし、星海坊主は睨んだまま眼鏡を押し上げるだけだった。

 

「フン。なんか良からぬことでも考えてたんじゃねーの。夜兎の力を悪用しようって輩が巷にゃ溢れてるからな」

 

「なんだァ?悪用ってどういうことだコラ。てめーの頭で大根でも摩り下ろすことを指すのか?」

 

何やら喧嘩腰になる星海坊主と銀時。席を立ち、睨み合う。

 

「大体、長い間娘ほったらかしてた親父がとやかく言えた義理かよ」

 

「なんだァ、こちとら必死に捜し回ってたっつーんだよ。ちょっと目ェ離したら消えてたんだよ。難しーんだよ、この年頃の娘は。ガラス細工のように繊細なんだよ」

 

「何言ってやがんだ。ガラス細工のような危なげな頭しやがって」

 

最後が悪口になった銀時の胸倉を星海坊主が掴み、ガタガタと揺らす。

 

「てめェェ、今の内だけだぞ強気でいられるのは!!三十過ぎたら急に来るんだよ!!いつの間にか毛根の女神が実家に帰ってたんだよ!」

 

「あーそうですか。だったら毛根の女神の実家までストーキングすりゃよかったのに」

 

「わかるかァァ!!いつの間にかいなくなってたんだよ!行方も知らせず夜逃げしたんだよ!」

 

「あっそ。そりゃ残念だ」

 

志乃のアドバイスも一蹴し、喚き散らす星海坊主。志乃は肩を竦め、少し(ぬる)くなったメロンソーダを呷った。

 

「とにかく、てめーのような奴にウチの娘は任せてられねェ。神楽ちゃんは俺が連れて帰るからな!!」

 

「なーーに勝手に決めてんだァァ!!」

 

「ぐはっ!!」

 

星海坊主の後頭部に向けて、神楽が蹴りをお見舞いする。星海坊主に胸倉を掴まれていた銀時も吹っ飛ばされ、隣のテーブルにぶつかった。

いきなり娘に蹴飛ばされ、星海坊主は彼女に向き直る。

 

「神楽ちゃん何すんの!!ドメスティックバイオレンス!?」

 

「今まで家庭ほったらかして好き勝手やってたパピーに、今更干渉されたくないネ。パピーも勝手、私も勝手。私勝手に地球来た。帰るのも勝手にするネ」

 

星海坊主は立ち上がって、眼鏡の位置を直しながら言う。

 

「神楽ちゃん、家族ってのは鳥の巣のようなもんだ。鳥はいつまでも飛び続けられるわけじゃねェ。帰る巣が無くなれば、いずれ地に落っちまうもんさ」

 

「パピーは渡り鳥。巣なんて必要ないアル。私もそう、巣なんて止まり木があれば充分ネ」

 

「それじゃ、何でこの止まり木にこだわる?ここでしか得られねーモンでもあるってのか」

 

「またあそこに帰ったところで何が得られるネ。私は好きな木に止まって好きに飛ぶネ」

 

「…………ガキが、ナマ言ってんじゃねーぞ」

 

「ハゲが、いつまでもガキだと思ってんじゃないネ」

 

二人の間に、何やら不穏な空気が流れ始める。何だか嫌な予感がした三人は、彼らを止めようと声をかけかけた。

しかし、その前に二人は得物の傘を持って、窓を破って飛び降りた。

 

「ちょっ、神楽……」

 

志乃が彼女を追って、飛び降りようとしたその時。

 

ブーッブーッブーッ

 

「ん?」

 

彼女の腰にかけている携帯のバイブが鳴った。それを開き、誰からの通話か見ずに耳に当てる。

 

「ハイ、もしもし。志乃ちゃんです」

 

「てめェ今どこにいるクソガキ!!仕事ほっぽり出して急にどっか行きやがって!早く戻ってこい!!」

 

電話から聞こえてきた声は、土方だった。怒涛の勢いで耳に入ってきた声は用件だけを言うと切れ、通話終了の音だけが響いた。

あ、忘れてた。今バイト中じゃん。

志乃はガシガシと頭を掻いて、銀時を振り返った。

 

「じゃ、私これからバイトだから」

 

「えっ……ちょ、志乃ちゃん!神楽ちゃんは……」

 

新八が彼女を引き止めるが、志乃は立ち止まって肩越しに新八を見て言った。

 

「親子のいざこざに部外者(あたしら)が、そんな簡単に首突っ込んでいいモンじゃないと思うから。事が終わったら教えて」

 

志乃はレストランを出て、大江戸信用金庫に戻るべくデパートを出て走り出した。

背後から聞こえる爆音やら何やらを、聞こえないフリをして。


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