名前の通り、今回の主役というか中心はあくまでトッキー。トッキーの秘密が色々とバラされます。もう笑えるくらいダダ漏れです。
でも志乃と真選組の意外な関係とか、刹乃の身体の真相とか、とにかく色んなものがダダ漏れの長篇です。
よっしゃああ、今から断崖絶壁より飛び降りるぜ!フライアウェイ!!(死亡予告)
身近な人がすごい地位に立っていたりする
この日、実家に帰っていた時雪は、自宅のキッチンで料理をしていた。
隣には絶賛花嫁修行中の妹、深雪もいる。
横目で大根を切る様子を見るあたり、筋は悪くはなさそうだ。このまま順調に腕を上げれば、料理上手のいい奥さんに成長するだろう。性格が矯正されれば。
「兄上ー」
「んー?どうしたー?時継」
ボケキャラのメガネ弟・時継がキッチンを覗いてくる。
振り返ると、手紙を片手にこちらへ歩み寄ってきた。
「兄上宛てです」
「うん、手紙を届けてくれてありがとう。でもつまみ食いをするな」
空いた右手でさらりと完成した唐揚げを攫おうとする時継。当然、時雪の手に阻まれて唐揚げを食すことは叶わなかったが。
時雪は手紙受け取り、宛名を見る。弟の舌打ちなんて聞こえない。
そこに書かれていたのは、見覚えのある名前。時雪は、目を見開いた。
「あれ……?この娘……まさか……」
********
「「「「うおおおおおおお!!」」」」
バシッドカッズバッズババッ
時間と所変わって、真選組屯所内にある道場での朝稽古。
竹刀を片手に、志乃と沖田は激しい打ち合いをしていた。
それも普通の人間なら、肉眼で追うことができないほどのスピードで。二人の戦いを見守る隊士達は、あまりの速さに舌を巻いて驚いていた。
ちなみに最初の怒号のようなものは、隊士達の感嘆のそれである。
「いやぁ、流石は志乃ちゃんと総悟だな!ほぼ互角に渡り合ってやがる」
「朝から元気なのはいいが、その分のエネルギーチャージとしてサボられちゃあ堪んねェよ」
腕を組んで笑う近藤の言葉に、土方が肩を竦めて返す。
この二人の実力は互いに拮抗しており、稽古となれば、毎朝どちらからともなく攻撃を仕掛け、打ち合いを繰り広げる。
稽古中?の二人の目はそれはそれは爛々としていて、邪魔する者があれば即座に叩き斬られるような気迫だった。
バシィッ、と一度強く竹刀を重ね合わせる。
鍔迫り合いに持ち込みながら、二人は荒くなった呼吸を整えようとした。
互いに見つめ合い、フッと笑みをこぼしてから、同時に力を抜く。
「また引き分けか」
「そうみてーだな。ま、今回は俺の方が勝ってたがな」
「は?私の方がお前を押しやってましたー。ってことで私の勝ちですー」
「あらァ押されてたんじゃねェ。こっちから力を抜いてバランスを崩させる作戦だったんでィ。つーことで俺の勝ち」
「見苦しい。言い訳は実に見苦しいよ沖田くん。わかったらさっさと負けを認めんかいクソガキ」
「てめーの方がガキだろィ」
「はぁ!?こんな事でいちいち張り合ってくるアンタの方がガキだからね!?バーカ!バーカバーカ」
「いや、嬢ちゃんがガキなのは周知の事実だからねィ?そんなムキにならなくていーんだぜ、お・じょ・う・ちゃ・ん?」
「ムカつく!!お前ホントムカつく!!死ね!!」
「オメーが死ねガキ」
「うるせェ!!」
ゴールの見えない口喧嘩が始まり、志乃の竹刀を握る手に力が入る。
ギロッと睨んでくる姿でさえ、沖田のドSスイッチを入れる要因にしかならない。
遊ばれてるとわかってはいても、腹が立って仕方ない。
「じゃあどっちが勝ちか真剣勝負で決めようじゃねーか!!刀持てコラァ!!」
「いい加減にしろクソガキ」
殺気立った志乃の脳天を、土方が竹刀でかなり強く叩く。
ジンジンと痛みの残る頭を摩っていると、土方に首根っこを掴まれ、猫のように引きずられた。
稽古を終えて部屋に連れて行かれるらしい。
部屋に行く最中、土方から仕事の話を聞かされた。
「とっつァんから護衛の命令が出ている。明日、幕府の役人の娘と将軍家縁者との見合いの周辺警備だとよ」
「ふーん」
「……お前何にも聞いてねーのか?」
「え?」
「その片方の相手、お前の彼氏だぞ」
「…………………………………………。
……………………は?」
ようやく捻り出した声は、思ったより低かった。
土方が驚いて手を放すあたり、相当恐ろしい顔をしているのだろう。
これでもあまり感情を面に出さないように生きてきたのだが。
「……ねぇ」
「…………何だ」
「その話って、本当?」
「あぁ、本当だ。とっつァんからの命令だからな」
土方に事実確認をしてしばし、沈黙。
怖い。俯いておどろおどろしいオーラを放出する目の前の小娘に怯えて仕方ない。
大の大人をここまでビビらせる殺気を放てる者は、世界の全てを探しても、霧島志乃しかいないだろう。
ーー何でこんな厄介な娘を引き取っちまったんだ、俺達は……。
嘆息して、タバコに火をつけようとライターを取り出す。
掌に転がるのは、彼女から貰ったあのマヨ型のライター。
彼女が厄介なのは最初からわかっている。それならば、そんな危険人物を真選組の監視下に置いたりしない。
昔、同じような事があった。
どっかの大犯罪者の妹を監視下に置き、怪しい動きをするようならば斬れ、との命令が下された。
結局、自分達は彼女を斬れなかった。斬れるわけがなかった。
だって、彼女はまだ幼い子供だったのだから。
確かその娘はそれからどうなったか……。
土方にしては珍しく、昔の思い出に想いを馳せていると、傍らで志乃が何やら呟いていた。
「トッキーが…………トッキーが…………………………………
ーートッキーが、将軍家縁者ァァァァァ!?」
「いや、そこかよォォォォォォォ!!」
この娘は、銀狼の末裔で危険人物。
だがそれ以上に、土方は最も重要なことを忘れていた。
こいつが、史上稀に見るバカであることを。
********
「ねぇ、一体どういうことなの」
自宅。晩ご飯の用意をしようとした時雪を引き止め、テーブルで向かい合わせに座って問いただした。
美人は怒ると迫力があると言うが、軽くこちらに身を乗り出して、少し低めの声で尋ねる様子は、閻魔の一歩手前。まぁ恐ろしいったらない。
しかし、今回志乃がこんなに怒る理由を作ったのは紛れもなく自分だ。彼女がいるのに、見合い話を受けることになってしまったのだから。
「あの……ホントに申し訳なく思ってます。断りたくても相手方は有名な家の御息女だから……断れなくて」
「違う!!何で将軍家縁者だってことを隠してたの!!」
「いやそこォォォォオオオ!?」
ガタン!と手をついて立ち上がる。
自分が別の女性と不本意ながら見合いをすることに嫉妬していると思ってたのに。
期待した自分がバカだった、と時雪は肩を落とした。
「……いや、その……そんなに言うことでもないし……。そもそも俺、将軍家縁者だって言っても、ものすごく遠い親戚だからね。直接的な血の繋がりなんてほとんどないからね」
「でも、縁者であることに変わりはないんでしょ?なら何でこんな所にいるの?あれ?何かよくわからなくなってきた」
「いや、縁者なのはそうなんだけどさ。俺の母上がそうだったんだよ。確か、将軍家の従兄弟の甥の再従兄弟の姪の娘で、茂野家に嫁いできたってわけ」
「うん、その関係性の方がわからん」
「だから将軍家縁者なんて、周りの人間が言ってるだけだよ。堕ちた縁家だってバカにしてる人の方がほとんどだ。だから母上方の親戚が、俺と幕府高官の娘を結婚させて、なんとかお家を繋ごうと必死なんだよ」
「なるほどねぇ、そーかそーかァ…………
……って、ふざけんなァァァァァァァァアアアアア!!」
「うわぁぁぁ!?」
ダン!!と強く机を叩く。
おかげで木製のそれにヒビが入ってしまった。
ビビる時雪の肩をガッチリと掴み、その青い目を覗き込む。いつ見ても綺麗な藍色だ。
「トッキー、その縁談、すぐに破棄して」
「お、落ち着いて志乃!!や、わかってるわかってるから!!とにかく落ち着いて!!」
「もしくは相手の女、暗殺してこようか?私がやるからには絶対にバレない手を使うよ」
「やめて本当にやりかねないからやめて!!大丈夫だから!!」
怒り心頭の志乃をなんとか落ち着かせ、座らせる。
話をすれば絶対に志乃を怒らせることは目に見えていた。
「大丈夫だよ。ちゃんとお断りしに行くだけだから。ねっ?」
「…………ん」
「よしよし。いい子」
「オイガキ扱いすんなコラ」
撫でていた頭を払いのけられ、苦笑する。
志乃は席を立って時雪に近寄り、顎をクイと持ち上げた。
「へっ!?」
「ってことでトッキー、ちゅーして」
「ええっ!?」
「ついでに一緒にお風呂入って一緒に寝て」
「は、はぁぁ!?」
雨のごとく降ってくる爆弾発言に、時雪は真っ赤になって目をぐるぐると回す。
「ま……待って志乃!!そんなことしたって銀時さん達に知られたら、俺確実に息の根止められる!!」
「……何、嫌なの?なら相手の女殺してやるから」
「何その脅迫!?」
わたわたと慌てる時雪の顔を押さえて、口付ける。
顔を離すと、さらに真っ赤になった彼が固まっている。
可愛いなぁ。くくっと笑い声を押し殺して、もう一度唇を重ねる。
「ちょっ!!……も、もう……」
「あはは。トッキー可愛い。結婚しよ」
「ばっ……!!」
ぼふっ、と湯気でも出たのかと思うくらい、紅潮した顔。
そんな顔を見られるのも、彼女の特権だ。
ぎゅっと時雪を抱きしめ、耳元で囁く。
「大丈夫。こう見えて私、トッキーにゾッコンだから。他の男に目移りなんてありえないし、トッキーと離れるっていうんなら、死んだって構わない」
「…………ふふ、愛が重いなぁ……」
「……重いのは嫌?」
「いいや、志乃らしいなって」
二人でくすくす笑い合い、一度離れる。
「大好き。……愛してる」
「……俺も」
微笑んで、同時に顔を近づけ、唇を重ねた。