銀時達の助太刀に集まった、辰巳、鉄子、小銭形、ハジ、茂野兄妹、狂死郎、お妙達。その面々を見て、次郎長一家やオカマ軍団だけでなく、銀時や志乃達も驚いていた。
「これ以上ここには手出しさせねェ。そいつら、俺達の大切なものを一緒に護ってくれた連中だ」
「真のハードボイル道を解する、江戸屈指のハードボイルドな連中だ……カミュ」
「恩なんか返せるとは思ってない。ただあんた達が教えてくれた事、忘れるワケにはいかない」
「見ていてください、私達は今度こそ自分の手で大切なものを護り通してみせます。私達の
「俺達はこの薄汚れた街で、笑って一緒に生きてきた」
「だったら、この街歯ァ食い縛って護るのも一緒だ」
「かぶき町を敵に回したのは、貴方達の方よ。この街は、私達の街です」
武装した時雪やお妙達援軍の数は、次郎長一家とオカマ軍団の頭数を覆した。
しかし、彼らをナメきっている次郎長一家は、手始めにお妙達キャバ嬢に襲いかかった。
「キャバ嬢ごときが筋モンナメてんじゃねえぞ‼︎」
「いてもうたらァァ‼︎」
だが次の瞬間。
ドウッ!
お妙の振り回した薙刀が、ヤクザ達を一掃した。
「誰がただのキャバ嬢ですって。ひれ伏しなさい、私が……かぶき町の女王よ」
「なんだァァァァこのキャバ嬢ォォォォ‼︎バカ強ェェェェ‼︎」
まるで魔王のように、ヤクザ達を吹き飛ばしていく。流石はアネゴ……と志乃は苦笑した。
その向こうでは源外が火器を、辰巳が水をぶっ放す。もうめちゃくちゃのやりたい放題だ。
「ザコは俺達に任せろォォォ!銀さん志乃ちゃん、てめーらはさっさと落とし前つけに行ってきな‼︎」
「長谷川さん、ザコはあんただよ」
カッコよくキメている台詞だが、その現状を見てみると集団リンチに遭っている長谷川。志乃の冷たい視線が彼に刺さる中、時雪達茂野一家も戦っていた。
「ガキだからって、ナメるなよー!」
「ナメるなよー!」
時貞と小雪が、一番槍として前に出る。彼ら双子に続いて、深雪と時政、時晴が竹刀を手に駆け出した。
「時継、紗雪を頼んだぞ」
「はい、兄上」
「お兄様!」
時継に指示を出し、時雪も走り出す。
「ガキ共がァァ‼︎ナメてんじゃねーぞォォォ‼︎」
「悪いですけど」
斧を振り上げたヤクザの前には、まだ5歳の時晴。斧が地面に叩きつけられると、時晴は跳躍してヤクザの顔面を蹴り飛ばした。
「そっくりそのままお返ししますよ」
時雪が得意の突きでオカマやヤクザ達を倒しながら、続ける。
「
平子や西郷も、鋼鉄のカラクリ兵団を次々と倒していく。一度背中合わせになってから、戦況を見た。
「フン……コイツが人の大切なモン奪ってきたアンタと、護ってきたコイツらとの差って奴なのかね」
西郷がボソリと呟く。平子の表情から、笑顔が消えていた。彼らの前に、志乃と銀時が立つ。
「戦の引き際くらい心得てるでしょ、西郷さん。退きな。この戦、私達の……バーさんの勝ちだ」
「もう勝ったつもりになってるんですかァ。私と西郷さんがいればこんな連中、ものの数ではないですよう。オヤジの元には、行かせませんよ」
「負けだっつってんだろ」
銀時と志乃、二人の背中を追い越していく少年少女がいる。新八と神楽だ。
「てめーら、こいつら怒らせたからな」
新八は銀時から刀を受け取り、神楽は傘を捨てて構えた。
「「手ェ出すなよ天パ」」
この二人が、なんと西郷と平子の相手をするというのだ。誰がどう見ても、圧倒的な強さを誇る平子と西郷に、勝てるはずがない。
しかし、銀時と志乃は二人の背中を黙って見ていた。
「パー子、見損なったよ。女子供無駄死にさせるつもりかい」
「見損なえよ。そいつらに見損なわれるよりはマシだ」
「ウフフ、貴方達のような子供が出る幕じゃないのがわからないんですか。西郷さんと戦うのも迷っていたような甘ちゃんに何ができるっていうんです」
「ドタマ取られなきゃわからないなら、もぎとってやるアル」
「ピラ子さん。確かに僕ら、何も知らず貴女を抱き込んで利用されてしまうような甘ちゃんですよ」
刀を袴の帯に挿した新八は、鞘から剣を抜いていく。
「裏切られようが騙されようが、大概のことは二、三日経ったらヘラヘラ忘れてやりますよ。女の子に騙されるのは慣れてますから。でもね…………たとえどんな理由があろうと、僕らの……かぶき町のお
刀を構えて、新八は平子を睨み据えた。その目を見て、平子も不敵な笑みを浮かべる。
「万事屋ナメんなヨ。もう誰も傷つかせない。もうお前らの好きにはさせない。私達は一人じゃないネ……。万事屋が四人揃ったからには、ここから先何一つたりとも奪えると思うな。
二人の目に、強い光が宿る。彼らの気迫を目の当たりにした西郷と平子は、まず新八と神楽に標的を定めた。
「真っ赤な花、どこに咲かせてほしいですか。頭かな〜それとも胸かな〜。それとも」
まさに、一瞬。平子は刀を構えていた新八を目にも留まらぬスピードで斬り飛ばし、新八の体は宙に浮く。西郷も渾身の力でハンマーを神楽に振り下ろした。
「アニキ達の、
しかし、それを目の当たりにしても、銀時と志乃の表情は一切変わらない。
その時平子の背後に、折れた剣の切っ先が地面に突き刺さった。さらには西郷のハンマーにも、ヒビが入る。
「咲かねーよそんなもん」
宙に舞った新八が、ハンマーを拳で受け止めた神楽が、怒号を上げる。
「侍に、花なんざ似合わねェ」
新八は体を捻って剣を振り回し、平子に強く叩きつける。神楽は西郷の巨大なハンマーをブチ抜いて、そのまま彼の顎に強烈なアッパーをかました。
その強烈な威力に二人は吹っ飛ばされ、地面に強く叩きつけられた。
「花はやっぱり、女の子に一番似合いますよ」
「オカマもな」
砂塵が収まり、志乃達は倒れた二人を見下ろす。そのうち平子が、震える手で体を起き上がらせようとしていた。
「ア……アレェ〜〜。お……おかしいなァ。な……なんで私が……なんで……なんで……こんな……こんな奴等に」
平子は頭から出血していて、地面に血溜まりができていた。這い蹲りながら、四人に手を伸ばす。
「い……行かせな……い。親父の所には……絶対……私が……私が親父を……」
しかし平子はそこで力尽き、地面に突っ伏した。それを眺めていると、今度はまた視線の下から声が聞こえてくる。
「峰打ちかい。やっぱり甘ちゃんじゃないかい」
「……西郷さん」
仰向けに倒れていた西郷は、そのまま続ける。
「あー、顎打って頭がクラクラするよ。こりゃしばらく立ち上がれそうにないね。三、四十分は動けないよ。参ったわね〜、これじゃアンタ達止められそうにないよ」
「……ったく、あんたも充分甘ちゃんじゃないか」
志乃達を見逃そうとする彼ーーいや、彼女か?ーーの意図をあっさりと察し、志乃はやれやれと肩を竦める。
銀時も嘆息して口を開いた。
「いいか、コイツは俺の独り言だ。……適当に聞き流せ。ガキは必ず俺達が何とかする。安心して狸寝入りでもオカマ寝入りでもキメてろ」
「………………じゃあコイツも私の独り言だ。死ぬんじゃないよ」
西郷の独り言を背中で聞きとめた四人は、次郎長と華陀の元へ向かうべく、かぶき町を護るべく、走り出した。
いよいよ、最後の決戦が始まろうとしていた。