銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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今回から星海坊主編スタートです。
では、景気付けに気合い入れますっ!
長編がなんぼのもんじゃあああああああい!!


星海坊主篇 親父なら娘に一度は「お父さんと結婚したい!」と言われたいもの
何故炭酸飲料は多くの人の心を掴むのか


今日も志乃は、バイトで真選組の仕事を手伝っていた。しかし。

 

「ねぇ、何ココ?」

 

市中見廻りと称して志乃が連れて行かれた場所は、映画館だった。

志乃は思わず、付き添いで共に来ていた土方にもう一度尋ねていた。

 

「ねぇ、私バイトで来てんだけど?何で映画館?」

 

「近藤さんにお前をここに連れてけって言われてな」

 

「近藤さんが?何で?」

 

「お前、バイト初日の大怪我まだ治ってねーんだろ。近藤さんなりの詫びの印だろーよ」

 

「へぇ〜」

 

志乃は土方の答えを聞きながら、映画館へ視線を移す。

今、映画館では話題作「えいりあんVSやくざ」がやっていた。

 

「あっ!コレ、ずっと観たいと思ってた映画なんだ!早く行こうよ!!」

 

 

まあ、近藤の好意を蔑ろにする理由もないか。

そう思って、志乃は土方と彼と共に来ていた原田右之助の手をぐいぐいと引いて、映画館に入っていった。

 

********

 

映画を楽しんだ志乃達は、パンフレットやらグッズやらを買ってパトカーに乗った。

その時、屯所からの無線が入る。

話をうっすら聞くと、星海(うみ)坊主という通り名を持つ有名なえいりあんばすたーが、屯所にやってきたという。

 

「なに……星海坊主が?なんだって、そんな大物がグスッ」

 

「ううっ……」

 

「アレ?志乃ちゃん、トシ、何かあったのか?」

 

「なんでもありませんよ局長」

 

映画の感動が余韻を引く中、三人は今だ涙を流している。

この状況を知らない近藤は、土方らにそちらの状況を告げる。

 

「江戸に第一級危険生物が入り込んだとのことだ。寄生型えいりあん、放っておけば大変なことになるぞ」

 

「えいりあん?」

 

その言葉を聞いた途端、原田は急にアクセルをかけてパトカーを発進させた。

 

「えいりあんがなんぼのもんじゃあああ!!」

 

「ここは侍の国だぞォォ!!」

 

「アニキの敵じゃああああああ!!」

 

「オイトシ、志乃ちゃん、どうした?何かあったのか」

 

映画の内容を軽く引っさげて、前の席に座る男二人組は叫ぶ。志乃もそれに便乗して叫んだ。

泣いていたと思ったら突然叫び出した三人に、近藤がどうしたのかと問いかける。話すと長くなるし何より面倒なので、取り敢えず志乃が状況を訊いた。

 

「それで?えいりあんってどんな奴なの」

 

「あ、ああ。とにかく今から言うことをよく聞いてくれ。寄生型えいりあんは、人間から犬猫何にでも寄生する。知能は低いが、食料調達のために何でも狩る危険な奴だ!」

 

「ほうほう。なかなかヤバい奴じゃん」

 

「寄生された者を判別するには、顔を見るのが早い。パンダを探せ!」

 

「パンダぁ?」

 

志乃は思わず、顔をしかめた。その後に、近藤の説明が付け加えられる。

 

「寄生された者の目の周囲には、クマのような黒い痣が出る。いいかみんな、パンダを探すんだ。被害が出る前に何としても食い止めるんだ」

 

「了解」

 

「パンダだ。パンダダじゃないぞ、パンダだ。いや、今のはそーいう『だ』じゃなくて」

 

「もうわかったよ!うるさいな!」

 

知るか!何だパンダダって!

志乃は苛立ち任せに無線をプチッと切った。

原田が一度パトカーを止め、土方と共に降り出す。それを見た志乃も降りようとしたが、土方は彼女に釘を打った。

 

「ダメだ。てめーはここで待ってろ」

 

「えっ!?何で?」

 

「近藤さんから、無茶をさせるなと言われててな。てめーは動いたら何でも無茶しやがる。大人しく待ってろ」

 

「ちょっ……」

 

志乃が呼び止める前に、パタンとドアが閉まった。そして、そこに鍵をかけられる。

ケッ、準備のいいことで。志乃は舌打ちした。

どかっとでかい態度で座席に座り直すと、再び無線が入った。近藤からだ。

 

「はーい、志乃です」

 

「ああ。聞いてくれ、志乃ちゃん。先程総悟から連絡が入ってな。大江戸信用金庫に立てこもっている銀行強盗に、えいりあんが寄生しているらしい。すぐに向かってくれ!」

 

「ラジャー」

 

無線を切った志乃は、窓の外を見て、土方と原田の姿を探した。しかし、どこまで行ったのかわからない。

仕方なく、志乃は彼らの帰りを待つことにした。

 

「まだかな〜……」

 

靴を脱ぎ、座席の上で膝を抱えてぽふっと頭を乗せてみる。

彼女の脳裏に、ふと昔の情景が浮かんできた。

 

********

 

見渡す限り、死体、死体、死体。その中を、一人の青年がこちらへ歩いてきた。

青年は自分と同じ銀髪を括り、風に靡かせている。太刀を持ち、血塗れになった羽織を着て、笑顔を向けていた。

 

それを見つけた幼い頃の自分は、ぱあっと明るい笑顔を浮かべ、彼に駆け寄る。彼は自分と視線を合わせるようにしゃがみ、ぎゅっと自分を抱き締めてくれる。

 

「お兄ちゃん!」

 

笑顔でそう呼ぶと、決まって彼は哀しそうに笑っていた。

 

どうして?どうしてお兄ちゃんはいつもそんなにかなしそうなの?

そう尋ねたくても、自分はあまりにも幼過ぎて。

 

その疑問を、何度も胸の奥に隠した。それを繰り返していたら、いつの間にか兄は死んでしまった。

兄の遺体は、帰ってこなかった。遺されたのは、彼が使っていた太刀のみ。

悲しくて悲しくて、空に叫ぶように哭いた。弔いの気持ちとか、そんなものは全く無く。ただ、自分の気持ちに正直に哭いた。

 

そこで、いつものように記憶のページが破れていた。

 

********

 

「ーーい、オイクソガキ!!起きろ!」

 

「あだっ!?」

 

ベシッと、土方に頭を叩かれる。痛むそこを摩りながら、志乃は前の席に座る彼らを見た。

どうやら、いつの間にか眠っていたようだ。

 

「おかえり」

 

「ああ」

 

「あっ、そうだ。近藤さんから連絡入ったよ。大江戸信用金庫に大至急向かってくれって」

 

「そーか。コレ」

 

「ん?」

 

土方がヒョイと渡してきたのは、メロンソーダが入った冷たいペットボトルだった。

 

「やる。留守番ご苦労だったな」

 

「ん。ありがと」

 

志乃はニコッと笑って、メロンソーダを一口飲んだ。

シュワシュワと音を立てて、冷たい炭酸が口の中で踊る。

それを堪能してから、ビシッと前を指さした。

 

「行くぞォ!えいりあんがなんぼのもんじゃーい!!」

 

「「えいりあんがなんぼのもんじゃああああ!!」」

 

再び心のアクセルがかかった二人。パトカーを爆走させながら、現場へ向かった。


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