銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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殴り込みは型さえ出来てればあとはどうにでもなる

お妙がキノコに連れていかれてから、新八は庭で八つ当たりのように木刀を振っていた。

 

「んだよチキショー!!バカ姉貴がよォォ!!父ちゃん父ちゃんってあのハゲが何してくれたってよ!たまにオセロやってくれたぐらいじゃねーか!!」

 

「父ちゃんハゲてたのか」

 

「銀、今時の若者はスキンヘッドって言うらしいよ」

 

「いや、精神的にハゲて……ってアンタらまだいたんですか!!てゆーかスキンヘッドとハゲは違うわ!!スキンヘッドは髪を剃るけど、ハゲは自然と髪が抜けるんだよ!!しかも人ん家で何本格的なクッキングに挑戦してんの!!」

 

新八のツッコミを完全に聞き流し、銀時はショートケーキワンホールを、志乃は広島風お好み焼きを一枚焼いていた。ちなみに志乃の着流しはいつの間にか洗濯して綺麗になっている。

 

「いや、定期的に甘いもの食わねーとダメなんだ俺」

 

「念のため言っとくけどアンタの分なんて焼いてないから」

 

「だったらもっとお手軽なもの作れや!!あと要らんわ!!」

 

ケーキとお好み焼きを作り終えた銀時と志乃は、新八と一緒に机を囲む。

ふと、銀が新八に尋ねた。

 

「……ねーちゃん追わなくていいのか」

 

「……知らないっスよ。自分で決めて行ったんだから」

 

「おやおや、冷たい奴だね〜」

 

「うるさいです。……姉上もやっぱ、父上の娘だな。そっくりだ。父上も義理だの人情だの、そんな事ばっか言ってるお人好しで、そこをつけこまれ、友人に借金しょいこまされてのたれ死んだ」

 

二人は新八の話を、もっちゃもっちゃと咀嚼しながら聞く。

 

「どうしてあんなにみんな不器用かな。僕は綺麗事並べてのたれ死ぬのは御免ですよ。今の時代、そんなの持ってたって邪魔なだけだ。僕はもっと器用に生き延びてやる」

 

「ふーん……あ、そ。でもさァ……私にはとても、アンタが器用だなんて思えないんだけどなァ」

 

新八は涙を堪えていたのだ。

志乃はそんな彼を見て、ニッと笑う。

 

「アンタもお姉さんも、似た者同士だねェ。私そーゆー人間、好きだよ」

 

お好み焼きとケーキを食べ終わった銀時と志乃は、立ち上がった。

 

「侍が動くのに理屈なんて要らないよ」

 

「そこに護りてェもんがあるなら、剣を抜きゃいい。……姉ちゃんは好きか?」

 

銀時の言葉に、新八は涙を流しながらも、確かに頷いた。

 

********

 

銀時、志乃、新八はノーパンしゃぶしゃぶ天国の船に向けて、原チャリを飛ばしていた。

銀時の後ろに新八が乗り、志乃は垂直離着陸機能を搭載したスクーターで並走していた。

ちなみに、第一便の出航時刻は目前に迫っている。

 

「ヤバイ!!もう船が出ます!!もっとスピード出ないんですか!!」

 

「いや、こないだスピード違反で罰金とられたばっかだから」

 

「んな事言ってる場合じゃないんですって!!姉上がノーパンの危機なんスよ!!」

 

「ノーパンぐらいでやかましーんだよ!!世の中にはなァ、新聞紙をパンツと呼んで暮らす侍もいんだよ」

 

「銀、それデジャヴ」

 

志乃が、薄っすらとしたツッコミを入れる。

彼らの上空に、ふとパトカーが飛んできた。

 

「そこのノーヘル、止まれコノヤロー。道路交通法違反だコノヤロー」

 

「大丈夫ですぅ。頭硬いから」

 

「そーゆー問題じゃねーんだよ!!規則だよ規則!!」

 

「うるせーな、(かて)ーって言ってんだろ」

 

銀時はパトカーに近付き、ヘッドバットを役人の鼻に向けてかます。役人は鼻血を出して悶えていた。うわ〜、痛そっ。

ふと三人が空を見てみると、ノーパ以下略の船が既に出航し、空に飛んでいた。

 

「ノーパンしゃぶしゃぶ天国……出発しちゃった!!どーすんだァ!!あんなに高く……あ"あ"あ"あ"!!姉上がノーパンにぃ」

 

「ったく、こーなったら……」

 

最悪の事態に錯乱しかける新八を横目に、志乃はスクーターの速度を少し下げ、パトカーと並んだ。

 

「ねー、おじさん。この車貸してくれない?」

 

「何言ってんだてめー!!これは役人の車だぞ、貸すわけねーだろ……っておいィィィィ!!何勝手に乗ってくれちゃってんだよ!!」

 

志乃は役人の言葉を全てシカトして、パトカーに乗り込む。

彼女を降ろそうとしてくる役人が、腕を掴む。しかし志乃はすぐさまバットで役人の顔面を殴りつけた。

そして、運転している役人にバットを突きつける。

 

「まあ、そーいうこった。貸せ」

 

志乃はあくまで、あくまで笑顔で懇願した。

脅迫だって?人聞きの悪い!!

役人を全員まとめて後部座席にブチ込み、晴れて運転席に座った志乃は、アクセルを踏んで銀時の原チャリに追いつかせる。

 

「銀!新八!殴り込み行くよ」

 

「おっ。気が利くねー」

 

「オイ!!何役人普通に脅してんだよ!!って、うわああああ!?」

 

助手席の窓からパトカー内に転がり込んだ銀時と新八が所定の位置に着くのを見て、アクセル全開でノーパンしゃぶしゃぶ天国に向かう。

ぎゅうぎゅう詰めになりながらも、新八はハンドルを握る志乃に尋ねる。

 

「ちょっ、ちょっと待って!!志乃ちゃん免許持ってるはずないよね!?何やってんの!!」

 

「……オラァてめーら!!突っ込むぞォォ!!捕まれェェェェェ!!」

 

「無視するなァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

新八の悲鳴を完璧に聞き流し、スピードを上げたパトカーは、ノーパンしゃぶしゃぶ天国に突っ込んだ。

 

ドッゴォ!

 

ちょうどそこにはお妙だけでなくあのキノコがいるらしく、声が聞こえた。

志乃は思わずガッツポーズをした。スゲェ!私天才じゃん!

 

「アカンで、コレパトカーやん!!役人が嗅ぎつけて来よったか!!」

 

「なワケないでしょ。ただのレンタカーだっつーの」

 

「どーも万事屋でーす」

 

「姉上ェ!!まだパンツは履いていますか!!」

 

ここで登場救世主。木刀と金属バットを肩に置き、戦闘モードで銀時と志乃、新八はキメた。

やはり殴り込みというのははカッコよくやればやるほど、それっぽく見えるものである。

 

「……新ちゃん!!」

 

「おのれら何さらしてくれとんじゃー!!」

 

「姉上返してもらいに来た」

 

「アホかァァ!!どいつもこいつももう遅いゆーのが分からんかァ!!新八お前こんな真似さらして道場タダですまんで!!」

 

「道場なんて知ったこっちゃないね。僕は姉上がいつも笑ってる道場が好きなんだ。姉上の泣き顔見るくらいなら、あんな道場いらない」

 

「新ちゃん……」

 

きっぱりと言い切った新八には、大切なものを護るという決意の光が宿っていた。

たった一日でここまで逞しくなったもんだ。志乃は、成長した彼を見て、フッと口元が綻んだ。

だが、状況がマズイことには変わりない。すぐさま四人の周りをキノコ軍団が彼らを囲む。

 

「ボケがァァ!!たった三人で何できるゆーねん!!いてもうたらァ!!」

 

「へー、何だか楽しくなってきたじゃん」

 

「オイ。俺らがひきつけといてやるから、てめーは脱出ポッドでも探して逃げろ」

 

「あんたらは!?」

 

「ゴタゴタ言うな。あんたは姉ちゃん護ることだけ考えときゃいーの」

 

「俺は俺の護りてェもん護る」

 

木刀に手をかけた銀時の隣に、志乃も金属バットを肩に置いて立つ。

 

「オイ志乃」

 

「ん?」

 

「分かってるだろーな。今回は俺の客だからな」

 

「ハイハイ、わかってますよ。ま、仕事仲間の(よしみ)って奴だ。こいつら倒すのに付き合ってやんよ」

 

「何をゴチャゴチャ抜かしとんじゃ!!死ねェェ!!」

 

キノコの合図と共に、銀時と志乃にキノコ軍団が襲いかかる。

しかし、銀時は木刀で、志乃は金属バットでキノコ共を一掃して、道を切り開いていった。

 

「はイイイイ次ィィィィ!!」

 

「返り討ちじゃァァ!!」

 

次々とキノコを打ち倒し、薙ぎ倒す。

一方でキノコ軍団とお妙と新八は、彼らの強さに驚いていた。

 

「新一ぃぃぃ!!行けェェェ!!」

 

「新八だボケェェ!!」

 

新八は名前を間違えて叫んだ銀にもツッコミを忘れず、お妙の手を引いて走り出した。

お妙は、他人である自分たちのためにあそこまで戦ってくれる彼らが気になってたようだが、弟に手を引かれ、とにかく逃げる他なかった。

 

「新ちゃん、いいのあの人たち……いくら何でも多すぎよ、敵が。何であそこまで私達のこと……」

 

「そんなの分かんないよ!!」

 

新八はお妙を振り返ることなく、答えた。

 

「でも、あいつらは戻ってくる!!だってあいつらの中にはある気がするんだ。父上が言ってた、あの……」

 

「あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

「逃げろォォォォッ!!」

 

同時に聞こえてきた声に、2人が振り返ると、銀時と志乃が敵との戦闘から必死になって逃げていた。

 

「ホントに戻ってきた!!」

 

「キツかったんだ!!思ったよりキツかったんだ!!」

 

「銀、老けたね」

 

「んだとォこのガキが!!年上に向かってなんて口聞いてんだ!!」

 

小さな口喧嘩を挟みつつ、新八達に追いつくスピードで走る。

 

「ちょっと!!頼みますよ!!たった数行しかもってないじゃないですか!!」

 

「バカヤロー!!文章を書くってことはなァ、作者にとってんまい棒100本食べるくらい大変なんだぞ」

 

「知るか!!いーからとっとと脱出ポッド探せこのノロマァ!!」

 

「何ちゃっかり楽してんだ!!降りろ!!」

 

走るのに疲れた志乃は、新八の肩に乗り、馬車馬のように彼を叩いて急がせる。

切羽詰まった彼らが逃げ込んだのは、船の動力室だった。

後ろにキノコたちが追いつく。キノコは、拳銃をこちらに向けていた。

 

「追いかけっこは終いやでェ。哀れやの〜昔は国を守護する剣だった侍が、今では娘っ子一人護ることもでけへん(なまくら)や。おたくらに護れるもんなんてもう何もないで。この国も……空もわしら天人のもんやさかい」

 

「国だ空だァ?くれてやるよんなもん。こちとら目の前のもん護るのに手一杯だ。それでさえ護り切れずによォ、今まで幾つ取り零してきたかしれねェ。俺にはもう何もねーがよォ、せめて目の前で落ちるものがあるなら、拾ってやりてェのさ」

 

「しみったれた武士道やの〜。もうお前はエエわ……()ねや」

 

キノコは今度こそ銀時を撃とうと銃を向ける。

しかし、それはキノコの部下により止められた。

 

「ちょっ、あきまへんて社長!!アレに弾当たったらどないするんですか。船もろともおっ死にますよ」

 

「ア……アカン。忘れとった」

 

キノコの話が本当だとするならば、動力源が壊れればこの船は止まるということだ。

そう判断した銀時と志乃は、キノコたちを無視して、動力源に登った。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

「よいしょって年取った人が使う言葉だよね」

 

「バカヤロー。それを言うならどっこいしょだ」

 

「どっちも同じでしょ」

 

「って……登っちゃってるよあいつら!!おいィィ!!ちょっ待ちィィ!!アカンでそれ!!この船の心臓……」

 

「ダメって言われたらやるのがセオリーでしょ?」

 

動力源に登りつめた銀時と志乃はその上に立ち、木刀と金属バットを振るった。

 

「客の大事なもんは、俺の大事なもんでもある」

 

「そいつを護るためなら、私らァ何でもやるよ!!」

 

ズゴン!!

 

力強く振るわれた木刀と金属バットは、動力源に強い刺激を与えた。

 

「きいやァァァァァホンマにやりよったァァ!!」

 

動力源はひび割れ、もはやそれとして機能せず、船は重力に従って落ち始めた。

 

「何この浮遊感気持ち悪っ!!」

 

「ぃえっふぅー!!ジェットコースターみたいだぅおうぇええええ!!」

 

「落ちてんのコレ!?落ちてんの!?ってかここで吐くのやめろォォォォ!!」

 

船内で悲鳴が鳴り響く中、船は江戸の海に落ちていった……。

 

********

 

「幸い海の上だったから良かったようなものの、街に落ちてたらどーなってたことやら。あんな無茶苦茶な侍見たことない」

 

「でも結局助けられちゃったわね」

 

 

「んだよォ!!江戸の風紀を乱す輩の逮捕に協力してやったんだぞ!!」

 

「パトカー拝借したのくらい水に流しなよネチネチうるさいなァ!!」

 

「拝借ってお前パトカーも俺もボロボロじゃねーか!!ただの強盗だボケ」

 

「元々ボロボロの顔じゃねーか!!かえって二枚目になったんじゃねーか」

 

「あ、これ私が吐いた奴処理よろしく」

 

「マジでか!!どのへん!?つーかいらんわ!!自分で処理しろ!!」

 

役人と2人のコントみたいな口論を遠くで見つめながら、新八は呟く。

 

「……姉上、僕……」

 

「行きなさい。あの人達の中に何か見つけたんでしょ。行って見つけてくるといいわ。貴方の剣を」

 

弟の言いたいことを察したお妙は、すぐに許可を出した。

 

「私は私のやり方で探すわ。大丈夫。もう無茶はしないから。私だって新ちゃんの泣き顔なんて見たくないからね」

 

「姉上……」

 

新八は父が亡くなる前に、自分たちに遺した最期の言葉を思い出していた。

 

ーー父上。彼らの魂、如何なるものか。酷く分かり辛いですが、それは鈍く……確かに光っているように思うのです。今しばらく傍らでその光……眺めてみようと思います。

 

新八はそう亡き父に語りかけながら、役人に抑えられている銀時と志乃の元に駆け寄ったのだったーー。




坂田銀時のモデルとなった坂田金時は、平安時代の武士・源頼光(よりみつ)の家臣です。頼光四天王の一人として、大江山の酒呑童子を倒した話で有名ですね。

しかし、この坂田金時は、実在した人物ではないと言われています。元々大江山の鬼退治自体、室町時代頃に作られた伝説であるため、恐らくその辺りで創作されたのではないか、と思われます。

ですが、坂田金時は「金太郎」として後世にも知られていたり、彼の息子である坂田金平はきんぴらごぼうの名の由来になったと言われているあたり、世間の人に親しまれてきたのではないかと思います。

次回、化け物ペット相手に暴れます。

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