銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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お疲れ様でした(遠い目)


昔別れた友達とはふとした瞬間に再会する

「いやー、この間はお世話になりました」

 

「……ハハッ、ドーモ」

 

江戸に多くの店舗数を誇るチェーンのレストラン。そこの一席に、銀時と新八、神楽は時雪と顔をつき合わせて座っていた。

にこにこ笑う時雪とは対照的に、銀時は頬を引き攣らせて苦笑している。

あの時、現場に居なかった新八は事情を銀時と神楽より聞いていた。だが、まさかそれなりに長く付き合ってきた彼が警察庁長官補佐、もとい真選組の上司だなんて、全く想像が出来ずにいた。

 

というか、今回新八の出番は一回も無かった。

冗談?気になる人は読み返してもみてほしい。

原作キャラの、しかも主人公枠の一人なのに、この扱いはあんまりだ。ひどすぎるにも程がある。新八の心境は、ジャングルに潜む猛獣の如く穏やかではなかった。

 

「トッキー、私ライス食べたいアル」

 

緊張感の漂う中、そんなの関係ねェとばかりに神楽は自然な流れでたかった。

その瞬間、彼女の脳天に、銀時と新八のダブルビンタが炸裂する。

 

「何するネ!ここ数日何も食べてないからお腹減って仕方ないアル。私は一刻も早く米を摂取しなければならないアル」

 

「アホかァァァ!!てめェあんな手下使って裏で一人ほくそ笑むタイプの悪の権化みてーな女男相手に何考えてんだ!!絶対ェロクな事考えてねェぞ、あの顔は!!あーいうタイプは表面上いい人っぽく見せといて、ヤマ場前付近で裏切る奴なんだよ!!」

 

「いやいくら何でも偏見強すぎますよ銀さん!!時雪さんにご飯奢ってもらう事に罪悪感は感じないんですか!!神楽ちゃんもいくらよく知ってる相手だからって遠慮ってのを覚えた方がいいよ!!」

 

「あっ、よければ何か注文してください。代金は俺が持ちますから」

 

「すんません、チョコレートパフェ一つ」

 

「私カツ丼が食べたいネ」

 

「変わり身早ェなオイ!!……すいません、僕も何かいいですか?」

 

空腹には抗えない。おずおずと申し出ると、いいですよ、と時雪はにこやかに返す。

一文無しの彼らにとって、他人の奢りとは即ち腹の備蓄が可能、ということである。このようなタイプ相手に同情を向けてはならない。絶対に後でロクな事にならないと断言できる。

そしてこの時、銀時は時雪に対する偏見がそのまま自分に返ってきたことに全く気付かなかった。

 

注文した料理を食べながら、改めて話を進める。

 

「ていうかお前今まで一般人のフリして俺達騙してたのかコラ、あぁ?慰謝料よこせコノヤロー」

 

「お金で解決出来るのでしたらいくらでも」

 

「クソ!!フツーに腹立つなコイツ!!こないだまで同レベルだと思ってたのにいつの間にか昇進してた奴並みに腹立つ!!」

 

イライラしながら銀時が噛み付く。銀時は彼に対して、志乃のカレシとして一目置いてはいたものの、そこまで突っかかりはしなかった。

なのに今回は、そうもいかないらしい。そこにあるのは兄としてのプライドなのだろうかそれとも。

 

「お前いつから警視庁の長官補佐やってたんだ?」

 

「2年くらい前からですね。元々俺の父が松平さん(じょうし)と長い付き合いで、俺も子供の頃から色々世話になってたんです。父が死んでからも何かと心配して下さってて……」

 

「要するに親父のおこぼれに預かったってワケか。いいご身分だねェ、流石将軍家縁者」

 

「ちょっと、銀さん!」

 

「大丈夫だよ、新八くん。事実だし。俺は何と言われようと気にしないから」

 

にこりと穏やかに笑った時雪を見て、新八も大人しく身を引いた。

 

「松木と篤子さんの件は、俺が長官補佐に就任してから追っていたんです。でも、警察としてはこの事件を追うことができなかった。奴はある連中と、裏で繋がりを持っていたんです」

 

「ある連中?」

 

「貴方方もご存知のはずです。ーー天導衆です」

 

その名を聞いた瞬間、新八は驚きのあまり目を見開いた。

茶碗いっぱいに盛られた白米にがっついていた神楽も、この時ばかりは箸を止める。

 

「てっ……天導衆……!?」

 

「アイツ、そいつらと繋がってたアルか?」

 

「うん。当然公にはされてない事実だけどね。でも2年前から、その疑いは既にあった。松木が、裏で生物実験を行っているという嫌疑が。その実験が、この世の理を逸脱していることも。そして……生物実験の実験台の中に、“銀狼”の血筋がいるということも」

 

「!!」

 

「今回捕らえたあの“銀狼”は、その実験体で間違いない。松木は幕府の中でもそれなりの地位を得ている。そんな奴の裏事情を、正々堂々と調べるわけにはいかない。そのために俺は松平公協力の下、潜入調査を行ってもらってたんです。……正直、志乃が奴の狙いであることは掴み切れてませんでした。それは俺の落ち度です」

 

「…………」

 

自らの力不足を嘆く時雪は、眉をひそめた。

“銀狼”の名を聞いた時点で、もっと早く気付いていれば、対応できたはずだったのだ。志乃を傷つけることもなかったのに。

結果的に、松木が隠し持っていた“銀狼”の兵器に対抗できたのだが、それでも大切な女性を護れなかった。

 

「……あくまで仮説なんですけど。天導衆はまだ、志乃を諦めてないと思います。今後また、志乃を狙って刺客を送り込んでくる可能性もあります。……なので、その時は」

 

「…………あァ。言われるまでもねェよ」

 

銀時の返事に、時雪は頷いた。

 

********

 

一方その頃。志乃は一度病院に搬送され手当てを受けた後、真選組の屯所に預けられていた。

事件が収束したとはいえ、今後彼女に何か危機が訪れないとも限らない。いざとなった時に護れるように(なお本人は護られることを不服としていたが)、24時間体制で彼女の護衛を務めている。

 

さらに志乃を屯所に置いた理由は別にある。先日捕まえた、銀髪の青年の監視のためである。

また暴れ出した時、押さえつけるには志乃の力が必要になってくる。いざとなった時戦えるように、警戒の意図もあってのことだった。

 

志乃は、普段より昼寝のために使用している縁側に腰掛け、子猫のトトと戯れていた。青年との一騎討ちの際に折れた腕は未だ治っていないものの、順調に回復している。

 

「にゃあ」

 

「はっはっは、こやつめこやつめ。……暇だわ」

 

そう。志乃は完全に暇を持て余していた。仕事は基本まわってこないし、そもそも真選組の全員がこぞって志乃を休ませようとしてくる。

あの沖田まで先程廊下ですれ違った時に、「オウ嬢ちゃん、怪我の具合はどうでさァ。こんな所歩いてねェで部屋に戻った方がいいんじゃねェかィ?とっとと療養して治してもらわねェと、いつまでも決着がつけられなくて困りまさァ」などと言い出す始末だ。気味が悪くて仕方がない。

 

日当たりの良いこの場所でひなたぼっこをしていたのだが、ここにいても誰かが心配するのだろう。煩わしく思いつつ、部屋に戻ろうと立ち上がる。

その時だった。

 

 

ドガァン!

 

 

「!」

 

ここから少し離れた場所にある、広場から戦闘の気配を感じる。何かあったのか。志乃は取り敢えずその場へ足を運ぶことにした。

真選組屯所の中でも一際広い庭で、隊士達が何やら囲っているようだった。中心には、あの青年がいる。見えずとも気配でわかった。

 

「何してんの」

 

「あっ、嬢ちゃん……。それが、奴が急に暴れ出して……」

 

その言葉を受けて見てみると、確かに彼を取り押さえようとする隊士達が果敢に挑んでいる。しかし、青年に当て身を喰らわされたり、ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返す。志乃は何してんだろうと冷静になっていた。

 

「お前何してんの」

 

志乃が声をかけると、青年はこちらを向いた。相変わらず何を考えているのかわからない無表情である。

 

「……あの方はどこだ」

 

「そんなもんもういねェよ。お前の護ってたモンはどこにもねェ」

 

「……!」

 

吐き捨てた志乃に対し、青年は眉をひそめ、拳を握りしめる。

 

「なんだよ、悔しいのか?それほどまでにあの野郎はお前にとって大事なものだったのか?そいつァ悪かったな」

 

「…………いや……」

 

「あ?」

 

「……私は……これから一体、どうなるのだ……」

 

ゆるりと戦闘体勢を解き、紡ぎ上げた言葉は弱々しいものだった。取り押さえんとする隊士達を、志乃は手を上げて制する。

 

「私は……あの方の物だ。それ以上でもそれ以下でもない……。持ち主のいなくなった物は……ああ、そうだな。ゴミとして捨てられるだけか……」

 

青年が自嘲の笑みを浮かべる。そして歯を食い縛り、悔しさを滲ませた。

結局、自分には何もなかった。松木の道具として人を殺し、志乃を誘拐した。全て松木の命令で動いた。それが、意志のない人形のさだめであった。

自分には何もない、そう突き付けられている気分になる。自分を射抜いてくるあの赤い瞳から、目を逸らせない。

志乃は一度嘆息して、口を開いた。

 

「そんなに悔しいならさ、ウチに来る?」

 

「えっ?」

 

「は……?」

 

次の瞬間、隊士達が驚きの声の大合唱を奏でた。青年も呆然として、まじまじと志乃を見つめるだけ。隊士達は一斉に志乃に詰め寄った。

 

「ちょっ……嬢ちゃん何考えてんのォォ!?」

 

「アイツは嬢ちゃんを殺そうとした奴だぞ!?そんな簡単に手元に置いたらマズいって!!」

 

「それに副長達も絶対許さねェって!」

 

「うん、うるさいからちょっと黙ってて」

 

騒ぎ立てる外野を黙らせて、志乃は青年に手を差し伸べた。

 

「ま、元はといえばあの杉浦(バカ)が捕まってお前と分離したのが悪いんだからさ。責任はこっちにあるし。だから、私の下で何か見つければいいんじゃない?何もないなら、これから何かになればいいんだ」

 

「…………」

 

「たとえば、ほらーー手始めに、お前のついていくはずだった人を奪って、お前の人生めちゃくちゃにしたこの私をブッ殺す、とか」

 

「!」

 

自身を親指で示し、へらりと笑う少女を、青年はハッとした表情で見つめた。なんて事を言う人だろう。こんな人が人間だなんて、青年には到底思えなかった。

黙り込む青年の答えを「肯定」とみなした志乃は、パン、と手を叩く。

 

「よし!決まりだな。ならよし!しかし、そうとなると名前が……お前名前なんていうんだ?」

 

「……私に名前、など」

 

「あっそう。じゃあ今つけた。『凛乃(りんの)』。お前は凛乃(りんの)だ」

 

青年改め凛乃は、目を見開いて志乃を凝視する。なんてめちゃくちゃな子供だろう。周りの隊士達が咎めるのをよそに、ケラケラ笑う姿に驚きを覚えた。

だが、それと同時に胸がジンと温かくなってくる。この人は自分に居場所と名前を与え、生きていいと言ってくれた。生死を問う戦いを繰り広げた相手が、認めてくれたのだ。こんな事、生まれて初めてだった。

ポツリと頬に涙が伝う。止めどなく溢れるそれに、感情の整理が追いつかない。どうすれば、と戸惑う凛乃に志乃が近寄る。

 

 

ぐいっ

 

 

「!」

 

「あーハイハイ。よーしよしよし」

 

抱き寄せられ、胸元に頭を預ける。ぐっと近くなる彼女の匂い。戦う時に感じた獣のような恐ろしさは全く感じられない、優しい匂いだった。

 

「ぁ……う、ぁ。……あああっ」

 

凛乃が安心しきって泣き疲れて眠るまで、志乃は彼の背中をポンポンと軽く叩き続けていた。

 

 

********

 

 

「おっ、ここにいたか志乃ちゃん」

 

「近藤さん?」

 

凛乃の件が一段落した志乃が部屋で寛いでいたところ、近藤が顔を出し、志乃の姿を見つけてひらひらと手を振った。トトが志乃の手からパッと飛び降りたのを察して、志乃も腰を上げる。

 

「どうしたの近藤さん」

 

「いやぁ、志乃ちゃんが暇を持て余してるって聞いたもんでな」

 

「うん今私ものすごく暇なの何かしてくれるのそうなんだよねしてください」

 

「お、おう……。わかったわかった」

 

地獄から救い出してくれる蜘蛛の糸を掴んだカンダタのごとく、近藤に迫る。その勢いにびっくりしつつも、一度彼女を落ち着かせた。

 

「で、だ。志乃ちゃん、今からちょっと出かけないか?」

 

「え?」

 

********

 

近藤の提案により、久しぶりに外に出る。街を歩いていると、志乃の知り合いが皆揃って彼女の負傷した腕を案じた。困りながらも笑って大丈夫だと返す志乃の姿を、近藤は微笑ましく見守っていた。

こうして周囲の人に甲斐甲斐しくされる志乃を見ると、彼女には味方になってくれる人がたくさんいるのだと安心する。普通の娘のように見えて、その精神は極めて天涯孤独で危なっかしい。いざとなれば、自らの命を容易く投げ出してしまうほどの危うさを秘めている。それを彼らが、平和な方へ引き留めてくれているのだ。

ようやく話し終えた志乃が手を振って見送ると、近藤の隣に駆け寄る。

 

「ごめんね、遅くなって。で、どこに行くの?」

 

「ああ、ここだよ」

 

近藤が指さした先を示すと、志乃は目を丸くした。そして、近藤を見上げる。

 

「近藤さん……ここ……」

 

近藤はニコッと笑って返すだけ。

二人がやってきたのは、かぶき町の片隅にある素朴な団子屋だ。そしてここは、志乃が行きつけにしているほど大好きな場所。

のれんを手で避けて、奥から団子屋の店主のおばちゃんが顔を出す。

 

「おや、いらっしゃ……あら〜!志乃ちゃん!久しぶり…って!!どうしたのよその怪我!!」

 

「どうも、ご無沙汰してます」

 

「あら?近藤さん?まあ〜、二人が一緒に来るなんて珍しいわねェ」

 

「え……?」

 

志乃は思わず呆然とした。きょろきょろと交互に二人の間を視線が行き来する。

まあまあと流れで外にある赤い布の張られた腰掛けに案内される。「いつもの持ってくるわね」とウインクして店の中に入ったおばちゃんは、志乃が思考を放棄している間にそそくさと用意を進め、団子とお茶を二人分持ってきた。

 

「志乃ちゃん?おーい、どうした」

 

「……あの、近藤さん……。何で近藤さんはここを知ってるの?」

 

風船のようにどこかへ飛んでいきそうな思考をどうにか手繰り寄せて、元に戻す。

志乃はここを行きつけとして足繁く通っていることを、誰にも話したことはなかった。そもそもこの店はかぶき町の中心からかなり離れた所にある。店で働いているのは、このおばちゃんただ一人。町の片隅でひっそりと営んでいるこの店には基本、憩いの場を求める近所の住民や志乃(ものずき)くらいしか訪れない。

驚くことしかできない志乃に、近藤は破顔して答えた。

 

「昔なァ、真撰組(ウチ)に小さな女の子が来たんだ。その子をここに連れていくとな、いつも喜んでくれたんだ」

 

「…………!」

 

「結局その娘の名前は訊けなかったけど、でも……」

 

近藤は一度空を仰ぎ、流れていく雲を眺める。そして、こちらを見つめている志乃に笑いかけた。

 

「この国のどこかで、きっと幸せに生きてる。俺はそう思う」

 

「…………」

 

「志乃ちゃんには関係ない話だったか?まァ、せっかくだし一緒に食べよう!ここの団子絶品なんだぞ」

 

はっはっはっ、と笑いながら、近藤は皿に置かれた串を持つ。その時、ずっと口を閉ざしていた志乃が、不意に近藤に抱きついた。

 

「?志乃ちゃん?」

 

どうかしたのか、顔を覗き込もうとするが、腕に顔をくっつけられ、表情が伺えない。それどころか先程よりぎゅっと強く抱きしめられる。

志乃はか細い声でこう言った。

 

「……ありがとう、覚えててくれて。私、今、とっても幸せだよ」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「……………………ううん、何でもない」

 

顔を上げて、へらりと笑う。座り直して、改めて団子を口にした。

昔から変わらない、この味。それが確かに、二人の記憶を繋げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ートッキー篇 完ー




ということで、トッキー篇はこれにて終了です。しんどかった……めちゃくちゃしんどかった……。

えー、今回の長篇のおさらいをしますと……

・志乃と真選組は昔会っていた
・トッキー実は警察庁長官補佐
・凛乃が仲間入り

以上の事が伝わればもうOKです。

トッキーの地位とかは以前から考えてました。あと、刹乃の身体のことも。
ていうか、杉浦が刹乃っていう設定を作った辺りから、「あ、コレは身体の方もなんとかせにゃならんな」と軽い危機感を覚えまして、ほぼ捏造感覚で作りました。

この小説を書いていて学んだ事は、「設定は今出ているものと辻褄が合えば何とでもなる」って事ですかね。
良い子のみんなはこんなあっちこっちにフラつくような軽い設定を考えちゃダメだよ!設定大事!

次回、みんなでプールに行きます。

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