銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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足太い人が短いスカート穿いてると思うところが色々ある

この日、志乃は久々に入った万事屋としての依頼を受け、八雲、橘と共に依頼人が待つレストランに来ていた。

目の前には、コギャルの豚が座っていた。

 

「私的にはァ〜何も覚えてないんだけどォ、前になんかシャブやってた時ィ、アンタらに助けてもらったみたいなことをパパから聞いて〜」

 

「シャブ?何ソレ知らないけど。あ、もしかしてアレ?しゃぶしゃぶの肉にされそーになったとこを助けたとかそんなん?」

 

「ちょっとォ、マジムカつくんだけど〜。ありえないじゃんそんなん」

 

「え〜?豚しゃぶ美味しいのに?何?豚しゃぶじゃ不満?だったらトンテキでどーだよコノヤロー」

 

「何の話をしてるんですか」

 

全く噛み合わない会話をする志乃に、八雲がツッコんだ。

そして、志乃に耳打ちする。

 

「ホラ、アレですよ。春雨とやり合った時のシャブ中娘」

 

「あー、ハイハイ!ハムか!」

 

「豚からハムに変わっただけじゃねーかよ!!」

 

相変わらず食べ物扱いを受ける依頼人・ハム子は怒り心頭。まあ、当然か。

 

「もうマジありえないんだけど!頼りになるって聞いたから仕事持ってきたのに、ただのムカつく奴じゃん!」

 

「お前もな」

 

「何をををを!」

 

ボソッと言った橘に突っかかるハム子を、八雲が宥めた。

 

「すみませんね。して、ハム子さんの方はその後どうなんですか?」

 

「アンタもフォローにまわってるみたいだけどハム子じゃないから公子(きみこ)だから!」

 

「ハム子には変わりないね、文字的に」

 

「間違えて書きそうだな」

 

志乃と橘はハム子に聞こえるか聞こえないかギリギリの声で話す。なかなかタチの悪い奴らだ。

幸い公子には聞こえていなかったらしく、話を続けた。

 

「麻薬ならもうスッカリやめたわよ。立ち直るのマジ大変でさァ、未だに通院してんの……もうガリガリ」

 

「何がガリガリ?心がだよね?」

 

「痛い目見たしもう懲りたの。でも今度はカレシの方がヤバイ事になってて〜」

 

「え、彼氏?ハム子さん貴女まだ幻覚見えてんじゃないですか!!」

 

「オメーら人を傷つけてそんなに楽しいか!!」

 

八雲の失礼極まりない発言に、公子がキレる。

それから仕切り直して、公子が彼氏から送られたメールを見せた。

 

太助より

件名 マジヤバイ

 

マジヤバイんだけどコレ

マジヤバイよ

どれぐらいヤバイかっていうとマジヤバイ

 

メールを見た志乃は、ヤバイを連呼しまくる彼氏の精神自体がヤバイと察した。

 

「あー、こりゃホントヤバイね。で、私らへの依頼って良い病院の紹介?」

 

「頭じゃねーよ!!」

 

まあ、もちろんそんなはずもなく。

状況を、公子が説明した。

 

「実は私のカレシ、ヤクの売人やってたんだけど〜。私がクスリから足洗ったのを機に、一緒に全うに生きようってことになったの〜。けど〜、深いところまで関わり過ぎてたらしくて〜。辞めさせてもらうどころか〜、なんかァ組織の連中に狙われ出して〜。とにかく超ヤバイの〜。それでアンタたちに力が借りたくて〜」

 

「ふーん。了解」

 

志乃はそう短く切ると、手を挙げた。

 

「スイマセーン。フルーツパフェくださーい」

 

「じゃ、私はナポリタン」

 

「……オムライス」

 

志乃に、八雲と橘が便乗して注文した。

 

********

 

とある埠頭のコンテナの上を跳んで移動して、志乃達は公子の彼氏を探した。

ふと、八雲が天人達に囲まれている何やらヤバイ状況のモジャモジャ男を見た。

 

「あの、もしかして彼ですか?」

 

八雲が指差して問うと、公子が頷く。

彼らは作戦通り、志乃の腰を縄で括って、太助を助けるために下へ降りた。

 

「そぉぉぅいやぁぁぁぁ!!」

 

太助に今まさに刃が襲いかかろうとした瞬間、飛び降りてきた志乃の金属バットが天人の頭を打ち据えた。

仲間の天人達が、突如現れた志乃に目を向ける。

 

「なっ……何だテメー!?」

 

「何だチミはってか?そーです私が……」

 

しかし言い切る前に、上から何かがのしかかってくる。

志乃はそれに耐え切れず、倒れてしまった。

のしかかったのは、飛び降りてきた公子だった。

 

「太助ェェ!!」

 

「公子ォォ!!」

 

「もう大丈夫よ、万事屋連れてきたから。アイツら金払えば何でもやってくれんの!」

 

「何でもっつーかもう何にもやれそーにねーぞ、大丈夫なのか?」

 

「う、うぐっ……あんのクソハムが、邪魔しやがって……」

 

撃沈した志乃はうつ伏せのまま上体を少し起こし、上で縄を掴んでいる八雲と橘に言った。

 

「オーイ、作戦変更!引き上げるよ!」

 

「ラジャー」

 

「……」

 

八雲は返事をして、橘は無言で頷き、志乃を引き上げる。公子と太助が、逃げていく志乃に気付いて見上げた。

 

「!!あっ!!てめェ何一人で逃げてんの!?」

 

「フン、豚二匹背負って逃げる作戦なんか用意してねーんだよ!ハム子、アンタが余計なことすっからだよ!!」

 

「ふざけんな!!パフェ何杯食わせてやったと思ってんだよ!!キッチリ働けや!!」

 

ハム子と太助が、ジャンプして志乃の両足にしがみつく。

太った二人の体重が、一気に志乃の体を括る縄にかかり、彼女の腹を締め付ける。

 

「ふぐっ……ちょ、やべ……うぐぇっ!!マジやばいってコレは!流石にやばいって!なんか口から内臓的なものが出そう!!」

 

「内臓的なもの?嫌ですよ志乃!年頃の女の子が四六時中そんなのを出しっ放しでは気を使います!!関係がギクシャクして戻らなくなってしまいますよ!」

 

「そんなの出るわけないから」

 

八雲が志乃を心配して叫ぶが、橘がボソッとそれを否定する。

しかし八雲は聞く耳を持たず、橘に縄を持たせ自分は降りて志乃に掴まり、公子と太助を引き剥がそうと公子を蹴っていた。

 

「ハム子!!志乃を離しなさい!このままでは彼女がァァ!!」

 

「ちょっ……マジムカつくんだけど!何なのアンタ!!」

 

「ぉえっ、アンタも降り……げほっ!!」

 

「……………………」

 

一方、上に取り残された橘はどうするべきかと悩んでいた。

このままでは志乃の体が締め付けられ過ぎて、ぷっつり切れてしまうかもしれないと思った。

悩みに悩んだ結果、彼はある最良の答えに辿り着く。

あ、そっか。落としちゃえばいいんだ。下には敵の天人がたくさんいるけど、まあいっか。

橘はそう結論付けて、パッと縄から手を放した。

当然志乃達は、そのまま地面に落とされた。

橘が、落ちた志乃達に声をかける。

 

「すまん、手が滑った。逃げてくれ」

 

「ウソ吐けェェ‼︎!!てめっ今わざと手ェ放しただろ、絶対!!」

 

志乃が安全地帯に一人居座る橘に叫ぶ。

その瞬間、天人達が武器を手に駆け寄ってきた。

志乃は金属バットを構え、天人の一人の腹を突く。

一人倒した志乃は、次々と天人らを薙ぎ払っていった。

 

「あーもう、どけよお前らァァ!!」

 

志乃をサポートするような形で、八雲も突きに蹴りにを繰り返して敵を倒していく。

その暴れっぷりに、公子は感嘆の声を上げた。

 

「アンタやれば出来るじゃん!!」

 

「とーぜんっ!!私は根っからのYDK(やればできるこ)なんだからね!」

 

志乃はニッと笑ってバットを振るう。

次から次へと現れてくる天人達を打ち倒していくが、キリがない。

不審に思った八雲が、天人の一人の首を折りながら公子に尋ねた。

 

「それよりどういうことなんですかこれはー?たかがチンピラ一人の送別会にしては豪勢過ぎません?どうにも怪しいですねー、そこの陰毛頭」

 

「なに?太助が良からぬことでもやってるって言うワケ?」

 

「ふざけんな!俺は公子と全うに生きていくと決めたんだ!もうあんな白い粉とは一切関わらねェ!!それから俺は陰毛頭じゃねェ!コレはオシャレカツラだ!なめんなよ!」

 

そう叫んで、太助はカツラを取る。

するとそこには、テープで白い粉が入った袋が貼り付けられていた。

志乃は呆れながらツッコむ。

 

「………………オーイ。モノ隠したのどこかくらい自分で覚えておこーよ」

 

「あっ!!あの白い粉は転生郷!!」

 

「野郎、あんなところに隠してやがったのか!取り戻せェェ!!」

 

どうやら、太助は天人達から麻薬を盗み、持ち出したらしい。

志乃と八雲が暴れる中、公子は太助に詰め寄る。

 

「……太助。アンタ……組織から麻薬(クスリ)持ち逃げしてきたんだね。どーして。もう麻薬(クスリ)と関わるのは止めようって言ったじゃん!一緒に全うに生きようって言ったじゃん!」

 

叫ぶ公子の目の前に、刃が向けられる。

公子の背後に、鎌を持った天人が立っていた。

 

「太助……取り引きといこうか?コイツとオメーの盗んだブツ交換だ……。今渡せばお前も許してやるよ……」

 

「言うこと聞いちゃダメ、殺されるわよ!私なんて構わずに早く逃げて……」

 

公子はそう言うが、当の太助を見ると、彼は一目散にトンズラしていた。

 

「って即決かいィィィ!!逃げ足速っ!!」

 

「その女なら好きなよーにしてくれていーぜ!あばよ公子!お前とはお別れだ!!金持ってるみてーだから付き合ってやってたけど、そうじゃなけりゃお前みたいなブタ女ゴメンだよ!世の中結局金なんだよ……全うに貧乏くさく生きるなんてバカげてるぜ!」

 

逃げながら叫ぶ太助をチラリと見た志乃は、グッと足に力を入れた。

そして、一瞬で逃げる太助の前に回り込む。

太助は、目の前に突然少女が現れ、思わず慄いた。

 

「オイ、待てよブタ」

 

いつもより何倍も低い声で、志乃は太助に凄む。

志乃は金属バットを太助の脂肪だらけの鳩尾に押し込んだ。

走っていた太助のスピードと相まって、深く深く腹に突き刺さり、太助を唾を吐いてから気を失った。

 

「フン……人間を食い物にする天人……それに甘んじて尻尾振り、奴らの残飯にがっつく人間共……。ブタはお前らの方じゃねーか。そんなん守るなんて私ゃゴメンだね」

 

志乃は倒れた太助を冷たい目で見下ろし、頭に付いている転生郷を剥がし取った。

若干イラついている彼女に、八雲がボソッと言う。

 

「なーるほど。銀時さんの生き様をバカにされて怒ってるんですね?」

 

「……うるさい」

 

八雲に見抜かれてそっぽを向いた志乃の背中に、公子を盾にとった天人が叫ぶ。

 

「てめー、敵なのか味方なのかどっちだ!?」

 

「第三者だよ〜。それより、ハイ。コレあげるから。こいつとそのハム、交換しようよ」

 

志乃は転生郷を差し出してみせる。

しかし、警戒した天人は受け取りには来なかった。

 

「……………………お前から渡せ」

 

「ふーん、何びびってんのさ」

 

志乃は、転生郷を放り投げた。

天人達が転生郷を見上げると、そこには薙刀を構えた橘がコンテナの上に立っていた。

橘は無表情で、転生郷を叩っ斬った。

転生郷が余程大事らしい天人達が大騒ぎする隙を見て、志乃達は公子を奪還し、太助も連れて逃げた。

 

********

 

埠頭から遠く離れた橋の上。

そこには、志乃達と太助を背負った公子が向かい合っていた。

 

「マジありえないんですけど。太助助けてくれって言ったのに、何でこんなことになるわけ〜?」

 

「ありえないのは貴女ですよ。どうするんですかソレ。共食いでもするつもりですか?」

 

「言っとくがそれは焼いても食えんぞ」

 

「お前ら最後までそれか」

 

最初から最後まで豚扱いする八雲と橘に、公子がツッコむ。

今度は志乃が、わかった!とばかりにポンと手を叩いて言った。

 

「そっか、ソレ逃すと彼氏なんて一生出来なさそうだからでしょ!大丈夫だよ、世の中には奇跡ってのがあるんだから。ね!」

 

「そんな哀れみに満ちた奇跡はいらねー」

 

公子はそう言い、背を向けて歩き出した。

 

「こんな奴に付き合えるの私くらいしかいないでしょ……」

 

去り行く公子と太助を見ながら、志乃は言った。

 

「またよろしくね〜」

 

八雲も、肩を竦めながら橘に話しかける。

 

「何なんでしょうね、アレは」

 

「あれじゃ恋人じゃなくて親子だな」

 

「あーゆー母親、私は好きだな」

 

「私ならグレますね」

 

そんな会話をした三人は、公子を見送ってから今日の晩ご飯の買い出しに向かったーー。




次回、アホの旧友と再会します。

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