これまた長ったらしい題名ですみません。好きに省略して構いません。何で私の小説って長い名前のが多いんだろ……?
銀髪に悪い奴はいない
侍の国。彼らの国がそう呼ばれたのは、今は昔の話。
かつて侍たちが仰ぎ、夢を馳せた江戸の空には、今は異郷の船が飛び交う。
かつて侍たちが肩で風を切り歩いた街には、今は異人が踏ん反り返り歩く。
「ふぁ〜〜あ……眠い」
そんな街の中、ぐ〜っと伸びをした少女ーー霧島志乃は、欠伸を一つしながら歩く。彼女は銀髪をポニーテールにして、藤色の着流しを纏っていた。
志乃はふらりと立ち寄った飲食店で、一心不乱にパフェを食らう一人の男ーー坂田銀時を見かけた。
相変わらずの天然パーマに、暇だった彼女の口角が上がる。
志乃は銀時の前の席に座った。銀時も彼女の気配に気付き、パフェから顔を上げる。
「よォ銀」
「何だてめーか。パフェならやらねーぞ。俺ァなァ、今丁度週一の楽しみを堪能してんだ」
「要らないよパフェなんか。
「団子パフェだぁ?……なんか美味そーだな……」
「そんなことよりあんた団子屋にツケ払ったの?」
「ハハッ。何を言ってるんだろうねこの子は」
白々しく笑う銀時。目が明後日の方向に向いていた。
恐らく、というか確実に団子屋のツケを払ってないのだろう。バカか……志乃が呆れた次の瞬間、眼鏡の店員がこちらへ倒れ込んできた。
「ぶっ」
「あ」
ぶつかった拍子で志乃の体は押され、机が揺れた拍子でさらに銀時が食らっていたチョコレートパフェが全部溢れた。
そして、それが全て彼女の着流しにかかる。
「「…………」」
一度シンとした志乃と銀時は黙って立ち上がり、店員の元へ歩み寄った。
眼鏡の髪を掴み、謝らせようとするおっさんの前に立つ。
「「おい」」
「?がふっ!」
おっさんに、ダブルアッパーが炸裂する。
おっさんは豹頭の
突然の出来事に豹頭共が驚き慌てふためく中、事の発端達は冷静に、腰の木刀と金属バットを抜いた。
「何だ貴様ァ!!廃刀令の御時世に木刀と金属バットなんぞぶら下げおって!!」
「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー」
「ちゃんと飼い主に去勢してもらってますか、コノヤロー」
「見ろコレ……てめーらが騒ぐもんだから……俺のチョコレートパフェがお前コレ……丸々溢れちゃったじゃねーか!!」
週一の楽しみを潰された恨みに任せて、銀時は木刀を振り下ろした。
木刀は豹頭の脳天にクリーンヒットし、気絶させた。
彼の背後から、今度は志乃が躍り出るように豹頭にバットを向けた。
「……きっ……貴様ァ何をするかァァ!!我々を誰だと思って……」
「知るかァんなもん!!私ャなァ!!このお気に入りの着物をつい最近クリーニングに出して……返ってきたばっかだったんだよォォォォ!!」
お気に入りの服を汚された怒りに任せて、志乃は金属バットを振り回し、残りの豹頭共を一掃した。
豹頭共を片付けて満足した兄妹は、去り際に振り返る。
「店長に言っとけ。味は良かったぜ」
「私も伝言頼むわ。クリーニング代は慰謝料としてアンタらに請求するって」
店を出た二人は、銀時の原チャリに乗って、帰路を走る。
「てめーなんで俺の原チャリに乗ってんだよ」
「私の店よりアンタんとこの方が近いからね。洗濯機あるでしょ?借りるわ」
「使用料220円な」
「ジャンプと一緒にしてんじゃねーぞ」
生活がジリ貧の銀時は、事あるごとに彼女から金を巻き上げようとする。どっちが年上かわかりゃしない。
私こんな大人に絶対ならない。志乃は心の中で小さな誓いを立てた。
ムカついて、銀時の頭を殴る。
しかし、銀時はヘルメットを被っていたため、志乃の拳は若干腫れてしまった。
「チッ……こいつ……」
「あ〜やっぱダメだなオイ。糖分とらねーとなんかイライラす……」
「おいィィィィ!!」
後方からの叫び声に振り返ると、先程の眼鏡店員が木刀と金属バットを持って追いかけてきた。
原チャリに追いつくなんて、こいつなかなかやるな。志乃は感心していた。
「よくも身代わりにしてくれたなコノヤロー!!アンタらの所為でもう何もかもメチャクチャだァ!!」
必死に原チャリを追いかける眼鏡。
志乃と銀時は一生懸命な彼とは正反対な冷静な対応をする。
「わざわざ返しに来てくれたの?律儀な人だね」
「いいよあげちゃう。どうせ修学旅行で浮かれて買っちゃった奴だし」
「私もいらないわソレ。伝説と呼ばれるバット職人が作ったって店員に騙されて買った奴だし」
「違うわァァ!!役人からやっとこさ逃げてきたんだよ!!」
全速力で走り続けながらも、怒りをこちらにぶつけ続ける。はっきり言って迷惑だ。
「違うって言ってんのに侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!終いにゃ店長まで僕が下手人だって」
「あーあ、切られたね。ザマァ」
「レジも打てねェ店員なんて炒飯作れねェ母ちゃんくらいいらねーもんな」
「アンタ母親を何だと思ってんだ!!」
「バイトクビになったくらいでガタガタうる……」
「今時侍雇ってくれる所なんてないんだぞ!!明日からどーやって生きてけばいーんだチクショー!!」
眼鏡は八つ当たりで木刀を振り被る。
銀時はふと急ブレーキをかけて後輪を上げ、眼鏡の急所に原チャリの後部をぶつけた。
眼鏡は急所を押さえ、痛みに悶える。
「ギャーギャーやかましいんだよ腐れメガネ!!自分だけが不幸と思ってんじゃねェ!!世の中にはなァ、ダンボールをマイホームと呼んで暮らしてる侍も居んだよ!!」
「アンタさ、そーゆーポジティブな生き方出来ないの?」
「アンタらポジティブの意味分かってんのか!?」
ギャーギャー喚き合う三人。
すると、その傍らに建っていた大江戸マートの自動ドアが開き、両手にスーパーのビニール袋を手に提げた1人の女が出てきた。
「あら?新ちゃん?こんな所で何をやっているの?お仕事は?」
「げっ!!姉上!!」
眼鏡の姉上は笑顔を浮かべているが、対する眼鏡は真っ青になった。
それに気付かず挨拶をしようとした瞬間、彼らは眼鏡が真っ青になった理由を知る。
「仕事もせんと何プラプラしとんじゃワレボケェェ!!」
「ぐふゥ!!」
「今月どれだけピンチか分かってんのかてめーはコラァ!!アンタのカスみたいな給料もウチには必要なんだよ!!」
姉上は眼鏡を蹴り飛ばし、マウントポジションで弟を殴りまくる。
あの優しげな笑顔から一転し過ぎだ。これは冗談抜きでヤバイ。
銀時と志乃は、さっさと逃げようと原チャリに乗った。理由はただ、巻き込まれたくないからである。
「まっ……待ってェ姉上!!こんな事になったのはアイツらの所為で……あ"ー!!待てオイ!!」
「急げ銀!あの眼鏡チクったぞ!」
何とか原チャリを発進させた銀時。もちろん、志乃はその後ろに乗っている。
よし、戦線離脱。
「ワリィ、俺夕方からドラマの再放送見たいか……ら」
逃げられる、そう思ったのも束の間だった。姉上が、二人を抱きかかえるように捕まえていた。
姉上はにこりと天使のような笑顔を浮かべていたが、彼らには悪魔による地獄への誘いにしか見えなかった。
志乃誕生のお話。オリジナルで考えていた「銀狼」主人公です。性格は大して変わってません。自由奔放で自分勝手、我が道を行くマイペース。どう生きたらこんな女が育つんでしょうね。
私のクセで、キャラクターの髪型をコロコロ変えちゃうんですね。彼女も元々長髪だったのが短髪になります。でもイイんですよ。カワイイんです。
何故12歳にしたかというと、物語の始まる歳が12だったからです。ちなみに「銀狼」では戦争で24歳で死にます。この小説では変わるかもですが。