「潰せるもんなら潰してみなァ。何人たりとも……私達の街には入らせねーよ」
太刀を肩に、次郎長一家と西郷オカマ軍団を堂々と挑発する志乃。大軍の中に一人、アゴ美が苦しそうに声を上げた。
「パー子ォォ‼︎志乃ちゃんんん‼︎アンタら何やってんのよ‼︎こんなっ……たった四人で四天王と……街中と戦おうっていうの⁉︎もうこの街に貴方達の味方は一人もいないのよ‼︎もうこの街に貴方達の居場所はないのよ‼︎こんな事してももう何も変わらない、お願いもうやめて‼︎……私達はアンタらとは戦いたくな……」
その時、スッと西郷がアゴ美を制する。西郷は小さく微笑んでいた。
「……何だろうね。妙な気分だよ。知己とやり合うなんぞ……最低な気分に違いないんだ。……だけど、パー子。アンタのツラ見た時……何だか安心したよ。…………可笑しな話だろ。そうよね。ここで来なきゃ、
「何呑気な事……!」
「アゴ美、事ここに及んで言葉は無粋さね」
「そうですよう。もう何を言ってもムダ。アニキにはアニキの、アネゴにはアネゴの、西郷さんには西郷さんの譲れない大切なものがあるってことです」
歩を進めた平子は、ニッコリと笑った。
「そうでしょう西郷さん、アニキ、アネゴ」
「………………」
「フッ……アンタがそれを言うかい。
「……やっぱりてるを人質にとったのは、アンタだったのか」
志乃の勘に間違いはなかった。西郷は息子であるてる彦を人質にとられ、次郎長一家の言うことを聞く他なかったのである。
「今更謝るつもりも言い訳するつもりもありません。私も、大切なもののためにここに来たんですから」
シャン、と金属音を鳴らして、平子も腰に挿した刀を抜いた。
「他人の大切なものを奪ってでも壊してでも、私はあの人を……取り戻します」
彼女に並んで、西郷も前に出る。
「フン。アンタも哀れな奴だね、次郎長の娘よ」
西郷は着物に手をかけ、一気に脱ぐ。バサッと水玉模様の着物が宙を舞い、そこにはオカマバーの店主ではなく、白フン一丁の戦士としての彼が立っていた。
「侍の一刀は、一千の言葉にも勝る。
臨戦態勢に入った志乃達も、それぞれの得物を構える。
「我等お登勢一家、仁義通させてもらいやす」
「いくぜェェェェェてめーらァァァ‼︎」
怒号と共に、銀時と志乃は一斉に飛び出した。
ドドォッ‼︎
次々と次郎長一家とオカマ軍団を薙ぎ倒し、まるで嵐のように敵陣を駆け抜けていく。その様、まさに一騎当千。
志乃は「鬼刃」を使っているとはいえ、敵を全て峰打ちで倒していった。しかし峰打ちといっても、「鬼刃」の重量と彼女の馬鹿力により、倒された方は無事ではなかったが。
背後に現れた気配を志乃は勘だけで捉え、「鬼刃」を地面に突き刺し、それに体重を預けて顎を蹴り上げる。回転した勢いで、前にいたオカマにも踵落としを決めた。そのまま「鬼刃」を抜き、さらに三人を峰打ちで仕留める。
不意に、左手首に鎖が巻きつく。鎖の先は、ヤクザが握っていた。それを引っ張り、バランスを崩すのが狙いだったのだろう。しかし、そんなもの銀狼たる彼女には通用しない。
志乃は鎖を左手で掴んで、ぐんと勢いよく引っ張った。
「うおらァァァァァァァ‼︎」
「ぎゃあああああああああ‼︎」
ブンブンブンブン振り回し、周囲にいた敵もぶっ飛ばしていく。さらに志乃は鎖を引き、ヤクザを地面に叩きつけた。
「ぶわははははは!てめーらごときが
めちゃくちゃ相手を蔑んだような嘲笑を浮かべ、敵を煽っていく。怒りでまともに考えられなくなった相手を次々にあしらい、倒していった。
五人は一度背中合わせになり、敵軍と対峙する。その時、上空から何かが降ってくる気配を感じた。
そこには、大きなハンマーを振り下ろした西郷が。
ドゴォォッ‼︎
西郷の一撃は地面を破壊するほどの力を発揮した。銀時達はなんとかそれをかわしたものの、一人いないことに気づく。
ハッと銀時が顔を上げた先には。
「へぇ〜。流石は白フンの西郷。人間離れした腕力だねェ」
地面を破壊したのは、西郷の一撃ではない。それを刀一振りで受け止めた志乃を介してのものだった。巨大なクレーターができても、それを気にせず志乃は西郷のハンマーに押し負けることなく立っていた。
西郷も彼女を見て、不敵に笑う。
「アンタも人間離れした腕力だね。流石は
その時、西郷と力比べをしていた志乃に、白銀が迫る。志乃がそれに気づいた瞬間、刀を携えた平子が粉塵の中から現れた。
「!」
しかし、その刀は銀時の持つ十手に阻まれ、志乃を斬ることはできなかった。
「残念でしたねアニキ〜。雑魚相手に時間を稼いでいるようでしたが、お待ちの泥棒猫さんは帰ってきませんよう。あのドラ猫じゃ、西郷さんの息子は盗めない」
「‼︎」
西郷が動揺した隙を狙って、志乃はハンマーを受け流す。それとほぼ同時に、平子の刀と銀時の十手も一度離れた。
「既にこの街は末端の組織に至るまで私達の手中。見張りを切り抜けててる彦くんのいる華陀の所まで行くのは至難の業。それにもし辿り着いたとしても、そこには華陀の勢力と親父がいます。万に一つも生きて帰ることは不可能ですよ〜」
「ア……アンタら。そ……そんなマネ……」
「…………」
「だから西郷さんと戦うのを避けようとしてもムダです。モタモタしてたらホラぁ」
パチパチという音が、志乃達の耳に入る。ふと振り仰ぐと、万事屋の屋根が燃えていた。
「なっ‼︎」
「万事屋に火が‼︎」
「大変アル、早く消さないと」
「いいんですかー、ただでさえ少ない戦力火消しに割いて」
「チィッ……‼︎」
あの放火は、平子の指示らしい。志乃は舌打ちして、ギッと鋭く平子を睨みつけた。
銀時も口角を上げながらも、その目は笑っていない。
「てめェ……モッサリしてるくせにエグいことやってくれるねェ。前よりてめーのこと好きになりそうだぜ。ただしその首と身体が離れて大人しくなってくれんならな」
「私は前からアニキのこと大好きですよう。ただし親父の傘下に入ってくれるなら〜。いっそのこと私の所に婿入りしますかァ。この街で生きていくにはもうそれしかありませんよう」
「はァ⁉︎」
平子の婿入り発言に、大きく反応を示したのは、もちろん志乃だった。彼女の赤い目が、怒りに染まる。
「ふざけんな、てめーみてーなモッサリ女に誰が婿にやるかァ‼︎」
「え〜。でもアネゴぉ、もう貴女達の味方なんてどこにもいませんよう。もうアネゴ達は孤立無援の一人ぼっちなんですから」
「お嬢ォォ‼︎」
ヤクザに促され、平子は再び万事屋の屋根を見やる。勢いを増して燃えていた火が、不思議と消し止められていた。
「‼︎あれは」
「水⁉︎火が……」
「孤立無援の一人ぼっち?」
屋根の上に、気配を感じる。炎の消えたそこに、ホースを肩に担いだ火消し衣装を着た女性が立っていた。
「そんな事ないさ。少なくともここに一人、繋がってるつもりの奴が一人いるぜ。なっ銀さん」
「お前は……火消しの……辰巳!」
「辰巳姐ェ⁉︎」
そこに立っていたのは、火消しのめ組の辰巳。その姿を見て銀時は驚くが、その隣で志乃も彼女を呼んだ。
「えっ、あれっ、何でお前が知ってんの?」
「知ってるも何も、私の友達だよ。ねっ辰巳姐ェ」
「ん?ああ、そうだよ」
「うそん‼︎」
まさかの繋がりに、銀時は今更ながら驚愕する。妹の人脈が広すぎて笑えなかった。
ヤクザは辰巳に矛先を向け、斧や金槌を投げつける。しかし、それは別方向から飛んできた槌に阻まれ、斧の刃が欠けた。槌を拾ったのは、またまた女性。
「弱い鉄だな。そんな得物じゃ、この人達は傷一つつけられやしないよ。私が打ち直してやろうか」
「てっ……鉄子ォォ‼︎」
現れたのは、刀鍛冶の鉄子。銀時や志乃達とは紅桜篇で出会い、それから今でも交流の続く仲だ。
ヤクザ達は、今度は鉄子に襲いかかる。彼らの目を、小銭が塞いだ。
「なんじゃこりゃああ!」
「銭⁉︎」
「オイオイ、レディにそう大勢で迫っちゃ嫌われるぜ」
『そうー男ならハードボイルドにサシでキメなカミュ』
「小銭形の旦那‼︎ハジ姉ェ‼︎」
小銭を弾いてハードボイルドにキメたのは、小銭形。相変わらずウザいモノローグ調は健在だった。
ヤクザ達はぞくぞくと現れる銀時達に味方する連中に、驚きを隠せない。
「なんなんだ‼︎次から次へと」
「てめーら一体何しに……‼︎」
さらには地響きと共に、カラクリの軍団が現れる。
「なァに、一杯ひっかけに来ただけよ」
「源外様‼︎」
「その通りだ。その店潰されちゃ困るぜ」
鋼鉄のカラクリの中に、一人だけダンボールセイントが存在。それは、ダンボール武装した長谷川だった。
「タダ酒飲めなくなる」
「………………ツケですよ」
「なんで俺だけそんなカンジ⁉︎」
ツッコミポジションである新八に、冷めた視線を向けられた長谷川。決してかわいそうとは誰も思わなかった。
今度は、青とした少年少女八人がこちらへ歩いてくる。
「ホントずるいよね、志乃も銀時さんも皆さんも。俺に何も話さないで行っちゃうなんて」
「トッ……トッキー⁉︎」
「もしかして、アレがトッキーの兄妹達アルか⁉︎」
志乃と神楽が驚いて、時雪と彼の弟妹達を見る。時雪は不敵に微笑んで志乃達に言った。
「俺だって、万事屋の端くれなんだよ?この街のために戦う覚悟くらいあるさ」
そしてさらに、ホストの軍団がやってくる。
「万事屋さん、貴方方は一人なんかじゃありませんよ。今までこの街を生き、築いてきた絆がある。かぶき町から私がいなくなったら女性達が泣くでしょう。でも貴方達がいなくなったら私が泣きます。フッ……ホストをここまで誑し込むなんて、罪な方達ですね」
「狂死郎さん‼︎」
かぶき町No. 1ホスト・本城狂死郎が、自身の経営する高天原のホスト達を引き連れて現れた。
それだけではない。ホストとくれば、キャバ嬢も登場する。
「貴方達だけに荷は負わせないわよ。かぶき町の命運を一身に背負おうなんて水臭いじゃない。この街は誰のものでもない、私達……キャバ嬢のものでしょ」
バキボキと指を鳴らして、お妙は完全に戦闘体勢。銀時達には正直、この中でお妙が一番怖く思えた。
「次郎長一家でもオカマ一家でもまとめてかかってきなさいよ。かぶき町の本当の怖さ……教えてア・ゲ・ル♡」
かぶき町全ての軍勢が、銀時達の助太刀として現れた。戦いは、これより新たな局面を見せる。
ごめんなさい……トッキーここで入れたかったのに入れ忘れてました……。ということで付け加えました。本当に申し訳ありません‼︎
2017/05/06 修正