銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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本当に大切なものは心の眼で見ろ

池のある、全蔵宅でも最も広い庭。池の前の石に、一人の男が腰掛けていた。

 

「よォ頭、待たせたね。ちゃーんと、仕置きしてきたよ」

 

ドサドサ、と次々地面に転がされるのは、返り討ちにされた仕置人四人。それを足蹴に、少女の声は続く。

 

「腑抜けた仕置人四人。最終試練不合格、一年生からやり直し決定だよ。上層部(うえ)に伝えとけマヌケ仕置人共。始末屋さっちゃんの首取りたいなら、軍隊一個引き連れて来なってね」

 

男の背後には、志乃、銀時、新八、神楽、全蔵、ミサトが並んだ。残るはあと一人。全勢力をもって、彼を叩き潰す。もしくは戦意喪失させる。そのために彼らはここへ来たのだ。

 

「こちとら何もやましい事はしてねーんだ。逃げも隠れもしねェ。それでも喧嘩ふっかけてくんなら、てめーら皆殺しにするまで付き合うぜ」

 

最後の最後に、銀時がキメる。しかし、仕置人の様子は何も変わらない。不意に、志乃が周囲の殺気に気がついた。

 

「心配いらん、もう伝えたさ」

 

仕置人が口を開くと、その殺気がより色濃くなる。動かねば、と思った時にはもう遅かった。

 

「わっ!」

 

突如、首や両手、腰に鎖が巻き付く。周囲に鎖を持った敵が現れ、さらに屋根の上にも続々と追加される。

 

「江戸随一の始末屋の首、そう容易く取れるとは思っていない」

 

「……へぇ。なんだ、ちゃんと頭まわるじゃん。既に軍隊引き連れて来てたのか」

 

志乃がそう返すが、その余裕を保っているのは志乃だけ。銀狼たる彼女は、やろうと思えば軍隊一個どころか戦艦すら落とせるふざけた力を持っている。

他の面々は志乃のように、鎖を引きちぎり拘束を解くことはできないので、銀時が慌てふためいた様子で弁解する。

 

「……じょ……冗談っスよォォォ頭ァァァァ!!何マジになってんの!?何ムキになってんの!?勘弁してくださいよォ!!さっきのはジョークじゃないスか!!ちょっとした殺し屋んジョークじゃないスか!!」

 

「殺し屋んジョークて何だよアメリカンジョークみたいに言うな」

 

「ホントに連れてきてどーすんスか!!もォ〜スグ本気にするんだものな〜頭は!!まァそこが頭のいいところでもあるんだけども。ハイじゃあそーいうことだからみんな解散!!お疲れっス!!ゴメンネ紛らわしい事しちゃって!!……………………あの……聞いてます?…………マジすいませんっしたって!!マジゴメンナサイって!!マジ助けてくださいって!!」

 

「バカだろお前、ギャグとシリアスの見極めくらいしっかりしろよな」

 

焦ってあーだこーだと弁明する銀時に、志乃は冷ややかなツッコミを浴びせる。

 

「あのね、相手プロの殺し屋を始末するために作られた殺し屋なの。みんながみんな冗談通じるワケがないの。ドゥーユーアンダースン?」

 

「オイぃぃぃぃ何してくれてんだ!!お前がイキって調子こいた事言うからァァァ!!」

 

「だって完全に勝ったと思うじゃん!!カッコつけてもそろそろ大丈夫かと思うじゃん!!」

 

「ふざけんな!!俺は無理矢理こいつらに付き合わされただけなんだ!!俺だけは見逃してくれ!!」

 

「全蔵……お前弟を犠牲にしてでも生きるつもりか。祟るぞ」

 

自分だけなんとか助かろうとする全蔵に、ミサトは育ての兄を恨む。神楽はこの状況下で、敵を挑発する。

 

「今更見苦しいアルヨ!!殺れるモンなら殺ってみろヨ!!!たとえ死んでも銀ちゃんの魂は私達の中で永遠に生き続けるアル!!!」

 

「何で俺だけ死ぬカンジになってんだよ!!お前が俺の中で永遠に生き続けろ!!」

 

「銀、それ口説いてんの?」

 

ギャグとシリアスの境界を見極めろと言っておきながら、志乃は堂々と場違いな発言をした。確かに聞きようを変えればそれっぽく聞こえるような気もするが、そんな事今はどうでもいい。

 

「猿飛あやめ。いい仲間を持ったな」

 

「仲間なんかじゃねェ他人です!!僕ら関係ありません!!」

 

仕置人の目が、布団でグルグル巻きにされたあやめに向く。

 

「貴様の潔白を証明するために、その者達は逃げることも弁解することもせずに我等を迎え撃った。だが貴様が潔白であろうとなかろうと、そんな事は些末な問題だ。貴様の罪は、その弱さよ」

 

様々な裏社会の情報を持つ殺し屋組織にとって、一つの綻びは組織を崩壊させる穴になりかねない。故に、始末屋に弱者は必要ない。法で裁けぬ外道を討ち、人知れず江戸を護ってきた必殺の剣を、弱者のために折られるわけにはいかない。

 

「恨むなら、己の弱さを恨め。大切な仲間さえ護れぬ、己の弱さを!!」

 

得物を手にした仕置人達が、一斉に志乃達に襲いかかる。このままでは全員死ぬ。志乃は手に巻きついた鎖を掴み、振り回そうと足を一歩踏み出した。

 

「ーー!!」

 

周囲を囲む殺気とは違う、別の気配。それも、銀時の間近で感じる。

次の瞬間、あやめを包んでいた布団から大量のクナイが飛び出してきた!クナイは四方八方に飛び、銀時達を拘束していた鎖も解く。ボロボロになった布団が、宙を舞った。

 

「ーー祇園精舎の鐘の声……諸行無常の響きあり……沙羅双樹の花の色……鬼畜外道必殺の理をあらはす。この人達には指一本たりとも触れさせない。この始末屋さっちゃんが!!」

 

「さっちゃんさん!!」

 

「あやめ殿!!」

 

新八とミサトが叫ぶ。それを背に、あやめは立っていた。

しかし、あやめは未だ傷ついている。そんな手負いの体で勝てるほど、仕置人(てき)は甘くない。

 

「今の貴様と我等の実力差、あの時しかと目に焼き付けたハズ……」

 

「……………………知らないわよそんなもの。なんせ私、目が悪いから。でも、今ならよく見える。己の愚かさも、みんなの優しさも、全蔵の痔の悪化具合も」

 

「えっ!?」

 

思わぬところで指摘された全蔵は、サッと尻に手をやった。

 

「そして、私が本当に大切にしなきゃいけないものも。全部見える。眼鏡(こんなもの)なくても」

 

外した眼鏡を握りしめ、あやめはそれを割った。嘆息した銀時は、ケースに入った眼鏡を投げ渡す。

 

「オイオイひでー事しやがらァ。人が折角くれてやったメガネを」

 

頭に巻かれた包帯を取ったあやめは、振り返ることなく眼鏡を受け取った。ケースを開け、かけた眼鏡の奥には、涙が光る。

 

「……かけてるよ、ちゃんと。銀さんが、みんなが、くれたメガネ。みんなの(こころ)を映してくれた素敵なメガネ、ちゃんと私の中にかかってるよ。ーーありがとう銀さん、新八くん、神楽ちゃん、志乃ちゃん、ミサトちゃん、誰だっけ」

 

「俺で落とさねーと気が済まねーのか!!」

 

「ざまぁみろ全蔵」

 

「ぶっ飛ばすぞミサトぉぉ!!」

 

鼻で笑ったミサトに突っかかる。

以前も言ったが、今回において全蔵はツッコミである。多少貶されようが、それに対してツッコミを入れなくてはならない孤高の戦士なのだ。故に、彼に援軍はやってこない。来るのは追い討ちだけだ。

 

「約束する……みんなから貰ったこのメガネ、きっと大切にする。ずっと大切にする」

 

対峙する仕置人は、ジャキッと刀を構える。

 

「たかが眼鏡を替えた程度で何が変わる。眼鏡などなくとも見えよう、己に迫る絶対的な死が!!我等仕置人にかかったからには、貴様らの死は絶対だァァァァ!!」

 

周囲を固めていた敵が、一斉に襲いかかってくる。腰を落として構えようとした瞬間、どこからともなく仕事人のテーマソングが流れてきた。

これはまさか……!バッとあやめを振り返る。彼女の眼鏡のフレームが変形し、目を見開いた瞬間、眼鏡からビームが出た。

 

「ええええええええ!!」

 

志乃の衝撃を挟んでからもう一度言おう。眼鏡からビームが出た。

さらに眼鏡はそれだけに留まらない。フレームの耳をかける所が複数現れ、それが伸びて変幻自在に敵を打ち倒していく。後方からの攻撃にも対応し、まさに全身に眼鏡をかけているようだ。

 

志乃も眼鏡の機能に驚きながらも、冷静に敵に対応していく。

武器などなくとも、拳や蹴りを的確に浴びせる。神威との喧嘩で鍛えられた体術は、最早誰にも止められない。

 

そしてついに、最終モードへと変身した。眼鏡のフレームから伸びた鎧が全身を覆い、さながら聖闘士のような風貌になる。

 

「くらえェェェメガネ流忍術奥義!!『百烈眼鏡天翔』!!」

 

空中から敵に向かって投げられたのは、全て眼鏡。眼鏡の雨に襲われた仕置人達は爆発した。

着地したあやめの背後、仕置人が掠れた声で賞賛する。

 

「み……見事なり、猿飛あやめ。これだけの数の仕置人全てに正確に、全く度の合っていない眼鏡をかけさせるとは……きっ……貴様こそ、江戸最強のメガ……殺し屋……」

 

ガクッと意識を失い、敵は沈黙した。

神楽とミサトが、喜びのあまりあやめに抱きつく。志乃も彼女の元へ駆け寄った。

 

「さっちゃんんんん!!やったアルぅ!!流石さっちゃんネ!!」

 

「やりましたね、あやめ殿!」

 

「さっきの技凄かったよ!めちゃくちゃカッコよかった!」

 

勝利に歓喜する四人を眺め、新八も呟く。

 

「ついに……メガネ流の深淵に辿り着いたんですね……」

 

「メガネ流って何?俺だけ知らないの?みんな知ってんの?」

 

銀時もさらに続く。

 

「流石源外のジジイが作った眼鏡だな、イイ眼鏡じゃねーか」

 

「アレってメガネって呼んでいいの?兵器って言うんじゃねーの」

 

「俺も着物が透けて見える眼鏡とか作ってもらおうかな」

 

「あ、もう一つ頼んでもらっていい?」

 

「二人とも多分たっちーに殺されるよ。あの人そういうの大っ嫌いだから」

 

橘は物静かでストイックな性格でもあるため、そのような話題は基本好まない。彼の目の前ですれば、即刻追い出される。もしくは息の根を止められる。0か100という極端な意見しか持たない彼は、手段も極端なのである。

ふと、あやめがこちらを向く。

 

「あ……ありがとうみんな。本当に全部みんなのおかげよ」

 

「あの、あんまこっち見ないでくれる。ビーム出そうだから」

 

「不思議ね。この眼鏡で見える世界は、いつもより綺麗に見える。パッとしない全蔵の屋敷も、まるで燃えてるように綺麗に見える」

 

 

チュドーン!

 

 

あやめが屋敷の方を振り返ると、メガネからビームが出て、屋根が爆発した。

 

「いやまるで燃えてるから!!ビーム出ちゃってるから!!何やってんだよテメー!!」

 

「きっとみんながくれた眼鏡だからだわ、素敵。私大事にするから、このメガネもずっと大事にするから!!」

 

「ぐげふ!!」

 

サッとこちらに向き直ったあやめ。志乃と銀時は目が合う前に屈んだ。するとビームが出て、全蔵の頭をボロボロにする。

感情の昂りのまま、あやめはビームを出しながら走り出した。

 

「本当にありがとう、銀さん大好き!!」

 

「待てェェェェそのメガネで俺の屋敷をウロつくんじゃねェ!!」

 

全蔵はミサトを連れて、彼女を止めるべく追いかけた。その背中を見つめて、新八が呟く。

 

「銀さん……やっぱりメガネはたとえ好きな人からでも貰うもんじゃないですね」

 

「何でアルか」

 

掛け甲斐(掛け替え)ないものになってしまうから」

 

「ウマイけど腹立つ。志乃くん、新八にビーム一本」

 

「いや無理だから」




次回、トッキー篇スタート!

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