銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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今回オリジナル回です。キャー怖い。
シリアス6割くらいの確率でお送りまします。


バイトの面接は取り敢えず嘘だけ吐いとけば6割くらいの確率で受かる

煉獄関の一件から二日後。志乃は、土方に呼び出された。

あれから小春達は全員全治二ヶ月の怪我を負い、しばらくは病院生活を送ることになった。時雪は事情を聞き、明日帰ってくる予定だ。

 

つまり、今日も一日暇なのだ。その暇が潰せると思い、志乃は真選組屯所に赴いた。

 

********

 

客間に通されると、そこには近藤と土方と沖田が座っていた。

 

「で、何?万事屋の依頼……ってワケでもなさそうだけど」

 

「呼び出された理由はてめェが一番わかってるだろ?」

 

腕を組んで煙草を吹かす土方に、志乃は首を傾げる。

強い口調で話す土方を、近藤が宥めようとした。

 

「トシ、何もそんな強く問い詰めなくても……」

 

「え?私何もしてないけど?強いて言うならアンタんとこの冷蔵庫からマヨネーズパクったくらいかな」

 

「そーいうことじゃね……ってオイ!!パクった?パクっただと!?今マヨネーズパクったっつったよな、オイ!!」

 

さらりと聞き流しそうだった重要ワードの数々に何とか反応し、土方は志乃の着物の襟を掴んだ。

近藤は慌てて二人の間に割って入ろうとする。沖田はどうでもよさそうに欠伸(あくび)をした。

 

「どうりで最近マヨネーズのストックが少ないと思ったら!!てめーのせいだったんだな!?」

 

「たくさんあったんだからちょっとくらいいいじゃん!!その日トッキーが、ウチで鶏肉と野菜のソテーをマヨネーズで作るって言ったんだけど、ウチに無くてさ。ちょうどいいやと思って……」

 

「てめェ、話の前に窃盗罪と侵入罪でしょっぴくぞ!?」

 

「あんなにマヨネーズ無駄遣いするくらいなら効率的に使った方が何倍も良いって!マヨネーズだって、この不景気で高くなってんだから!」

 

「お、落ち着け二人共!!」

 

「嬢ちゃん、土方さん危ないですぜ」

 

沖田が突然会話に入ってきた、と思った次の瞬間、爆撃がこちらへ襲来した。

二人が咄嗟にかわすと、一撃は屯所の庭に飛び、爆発した。その方向を振り返ると、沖田が涼しい顔でバズーカを構えていた。

 

「チッ、しくじったか(大丈夫ですかィ、二人共)」

 

「いや逆ゥゥゥゥ!!総兄ィ、本音と建前逆ゥゥゥ!!」

 

「総悟てめェ!!今俺達まとめてぶっ飛ばすつもりだったろ!!」

 

「え?そうですが何か?」

 

「何かじゃねーよ!!ぶっ飛ばすどころじゃ済まねーぞ!!屯所ごと破壊されるわ!!つーか簡単に肯定すんな!」

 

「もー!危ないじゃん総兄ィ」

 

「おう、悪かったなァ嬢ちゃん。今度からは二人で土方さん狙おうぜィ」

 

「これ以上コイツに変な事吹き込むなァァァ!!狙わせるのか!?俺を狙わせるんだよな、そうだよな!!」

 

「あーハイハイ。もう茶番はいいから。んで、何のために私呼んだの?」

 

マヨネーズだったりバズーカだったりで本来の目的を忘れかけたが、志乃はようやく本題に切り込んだ。

土方も一連の流れに疲れたのか、溜息を吐いて、煙草を吸ってから話し始めた。

 

「ああ、それなんだがな……お前、"銀狼"だったんだな」

 

「?アンタらは銀狼を知ってるの?」

 

志乃の問いかけに、土方は一息吐いてから話す。

 

「知ってるも何も、有名な人斬りじゃねェか。攘夷戦争でその荒々しい戦い方から、敵からも味方からも畏れられた最恐の人斬り。表向きじゃ霧島刹乃が最後の"銀狼"だと言われていたが、実はそいつに妹がいるとよく噂されていたんだ。まさかてめーだったとはな……」

 

「私もつい最近聞いたんだ。自分が"銀狼"だって」

 

「聞いた?誰にだよ」

 

「んー、内緒」

 

志乃はそう言って、唇に人差し指を当てた。

 

別に杉浦を庇ったわけではないが、その話をすると高杉のことまで話さなくてはならないため、敢えて言わなかった。

自分にとっても、テロリストと接点があるとバレれば何かと面倒な事に巻き込まれるだろうと思った。

 

土方は頭をガシガシ掻きながら、座り直した。志乃も、出された茶を飲んで一息吐く。

 

「まァ、そこんとこは今日は置いといてやる。問題はこっからだ。てめーが"銀狼"だと天導衆に大っぴらにバレちまったからには、上もてめーを放ってはおかねェだろう。監視の対象になるはずだ。最悪の場合、殺されるかもしれねー。そこでだ。てめェの身柄は、真選組預かりとすることになった」

 

「は?いや、そこでだ。じゃないから。何ソレどーいうつもり?」

 

今度は志乃が思いっきり顔をしかめた。

 

「監視も含めて、てめーの命も護ってやる。そう言ってんだよ」

 

「やだ」

 

土方の提案を、志乃はバッサリ斬った。胡座をかいて座り直した志乃に、近藤が詰め寄る。

 

「何言ってるんだ志乃ちゃん!本当に殺されるかもしれないんだぞ!?」

 

「私は簡単に死なないから平気」

 

「なっ……」

 

「私が死ぬと決めているのは、仲間を護って死ぬ時だ。それ以外で死ぬつもりなんかないし、死ねない。私は、"銀狼"だ」

 

何を言っても、彼女の心は変わらないらしい。そう察した土方は、一枚の紙を差し出した。

志乃がその紙を覗き込む。どうやら、幕府からの書状らしい。内容は詳しくわからなかったものの、志乃はそう察した。

 

「昨日、近藤さんが上に頼んできたんだ。てめーの処遇をどうするかってのはこっちに権限があるんだよ。大人しく従ってもらうぜ、クソガキ」

 

「フン、私に権力どうこうが通じると思う?」

 

「いーや、思わねーよ」

 

カチャリ、と刀の柄が音を立てる。志乃も、隣に置く金属バットを握った。

一触即発なムードに、近藤が耐え切れずバン!!と畳を叩いた。その音に志乃が近藤を振り返った。

 

「志乃ちゃん、頼む!!ここに身を置いてくれ!!食べる物も着る物も何一つ不自由にさせない!!頼んでくれれば、俺達で何でもしてやれる!!だから、ここに身を置いてくれ!!」

 

そう叫んで、近藤は志乃に頭を下げた。志乃は驚いて彼の旋毛(つむじ)を見ていた。

 

そんなに、私に死なれたら困るのか。いや、きっとそうではない。

おそらく彼は自分よりも年下の、しかも女が、銀狼の一族として生まれてしまったために命を落とすのが辛いのだろう。

 

では、私と関わったことで少なくとも情が生まれたのか。おそらくこれも違うだろう。

彼は元から、情に厚い男なのだ。だからこそ多くの隊士らを従え、真選組という荒くれ者ばかりの組織を束ねられる。彼だから出来たことだろう。

 

ーーこんな奴の情に負けるなんて、私も私だね。

 

志乃は嘆息し、立ち上がった。

 

「顔上げて、近藤さん」

 

彼女の声に、近藤が振り仰ぐ。彼の目を真っ直ぐ見つめて、志乃は微笑みかけて訊いた。

 

「何か紙、持ってない?」

 

********

 

近藤から紙と筆を渡された志乃は、サラサラと紙に何かを書き付ける。筆を置いた志乃は、それを近藤達に見せた。

 

『真選組バイト願 霧島志乃』

 

それを見た三人は、思わずポカンとする。

 

「……何でィコレ?」

 

ようやく絞り出した沖田の声に、志乃はニッと笑った。

 

「私をバイトとして真選組で雇って。監視なんてそれで十分でしょ」

 

「バイト?……って、どういう事なんだ志乃ちゃん」

 

近藤が志乃の意図を図りかね、彼女に問いかけた。

 

「そのまんまの意味だよ。私も一応、万事屋として既に働いてるワケだからね。店の方もぞんざいに出来ないの。だから、私がバイトとしてここで働く。そしたらその間アンタらは私を監視すればいい。それで何の問題もないでしょ?」

 

「いや……えっ?」

 

「えっ?じゃない。私はアンタらにまで迷惑かけたくないの。でも、私のせいで真選組(アンタら)が悪い方に向けられるのは困るんだ。これでも、私なりに譲歩したんだからね?」

 

志乃はその紙を近藤に差し出して、畳の上に手をついた。

 

「改めまして、真選組バイト希望の霧島志乃です。趣味は衆道本採集、特技は何でも食べれることです」

 

志乃は深く頭を下げてから、ニコリと笑った。

 

********

 

結局志乃は、表向きは真選組にバイトとして雇われる形となった。

屯所で軟禁されることはなくなったが、平日は朝から夕方まで真選組の下で働き、休日は自宅である万事屋の店舗に戻り、万事屋の仕事をするという二足の草鞋(わらじ)を履くことになった。

病院で小春達にその報告をした志乃は、しばらく店を時雪に預け、平日は彼をオーナー代理として仕事をするように示唆した。

 

こうして志乃は、真選組の監視下に置かれることとなったのだった。


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